6 / 18
第1章
都市メイリーズ
しおりを挟む
「いらっしゃいませー!!」
あれから5日が経った。
言わずもがな、わたしがこのシャイネス王国に呼び出されて占い師の真似事をしてから5日である。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
わたしは今、レグルス達の村からトロッコで4つ先の大きな町でウエイトレスのお仕事をしている。
トロッコといったら車体の上半分がむき出しの、ゆっくりと郊外の風景を楽しむことができる乗り物をイメージするかと思うが、この世界のトロッコは車体は全て覆われており天井に星空の印刷が施されていることが唯一の開放ポイントであった。
窓がないので外の景色が見れないことはおろか車内は常に夜というなかなか不思議な乗り物である。
わたしは星空が好きなのではじめて乗った時はとてもはしゃいでいたが、慣れてくるとこのなんとも時間感覚を奪うトロッコがちょっと苦手な存在となってしまった。
まぁ気分転換くらいなら良いんだろうけどね。
「お待たせ致しました。太陽のカケラ玉子のオムライスとみかん畑の花のソテーです!」
仕事を始めて一番苦労したのがメニューの名称。
いろんなアルバイトを経験してきた上で、新しい職場でメニューを覚えるという業務が毎回大変だと感じていたけれど、大体はオーソドックスな名前なのですぐに覚えられた。
でもこのレストラン『ロイドミック』では馴染みのない単語を使ったメニューがとっても多いのである。
しかし、使われている食材さえ覚えてしまえばいけると踏んだわたしは、ひたすらこちらの国の食べ物図鑑を読みまくった。台本の台詞を覚えるかのごとく片時も図鑑を離さなかった。
今ではお客様に質問されても即答できるほどに食材について詳しくなった。まさに努力の賜物!!!
「ありがとうございましたーー!」
本日最後のお客様がお食事を終え、ドアへ向かう。ティコンティコンティンティンと絃を弾く楽器であろう音が電子化されたメロディーが鳴り、お客様の退店を伝える。
さて、わたしがどうして『ロイドミック』で働くことになったかというとーー
「働かざるもの着るべからず。」
「………いや!強制的に呼んでおいて何冷たいこと言ってんの?!」
「呼びたくて呼んだわけじゃねーし。大体、なんでおまえ帰らねーんだよ。」
「帰らねーんじゃなくて帰れねーの!あんた、わたし以外が来たところで全部その塩対応するつもりだったんじゃないでしょうね?」
「魔法陣で呼んだなら魔法陣で帰す。条件はいつ如何なる時も同じはずだ。だから呼んで、話をしたら普通に帰すつもりでいた。しかしおまえはそれじゃ帰れねー。なんでだ。」
「…そんなことわたしに言われても…」
この異世界は未知なるものばっかりで好奇心揺さぶられる楽しい環境であった。しかし、3人と山で遊び倒していざ帰ろうとした時にレグルスの魔法陣から弾かれてしまったのだ。つまりわたしは自分の世界への帰り方がわからない。そんな中でのレグルスの冷たい言葉は些か心を抉るもので、泣きたくなってきた。
「そんな言い方すんなってー。うちに帰れる魔法が見つかるまで世話してあげたらいいじゃん!おまえが呼んだんだしさ!男なら責任とれって!」
髪色に負けず劣らずなキラキラ笑顔でサルドナがレグルスの肩を組む。
「そうだよ!カズハはなーぁんにもわからない所に1人で来て、絶対絶対不安なんだから!」
そこにユミィが加勢をしてくれる。もう2人揃って天使でしかない。
冒頭の「働かざるもの~」は、わたしの服をこっちの世界の物に合わせた方がいい。じゃあみんなで買いに行こう。じゃあレグルスのお金で。という会話の流れに憤慨したレグルスによる抵抗である。
自分で買えと言われてもわたしにはこの世界で使えるお金なんてない。
「まあ、働くことには賛成だけどな!帰れるまでに何日掛かるかわからないわけだし、服以外にも必要な物はあるだろう?レグルスはまだ魔法だけでは稼げてないから安月給だし!カズハのためにも自分の分は自分で稼いだ方がいいと思うな!」
「おい!安月給ってなんだ!」
確かにサルドナの言う通り、自分の生活のために人様に全ての金銭を負担してもらうのは正直心苦しい。何より『欲しいものは何の躊躇いもなく買いたい』というのがわたしのアイデンティティなのだ!したがって年がら年中金欠なのだが。
ここで生きていくために必要な物やわたしでも雇ってもらえるようなお店は何処かとみんなで言い合っているとユミィが『ロイドミック』のことを口にしたのだ。
「ここからトロッコで少し行ったところの都市メイリーズにあるお店なんだ!時給もいいし、制服がとっても可愛いのーー!」
なるほど。女子にとって、長期働く上で一番と言っても過言ではない可愛い制服という条件をクリアしているというのか。
「それに、わたしの花屋もサルドナの勤めるシャイネス料理専門店もメイリーズにあるのよ。何かあった時に助けてあげられると思うの!」
「ほんとは俺の職場で雇ってあげられたらいいんだけどさ、専門店なだけあって、こっちの知識が低いカズハにはいろんなことが負担になるかもしれないんだ。」
サルドナが眉を下げ寂しそうな顔で言う。申し訳無いって思ってくれているんだろうな。優しいやつめ。
「ちなみに、レグルスはメイリーズの都市機関で雑用してるから、困ったことがあればこいつにヘルプを飛ばせばいいぜ!」
となると、わたしが都市メイリーズの何処かのお店で働くということは譲れない事項ということだ。だって3人とも職場がメイリーズにあるんだもの。
「あー…ってことはベルも必要ってことかぁ。おまえ金かかるなぁ。」
ベルとはわたしの世界でいう携帯電話のことらしい。
ユミィが実物を見せてくれた。
色や形は好みによって替えることができるみたいだけど、ケータイっていうより腕時計に近くて、すっごい小型。これでメッセージや音声を飛ばせるんだそうだ。
「仕方ないじゃない!生きていくにはお金が必要なんだもん!たくさん稼ごうねぇ、カズハ!!」
「まぁ、なんにせよ最初のミッションは着るものだよな。これは予定通りレグルスに買ってもらおうぜ。働くための初期投資ってやつだな!」
「…仕方ねーな」
渋々でもレグルスが了承してくれた。最初のお給料で半額返金を条件に。ちゃっかりしてるんだから。
それでも、これからどうしたらいいのかわからなかったわたしにとって目先の目的ができたのは有難かった。
まずはこっちの世界で違和感のない服を買って、メイリーズのお店(最有力候補はロイドミックというレストラン)にアルバイトとして雇ってもらい、自分で生活費を稼ぐ。同時進行で元の世界に帰る方法を探すこと。
帰れなくてもいいんだけどね。
あれから5日が経った。
言わずもがな、わたしがこのシャイネス王国に呼び出されて占い師の真似事をしてから5日である。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
わたしは今、レグルス達の村からトロッコで4つ先の大きな町でウエイトレスのお仕事をしている。
トロッコといったら車体の上半分がむき出しの、ゆっくりと郊外の風景を楽しむことができる乗り物をイメージするかと思うが、この世界のトロッコは車体は全て覆われており天井に星空の印刷が施されていることが唯一の開放ポイントであった。
窓がないので外の景色が見れないことはおろか車内は常に夜というなかなか不思議な乗り物である。
わたしは星空が好きなのではじめて乗った時はとてもはしゃいでいたが、慣れてくるとこのなんとも時間感覚を奪うトロッコがちょっと苦手な存在となってしまった。
まぁ気分転換くらいなら良いんだろうけどね。
「お待たせ致しました。太陽のカケラ玉子のオムライスとみかん畑の花のソテーです!」
仕事を始めて一番苦労したのがメニューの名称。
いろんなアルバイトを経験してきた上で、新しい職場でメニューを覚えるという業務が毎回大変だと感じていたけれど、大体はオーソドックスな名前なのですぐに覚えられた。
でもこのレストラン『ロイドミック』では馴染みのない単語を使ったメニューがとっても多いのである。
しかし、使われている食材さえ覚えてしまえばいけると踏んだわたしは、ひたすらこちらの国の食べ物図鑑を読みまくった。台本の台詞を覚えるかのごとく片時も図鑑を離さなかった。
今ではお客様に質問されても即答できるほどに食材について詳しくなった。まさに努力の賜物!!!
「ありがとうございましたーー!」
本日最後のお客様がお食事を終え、ドアへ向かう。ティコンティコンティンティンと絃を弾く楽器であろう音が電子化されたメロディーが鳴り、お客様の退店を伝える。
さて、わたしがどうして『ロイドミック』で働くことになったかというとーー
「働かざるもの着るべからず。」
「………いや!強制的に呼んでおいて何冷たいこと言ってんの?!」
「呼びたくて呼んだわけじゃねーし。大体、なんでおまえ帰らねーんだよ。」
「帰らねーんじゃなくて帰れねーの!あんた、わたし以外が来たところで全部その塩対応するつもりだったんじゃないでしょうね?」
「魔法陣で呼んだなら魔法陣で帰す。条件はいつ如何なる時も同じはずだ。だから呼んで、話をしたら普通に帰すつもりでいた。しかしおまえはそれじゃ帰れねー。なんでだ。」
「…そんなことわたしに言われても…」
この異世界は未知なるものばっかりで好奇心揺さぶられる楽しい環境であった。しかし、3人と山で遊び倒していざ帰ろうとした時にレグルスの魔法陣から弾かれてしまったのだ。つまりわたしは自分の世界への帰り方がわからない。そんな中でのレグルスの冷たい言葉は些か心を抉るもので、泣きたくなってきた。
「そんな言い方すんなってー。うちに帰れる魔法が見つかるまで世話してあげたらいいじゃん!おまえが呼んだんだしさ!男なら責任とれって!」
髪色に負けず劣らずなキラキラ笑顔でサルドナがレグルスの肩を組む。
「そうだよ!カズハはなーぁんにもわからない所に1人で来て、絶対絶対不安なんだから!」
そこにユミィが加勢をしてくれる。もう2人揃って天使でしかない。
冒頭の「働かざるもの~」は、わたしの服をこっちの世界の物に合わせた方がいい。じゃあみんなで買いに行こう。じゃあレグルスのお金で。という会話の流れに憤慨したレグルスによる抵抗である。
自分で買えと言われてもわたしにはこの世界で使えるお金なんてない。
「まあ、働くことには賛成だけどな!帰れるまでに何日掛かるかわからないわけだし、服以外にも必要な物はあるだろう?レグルスはまだ魔法だけでは稼げてないから安月給だし!カズハのためにも自分の分は自分で稼いだ方がいいと思うな!」
「おい!安月給ってなんだ!」
確かにサルドナの言う通り、自分の生活のために人様に全ての金銭を負担してもらうのは正直心苦しい。何より『欲しいものは何の躊躇いもなく買いたい』というのがわたしのアイデンティティなのだ!したがって年がら年中金欠なのだが。
ここで生きていくために必要な物やわたしでも雇ってもらえるようなお店は何処かとみんなで言い合っているとユミィが『ロイドミック』のことを口にしたのだ。
「ここからトロッコで少し行ったところの都市メイリーズにあるお店なんだ!時給もいいし、制服がとっても可愛いのーー!」
なるほど。女子にとって、長期働く上で一番と言っても過言ではない可愛い制服という条件をクリアしているというのか。
「それに、わたしの花屋もサルドナの勤めるシャイネス料理専門店もメイリーズにあるのよ。何かあった時に助けてあげられると思うの!」
「ほんとは俺の職場で雇ってあげられたらいいんだけどさ、専門店なだけあって、こっちの知識が低いカズハにはいろんなことが負担になるかもしれないんだ。」
サルドナが眉を下げ寂しそうな顔で言う。申し訳無いって思ってくれているんだろうな。優しいやつめ。
「ちなみに、レグルスはメイリーズの都市機関で雑用してるから、困ったことがあればこいつにヘルプを飛ばせばいいぜ!」
となると、わたしが都市メイリーズの何処かのお店で働くということは譲れない事項ということだ。だって3人とも職場がメイリーズにあるんだもの。
「あー…ってことはベルも必要ってことかぁ。おまえ金かかるなぁ。」
ベルとはわたしの世界でいう携帯電話のことらしい。
ユミィが実物を見せてくれた。
色や形は好みによって替えることができるみたいだけど、ケータイっていうより腕時計に近くて、すっごい小型。これでメッセージや音声を飛ばせるんだそうだ。
「仕方ないじゃない!生きていくにはお金が必要なんだもん!たくさん稼ごうねぇ、カズハ!!」
「まぁ、なんにせよ最初のミッションは着るものだよな。これは予定通りレグルスに買ってもらおうぜ。働くための初期投資ってやつだな!」
「…仕方ねーな」
渋々でもレグルスが了承してくれた。最初のお給料で半額返金を条件に。ちゃっかりしてるんだから。
それでも、これからどうしたらいいのかわからなかったわたしにとって目先の目的ができたのは有難かった。
まずはこっちの世界で違和感のない服を買って、メイリーズのお店(最有力候補はロイドミックというレストラン)にアルバイトとして雇ってもらい、自分で生活費を稼ぐ。同時進行で元の世界に帰る方法を探すこと。
帰れなくてもいいんだけどね。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる