泡沫のゆりかご 三部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

文字の大きさ
上 下
43 / 50
本編

第41話 跳び族のレフィ 5

しおりを挟む
「レフラ様が恥ずかしく思うことでは、ございません。あれは、レフラ様には、本来当てはまらない制限ですので、ご存知ないのは当たり前なんです」
「当たり前、ですか……?」
「はい。ルールを守るべき者が、ルールを知らない事を恥じるべきですが、そうでない者が知らないからと言って、責められる謂れはありませんから」

 落ち込んだレフラを街路樹側の噴水の縁に腰掛けさせて、リランが慰めるようにそう言った。

「そうですよ。例えば、新兵の宿舎なんか、トイレも風呂も5分ずつ。洗い場で横1列で洗った後は、左から順に入るんですよ。しかも浴槽も左足からです。だけど、武官なら、当たり前に叩き込まれたそんなルールも、市場を歩く者達に聞いた所で知らないですから」

 それと同時に、エルフィルから飛び出したとんでもないルールに、レフラはクスッと笑ってしまう。

「本当に、そんなルールがあるんですか?」
「あるんですよ~」

 大真面目な顔で頷くエルフィルが、演技染みていて面白くて、またレフラは小さく声を上げて笑った。

「まぁ、この立場になれば、なんとなくルールの価値も分かりましたけど、あの頃は意味が分からずイヤでしたね」
「えっ? ちゃんと意味があるルールだったんですか? 何か強くなる秘訣とかですか?」
「ふふふ、内緒です」
「気になります……じゃあ、後からギガイ様に聞いてみます」
「そうですね、聞かれてみて下さい。ただ、ギガイ様もルールを守るべき側ではないので、今回のレフラ様同様、ご存知ないかもしれません」
「ギガイ様でも、そういう事があるんですね」

 それなら、と少しは気が楽になったのか。それとも笑えたことで、逆に気持ちが浮上していったのか、レフラの顔色が少しばかり明るくなる。そんなレフラに、ホッと表情を緩めたリランが、背中に添えたままだった掌を外した。

「リュクトワス様へ許可証を発行して頂けるように、ラクーシュが調整しておりますので、あとしばらくお待ち下さい」
「リュクトワス様ですか……? ギガイ様に伝わってしまわないでしょうか?」
「それは大丈夫だと思いますよ」

 ここで間違えても、すでにギガイが知っている事は、知られてはいけない事だから。リランもエルフィルも、朗らかに微笑みながら、素知らぬふりを貫き通した。

「ここに居たか! 良かった! リラン代わってくれ!」

 ちょうどそこにラクーシュが駆け込んできた。素早く立ち上がったリランが、二、三言、ラクーシュと言葉を交わした後に、レフラの方を振り返った。

「許可証の発行で、少し手続きがあるようですので、席を外します。近辺に近衛隊の者を配置してますので、しばらくこちらでお待ち下さい」
「はい、分かりました」

 頷いたレフラの側で、ラクーシュが「あとは頼んだぞ~」とホッとした様子で手を振った。全く、と言いたげな視線でチラッとラクーシュを一瞥しながらも、よほど急いでいるのだろう。余計なことは何も言わないまま、リランがラクーシュが来た方へ走り去っていく。

 その姿を見送って、ラクーシュがレフラへニカッと笑った。

「さて、あとはのんびりと待ちましょう」
「のんびりですか……? 分かりました……でも先に、ギガイ様の視察が終わってしまわないでしょうか……?」

 表通りしか許されていないレフラとは違って、ギガイの視察先には裏通りも含まれている。いつもの視察時間を考えれば、すぐに終わるとは思わないが、それでも手続きにかかる時間によっては間に合わないかもしれないのだ。

「大丈夫ですよ。それほど時間はかかりませんし、ギガイ様の視察もいま少し止まっていらっしゃいますから」

 だけどギガイの状況を、いつの間に確認したのか。はっきりと言いきったラクーシュに、レフラはあれ? と首を傾げた。

「そうなんですか? なにか、トラブルでもあったんですか?」
「詳細は分からないんですが、でも、そちらの後に視察は再開のようなので、お時間はまだ大丈夫だと伺ってます」

 そう言って笑ったラクーシュの顔が、すこしだけ固い気がして、レフラはギガイが心配になった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...