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第1話 原作ヒロインとパーティーを組むのをやめてみる。
Chapter-01
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「マイケルはもう私達とパーティーを組んだんだよ!」
「そういうのを抜け駆けっていうのよ!」
「お、おいアルヴィン、なんとかしろよ」
現世での、俺の冒険者養成学校での悪友が、困惑したように言う。
俺を巡って、二組の女性が争っていた。
モテる男はつらいぜ、なんて言ってる場合ではない。
冒険者養成学校は、一旗揚げて成り上がろうって連中がたくさんいる。
そういう連中にしてみれば、少しでも実力の高いやつと、今のうちから組んで縁を作っておきたがる。
ましてそれが異性なら、将来の配偶者候補って話にもなるってわけだ。
だから、なんとなーくでも成績首位かその付近をキープしてしまう俺は、そういう人間、特に女性に目をつけられやすいのである。
事件は、俺がここ、ブリュサムズシティの冒険者養成学校の2期生になってからしばらくたった、ある日に起こった。
2期生になると、冒険者として半人前、程度には見られるようになる。
ところが、その分、生活費は減額される。
最低限の生活はできるが、小遣い銭までは捻出できなくなる。
その代わり、学校が斡旋する範囲で、アルバイトとして依頼をこなすことができるようになる。
これで、今のうちに多少は実践を積んでおけ、という意味でもあるんだろう。
俺はその日、現世での悪友、ジャック・ヒル・スチャーズと共に狩りにでかけていた。
毛皮と獣肉を得る内容の依頼のためだった。
まぁ、依頼通りの獲物が確保できるとは限らないんだが、その場合でも、対象外の獲物も、学校が換金はしてくれる。
そこで俺は、グレイウルフの群れに襲われていた、同級生の2人を助けた。
どちらも女生徒で、槍戦士と、拳闘士の2人組だった。
うん、実はこれ、所謂“原作イベント”なんだよね。
ここで俺は、物語前半のヒロインと知り合うわけだ。
スラッとした、ポニーテールの槍戦士、多少引っ込み思案なところもあるが、人当たりもいい、ユリア・ブラウン・アスミュース。
小柄で疾走っこい、ショートカットの拳闘士。あたりに元気を振りまくような、快活少女、ルイズ・デーヴィス・オスマー。
この2人、決して弱いわけじゃない。だが、グレイウルフの恐ろしさは、集団で狩りをすることだ。その群れに、出くわしてしまったのである。
とは言えまぁ、俺なら別に苦労する相手ではない。範囲攻撃なんてお手の物だからな。
「アクア・ブリッド」
水系の攻撃魔法としては、初歩的なものだが、俺は複数の水の弾丸を、略詠唱で撃ち出す。これぐらいできるには、魔導師としてそれなりの技能がいる。
そして、原作通りに、2人とは意気投合し、その日の夕食で同じテーブルになり、盛り上がったりしたのだが────
俺、知っちゃってるんだよね。
この2人、特にルイズが、俺に下心をもっている、つまり成り上がりのためのコネに入ろうとしていることを。
そして、ルイズは原作通りに、勝手に俺とジャックを入れた固定パーティの申請を、学校の依頼斡旋事務所に提出してしまう。
だが、もちろんそんなことをして、みんながみんな納得するはずがない。
「やっと追いついたわ、マイケル・アルヴィン・バックエショフ」
その日、俺とジャックは、ユリアやルイズとともに、農園の害獣駆除の依頼を受けるのだが、そこに、同行を希望する2人組がいた。
これも、原作通り、だ。
同行を申し出て待っていたのは、どこか高慢そうなツインテールの槍戦士の少女と、寡黙そうな、女性としてはかなり高身長の女性剣士。
魅力的ではあるが、言い換えると平均的なプロポーションの持ち主であるユリアに対し、ツインテールの槍戦士は、少し胸はデカく、しかもそれを強調するような衣装を身に着けている。
剣士の方は、コートのような衣装を身にまとい、日本風というわけではないが、どこか某13代目のような、抜刀術の達人を思わせる。
この2人の、というか、ツインテールの少女の意図は知っている。ルイズが、強引に俺とパーティを組んだことが、気に入らないのだ。
「えっと……俺になにか? エバーワインさん」
原作にして、コミカライズ版数ページの出番の彼女だが、今は同級生だ。名前くらいは覚えている。
「キャロで構わないわ。彼女のことも、エミで結構」
エバーワインさんが、俺には笑顔を向けてそう言った。エミと呼ばれた長身の女生徒は、こくん、と頷く。
「私が話をつけたかったのはね、ルイズ・デーヴィス・オスマー! あなたなのよ!」
エバーワインさんが、ルイズを指差して言い、険しい表情になる。
「あなた、勝手にマイケル・アルヴィンとのパーティー登録を申請したでしょう?」
「そ、それがどうしたっていうのさ」
いよいよ不機嫌さを隠さなくなったエバーワインさんに対し、ルイズは強気を張ってみせた。
「どうもこうも、納得できないもの。マイケル・アルヴィンのパーティーメンバーは誰もが狙ってる、それを本人の承諾を得るより先に勝手に申請を出してしまうなんて、卑怯なやり方よ!」
「ひ、卑怯って、そこまで言われる筋合いはないわ!」
今度は、ユリアが、ルイズをかばうようにして、言い返す。
「オイオイ」
険悪なムードになってきた。
俺こういうめんどくさいのが嫌だったんだけどなぁ。
ぶっちゃけ、俺はソロでも充分やっていく自身があったし、相棒にジャックがいれば充分だった。
「お、おいアルヴィン、なんとかしろよ」
この話のあたりでは非リアの相方は、オロオロとしながら、縋るような視線を俺に向けてくる。
「ケンカはよせよ。不毛だぞ」
とりあえず諍いを収めようと、俺が、多分めんどーくさそーにそう言った時。
「マイケルはどうなのさ」
と、ルイズが俺に問うてきた。
「私達とのパーティーがいいよね?」
ルイズはそう迫ってくるが、キャロさんも負けてはいない。
「反則は校長に直訴するわよ」
ここで、原作のマイケル・アルヴィンは、結論を出せないんだよな。それで、ジャックの提案で、依頼内容の達成度で競おう、って話になったはず。
けど……まぁ、面倒くさいし、もういいか。
「だったら……エバーワインさん達とパーティーを組みたいかなぁ」
俺はそう言った。
「ええっ、どうして!?」
ルイズが、俺に向かって、少し泣きそうな表情で、抗議の声を上げてくる。
「どうしてって言われてもなぁ、勝手に他人の申請用紙出す人間信用しろって言われてもなぁ」
口に出してしまえば至極常識的なことだ。令和の日本なら、立派な有印私文書偽造だし。
「さすが、話がわかるじゃない!」
逆に、エバーワインさんの方は、ニコニコ顔でそう言ってくる。
「ルイズ、それにユリアも」
俺は、2人の方を向いて、言う。
「一人前の冒険者になりたいなら、あるいはその上を目指すんなら、今回みたいなズルはなしだ。後々、それで困るのは自分だからな。それに、それを許せば、俺にも余計な厄介事が増えることになるかもしれないし」
それは、でも、この2人を慮っての言葉でもあった。正直、この2人が好きかどうかと言われれば、好きだと言うべきだろう。
俺は表紙のこの2人に惹かれて、『転生したら辺境貴族の末っ子でした』を手に取ったんだからな。
だが、もし原作通りに話が進むと、結局、この2人のどちらを正妻として迎えることもできない。
それどころか、後半加速するマイケル・アルヴィンのハーレム属性で、その他大勢に埋没していってしまうんだ。
それに、俺は、この2人が考えている生き方を望んでいない。
だから、この2人は、俺以外に、自分をきちんと幸せにしてくれるパートナーを見つけるべきなんだ。
対して、相手の2人は、見た目は可愛いかな、とは思っているが、所詮、原作では名前も、コミック版の背景に一部確認できる程度のモブよりちょっと目立つ程度のキャラ。
思い入れもそんなに強くないし、どうなっても気は楽である。
エバーワインさんなんかは、その負けん気の強さの反動で、挫折すんのも早そうだし。そうならなかったとしても、俺が気に病むことは少なくて済む。
少なくとも、今は、そう思っていた。
「そういうのを抜け駆けっていうのよ!」
「お、おいアルヴィン、なんとかしろよ」
現世での、俺の冒険者養成学校での悪友が、困惑したように言う。
俺を巡って、二組の女性が争っていた。
モテる男はつらいぜ、なんて言ってる場合ではない。
冒険者養成学校は、一旗揚げて成り上がろうって連中がたくさんいる。
そういう連中にしてみれば、少しでも実力の高いやつと、今のうちから組んで縁を作っておきたがる。
ましてそれが異性なら、将来の配偶者候補って話にもなるってわけだ。
だから、なんとなーくでも成績首位かその付近をキープしてしまう俺は、そういう人間、特に女性に目をつけられやすいのである。
事件は、俺がここ、ブリュサムズシティの冒険者養成学校の2期生になってからしばらくたった、ある日に起こった。
2期生になると、冒険者として半人前、程度には見られるようになる。
ところが、その分、生活費は減額される。
最低限の生活はできるが、小遣い銭までは捻出できなくなる。
その代わり、学校が斡旋する範囲で、アルバイトとして依頼をこなすことができるようになる。
これで、今のうちに多少は実践を積んでおけ、という意味でもあるんだろう。
俺はその日、現世での悪友、ジャック・ヒル・スチャーズと共に狩りにでかけていた。
毛皮と獣肉を得る内容の依頼のためだった。
まぁ、依頼通りの獲物が確保できるとは限らないんだが、その場合でも、対象外の獲物も、学校が換金はしてくれる。
そこで俺は、グレイウルフの群れに襲われていた、同級生の2人を助けた。
どちらも女生徒で、槍戦士と、拳闘士の2人組だった。
うん、実はこれ、所謂“原作イベント”なんだよね。
ここで俺は、物語前半のヒロインと知り合うわけだ。
スラッとした、ポニーテールの槍戦士、多少引っ込み思案なところもあるが、人当たりもいい、ユリア・ブラウン・アスミュース。
小柄で疾走っこい、ショートカットの拳闘士。あたりに元気を振りまくような、快活少女、ルイズ・デーヴィス・オスマー。
この2人、決して弱いわけじゃない。だが、グレイウルフの恐ろしさは、集団で狩りをすることだ。その群れに、出くわしてしまったのである。
とは言えまぁ、俺なら別に苦労する相手ではない。範囲攻撃なんてお手の物だからな。
「アクア・ブリッド」
水系の攻撃魔法としては、初歩的なものだが、俺は複数の水の弾丸を、略詠唱で撃ち出す。これぐらいできるには、魔導師としてそれなりの技能がいる。
そして、原作通りに、2人とは意気投合し、その日の夕食で同じテーブルになり、盛り上がったりしたのだが────
俺、知っちゃってるんだよね。
この2人、特にルイズが、俺に下心をもっている、つまり成り上がりのためのコネに入ろうとしていることを。
そして、ルイズは原作通りに、勝手に俺とジャックを入れた固定パーティの申請を、学校の依頼斡旋事務所に提出してしまう。
だが、もちろんそんなことをして、みんながみんな納得するはずがない。
「やっと追いついたわ、マイケル・アルヴィン・バックエショフ」
その日、俺とジャックは、ユリアやルイズとともに、農園の害獣駆除の依頼を受けるのだが、そこに、同行を希望する2人組がいた。
これも、原作通り、だ。
同行を申し出て待っていたのは、どこか高慢そうなツインテールの槍戦士の少女と、寡黙そうな、女性としてはかなり高身長の女性剣士。
魅力的ではあるが、言い換えると平均的なプロポーションの持ち主であるユリアに対し、ツインテールの槍戦士は、少し胸はデカく、しかもそれを強調するような衣装を身に着けている。
剣士の方は、コートのような衣装を身にまとい、日本風というわけではないが、どこか某13代目のような、抜刀術の達人を思わせる。
この2人の、というか、ツインテールの少女の意図は知っている。ルイズが、強引に俺とパーティを組んだことが、気に入らないのだ。
「えっと……俺になにか? エバーワインさん」
原作にして、コミカライズ版数ページの出番の彼女だが、今は同級生だ。名前くらいは覚えている。
「キャロで構わないわ。彼女のことも、エミで結構」
エバーワインさんが、俺には笑顔を向けてそう言った。エミと呼ばれた長身の女生徒は、こくん、と頷く。
「私が話をつけたかったのはね、ルイズ・デーヴィス・オスマー! あなたなのよ!」
エバーワインさんが、ルイズを指差して言い、険しい表情になる。
「あなた、勝手にマイケル・アルヴィンとのパーティー登録を申請したでしょう?」
「そ、それがどうしたっていうのさ」
いよいよ不機嫌さを隠さなくなったエバーワインさんに対し、ルイズは強気を張ってみせた。
「どうもこうも、納得できないもの。マイケル・アルヴィンのパーティーメンバーは誰もが狙ってる、それを本人の承諾を得るより先に勝手に申請を出してしまうなんて、卑怯なやり方よ!」
「ひ、卑怯って、そこまで言われる筋合いはないわ!」
今度は、ユリアが、ルイズをかばうようにして、言い返す。
「オイオイ」
険悪なムードになってきた。
俺こういうめんどくさいのが嫌だったんだけどなぁ。
ぶっちゃけ、俺はソロでも充分やっていく自身があったし、相棒にジャックがいれば充分だった。
「お、おいアルヴィン、なんとかしろよ」
この話のあたりでは非リアの相方は、オロオロとしながら、縋るような視線を俺に向けてくる。
「ケンカはよせよ。不毛だぞ」
とりあえず諍いを収めようと、俺が、多分めんどーくさそーにそう言った時。
「マイケルはどうなのさ」
と、ルイズが俺に問うてきた。
「私達とのパーティーがいいよね?」
ルイズはそう迫ってくるが、キャロさんも負けてはいない。
「反則は校長に直訴するわよ」
ここで、原作のマイケル・アルヴィンは、結論を出せないんだよな。それで、ジャックの提案で、依頼内容の達成度で競おう、って話になったはず。
けど……まぁ、面倒くさいし、もういいか。
「だったら……エバーワインさん達とパーティーを組みたいかなぁ」
俺はそう言った。
「ええっ、どうして!?」
ルイズが、俺に向かって、少し泣きそうな表情で、抗議の声を上げてくる。
「どうしてって言われてもなぁ、勝手に他人の申請用紙出す人間信用しろって言われてもなぁ」
口に出してしまえば至極常識的なことだ。令和の日本なら、立派な有印私文書偽造だし。
「さすが、話がわかるじゃない!」
逆に、エバーワインさんの方は、ニコニコ顔でそう言ってくる。
「ルイズ、それにユリアも」
俺は、2人の方を向いて、言う。
「一人前の冒険者になりたいなら、あるいはその上を目指すんなら、今回みたいなズルはなしだ。後々、それで困るのは自分だからな。それに、それを許せば、俺にも余計な厄介事が増えることになるかもしれないし」
それは、でも、この2人を慮っての言葉でもあった。正直、この2人が好きかどうかと言われれば、好きだと言うべきだろう。
俺は表紙のこの2人に惹かれて、『転生したら辺境貴族の末っ子でした』を手に取ったんだからな。
だが、もし原作通りに話が進むと、結局、この2人のどちらを正妻として迎えることもできない。
それどころか、後半加速するマイケル・アルヴィンのハーレム属性で、その他大勢に埋没していってしまうんだ。
それに、俺は、この2人が考えている生き方を望んでいない。
だから、この2人は、俺以外に、自分をきちんと幸せにしてくれるパートナーを見つけるべきなんだ。
対して、相手の2人は、見た目は可愛いかな、とは思っているが、所詮、原作では名前も、コミック版の背景に一部確認できる程度のモブよりちょっと目立つ程度のキャラ。
思い入れもそんなに強くないし、どうなっても気は楽である。
エバーワインさんなんかは、その負けん気の強さの反動で、挫折すんのも早そうだし。そうならなかったとしても、俺が気に病むことは少なくて済む。
少なくとも、今は、そう思っていた。
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