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第二章それぞれの未来(みらい)
おしどり夫婦 -marineside
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私は、パパの葬儀の後、懐かしい千葉の家に帰ってもう3週間が経った。
ママは元々小柄で食も細い人だったけど、パパが亡くなってからはますます食が細くなり、一段と小さくなってしまった気がした。だから、心配で一人置いてカナダに戻れなくなってしまったのだ。
「未来、あなたそろそろあっちに戻らなくて良いの?」
それがバレたのか。ママの方からそう聞かれた。
「今のママを一人で置いてなんか帰れないよ」
「何言ってるの、私なら大丈夫よ」
私の言葉にママは笑ってそう返した。
「ねぇ、一緒にカナダに来ない? あっちで一緒に住もうよ。実はね、アンヌがどうしてもママをカナダに連れて来いって、毎日メールが来てるのよ」
その時私は、アンヌがママを連れてこいと言ったことを思い出してそう言った。
「カナダへ? 無理だわ。第一、マーさんの49日が明けてもいないのに」
でも、ママは手を振りながらそう答える。
「じゃぁ、49日が終わったら」
と続けると、
「イヤよ、あなたは言葉が解るから苦でもなかったでしょうけど。それに、この歳で外国暮らしなんてまっぴらごめんだわ」
と言って速攻断られてしまう。確かに……私も行った当時はそれこそ四面楚歌状態だったっけ。オーバー70のママにはさすがにキツいよね。
「じゃぁ、旅行ならいいでしょ。顔だけでも見てやってよ。本当に会いたがってるのよ」
私がそうやって尚も食い下がると、ママはやれやれといった様子で、
「しょうがないわね、じゃぁ考えておくわ」
と、渋々旅行ということで承諾した。
そして、私は半ば強引に49日が明けたすぐ後、カナダに行くための2人分の航空チケットを用意した。明日香も、
「その方が急にさびしくならなくて良いわよ」
と賛成してくれていたのに……
-49日の法要が終わって、いざカナダへと向かうことになった前日の朝-
早起きのママがいつまで経っても起きてこなかった。
「ママ、具合でも悪いの?」
と、私がママの部屋を覗くと、ママはその声にも反応しないで眠ったままだった。渡航の用意とかがあったから疲れているのかな……一旦はそう思って部屋を出ようとした。でも、何だか様子がおかしい気がした。第一、耳が異様に良いママは、私が部屋を覗いて起きなかったことなんてなかったもの。寄る年波で耳が遠くなっているのかもしれないけれど……ううん、昨日まで接していて聞き返しとかそういうこともなかった。
私は恐る恐るママに近づいた。そして……私はママがもう息をしていないことに気付いた。
だけどママの顔は、本当に眠っているだけのようにしか見えない、安らかでホッとしたような顔をしていた。
――ママのお葬式で――
参列者の人々は口を揃えて、
「飯塚さんのご夫婦は本当に仲が良かったですもんねぇ。だから、ご主人が奥様を放っておけなくて迎えにこられたんですよ」
と言ってくださった。
だけど、私はそうは思わなかった。
確かに高校生だったあの頃みたく、二人に愛が全くなかったなんて今は思っていない。パートナーとして家族として、ママは精一杯パパを愛していたのだと思う。それは、夫婦というよりも戦友という言葉が似つかわしいと。
そして、ママはパパへの恩返しというミッションを全うして、自分の本来あるべき場所-龍太郎さんのところに―戻って行った……そんな気がするのだ。
-私も私のあるべき場所に戻ろう-
そう思った。
私は、パパ・ママの荷物の整理を終えた後、明日香に後の事を頼んでカナダに戻ることを決めた。
ママは元々小柄で食も細い人だったけど、パパが亡くなってからはますます食が細くなり、一段と小さくなってしまった気がした。だから、心配で一人置いてカナダに戻れなくなってしまったのだ。
「未来、あなたそろそろあっちに戻らなくて良いの?」
それがバレたのか。ママの方からそう聞かれた。
「今のママを一人で置いてなんか帰れないよ」
「何言ってるの、私なら大丈夫よ」
私の言葉にママは笑ってそう返した。
「ねぇ、一緒にカナダに来ない? あっちで一緒に住もうよ。実はね、アンヌがどうしてもママをカナダに連れて来いって、毎日メールが来てるのよ」
その時私は、アンヌがママを連れてこいと言ったことを思い出してそう言った。
「カナダへ? 無理だわ。第一、マーさんの49日が明けてもいないのに」
でも、ママは手を振りながらそう答える。
「じゃぁ、49日が終わったら」
と続けると、
「イヤよ、あなたは言葉が解るから苦でもなかったでしょうけど。それに、この歳で外国暮らしなんてまっぴらごめんだわ」
と言って速攻断られてしまう。確かに……私も行った当時はそれこそ四面楚歌状態だったっけ。オーバー70のママにはさすがにキツいよね。
「じゃぁ、旅行ならいいでしょ。顔だけでも見てやってよ。本当に会いたがってるのよ」
私がそうやって尚も食い下がると、ママはやれやれといった様子で、
「しょうがないわね、じゃぁ考えておくわ」
と、渋々旅行ということで承諾した。
そして、私は半ば強引に49日が明けたすぐ後、カナダに行くための2人分の航空チケットを用意した。明日香も、
「その方が急にさびしくならなくて良いわよ」
と賛成してくれていたのに……
-49日の法要が終わって、いざカナダへと向かうことになった前日の朝-
早起きのママがいつまで経っても起きてこなかった。
「ママ、具合でも悪いの?」
と、私がママの部屋を覗くと、ママはその声にも反応しないで眠ったままだった。渡航の用意とかがあったから疲れているのかな……一旦はそう思って部屋を出ようとした。でも、何だか様子がおかしい気がした。第一、耳が異様に良いママは、私が部屋を覗いて起きなかったことなんてなかったもの。寄る年波で耳が遠くなっているのかもしれないけれど……ううん、昨日まで接していて聞き返しとかそういうこともなかった。
私は恐る恐るママに近づいた。そして……私はママがもう息をしていないことに気付いた。
だけどママの顔は、本当に眠っているだけのようにしか見えない、安らかでホッとしたような顔をしていた。
――ママのお葬式で――
参列者の人々は口を揃えて、
「飯塚さんのご夫婦は本当に仲が良かったですもんねぇ。だから、ご主人が奥様を放っておけなくて迎えにこられたんですよ」
と言ってくださった。
だけど、私はそうは思わなかった。
確かに高校生だったあの頃みたく、二人に愛が全くなかったなんて今は思っていない。パートナーとして家族として、ママは精一杯パパを愛していたのだと思う。それは、夫婦というよりも戦友という言葉が似つかわしいと。
そして、ママはパパへの恩返しというミッションを全うして、自分の本来あるべき場所-龍太郎さんのところに―戻って行った……そんな気がするのだ。
-私も私のあるべき場所に戻ろう-
そう思った。
私は、パパ・ママの荷物の整理を終えた後、明日香に後の事を頼んでカナダに戻ることを決めた。
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