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【その後のお話】内通疑惑
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……ここは、アシュレーン王国、国王執務室……
書類の山に目を通しているのは、この国の国王、グラッド4世だ。
彼は、成人そこそこの17歳に即位した。若さ故、侮られることも最初は多かったが、彼はまた、その若さ故の柔軟な発想力でそれらを蹴散らし、10年経った今では、先王に勝るとも劣らぬ良政を施いている。
不意に、執務室のドアがノックされた。
「誰だ」
と問うグラッドに、前室の近衛は、
「スカルベ侯爵様にございます」
と告げた。国一の保守派(頑固者とも言う)が一体何の用だと思いながら、グラッドは
「入れ」
と扉の向こうに告げる。
スカルベは入室後、恭しくグラッドに頭を下げた。
「何のようだ、スカルベ」
「何、大したことではないのですが、陛下に少々お耳に入れたいことがございまして」
「何だ、申してみよ」
「アンダーロッシュ伯爵夫人のことでございます」
アンダーロッシュというのは、フレン・ギィ・ラロッシュのことだ。ロッシュ家は元々公爵家だが、それは長兄ランスが継いでいる。だが、このフレンは、その妻チーズと共に世界を変える魔法を開発し、その功により、特別に一代限りの爵位を下したのだ。ただ、どちらもロッシュなので、それがフレンを指すときはアンダーロッシュと呼んでいるのだ。(しかし、チーズがどうしたというのだ)
「最近、何やら足繁く他国の者が出入りしているとのこと。第一、アンダーロッシュ伯爵夫人は平行世界から来たと自分では申しておりますが、それは果たして本当かどうかあやしいものです。
速やかにことの次第を明らかにして、もし内通が事実であれば、早めのご決断をされるがよろしいかと」
するとスカルベはそう言ってドヤ顔でグラッドを見た。グラッドはその含み笑いを一瞥して、
「話はそれだけか」
と、また書類に目を戻す。
「は?」
「話はそれだけかと聞いている!」
「あ、はい、ええ……」
「では下がれ」
「え?」
「下がれと言うのだ!!」
「はい、では失礼します」
スカルベは王が何故苛立っているのか分からず首を傾げながら、元来た道を戻って行った。
さて、グラッドはのろのろとスカルベが部屋を辞して、扉を閉めた途端、大きなため息をはいた。(まったく、あのお方にも困ったものだ。少し釘を刺しておかねばならぬかな)
彼は大急ぎで立ち上がって書類を束ねると、
「気分が優れぬ。たが疲れているだけなので、眠れば良くなるだろう。今から寝所に向かう。くれぐれもゆっくり休むために『何人も近づけるな』」
と、扉の前の近衛に言う。それを聞いた近衛は、
「御意」
とだけ言う。だがその顔が一瞬だけ笑ったのをグラッドは見逃さなかった、グラッドは首を竦めて私室に向かう。
だが、私室にはいった後、グラッドが着替えたのは、寝間着ではなくごく普通の-もっと言えば市井のものが着るような-服装。しかもそれを一人で着た。
そして、帝王学などの本がぎっしりと並んでいる本棚に手をかけ、ぐっと力を込めて横にスライドさせると、そこに現れたのは扉。ただ、10歳の子供に似つかわしいほどの高さしかない。大の大人が入るにはかなり背を縮めて入らねばならないが、グラッドは迷わず扉を開けて中に入る。
書類の山に目を通しているのは、この国の国王、グラッド4世だ。
彼は、成人そこそこの17歳に即位した。若さ故、侮られることも最初は多かったが、彼はまた、その若さ故の柔軟な発想力でそれらを蹴散らし、10年経った今では、先王に勝るとも劣らぬ良政を施いている。
不意に、執務室のドアがノックされた。
「誰だ」
と問うグラッドに、前室の近衛は、
「スカルベ侯爵様にございます」
と告げた。国一の保守派(頑固者とも言う)が一体何の用だと思いながら、グラッドは
「入れ」
と扉の向こうに告げる。
スカルベは入室後、恭しくグラッドに頭を下げた。
「何のようだ、スカルベ」
「何、大したことではないのですが、陛下に少々お耳に入れたいことがございまして」
「何だ、申してみよ」
「アンダーロッシュ伯爵夫人のことでございます」
アンダーロッシュというのは、フレン・ギィ・ラロッシュのことだ。ロッシュ家は元々公爵家だが、それは長兄ランスが継いでいる。だが、このフレンは、その妻チーズと共に世界を変える魔法を開発し、その功により、特別に一代限りの爵位を下したのだ。ただ、どちらもロッシュなので、それがフレンを指すときはアンダーロッシュと呼んでいるのだ。(しかし、チーズがどうしたというのだ)
「最近、何やら足繁く他国の者が出入りしているとのこと。第一、アンダーロッシュ伯爵夫人は平行世界から来たと自分では申しておりますが、それは果たして本当かどうかあやしいものです。
速やかにことの次第を明らかにして、もし内通が事実であれば、早めのご決断をされるがよろしいかと」
するとスカルベはそう言ってドヤ顔でグラッドを見た。グラッドはその含み笑いを一瞥して、
「話はそれだけか」
と、また書類に目を戻す。
「は?」
「話はそれだけかと聞いている!」
「あ、はい、ええ……」
「では下がれ」
「え?」
「下がれと言うのだ!!」
「はい、では失礼します」
スカルベは王が何故苛立っているのか分からず首を傾げながら、元来た道を戻って行った。
さて、グラッドはのろのろとスカルベが部屋を辞して、扉を閉めた途端、大きなため息をはいた。(まったく、あのお方にも困ったものだ。少し釘を刺しておかねばならぬかな)
彼は大急ぎで立ち上がって書類を束ねると、
「気分が優れぬ。たが疲れているだけなので、眠れば良くなるだろう。今から寝所に向かう。くれぐれもゆっくり休むために『何人も近づけるな』」
と、扉の前の近衛に言う。それを聞いた近衛は、
「御意」
とだけ言う。だがその顔が一瞬だけ笑ったのをグラッドは見逃さなかった、グラッドは首を竦めて私室に向かう。
だが、私室にはいった後、グラッドが着替えたのは、寝間着ではなくごく普通の-もっと言えば市井のものが着るような-服装。しかもそれを一人で着た。
そして、帝王学などの本がぎっしりと並んでいる本棚に手をかけ、ぐっと力を込めて横にスライドさせると、そこに現れたのは扉。ただ、10歳の子供に似つかわしいほどの高さしかない。大の大人が入るにはかなり背を縮めて入らねばならないが、グラッドは迷わず扉を開けて中に入る。
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