Body Language

神山 備

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 母の愛を競うように泣く双子に、加奈子は未来を手伝いながら、二人を一度に育てるのは想像以上に大変だなと思った。
 瞳(まなこ)の時に陸が赤ちゃん返りして一時期手がかかったことはあったが、陸はすぐにお兄ちゃんの自覚を持ち始め、今度は何かと妹の世話を焼くようになったから、大変な時期は短かった。
 ただ、気まぐれで乱暴なその『お手伝い』に瞳が大泣きすることも多かったが。
 その分、手が離れるときは一気で寂しい思いをするのかもしれない。加奈子は未来に、
「何か今から趣味とか考えといた方がいいわよ」
と言った。
「そんな、今からはムリですよ。ホント手一杯です。それに、私、早い内に保育所に入れて何か仕事するつもりですから。子供って何かと物いりでしょ。親のスネばっかりかじってられないですよ」
「そっか、そうだよね。私は専業主婦だったから。でも、こうやって店をしてると、あの頃どうやって時間を潰してたんだろうって思うわ」
今は確かに忙しいが、それでも自分の時間だってちゃんとある。専業主婦の頃自分はいったい何をしていたのだろうかと思い返してみるが、10年も経ってしまったせいなのか、ちっとも思い出せない。思い出せないのではなく、思い出せるほどのことをしていなかったのではないだろうかと加奈子は思った。
 
 そして夜、飯塚家でお風呂を頂いてから加奈子は携帯を開いた。香織のブログを開いてみようと思い立ったのだ。いつもなら修司の目を気にしなければならないが、ここではそんな心配はない。だが、徐に老眼鏡を取り出して画面を見つめる姿を見かねて、未来にノートパソコンを差し出されてしまった。
「あ、ゴメン。いいのよ、昔のブロ友にアクセスするだけだから」
「それでもどうぞ。携帯では目が疲れるでしょ」
目が疲れるのはもちろんだが、手間も格段に違う。パソコンだと非表示で残してある加奈子のブログからリンクで簡単に香織のブログにまで飛べるのだ。今ならおそらく携帯でも同じ事ができるのだろうが、店を始めてからネット落ちしてしまった加奈子にはその技術がない。
「ありがとう、それじゃ借りるわね」
加奈子はそう言って未来が検索エンジンにしたパソコンから、ブログのサイトにアクセスする。
 管理画面から香織のブログのリンクを選択すると、香織の現在のブログタイトルの下に現れたのは、生まれて間もない赤ん坊の画像。その端には通常とは大きさもフォントも変えて「おかげさまで、第三子【カンナ】が無事生まれました」と書かれてある。本当の名前はかなえだが、10月生まれなので、カンナとネット上では冠したのだろう。
「うわぁ、三人目なんですか。大変ですね」
それを横で覗いていた未来は、自分の子供とさして変わらない赤ん坊の画像にそう声を上げる。
「かわいい、お友達のお子さんなんですか?」
次いでにこにことしながら尋ねる未来に、加奈子はゆっくりとかぶりを振った。
「ううん、友達じゃないわ。私が世界で一番好きな人の子供なの。だから、ウチでは開けなくってね」
その台詞に、未来は完全に返す言葉を失っている。
「ふふふ、びっくりした?」
「なんだ冗談なんですか」
加奈子が茶目っ気っぽく笑うと、未来は明らかに脱力したようにそう言った。
「本気よ、彼ら夫婦は私のダイエットの時の同志なの。二人はブログがきっかけで岐阜と茨城の距離を乗り越えて結ばれのよ」
加奈子がそう付け加えると、
「そういうのって素敵ですね」
と、未来が返した。未来は彼らを加奈子が理想とする夫婦だと受け取ったようだ。
 もう目的の亮平たちの子供の画像も見たのだし、未来も好意的に誤解してくれているのだから、そのままにしておいても何も問題はなかった。しかし、家族から離れている解放感からなのか、ちらっと悪戯心が働いた加奈子は、それに対して不敵な笑みを浮かべながら、
「彼ね、彼女と結婚する前は私とつきあっていたの」
と答える。未来は、
「は? 昔からこの……エイプリルさんですか? とお知り合いだったんですか?」
と、尋ねた。加奈子は、
「いいえ、私も彼とはダイブロで知り合ったのよ」
と返した。産後太りがダイエットのきっかけだと聞いていた未来の唇が、加奈子の言葉の意味気づいて、薄く開いたまま固まった。
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