13 / 65
切り取られた青空
塗り重ねる嘘
しおりを挟む
夢の中にいた私を、携帯の着信音が一気に現実に引き戻した。この音は……私の実家だ。
「あ、おかあさん?ごめんね、話し込んじゃっててすっかり遅くなっちゃって……今から迎えに行こうと思ったんだけど、マナ寝ちゃったの? 陸も映画が終わるまで帰らないって? いいの? じゃぁ明日迎えに行ったら良いのね。ありがとう、じゃぁそうするわ。」
私はすぐにでも迎えに行けるかの様な口ぶりで母に応対する。でも、まだ東京-しかも私の隣には亮平がいる。
「今のはお母さん?」
電話を切った後すぐ、亮平がそう聞いた。
「私のね。今日は迎えに来なくて良いって」
「迎えに行かないでいいなら、もう少し一緒に居られる?」
「ありがとう……でも、車を家に置いてきたから帰らなきゃ」
「じゃぁ、明日は逢える? 帰ってしまったらなかなか逢えないから」
「明日……明日は日曜日だから、ちょっとムリ」
さすがに子供たちを置いて二日も出られない。
「じゃあ明後日は? 有給がたまってるからもう1日ならこっちに居るのを延ばせる」
「うん、月曜なら大丈夫だと思うわ。帰ってまたメール入れるわ」
「待ってるよ」
亮平はそう言って、別れ際口づけを一つ落とした。
帰り着いた私は、家に入るとまず、シャワーを浴びて自分の香りをこの家のものに戻した。修司はもう眠っているみたいだ。
風呂場から出てきた私は、リビングの床に座り込んだ。そこに、しばらくして修司が起きてきた。
「いつ帰ってきたんだ?」
「うん…?ちょっと前」
「こどもたちは?」
「マナが寝ちゃってて、置いてきちゃったの。陸もテレビの映画を最後まで見たいって言うし。結局お酒も飲まなかったし、小橋に車置いとけば良かった」
と、さも、実家に寄って置いて来たように私は言った。ちなみに、小橋というのは、私の旧姓だ。
「ま、いいじゃん。それなら俺、明日も出かけっから、お前もあっちでゆっくりしてきていいよ。」
すると、修司はそんな私の嘘に気づきもしないでそう答えた。私はホッとする反面、休みの度にどこかに出て行く修司に少し腹を立てていた。
(本当は、もうこんなことを言える立場ではないのに)そう思いながら。
「じゃ、先に寝るわ」
修司が寝室に戻り際、そう言うとすっと私を抱きしめた。
「きゃぁ!」
夫婦だから当たり前なのに、私はその時叫び声を上げて飛び退いてしまった。
「ん? 何??」
修司が不思議そうに私の顔をのぞき込んだ。
「ごめん…今日はかなり疲れてるみたい。メールだけチェックしたら寝るから」
「おう、早く寝ろよ」
私は修司が寝室に入るのを確認してパソコンを開いた。宣伝以外にメールは2通、1通は亮平から。そしてもう1通は……うららさんからだった。
-かりんちゃん、どーも!きょうはおつかれさんでした。(中略)
ところで、今日の取材の帰りにかりんちゃんとエイプリルさんが一緒だったのを見かけたような……もう2人とも普通だから良く似たカップルを見間違えたのかもしんないけどさ。
私もオフ会でアブナイとか言ったし、なんか気になってね。人違いならいいけど。
んじゃぁ、また♪ うららー
-人違いですよ~。私、こども迎えに実家に帰ったし。
今日は楽しかったですね。また、オフ会やりましょうね
かりん-
そう打ち込んだら、涙が出た。私はどれだけ嘘をつけばいいんだろう。
「あ、おかあさん?ごめんね、話し込んじゃっててすっかり遅くなっちゃって……今から迎えに行こうと思ったんだけど、マナ寝ちゃったの? 陸も映画が終わるまで帰らないって? いいの? じゃぁ明日迎えに行ったら良いのね。ありがとう、じゃぁそうするわ。」
私はすぐにでも迎えに行けるかの様な口ぶりで母に応対する。でも、まだ東京-しかも私の隣には亮平がいる。
「今のはお母さん?」
電話を切った後すぐ、亮平がそう聞いた。
「私のね。今日は迎えに来なくて良いって」
「迎えに行かないでいいなら、もう少し一緒に居られる?」
「ありがとう……でも、車を家に置いてきたから帰らなきゃ」
「じゃぁ、明日は逢える? 帰ってしまったらなかなか逢えないから」
「明日……明日は日曜日だから、ちょっとムリ」
さすがに子供たちを置いて二日も出られない。
「じゃあ明後日は? 有給がたまってるからもう1日ならこっちに居るのを延ばせる」
「うん、月曜なら大丈夫だと思うわ。帰ってまたメール入れるわ」
「待ってるよ」
亮平はそう言って、別れ際口づけを一つ落とした。
帰り着いた私は、家に入るとまず、シャワーを浴びて自分の香りをこの家のものに戻した。修司はもう眠っているみたいだ。
風呂場から出てきた私は、リビングの床に座り込んだ。そこに、しばらくして修司が起きてきた。
「いつ帰ってきたんだ?」
「うん…?ちょっと前」
「こどもたちは?」
「マナが寝ちゃってて、置いてきちゃったの。陸もテレビの映画を最後まで見たいって言うし。結局お酒も飲まなかったし、小橋に車置いとけば良かった」
と、さも、実家に寄って置いて来たように私は言った。ちなみに、小橋というのは、私の旧姓だ。
「ま、いいじゃん。それなら俺、明日も出かけっから、お前もあっちでゆっくりしてきていいよ。」
すると、修司はそんな私の嘘に気づきもしないでそう答えた。私はホッとする反面、休みの度にどこかに出て行く修司に少し腹を立てていた。
(本当は、もうこんなことを言える立場ではないのに)そう思いながら。
「じゃ、先に寝るわ」
修司が寝室に戻り際、そう言うとすっと私を抱きしめた。
「きゃぁ!」
夫婦だから当たり前なのに、私はその時叫び声を上げて飛び退いてしまった。
「ん? 何??」
修司が不思議そうに私の顔をのぞき込んだ。
「ごめん…今日はかなり疲れてるみたい。メールだけチェックしたら寝るから」
「おう、早く寝ろよ」
私は修司が寝室に入るのを確認してパソコンを開いた。宣伝以外にメールは2通、1通は亮平から。そしてもう1通は……うららさんからだった。
-かりんちゃん、どーも!きょうはおつかれさんでした。(中略)
ところで、今日の取材の帰りにかりんちゃんとエイプリルさんが一緒だったのを見かけたような……もう2人とも普通だから良く似たカップルを見間違えたのかもしんないけどさ。
私もオフ会でアブナイとか言ったし、なんか気になってね。人違いならいいけど。
んじゃぁ、また♪ うららー
-人違いですよ~。私、こども迎えに実家に帰ったし。
今日は楽しかったですね。また、オフ会やりましょうね
かりん-
そう打ち込んだら、涙が出た。私はどれだけ嘘をつけばいいんだろう。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる