泡沫のゆりかご 三部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第48話 隠し物 1

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「どこにしよう……」

 壁一面に備え付けられた棚を見上げながら、レフラは広い衣装部屋を右に左にと彷徨っていた。

 ここにはレフラの衣装や靴以外にも、数多の贈り物が、色々な箱に収められていた。隠すところが多いようで、実はしっかりと分類されたその箱は、なかなか隠す隙がない。しかもギガイも何かと立ち入る場所なため、どこへ隠しても見つかってしまいそうなのだ。

 糸が入った袋を両手に抱えながら、レフラはまたうーんと唸って首を傾げた。その時に、棚の端にポツンと置かれた箱が目に留まる。他の箱と比べて飾りの少ないその箱は、目にした覚えのない箱だ。

(あんな箱ってありましたっけ?)

 見覚えがあるようで、覚えがない箱は、この場所にあるのが不思議なぐらい、どこにでもありそうな飾り気のない箱だった。

(でも、この箱なら見つからないかも……)

 だって、ギガイの物を収納している箱とは思えない質素さだ。それにこれだけ見覚えがない箱なのだから、たぶん日頃から活用される事が少ないのだろう。そんな思いでレフラは踏み台を移動して、箱を持ち上げようと手を伸ばした。

「あれ? だいぶ重たい」

 ずっしりとした重みが、箱に添えた両手に伝わってくる。忘れ去られたような箱だから、きっと空に近いだろう。レフラのそんな予想に反して、箱は簡単には持ち上がらなかった。レフラは持ち上げることを諦めて、その箱の蓋を開いてみる。上棚が邪魔をして全開はできなかったが、それでも中に袋を隠せるぐらいには、蓋を開く事はかろうじて出来た。

(これって何だろう?)

 指輪にしては大きなリングや、何に使うか分からない、円錐型の滑らかな棒。それに首飾りにしては短い、丸い石が連なった飾りに、逆に長すぎる飾りが隙間から見えていた。

(これは耳に飾る物?)

 綺麗な赤い宝玉が揺れる飾りは、捻じ式で止めるようになっている。だけど石の大きさを思えば、耳飾りとして使うには、だいぶ重さがあるようだった。バランスの悪い飾りを見ながら、レフラはまた小首を傾げて考えた。
 ここの箱にある物は質の良い宝玉が使われていて、精巧な作りにはなっている。だが、そのどれもがレフラの知る装飾品とはどこか違って、足りなかったり行き過ぎていると、感じるような品達だ。

(失敗作でしょうか?)

 だからこんな箱に入れられて、忘れ去られているのかもしれない。そう考えれば、あながち間違ってはいない気がしてくる。

(でも、いくら高価な石だとしても、そんな物をそのままギガイ様が置いておくでしょうか?)

 日頃の合理的なギガイを思えば、そのまま箱に入れておいて、忘れてしまったというのも、やっぱり違和感が拭えなかった。

「なんだか変ですよね……?」
「何が変なんだ?」

 呟いた瞬間聞こえた声に、レフラはビクッと肩を跳ねさせた。そしてとっさに目の前の箱の底に、手に持った袋を押し込んだ。中に詰まっていた物が打つかり合って、ガチャガチャと鈍い音が立ってしまう。

「どうした? その箱が気になるのか?」

 慌てて奥に隠したとはいえ、あからさまに怪しい動きだったのだ。ギガイがレフラが触っていた箱に、興味を持ってしまうのは当たり前だった。

「あっ、いえ、特にそういう訳ではないんですが……」

 近付こうとするギガイを防いで、ここから早く離れたい。だけど、そんなレフラの考えに反して、やっぱり箱に興味を持ったのか、ギガイの視線は箱の方へと注がれていた。

「あっ、あの。今日は早い戻りですね」

 誤魔化すようにそう言って、ギガイの関心をレフラの方へ向けようとする。だけどギガイはレフラの言葉に、少しだけ眉間のシワを深くした。

「いや、いつもとそれほど変わらんぞ」
「でも、視察があったので、今日は少し遅くなるかと……」
「なんだ? 早く戻ると、何か不都合でもあったのか?」
「ま、まさか! そんな事はありません!」

 ただでさえ、見つかってしまわないか、ものすごくドキドキするような状況だ。そこへ面白くなさそうなギガイの言葉が重なれば、レフラには平静を取り繕うことさえ難しい。レフラが首を大きく振って否定した声は、本人が思った以上に動揺が筒抜けの声だった。
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みんなの感想(11件)

太陽の微笑み

ふと急に読み返したくなるお話です。
また、ひと月かけて読み返しました。
ドキドキワクワクが止まりません。
更新はずっと楽しみにお待ちしておりますので、再開していただけるて嬉しいです。

解除
あまおと
2024.06.12 あまおと

ファンです!
ムーンとアルファポリスの両方でいつも更新されてるかチェックしてます。
お忙しいとは思いますが、組み紐を買った後の二人が気になります!
ぜひ更新してください!
待ってます!
頑張ってくださいね。

解除
1912
2023.07.16 1912

もう更新しないんですか

解除

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