俺をおもちゃにするなって!

丹砂 (あかさ)

文字の大きさ
上 下
7 / 23
2.まずは自分で試してみろ!

しおりを挟む
「戦う準備も覚悟も、私はいつでも出来ています」
 
 迷いなくミアがそう言うと、魔王は小さくため息をつく。
 
「どうしてそう好戦的なのか。魔族には好戦的な者が多いが、私が王である間は私の治世に従ってもらう。これからは融和の時代だ」
「融和、とは」
「戦争をしても無駄に血を流すだけで、損ばかりで何の益もない。そういったことはやめ、魔界と人間界の友好を保ちたいのだ。
最終的には自由に行き来が出来るようにし、交易を行い、互いの益になるような関係にまで持っていきたい」
 
 先代の魔王が好戦的だったのに対し、現魔王は平和主義者だ。平和主義者というよりも、合理主義者というべきか。
 
 魔族は好戦的な者ばかりだと思われがちだが、わずかながらに現魔王のように人間との友好を望む者も存在する。
 
「ですがお父様、それは難しいのではないでしょうか。恐れながら申し上げますが、お父様のお考えに賛同する者は少ないでしょう」
 
 魔王の考えにも一理あるが、ミアの言うことももっともだ。いくら魔界では魔王の発言が絶対とはいえ、一般市民は元より魔王の側近や幹部も人間を憎んでいる者が圧倒的多数派である以上、人間との友好を実現するのは容易いことではない。
 
「そこで、人間界を統べる王と協議した結果、お前と勇者が婚姻を結ぶということになったのだ。王族たる我々が率先して人間と交流し、手本となる。しからば双方のわだかまりもとけ、いずれは民の間でも交流が進んでいくだろう」
「ですが!」
 
 理想を述べる父にミアは頭に血が上ってしまい、とっさに右腕を勢いよく横に振ってしまった。
 
(この私が人間風情の妻となる、だと?)
 
 ミアは魔族よりも人間の方が劣っていると思い込んでいる。そんな人間との結婚は、ミアにとって絶対に避けたいこと。
 
 しかし、ミアとて同類が無駄に血を流すことは本意ではない。何といって父に反論していいのか分からず、所在なく上げた手を下ろす。
 
「何も私と勇者様が婚姻を結ばなくとも、お兄様もいらっしゃるではありませんか。お兄様も人間などを妻とする気は毛頭ないでしょうが……」
 
 どうにか反論する材料を探していたミアだが、小声で兄の存在を告げることで精一杯だった。魔王の子はミアだけではなく、ミアの二つ年上の兄もいる。
 
「無論、お前の兄にも人間の姫と結婚してもらう。妻となる人間は、見目麗しく気立ても良い娘だと告げたら、あれは喜んで承諾したぞ」
 
(あんの、クソバカエロ兄貴!)
 
 兄と二人でどうにか父を説得できないかとミアは考えていたのだが、頼みの綱の兄が結婚に乗り気とあらばどうしようもない。ここにはいない兄に、心の中でこっそりと悪態をつくほかなかった。
 
「あれには人間の姫と結婚してもらい、姫は魔界で暮らすこととなった。それでは公平ではない故に妹のお前は勇者と結婚し、人間界で暮らしてもらう。
なに、心配するな。勇者は姫と同様美青年で、年もお前と同じで似合いだ。きっとお前も、彼を気に入るだろう」
 
(年も同じで美青年? そういう問題ではない! 私が人間界で暮らすだと? ああ……っ、考えただけでゾッとする……!)
 
 勇者の妻となるだけでなく、婚姻後は人間界で暮らすということを聞かされ、ミアは唇を噛みしめる。
 
「すでに心に決めた者がいるのであれば別だが、そういったわけでもなかろう?」
「それは……」
 
 心に決めた者がいるのかと問われ、ミアは口ごもる。
 
 ミアも年頃の娘。異性には興味があるが、ミアの好みは自分よりも強い男だ。
 
 魔王の娘であるミアより強い男もそうそうおらず、いたとしてもミアよりもずっと年上の男しかいない。あいにくミアは年の離れた男は守備範囲外であったため、十八年間生きてきて一度も恋をしたことがなかった。
 
「やはり心に決めた者はいないのだな。
では、問題ないな。魔界と人間界の友好のため、勇者と結婚してくれるだろう、私の愛しい娘ミアよ」
 
 うつむいているミアを見た魔王は、ミアに好いた者がいないと判断したらしく、勇者との結婚を勧めてくる。
 
「……はい」
 
 口調こそ穏やかではあったが、無言の圧をかけてくる父に逆らえず、結局ミアは不本意ながらも頷いてしまった。
 
 かくして、人間嫌いでプライドの高い魔族の姫ミアと、人間界を統べる王の息子でもある勇者との結婚が決まったというわけである。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...