泡沫のゆりかご 三部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第18話 素直さへの甘露 1※

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 粘り気が弱い、透明な液体を掌で受ける。

「あっ、あぁぁ……ぁぁ……」

 張り上げた嬌声が、弱々しい余韻へと変わっていく。それに伴い、腕の中で強ばっていた身体から、ゆっくりと力が抜けていった。

 一気に駆け上がった快感は、堪えていた分だけ強かったのか、レフラは「はぁはぁ」と荒い呼吸を繰り返していた。身体を抱き込んでいた腕を持ち上げて、顔を掌で拭ってやる。その手を追って、ギガイの方を振り返ったレフラが、非難がましい目でギガイを見上げた。

「少し待て」

 何かを言おうと動いた唇にキスをする。そのまま身体を起こして、羽織ったままの寝衣を手に掛ければ、近距離で重なっていた目が、ゆっくりと期待に染まっていく。同時にコクッと喉を鳴らす姿は、飢えや渇きを抱いた者のようだった。

「早く……」

 レフラの声は、熱く湿り気を帯びて掠れていた。

 もう少しで、いつものように触れてくれる。そして、腕の中に抱き込んで、直接肌を触れ合わせきれる。そんな期待を抱いたのだろう。いつもなら腕の中で見せるような表情で、レフラがギガイへ手を伸ばした。

「お前は先に眠っていろ」

 そこでギガイは、脱いだ衣で手早く残滓を拭い取り、レフラの手を掬い取った。一瞬だけレフラが表情を輝かせる。だが、言葉とキスで肌に触れる前に、指を押し留めれば、何かが違うと感じたようだった。

「ギガイ様……?」

 名前を呼ぶ声は、伺うような少し掠れた音になっていた。

「大丈夫だ、すぐに戻る」

 手を押し返したギガイは、宥めるように言いながら、レフラの下半身を清めていく。レフラの着衣を整えた後は、手早くギガイ自身も新しい寝衣に腕を通した。

 呆気なく、情事の雰囲気が払拭されていくギガイの様子が信じられない。驚愕に満ちた表情に、ハッキリとそんなレフラの考えが表れていた。そのまま寝かし付けるように、布団を掛けて立ち上がれば。

「ギガイ様! 待って……!」

 寝台から出て行こうとしたギガイの腕を、レフラは慌てて抱え込んだ。

「どうした?」
「あの……ギガイ様……なにか、怒っていらっしゃいますか?」

 レフラの焦りに反して、様子が変わらないギガイに、不安そうにレフラが聞いてくる。

 ずっとレフラを見てきて、表情や仕草のわずかの差で、手を差し伸べて、愛しんで癒してきたのだから。こんなにハッキリと不安や焦りを見せたレフラを、ギガイが気に掛けない事に戸惑っているのだろう。

 ギガイにすれば、そんなレフラの様子は、微笑ましくて仕方がない。

 レフラにとって当たり前に、自分を癒してくれる存在として。何かあれば、守り、愛しんでくれる相手として。唯一無二となれるように、ずっと腕の中に、甘く囲い込んできたのだから。

 その想いが、しっかりと根付いて、芽吹いている様子は、ギガイに思った以上の喜びを湧き上がらせた。

(だが、今は)

 胸を占める感情を抑え込んで、ギガイは変わらない表情を向けたまま、レフラへ「そんな事はない」と緩く首を振っただけだった。

「それなら、どうして……」
「なにがだ?」

 質問へ質問で返せば、レフラが握る手に力を込めた。

「……しないのですか?」

 たったこれだけでも、レフラにとっては恥ずかしかったのか、戸惑った表情のまま、頬は赤くなっている。

「何をだ?」

 だがギガイは、ハッキリとレフラが言葉で求めるまでは、と、気が付かないフリを貫き通す。そんなギガイの態度から、このまま応える気がないと、伝わったのだろう。

「……ギガイ様は……?」

 視線を何度か彷徨わせて、意を決したように、レフラがギガイの太股に触れた。

「熱は、ツラくないのですか……?」

 躊躇が伝わるぐらいゆっくりと、太股を辿る指が中心へと向かう。だが、その指が、股間の膨らみを確認する前に、ギガイは再び手を握り込んだ。
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