プリンセスになりたかった

浅月ちせ

文字の大きさ
上 下
14 / 18
第2章

恋は盲目

しおりを挟む

「それでは!ユミィ先生の盗賊団講座、はじまりはじまり~!!」


サルドナの気合いの入った一声の後、ユミィ先生が照れ照れと紙芝居状にしてきてくれた資料をテーブルの上にドンと出した。


「まずは、盗賊団の名前からね。彼らは『ディタ盗賊団』っていうの。わたし達の住むミンティアから白山を挟んで反対側の麓の集落、アヌビスの更に奥にある森を拠点にしているわ。」
「ディタ?なにそれ、ライチ?」


ディタって聞いたらカクテルに使うライチのリキュールしか思い付かない。


「アフロディーテって女神様からもじっているみたい。」
「ああ、アフロディーテ!豊穣とかを司るギリシャ神話の女神様だよね。」


ギリシャはわたしの世界の国の名前だし、ユミィに通じるかな?と思ったけど、神話や迷信の類は土地土地に細かい違いはあれど共通しているものが多いみたいで大丈夫だった。


A4の厚紙に盗賊団の説明が色鉛筆で可愛らしく書かれている。イラストも描いてあってわかりやすい。


「ディタ盗賊団は今内部分裂中なの!現頭領のシャロン様派と、若手を纏めているライド派とで二分しているみたい。お姫様がシャロン様に夢中になっていた時にそのまま王宮乗っ取りを期待していた過激派が、お姫様を振ってしまったシャロン様に反発してライド派を支持するようになったって感じね。カズハはとりあえずこの二分構造を理解して、メンバーの誰がどっち派かっていうのがわかっていたら良いかも。」


そう言うと、ユミィは紙芝居を閉じ新しい資料を取り出した。

生写真が何枚も入ったクリアファイルのようだ。


「これはディタ盗賊団、シャロン様派のメンバーのブロマイドだよ~!」
「え、ちょっと待って!盗賊団のくせにブロマイドとかあるの?!」
「そうなの!シャロン様派はとっても美形揃いで、それを自覚しているから定期的にブロマイドを撮影してメイリーズにある専門店で売ってるのよ。ナンバー組はすぐ売り切れちゃうから新作が発売したら朝から並ばなきゃなの!」


ズラッと写真が入ったクリアファイルを開いて、キラキラと目を輝かせたユミィは語る。

発売済みの写真は網羅しているから、このファイルだけでシャロン派の完全版カタログみたいになっているそうだ。


つまりディタ盗賊団の一部メンバーはアイドル並みの人気があって、世間一般にわりと素性が知られていると。

ユミィは大ファンだから『詳しいことはユミィに聞け』ってレグルスは言っていたんだなと一瞬で理解できた。
素性が知られているって盗賊団としてどうなんだろ……?


「ちなみに一番人気はやっぱりシャロン様ね!次は頭領右腕のジークさん!わたしの推しは4番人気のルーイ様なの~~!!」


1人でテンションただ上がりなユミィ。現実世界でもアイドルにまったく興味がなかった身としては少しついていけないかもしれない。


そして、最初の一声以降一切口を挟まず隣で体育座りで大人しく拗ねているサルドナが気になって仕方ない。
可哀想すぎる。


「えーーっと…サルドナも、大変だね…」
「いいんだ。ディタ盗賊団やルーイ様の話をしてる時のユミィはキラキラしてて可愛いから……」


うーむ、重症。
仕方がないから、ユミィのディタ盗賊団講座を受けながらサルドナの頭をなでなでしてあげたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...