無茶な残業をしたら、ワンコ系部下の恋人に、会社のデスクで無茶苦茶にされる羽目になった話。

丹砂 (あかさ)

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無茶な残業をしたら、ワンコ系部下の恋人に、会社のデスクで無茶苦茶にされる羽目になった話。 1

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「これ、急ぎじゃないですよね」

これも、それも、そっちのも。
次々に手元にあった資料を、佐々木が机の横へ積み上げていく。

俺はそれが見ていられなくて、思わず目を逸らした。

きっとコイツは怒っている。
いつもは温厚な大型犬よろしく、俺に纏わり付いてくるのに、こういう時のコイツには容赦がない。

素直に謝るべきなのか。それともシラを切るべきなのか。
一層のことこっちが先にキレてしまえば流せるか。

悩んでいる俺の顎先に、佐々木の指がグイッと掛かった。

「ねえ、主任。俺、言いましたよね」

「何をだよ!」

無理やり顔を向かされた力が痛くて、イライラする。でも、その瞬間重なったコイツの視線に、俺は選択を間違えたって気がついて、一気に血の気が引いていった。

「無茶はしないで下さいって」

「別に、無茶はしていない……」

大丈夫。
出退勤システムは、佐々木の権限では触れない。だから俺がいつ会社から帰ってるかなんて、バレているはずがない。

だから。
『お前の勘違いだ。今日はたまたまだ』
そう言おうとしたところだった。

「誤魔化したってムダですよ、主任が昨日も四時半頃に会社を出て、八時前には出社してる、って分かってますから」

だけど、一足早かった佐々木の言葉に、俺は唖然としてしまう。

「なんで……」

「なんで、知ってるかって? 色々方法があるからですよ」

管理されている内部情報が、漏れているようなものなのだ。その色々が問題だと、コイツだって分からないはずがない。

「そんな言葉で誤魔化すな」

「大丈夫ですよ、主任が心配しているようなシステム的な事じゃないですから」

肩をすくめた佐々木の指が、俺の目の下をなぞっていく。

「それに主任こそ誤魔化さないで下さい」

「……誤魔化したりしていない。それに俺はムリもしていない」

「こんなに毎日、徹夜気味な事をして、クマもひどい状態なのに……?」

佐々木のその言葉に、俺は早々に諦めた。

証拠を、押さえられたようなものなのだ。下手に否定をしない方が良さそうだ。それに、こういった時は全てを否定するよりも、真実の中に嘘を混ぜ込んだ方が上手くいく。

「確かに、最近会社に泊まり込んだりしてはいる。だけど、ちゃんと仮眠室で寝ているし、ムリは本当にしていない。だから、そんなに怒るな」

俺は何でもないふりをして、佐々木の手を払いのけた。

ただ日頃あっけらかんとしているヤツだが、佐々木は部下の中でも敏い方だった。俺の心臓は、やたらドキドキと跳ねていた。

だけど、これも失敗だったのかもしれない。

「へぇ……そうなんだ。じゃあ、そんなに体力が有り余ってるなら、俺に付き合って下さいよ」

ニッコリと笑いながら、俺の腕を佐々木が握った。そのまま、グイッと立ち上がらされる。

「いきなり何だ」

俺はそんな佐々木を睨み付けたが、気にした様子は全くない。向かい合うように返された身体を、そのまま机に押しつけられる。

ヤバイ、素直に謝っておけば良かった。

いつもの犬っころのような笑顔とは全然違う、笑っているのに、笑っていない目が怖かった。

まだ何も言われてはいない。それでも、コイツと恋人同士とか言われる関係になってから、こんな雰囲気の佐々木は質が悪いって事を身に染みて分かっていた。

「さ、佐々木、本当に無茶はしていないって。それに次は、もう少し、気を付ける……」

クソッ。緊張で口の中が渇いてくる。

雰囲気に飲まれたら終わりだ、って思っているのに、これまでの記憶が邪魔をして、どうしたって声が震えてくる。

たぶん、コイツを見ている目も、もう懇願染みている気がする。

そんな俺に佐々木の手が伸びてくる。

このままだと、絶対にマズイ。
逃げた方が良いって、俺の理性が警告していた。

でも、何をされようと、コイツと別れるって選択肢が俺にない以上は、逃げる事なんてできやしない。

いつもと逆転する立場を感じながら、俺は頬に添えられた佐々木の手を受け入れた。

「ダメです。初めてだったら、俺も考えましたけど。主任、前も同じ事を言ってたでしょう?」

言葉も手も、いつもみたいに柔らかい。
輪郭をくすぐるように触れるコイツの手は、まるでペットの顎下を撫でているみたいに動いている。

「こ、こんどこそ、本当に気を付ける……」

いつ始まってもおかしくない。そんな不安の中で、俺はムダだと分かっている抵抗を繰り返してしまった。
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