異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。

kaonohito

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第3話 仲間と一緒に強敵に挑んでみる。

Chapter-07

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 俺、マイケル・アルヴィン・バックエショフ達がパーティーを組みだして、結構な時間が過ぎようとしていた。
 パーティーの結成になった経緯の事件は、晩夏か早秋と言った時期だったから、2ヶ月近くが経とうとしている。

 まぁ、結構いろんな事があった。

 依頼では4人一緒に行動するのが当たり前になっていたし、講義のある日でも、多くはエミの手作りの弁当で昼食を過ごすという、定番化しているが充実した日々を過ごしていた。

 依頼も色んなものがあった。
 だいたいは狩猟か、農園の害獣退治なんだが、近くのちょっとした洞窟に魔獣が住み着いてしまって、それを退治してほしいなんてのもあった。
 そのときはちょっと大変だった。

 普通に物理攻撃が通じる魔獣のつもりで行ったら、ビーンズ・スライムの群れだったのだ。
 ビーンズ・スライム、とは、昭和末期以降の日本人が、スライムと聞いて真っ先に想像するような、あのタイプのスライムだと思ってくれていい。
 が……そのイメージとは裏腹に、こいつ物理攻撃が効かないのなんの。

 俺が魔導師として、チート級とまでは行かないレベル、であるのは確かなんだが、学校で上位の成績をキープしているだけあって、他のメンバーも物理攻撃での戦闘だったら相当なものなんだ。
 だがスライムというやつは突いたり、あるいは斬るにしてもちょっと切り傷を作ったりしただけでは、すぐに元に戻ってしまう。
 なもんで、キャロルの槍と、ジャックの弓は完全に威力不足、剣もジャックの腕では不安。ということで、俺の氷結魔法と、一発で対象を真っ二つにできるエミの剣術だけが頼り、という状況になってしまった。

 そんでエミが追い回していたスライムが、キャロルの胸に飛び込んだりして、俺とジャックには目の保養になってしまうようなハプニングを起こしつつも、なんとか一掃することには成功した。
 ついでに、住み着いている魔獣の脅威度を低く見積もっていたとして、依頼料に上乗せがあった。これはちょっと、嬉しかったりもした。

 まぁ他にもいろんな事があった。
 だから正味は2ヶ月強ってところなんだが、実際には、もっと長く付き合っているような感覚になっていた。
 もっとも、ジャックだけは元々、学校に入ってすぐの頃からの付き合いだから、実際長いんだが。

 一方で、なんのかんのといろんな依頼をこなして来たからか、大抵のことならなんとかなる、と、ちょっとした自信をつけていた。

 言うまでもないだろう。
 この“自信”というやつは、時として“驕り”“慢心”というものにもなったりするのだ。


「俺達向きの依頼、ですか?」

 武術訓練を免除されている俺が、なんか割の良い依頼でもないかと、斡旋事務所に行くと、丁度受付の事務員がその話を切り出してきた。

「ええ、なんでも、マンゲツツユコケの採取の依頼、だそうなのだけど」

「マンゲツツユコケ、ですか」

 湿度の高い洞窟なんかに自生している苔の一種で、万病薬の原料になると言われている。

 はて、そうするとこの苔には、地球で青カビから発見されたペニシリン抗生物質のように、抗菌作用成分を有機合成する特性でもあるんだろうか。
 暇が出来たら、師匠や姉弟子に手伝ってもらって、調べてみるかな。

 などと、ちょっと意識が外れてしまったのを、事務員さんの言葉が引き戻す。

「領内の、北部のノールの村なんだけどね」

「ノールの村、ですか、確かにあそこはマンゲツツユコケの採取で潤っていましたね」

 全体としては、少し大きめの農村なんだが、それがあるおかげで、あの辺りの住人の収入はいいとか聞いたことがある。

「でも、今までは、村落の住民が直接、採取していたんじゃないんですか?」

「それがね、2週間ほど前から、自生地の洞窟内に住み着いている魔獣が、急に暴れだすようになって。採取が安全にできなくなってしまったそうなの」

 それで冒険者を雇おう、と言う話になったんだろうが、元々、それほど凶暴だったり大型だったりする魔獣が住み着いているわけでもないから、学生たち向けに、という事になったんだろう。

「なるほど、苔の採取も依頼内容に含まれているんでしたら、確かに俺達向けですね」

 採取に向かう村人を護衛すればいいんなら、誰でもいいんだろうが、採取そのものもやってほしい、となると、そうもいかなくなる。

 冒険者養成学校では、一応、有用な薬草の種類やその採取方法なども教えてくれるが、初歩的なものの粋を出ない。
 その点俺は、そう言った薬用素材についても師匠に叩き込まれてるから、条件としてはバッチリ、というわけだ。

 変な話、在野の、既に免許を持っている冒険者に頼むより、確実ではあるだろう。
 他にいないわけではないだろうが、採取も戦闘も、となると、俺がぱっと思いつく範囲では、姉弟子ぐらいしかいない。
 あの人はあの人で、別に仕事はあるんだろうし。

「それで、報酬はいくらなんです?」

「5ラルクだそうよ」

「!」

 そりゃあ結構な額じゃないか。学生向けとしては、破格の報酬だぞ。


 ここでアドラーシールム帝国の通貨制度について、長くなるがちょっと解説しておこう。
 下から、スウェ銅貨(方形銅貨)、サク銅貨(円形銅貨)、スマル銀貨(小銀貨)、ラルク銀貨(大銀貨)、ゴルト金貨、シルム大金貨、が存在する。
 基本的には、スウェ銅貨20枚でサク銅貨1枚、サク銅貨10枚でスマル銀貨1枚、スマル銀貨10枚でラルク銀貨1枚、ラルク銀貨10枚でゴルト金貨1枚、そしてゴルト金貨50枚でシルム大金貨1枚、になる。

 後々詳しく解説することになると思うが、アドラーシールム帝国は産業革命の入り口、といったところにある。まぁ、魔法があるせいか、銃器の開発は遅れているんだが、産業機械はぼちぼち出現し始めている。
 と言ったところなのだが、当然、戦後の高度経済成長期以降の、社会体制もまったく違う日本の貨幣価値とは、単純に換算できるものではない。

 ただ、3スマルあれば都市部で1日暇をつぶしながら生活できるので、だいたい日本円の感覚だと¥5,000と言ったところか。

 今回の報酬、5ラルクだと、だいたい¥70,000くらいの感覚になる。学生に依頼する内容としては、途中の移動や滞在にかかる諸費用が含まれていることを考えても、結構な額だ。

 美味しい話には落とし穴。
 俺は、精神的にもっとも成熟している者として、そうした点に注意を払うべきだったんだが────
 実は、思うところがあるのか、キャロルとエミが、最近貯金に励んでいる事を知っていた俺は、てっきり皆喜ぶだろうと思って、そうした注意を忘れてしまっていた。


「と言うわけで、この依頼、俺は引き受けることにしたんだが──」

 午後の講義が終わって、夕食前のひと時。談話室に皆が集まったところで、俺はこの話を切り出した。

「ま、ジャックは当然ついてくるとして」

「なんだよ、それはもう決まりなのかよ」

 俺が言うと、別に不満はないが一言言ってはおきたいといった感じで、ジャックが戯け混じりの憤り顔でそう言ってきた。

「それがさ、ソロは禁止なんだと」

「そんなに危険なのか?」

 ジャックが、真顔になって聞き返してくる。

「いや、出現する魔獣自体は、それほど凶悪なもんじゃないみたいなんだが、ちょっと凶暴化しているのと、数が多いから、ってことらしい」

 俺は、貰った書類に書いてある内容で把握していることを、そう言った。

 あ、ちなみにさっきちょっと触れたけど、アドラーシールム帝国では、近代製紙が始まったところだ。だから、紙なんかは、令和の日本の感覚でつかえるようになってきてはいる、といったところ。

「まぁ、そう言う事なら、しょうがねぇか」

 ジャックは、態度だけは不承不承、と言った感じで、腕組みしながらそう言った。

「2人は、どうする?」

 俺は、俺とジャックを挟んでテーブル越しに、対面に座っていたキャロルとエミに、そう訊ねた。

 すると、キャロルとエミは、一旦顔を見合わせる。

「参加する人間が増えれば、当然その分だけ取り分は減っちゃうけど、それは、いいの?」

 キャロルが、小首をかしげるような仕種をしながら、訊ねてくる。

「ああ、と言うか、2人が喜ぶんじゃないかと思って、2つ返事で引き受けてきたんだけどな」

「私達が……?」

 俺の言葉に、エミが、いつものようにニュートラル気味の表情と、静かだがはっきりと聞こえる声で、訊いてくる。

「ああ、2人とも、なんか貯金してるんだろ?」

「ああ、そう言うこと」

 キャロルが言った。貯金している事自体は、俺もジャックも知っているし、別に隠すことでも隠されることでもない。

「だから、どっちかって言うと、俺とジャックより、2人の収入の足しになればいいかと思って、引き受けたんだ」

 俺は、ちょっと得意になって、そう言った。

「そういう事なら、私達も参加させてもらうわ。エミも、それでいいわよね?」

 キャロルが言うと、エミもコクン、と頷いた。

「よし、それじゃあ、決まりっと」

「おー!」

 俺が書類をテーブルに置いて言うと、皆が気合を入れるように掛け声を上げた。
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