Cheeze Scramble

神山 備

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車(カー)

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 ドーンという音と共にシュバルの屋敷にたどり着いた俺たち。わらわらと集まってきた使用人たちは、一様に見たことがないモノが山積みされている俺たちの周りをおっかなびっくりで見ている。それはそうだろう、着地する際あのような大きな音を立てた先にこのように見慣れぬものが沢山あれば、どう考えてもそれが音の原因だと思うのが道理だ。
 その上、チーズがその音に反応して、
【うわっ、壊れへんかった? 壊れても修理に出されへんねんから、壊れんといてや、な、壊れてへん?】
とその中で一番の大物機械に何やらニホンゴで話しかけているから尚更に。まったく……相手は機械だ。話しかけて答えが返って来るわけがあるまいに。チーズは昔から慌てるとこれだ。俺がクスっと笑った時、
「界渡りは上手くいったようですな」
とガーランド氏が近づいてきてそう言った。
「ええ、おかげさまで」
「して、その面白そうなモノはなんですか」
そして、ガーランド氏はその中で一番大きな物を指指してそう言うので、
「何やら、電撃を作り出す機械だとか。これを新しい座標に持ち込むために、車にも乗りました」
とため息混じりに俺が言うと、
「それはまた、有意義な旅でしたな」
と、笑いを噛み殺しながらガーランド氏はそう返した。車は、あの物語にも出てきたものだから、彼もあの面妖さや飛んでもない速度は理解しているに違いない。
 そこに、やっと機械と対話するのを止めたチーズが俺たちの会話に割って入ってきて、
「あ、デニスさん、ちょっと聞きたいんですけど、『異世界とりかえばや物語』で、ヨシヒサが車の燃料を作るシーンあったでしょ? アレって実話ですか?」
と聞いた。
 俺たちオラトリオの民にとってはただの荒唐無稽な伽としか見えないが、チーズにはまた違った見方ができるらしい。
「ええ、たぶん。魔法の順序も認める際に再確認しましたから。あの通りで間違いないはず」
それに対して、ガーランド氏は笑顔で頷いてみせた。それを聞くと、チーズは思わず
【おっしゃぁ! やっぱしな、こんでガソリンは大丈夫や】
と、豪快な雄叫びを挙げて拳を握りしめ、脇に引き寄せた拳を前に思い切り突き上げる。
次に、チーズは、
【そや!】
と何か妙案を思いついたらしい。満面の笑みになり、
「ねえフレン、今度ビデオあっちに持って行く時、お姉に車買ってもらうようにしない? お姉が言うには、あの事故の慰謝料や賠償金、かなりあるんだって。
べつにこっちで普通に生活できてるから要らないって言ったんだけど、お姉は『あんたの金』だって言うから。
だったら、こっちで役に立つことに使わせてもらおうよ」
と、俺に怖ろしい提案を持ちかけた。
「セルディオさんにも会って話がしたいし。
デニスさん、ガッシュタルトまで行ったら、紹介して貰えますか」
と言うチーズにガーランド氏は快くそれを承諾するが、
「あ、なんだったらビデオ編集する間待って貰えるんだったら、お送りしますよ」
更にそう続けた彼女の言葉に、さすがに彼の顔も強ばる。あの物語で主人公のパトリックは映し身のヨシヒサからまんまと車をせしめたから、それが実話なら、知己である彼は見るだけではなく乗せられた経験があるのやも。
「わ、私はエレファンに遭えればそれで」
慌てた様子でそう返すが、
「象にはなかなか遭えないですよ。それに、デニスさん魔力ないですよね。だったらあんなデッカいものにたった一人で遭うのは危険です。
あたしがあっちで図鑑買ってきますから、それで我慢してください」
あっちのはマンモスって名前なんですけどねと、チーズは上機嫌で言う。どうやらチーズの頭の中では、車でのガッシュタルト訪問は既に決定事項のようだ。

俺が
(どうします?)
と目でガーランド氏に尋ねると、
(夫のあなたに止められなければ、誰が止めるんですか)
というかのように彼から恨めしげに睨まれた。
 チーズに分からぬよう、二人でこっそりとため息をついたのは言うまでもない。
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