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初ターゲット 2
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「もし……もしですよ、切らないで治せるとしたらどうしますか」
正臣の病状に、思わずそう言ってしまった桃子に、治基は頭を抱えてしまう。(んなストレートに言ってこの後どうすんだよ)
「そんな方法があるんですか!」
案の定正臣の母は、桃子の手を握りつぶされるかの勢いで掴む。しかし、
「ええ、ウチの子にはガンを治す才能があるんです」
と桃子が続けると、
「は?」
と勢い出した手を引っ込める。
(やっぱりな。正攻法でいけばいいってもんじゃねぇだろ)
治基は心の中で舌打ちしたが、
「私も胆嚢ガンだったのをこの子に救われたんです。
騙されたと思って、正臣君をウチの子に任せてくれませんか」
と桃子はなおも食い下がる。
「正臣君から大好きなサッカーを取り上げたくないですよね」
「そんなこといきなり言わもねぇ……」
しかし、正臣の母の表情は硬い。それはそうだろう。切断を余儀なくされている足を簡単に治すと言われたら、しかもその癒し手がどう見てもオムツが取れたかどうかの幼児だと言うのだから、胡散臭いことこの上ない。新手の医療詐欺だってもう少しましな設定をするだろうと。
「本当に治った時、お志だけいただくだけで良いですから」
と言う桃子に、
「医者には一刻も早く手術しなきゃならないって言われているんですよ。あなたの言うことを聞いてもし手遅れにでもなったら、どうしてくれるんですか」
もう聞く必要はないと、立ち上がろうとする正臣の母。
「お手間は取らせません。とりあえず今日、正臣くんの今の状況だけでも診せてもらえませんか」
それでも桃子は逆に正臣の母の手を取り、渋る正臣の母に治基が正臣を『診る』ことを承諾させた。
そして、見舞い客が帰った後、正臣を『診た』治基は、そのまま亜種細胞との『交渉』を試みたが、途中で息切れしてしまった。
桃子の初期ガンとは違って、正臣の場合切断が必要なまでに『仲間』を増やしている状態。治基の2歳児の体力では『交渉』は5分位が限度だ。それでも3割ほどの亜種細胞が説得に応じた。
「にーたん、足軽くなった?」
「なんか、ちょっと痛くなくなった気がするぜ」
まだ、6割強が居座っている状態では目に見えて症状は緩和することはないだろうが、足の状態を聞いた治基に、正臣はにっこり笑ってそう答えた。
「また、足が良くなるおまじない、きていい?」
「いいよ、こんなちっちゃなファンもいるんだ。絶対によくならなくちゃな」
正臣には治基は彼のファンだという事にしてある。彼の方もそれを疑わずに受け入れられるほどの、サッカー強豪校のエースストライカー。
幸い、この病院は自宅からあまり遠くなかったので、治基の体調も考えて一日置いて『交渉』を行った結果……
「一体どうなってるんだ、病巣が3割ほどに減ってる……」
手術のための最終検査を行った医師はその結果に目を疑った。何の療法が効いたのか判らないが、とにかく腫瘍がわずかの期間に消えてしまっていたのだ。
しかもそのことを正臣の母に伝えると、彼女は投薬治療も中止してくれと言う。
「そんなことをしたら、折角回復したのに、元にもどってしまいますよ」
と言っても、
「大丈夫です、正臣はもう治るんです。いえ、治ったんです」
とうっとりとした表情で言い、取り合わない。
そして……次の検査では本当にすべての腫瘍が忽然と消えてしまったのだ。まるで狐につままれたようだが、正臣は足の痛みも消え、しゃかしゃかと歩いているし、何よりMRIのどこを見ても腫瘍の種の字もない。正臣は数日後無事退院となった。
この数年後、刀根正臣はUー19日本代表に選ばれ、世界で活躍することになる。
正臣の病状に、思わずそう言ってしまった桃子に、治基は頭を抱えてしまう。(んなストレートに言ってこの後どうすんだよ)
「そんな方法があるんですか!」
案の定正臣の母は、桃子の手を握りつぶされるかの勢いで掴む。しかし、
「ええ、ウチの子にはガンを治す才能があるんです」
と桃子が続けると、
「は?」
と勢い出した手を引っ込める。
(やっぱりな。正攻法でいけばいいってもんじゃねぇだろ)
治基は心の中で舌打ちしたが、
「私も胆嚢ガンだったのをこの子に救われたんです。
騙されたと思って、正臣君をウチの子に任せてくれませんか」
と桃子はなおも食い下がる。
「正臣君から大好きなサッカーを取り上げたくないですよね」
「そんなこといきなり言わもねぇ……」
しかし、正臣の母の表情は硬い。それはそうだろう。切断を余儀なくされている足を簡単に治すと言われたら、しかもその癒し手がどう見てもオムツが取れたかどうかの幼児だと言うのだから、胡散臭いことこの上ない。新手の医療詐欺だってもう少しましな設定をするだろうと。
「本当に治った時、お志だけいただくだけで良いですから」
と言う桃子に、
「医者には一刻も早く手術しなきゃならないって言われているんですよ。あなたの言うことを聞いてもし手遅れにでもなったら、どうしてくれるんですか」
もう聞く必要はないと、立ち上がろうとする正臣の母。
「お手間は取らせません。とりあえず今日、正臣くんの今の状況だけでも診せてもらえませんか」
それでも桃子は逆に正臣の母の手を取り、渋る正臣の母に治基が正臣を『診る』ことを承諾させた。
そして、見舞い客が帰った後、正臣を『診た』治基は、そのまま亜種細胞との『交渉』を試みたが、途中で息切れしてしまった。
桃子の初期ガンとは違って、正臣の場合切断が必要なまでに『仲間』を増やしている状態。治基の2歳児の体力では『交渉』は5分位が限度だ。それでも3割ほどの亜種細胞が説得に応じた。
「にーたん、足軽くなった?」
「なんか、ちょっと痛くなくなった気がするぜ」
まだ、6割強が居座っている状態では目に見えて症状は緩和することはないだろうが、足の状態を聞いた治基に、正臣はにっこり笑ってそう答えた。
「また、足が良くなるおまじない、きていい?」
「いいよ、こんなちっちゃなファンもいるんだ。絶対によくならなくちゃな」
正臣には治基は彼のファンだという事にしてある。彼の方もそれを疑わずに受け入れられるほどの、サッカー強豪校のエースストライカー。
幸い、この病院は自宅からあまり遠くなかったので、治基の体調も考えて一日置いて『交渉』を行った結果……
「一体どうなってるんだ、病巣が3割ほどに減ってる……」
手術のための最終検査を行った医師はその結果に目を疑った。何の療法が効いたのか判らないが、とにかく腫瘍がわずかの期間に消えてしまっていたのだ。
しかもそのことを正臣の母に伝えると、彼女は投薬治療も中止してくれと言う。
「そんなことをしたら、折角回復したのに、元にもどってしまいますよ」
と言っても、
「大丈夫です、正臣はもう治るんです。いえ、治ったんです」
とうっとりとした表情で言い、取り合わない。
そして……次の検査では本当にすべての腫瘍が忽然と消えてしまったのだ。まるで狐につままれたようだが、正臣は足の痛みも消え、しゃかしゃかと歩いているし、何よりMRIのどこを見ても腫瘍の種の字もない。正臣は数日後無事退院となった。
この数年後、刀根正臣はUー19日本代表に選ばれ、世界で活躍することになる。
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