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妙案?
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「ソーナン?」
高速を降りてしばらく地道を走ったお姉は、家の近くのホームセンターに車を停めた。
「電気ないんやろ、そのオラ……なんとか言うとこ」
「オラトリオや。もっと正確に言うたらアシュレーンて国の王都でシュバルっちゅう町や」
お姉の言葉にあたしは頷きながらそう答えた。その上、
「オラトリオに、アシュレーンにシュバル? もう、舌噛みそうな名前ばっかりやな。あんたそんな中でよう三年半もやってきたなぁ」
と、変な事に感心する。
「せやかて、帰られへんねんから、慣れなしゃーないやん」
「そらそうやけどな。それはともかくとして、電気なかったら作ったらええねんて思てな」
は? 電気作るん? 首を傾げながらあたしらがお姉に連れて行かれたんは、アウトドアのコーナー。お姉はその隅っこにおいてあるキャンプ用の発電器の前で店員さんを呼びつけると、いきなりそれをカードでお買い上げ。それから同し敷地内にある家電量販店に行って、ビデオカメラと、この何年かですっかりDVDに取って代わってしもたらしいブルーレイと、ノーパソ、それからテーブルタップなんかを一気に買うた。
「これを全部一遍にて訳にはいかんやろうけど、どうせ使えんのはあんただけやろし、一個ずつやったら大丈夫やろ。あんたのことや、ビデオとったらどうせ、ブルーレイに落とすときに字幕とか入れたなるにきまってるからな」
お姉はさもそれを妙案のように言うたけど、あっちに肝心の燃料のガソリンがないってこと、知ってんのやろか。まぁ、最初の分はここで入れてくし、いよいよとなったらアレ使てみてもええかも。
実は、あの『異世界取りとりかえばや物語』のなかでヨシヒサが車のガソリンを魔法で作ってる件が載ってたんや。デニスさんに実話かどうか聞いてみよ。ちゃうかっても、発電機に入れるくらいならフレンと二人やったら運べるやろし。
お姉は家電量販店を出た後、ホームセンターのカート山盛りになってる機材を台車に乗せて、またホームセンターの方へ行った。
ほんで、着いたんは元のホームセンターの資材売場。ようけ(沢山)買うと、ここの軽トラを2時間タダで貸してくれるらしい。ここのもんだけちゃうけど、発電器が結構大物やし、隣の商品やから店員さんも何も言わんかった。
それを三人で積み込み終わった後、お姉はあたしに、
「ちる、あんたまだ運転できるか?」
と言うから、
「いや、わからん。あっちにはもちろん車なんかあらへんし、そうでのうても、あたしあんまし運転してなかったやん」
あたしは、首を振りながらそう返す。一応大きな会社やったから、転勤とか(あたしがならんでも将来同し会社の人と結婚するかもしれんしてこと)で田舎行ったら、いきなり免許なんかくれへんし、て理由で取っただけで、大阪市内に住んどったら、ホンマに車なんて要らへん。
「うーん、軽トラやからどっちか一人しか乗られんしな。あんたらピストンしてるほど長居でけへんのやろ」
そしたらそう言うてお姉は困った顔をした。
荷物番のフリして荷台に乗るのはアリなんかもしれんけど(作者註:実際は道交法違反のはずです)ビビってるフレンを荷台に乗せる訳にはいかんし、後部座席でもアレやってんから、助手席の眺めなんか絶対にムリや。お姉にしがみついて事故んでもなったら、シャレにならへん。ここはいっちょ腹括らなあかんかな。
あたしは、
【またコレに乗らねばならぬのか?】
あからさまにイヤ(それと怖)がっているフレンを、
【後ろ向いて丸まっててでも良いから、お姉の家まではとりあえず乗ってて】
と、後部座席に押し込むと、お姉の車に付いて男山にあるお姉の家まで運転した。運転したのはそれこそ五年ぐらいぶり。確かに大阪市内ほど細い道やないけど、忘れてた感覚を取り戻すまで、正直ヒヤヒヤもんやった。
まぁ、何とか無事について、買うてきた荷物を軽トラから全部下ろした後、
「ほな、これ持って一旦あっちに戻り。お客さん待っとんのやろ」
とお姉が言うた。
「コレ全部? お姉こんな高いもんもらわれへんわ」
「心配せんでええ、あんたのお金からもうとくから。
正確に言うたらあんたの保険金。あんな事故やったし、カラオケ屋からの賠償金とで結構な額あるんや。
一切、手つけてへん」
「なんで、つこてくれたらええやん」
急におらへんようになって心配もかけたし、あたしはこれからもオラトリオにおるんやから、ちっとも親孝行なんかでけへん。金でどうこうって話やないけど、その代わりにつこてくれたらええんや。けど、あたしがそう言うと、
「これはあんたの保険金や。あんたが戻ってきたときに無一文やったら困るやろ」
お姉はそう言うて笑ろた。
「あたしらは、あんたが死んでるなんてこれっぽっちも思てへんかった。ただ、時期はずしたら賠償金も保険金も貰えんようになるから、葬式しただけや。貰うもんはもうとかんとな」
それにほら、ちゃんとあんた生きとるやん。続けてそう言うお姉の目からポロポロと涙が落ちる。
「せやな、あたしまたあっちに帰るからええけど、そうでなかったらプー太郎やもんな」
そう返すあたしの目からも涙。
「あ……ありがとう、ほな帰るわ」
その後、沢山の荷物の真ん中に立ったあたしらは、そう言うてお姉に別れ告げた。そしたら、お姉に
「ちる、ホンマにあっちの子になってしもてんな」
ってしみじみ言われた。
「あんた、さっきからあっちの家に帰る、帰るて言うてる。
けど、ホンマはこっちが家やで。せやから早い内にまた『帰って』おいでや」
まだ、お父やお母に結婚の挨拶してへんやろと、お姉が言う。
「うん、解った。ありがとう」
あたしは、そう返すともっぺんお姉に頭を下げて詠唱姿勢をとった。
高速を降りてしばらく地道を走ったお姉は、家の近くのホームセンターに車を停めた。
「電気ないんやろ、そのオラ……なんとか言うとこ」
「オラトリオや。もっと正確に言うたらアシュレーンて国の王都でシュバルっちゅう町や」
お姉の言葉にあたしは頷きながらそう答えた。その上、
「オラトリオに、アシュレーンにシュバル? もう、舌噛みそうな名前ばっかりやな。あんたそんな中でよう三年半もやってきたなぁ」
と、変な事に感心する。
「せやかて、帰られへんねんから、慣れなしゃーないやん」
「そらそうやけどな。それはともかくとして、電気なかったら作ったらええねんて思てな」
は? 電気作るん? 首を傾げながらあたしらがお姉に連れて行かれたんは、アウトドアのコーナー。お姉はその隅っこにおいてあるキャンプ用の発電器の前で店員さんを呼びつけると、いきなりそれをカードでお買い上げ。それから同し敷地内にある家電量販店に行って、ビデオカメラと、この何年かですっかりDVDに取って代わってしもたらしいブルーレイと、ノーパソ、それからテーブルタップなんかを一気に買うた。
「これを全部一遍にて訳にはいかんやろうけど、どうせ使えんのはあんただけやろし、一個ずつやったら大丈夫やろ。あんたのことや、ビデオとったらどうせ、ブルーレイに落とすときに字幕とか入れたなるにきまってるからな」
お姉はさもそれを妙案のように言うたけど、あっちに肝心の燃料のガソリンがないってこと、知ってんのやろか。まぁ、最初の分はここで入れてくし、いよいよとなったらアレ使てみてもええかも。
実は、あの『異世界取りとりかえばや物語』のなかでヨシヒサが車のガソリンを魔法で作ってる件が載ってたんや。デニスさんに実話かどうか聞いてみよ。ちゃうかっても、発電機に入れるくらいならフレンと二人やったら運べるやろし。
お姉は家電量販店を出た後、ホームセンターのカート山盛りになってる機材を台車に乗せて、またホームセンターの方へ行った。
ほんで、着いたんは元のホームセンターの資材売場。ようけ(沢山)買うと、ここの軽トラを2時間タダで貸してくれるらしい。ここのもんだけちゃうけど、発電器が結構大物やし、隣の商品やから店員さんも何も言わんかった。
それを三人で積み込み終わった後、お姉はあたしに、
「ちる、あんたまだ運転できるか?」
と言うから、
「いや、わからん。あっちにはもちろん車なんかあらへんし、そうでのうても、あたしあんまし運転してなかったやん」
あたしは、首を振りながらそう返す。一応大きな会社やったから、転勤とか(あたしがならんでも将来同し会社の人と結婚するかもしれんしてこと)で田舎行ったら、いきなり免許なんかくれへんし、て理由で取っただけで、大阪市内に住んどったら、ホンマに車なんて要らへん。
「うーん、軽トラやからどっちか一人しか乗られんしな。あんたらピストンしてるほど長居でけへんのやろ」
そしたらそう言うてお姉は困った顔をした。
荷物番のフリして荷台に乗るのはアリなんかもしれんけど(作者註:実際は道交法違反のはずです)ビビってるフレンを荷台に乗せる訳にはいかんし、後部座席でもアレやってんから、助手席の眺めなんか絶対にムリや。お姉にしがみついて事故んでもなったら、シャレにならへん。ここはいっちょ腹括らなあかんかな。
あたしは、
【またコレに乗らねばならぬのか?】
あからさまにイヤ(それと怖)がっているフレンを、
【後ろ向いて丸まっててでも良いから、お姉の家まではとりあえず乗ってて】
と、後部座席に押し込むと、お姉の車に付いて男山にあるお姉の家まで運転した。運転したのはそれこそ五年ぐらいぶり。確かに大阪市内ほど細い道やないけど、忘れてた感覚を取り戻すまで、正直ヒヤヒヤもんやった。
まぁ、何とか無事について、買うてきた荷物を軽トラから全部下ろした後、
「ほな、これ持って一旦あっちに戻り。お客さん待っとんのやろ」
とお姉が言うた。
「コレ全部? お姉こんな高いもんもらわれへんわ」
「心配せんでええ、あんたのお金からもうとくから。
正確に言うたらあんたの保険金。あんな事故やったし、カラオケ屋からの賠償金とで結構な額あるんや。
一切、手つけてへん」
「なんで、つこてくれたらええやん」
急におらへんようになって心配もかけたし、あたしはこれからもオラトリオにおるんやから、ちっとも親孝行なんかでけへん。金でどうこうって話やないけど、その代わりにつこてくれたらええんや。けど、あたしがそう言うと、
「これはあんたの保険金や。あんたが戻ってきたときに無一文やったら困るやろ」
お姉はそう言うて笑ろた。
「あたしらは、あんたが死んでるなんてこれっぽっちも思てへんかった。ただ、時期はずしたら賠償金も保険金も貰えんようになるから、葬式しただけや。貰うもんはもうとかんとな」
それにほら、ちゃんとあんた生きとるやん。続けてそう言うお姉の目からポロポロと涙が落ちる。
「せやな、あたしまたあっちに帰るからええけど、そうでなかったらプー太郎やもんな」
そう返すあたしの目からも涙。
「あ……ありがとう、ほな帰るわ」
その後、沢山の荷物の真ん中に立ったあたしらは、そう言うてお姉に別れ告げた。そしたら、お姉に
「ちる、ホンマにあっちの子になってしもてんな」
ってしみじみ言われた。
「あんた、さっきからあっちの家に帰る、帰るて言うてる。
けど、ホンマはこっちが家やで。せやから早い内にまた『帰って』おいでや」
まだ、お父やお母に結婚の挨拶してへんやろと、お姉が言う。
「うん、解った。ありがとう」
あたしは、そう返すともっぺんお姉に頭を下げて詠唱姿勢をとった。
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