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第1話 原作ヒロインとパーティーを組むのをやめてみる。

Chapter-02

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 俺達は一度、養成学校の斡旋所事務所に戻って、ルイズが勝手に提出した登録内容の取り下げと、改めて、今一緒にいる2人とのパーティー登録申請をすることにした。

「えっと、キャロル・ロゼ・ハリス・エバーワインさんと、エミ・クラーク・ローチさん、だよね?」

 原作ではフルネームは確認できなかったが、今は同級生だ、当然、覚えている。
 実を言うと、元々前世の頃から、人の顔と名前を一致させるのは、割と苦手だったりしたのだが。

「さっきも言ったけど、普段はキャロで結構よ、彼女のことも、エミで」

 キャロルが言い、エミが、こくん、と頷いた。

「了解、じゃあ、俺のことは、アルヴィンって呼んでくれ」

「いいけど……なんでミドルネーム?」

「ちょっと……ファーストネームで呼ばれると、くすぐったくって、ね」

 キャロが聞いてきたので、苦笑しながら答える。

 前世のこととは言え、あーんまりに偉大な世界的ミュージシャンや、日本じゃ有名なあの猫と同じ名前で呼ばれると、実際、くすぐったくてしょうがないのだ。

「ところで、結局あの2人は先にどっかへ行っちゃったみたいだけど」

 特に子供っぽい性格のルイズの方が、拗ねてしまったのだろう、あの後、すぐにどこかへ姿を消してしまった。

 まぁ、それで、俺への興味を失ってくれれば、それでいい。

「とりあえず、こいつはセットで良かったんだよな?」

「おいおい、俺は添え物かよ……」

 俺が親指で指しながら言うと、ジャックは、抗議と言うか、力が抜けたように、そう言った。

「いや、ジャックが、別に思うところがあるんだったら、別に俺はそれで構わないんだけどな?」

 実際、ジャックは気さくでいいやつだ。

 俺が冒険者養成学校に入った頃、狩猟の訓練にジャックとペアを組んだのが、縁の始まりなんだが、その頃俺は、狩猟の技術ではジャックより劣っていた。
 ジャックから教わることも、多かったのだ。

 そのおかげか、どうしても話しかけてくる相手に、下心を見透かしてしまう、ちょっとした人間不信の状況にあって、ジャックに対しては、それを負わずにすんだ。

 実際のところ、俺は、1人でも平気というタイプで、前世でも友人の数は多くなかった。だが、まったくいなかったわけでもない。同好の士と騒いだりするのは、嫌いではなかったし、高校の頃から、大学時代までを通して、悪ふざけをして遊んでた相手もいる。

 現世では、ジャックが、そういう相手になってくれたんだろう。

 だから、俺の方からジャックを突き放すことはしないが、だからといって束縛したいとも考えていない。

「いや、ここまで来たらアルヴィンに付き合うよ」

 ジャックは苦笑しながらも、そう言った。

「それに、アルヴィンと一緒にいると、なにか面白そうなことが起こりそうだしな」

 ジャックは、笑みを悪戯っぽそうなものに変え、そう言った。

 俺は、そういうのを避けるつもりなんだがなぁー……

「別に、一緒で構わないわよ、あなたさえいてくれれば」

 キャロルは、悪意のなさそうな笑顔で、サラリとそんな事を言う。

「俺も2人のことは、アルヴィンと同じように呼んでも?」

「それは駄目」

 ジャックの言葉に、キャロは、ピシャリとそう言った。

「そんなぁ……」

 途方に暮れるかのように、ややオーバーリアクション気味に言うジャックに対し、キャロルは、くすっと悪戯っぽく笑って言う。

「冗談よ。よろしくね、ジャック」

「よろしく」

 キャロに続いて、エミも言い、軽く、頭を下げた。


「ところで、アルヴィンが背中に背負ってるのって……」

 害獣退治の依頼のあった農園に向かう途中、キャロがそう話しかけてきた。

「ん? これか?」

 俺は、マントの上から背負っていたそれを、本来装備する位置に持ってくる。

「見てのとおり、盾だけど」

 別に、元々はありふれた、ラウンド型の鋼の盾。そこそこ値は張るが、別に特殊なものじゃない。いや、今は俺が、耐火や耐凍のルーンを書き込んであるから、ありふれたものじゃなくなっているけど。

「魔導師が、盾を使うの?」

 キャロルが、驚いたと言うか、呆れたようなと言うか、そんな微妙な顔で、そう言った。

「防御の魔法って、あるんじゃなかったかしら?」

「あるし、ま、無詠唱で使えるけど、それでもワンクッションは意識を取られちゃうんだ」

 キャロルの言葉に対し、俺は盾を撫でながら、そう言った。

「だから、いざって時、物理的な盾の方が、速かったりするんだよ」

「ふうん……解ったようなわからないような……」

「アルヴィンの師匠って、確か……」

「アドラーシールム西方の魔女、ディオシェリル・ヒューズ・ディッテンバーガー」

 エミが、静かな声で聞いてきたので、俺は、簡潔に答えた。

「その師匠の教えさ。形に拘るな、自分がよりよいと思った方法を使え。特に戦闘では、ってね」

「それは……正しいかも知れない」

「だろ?」

 エミの言葉に、俺は口元で笑ってそう答えた。


「出来の良い実から選んで持っていかれちまう、このままじゃ死活問題だよ!」

 依頼を出した農園に着き、早速話を聞くと、特に山に近い果樹畑に被害が出ているのだと言う。

「んー……カンスシオスネス・サーチ気配探知

 俺は、右手を上げて、人差し指を掲げ、気配探知の魔法を飛ばした。

 魔導師は、魔法の意識を集中させるために、その意識を集中させるための発動体を使う。オーソドックスなのは、スタッフやワンドだが、俺が師匠のところにいる時に作ったそれは、手の自由が効く腕輪バングルだった。

「こりゃ特別強力な魔獣の類じゃないな、猿だ」

「猿かぁ……」

 ジャックが溜息をつくように言う。

 猿は確かに特別な魔獣とはされていないが、なまじ悪知恵が働く分、農作物等への被害は深刻だ。

「今もこのあたりを見てるよ。人の気配がなくなるのを待ってるんだ」

 とは言っても。

 俺は、無詠唱のクイックモーションで、アクア・ブリッドを1発、撃ち出した。

「ギキャッ」

 と、俺が撃った先の枝から、猿が1匹、落ちてきてのたうち回る。

「キキャッ、 キャーキャー」
「キッキーキー」

 猿が、ガサガサと枝葉を鳴らしながら、俺の射程範囲から逃れようとしていく。

「逃がすか! ジャック!」

「応ともよ!」

 俺は、アクア・ブリッドを12発、並べて出現させて、逃げ出す猿の群れめがけて撃ち出す。

 ちなみに、師匠は火焔魔法を得意としていて、俺自身もそこそこ得意なんだが、こんな木が密集しているところで火なんぞ放って、火事にしてしまっては、元も子もない。

 ジャックは素早く取り出した弓で、逃げ出す猿の群れの後尾を狙って射掛けていく。ジャックは剣も使えるが、狩猟に使う弓の方が上達している。

「追うわよ、エミ!」

 キャロルが言うと、エミがコクン、と頷いて、猿の群れを、果樹畑からさらに裏手の山の方へと追いかけていった。

「あ、待てよ!」

 猿は下手に頭がいいから、逆に、一度痛い思いをさせれば、後は案山子を立てるとか、時折大きな音を立ててやるとかすれば、近づかなくなる。

「別に深追いする必要はないんだけどなぁ」

 ジャックもそのあたりは承知しており、少し呆れたような口調でそう言った。

「まぁ、猿ぐらいの相手だったら、あの2人でも大丈夫だとは思うけど」

 俺はそう言いつつ、2人が猿を追いかけていった方を見た。

「ま、この山人里も近いし、別段特別危険な魔獣は……」

 俺は、ジャックにそう言いかけて、はっと気がついた。

「しまった!」

 原作通りなら、確か、この山には!

「お、おい待てよ、アルヴィン!」

 ジャックが止めるのも聞かず、俺は、2人を追って飛び出していた。
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