日々是好日、希望が丘駅前商店街－神神飯店エソ、オソオセヨ（にいらっしゃいませ）

結婚狂想曲（ウエディング ラプソディ）

白いものはより白く

「オクシさん、オクシさん！」
この神神飯店シェンシェンハンティエンのオーナー、王　開ワン　カイが怒った調子で妻の梁（ヤン）玉爾（オクシ）を呼んでいる。そしてその場所が店裏の水場とくれば、この家の娘、王　天衣ワン　ティエンフェイはオンマまたやったなと理解する。
　果たして、原因は今回もそうだったようだ。

「もう、オクシさんっ！あれほど仕事着洗うはポクがやるっていつも言ってるアル」
声を荒げる開の横で、当の妻梁　玉爾ヤン　オクシもムッとした顔で唇をつきだしている。二人の前には、まだ買ってからそんなに経っていない洗濯機が。
　そう、これまで玉爾は何度となく開の仕事着を洗って洗濯機を使い物にならなくしてきたのだ。
　
　玉爾の母国韓国では白物を洗う時熱湯をしばしば使用する。そして、韓国の最近の洗濯機には湯沸かし機能まで備えられていたりするのだ。だが、日本の洗濯機は内側総ポリマー製。当然ながら熱に弱い。そこに玉爾は厨房から沸きたてのお湯を注いだのだ。洗濯機は底が抜けるまでとはいかなかったが、一気に変形しまってその動きを完全に止めてしまった。

　これに懲りた玉爾は、一旦は入れるお湯をぬるま湯レベルまで下げた。だが、確かめながら少しずつ温度を上げ続け、結局は機械が耐えられなくなってしまうというのを繰り返し、ついには仕事着だけは開が洗うという王家のルールが出来上がったのだ。

　だが、それでも玉爾は開の目を盗んで仕事着を洗濯したがる。なぜなら開は『中国料理油多いね。少々の油染みは料理人の勲章アル』と、玉爾の思うように白く洗い上げてくれないからだ。

「そうだ、醸兄のところであたしが洗ってこようか」
あたしなら部分洗いの洗剤とかも使って、パーパよりはきれいに仕上げられると天衣が言うが、開も玉爾もいい顔はしない。

　結局それからも、王家の洗濯における仕事着争奪戦は続いたのであった。