12 / 50
本編
第10話 隠しごと2
しおりを挟む
「このような状況では、可能な限りご要望はお応えするのが良いかと思い、これまでの訓練に対する『謝礼』を近衛隊からお渡しする事に致しました」
「謝礼?」
「はい。私どもはレフラ様へ報賞等を差し上げきれる立場ではありませんので、今回はあくまでレフラ様への感謝のお品です」
それならば、レフラの立場を軽んじた事にならなければ、近衛隊を管轄しているリュクトワスの独断で決める事も可能だった。
「ほう、考えたな」
リュクトワスの後で、アドフィルが目を見開いていた。そのような方法でレフラの望みを聞き、ギガイを納得させるとは思わなかったようだ。たぶん、それは。嬉しそうに隠し事をしていたレフラにしても、同じだろう。
「やはり、お前は食えないヤツだな」
「何を仰いますか。私ほど、ギガイ様へ実直な者はおりません。ですので、この件はレフラ様へは内密にお願い致します」
ギガイ様へお伝えした事が知られてしまえば、本格的に嫌われかねません。
苦笑を浮かべてそう言ったリュクトワスに、何も言わずにギガイは口角を上げた。
「それで、具体的にはどうするんだ?」
「次回のギガイ様の視察の前までには、護衛の3人へ預ける事になっております」
「次の視察か」
ギガイが執務机を指先で叩きながら、次の視察予定の北区を思い出す。予定しているエリアは、陶器工房や鍛冶工房など工業的なエリアで、いまのレフラが求めている物を扱うような場所ではない。
「組紐などは西区か?」
「はい、西区と中央区にあり、日頃の取引は中央区の店となります」
「なら、次の視察は中央区にしよう。北区はその後とする」
ギガイの一言に、アドフィルが「承知致しました」と頭を下げて退出をした。これで数時間後には、スケジュールの調整や視察資料は取り揃えられる事だろう。そこまで指示をしたギガイは、口元に添えた指で自身の唇をなぞりながら、黙り込んだ。
組紐を買う。レフラに取り扱わせるなら、最上級の物を与えたい。それなら中央区の店を使わせるのが間違いない。
(だが、そもそもどうやって、購入するつもりだ?)
特に深く考えなくとも、日々の様子を思い返せば、前提が成り立つとは思えない。
「……あれがプロメイナを贈ろうとしている事は分かった。その為に、自分で組紐を買おうとしている事も、それを私へ隠している事も理解した。だが、どうやって私に隠れて、組紐を購入するのだ?」
そこが一向に見えてこない。
「あれを外で降ろした事など、ろくに無い。次の視察の際も、当然抱えているつもりだ。となれば、私の腕の中にいるあれが、どうするつもりだ?」
何か聞いているか、とギガイがリュクトワスを見上げれば、その顔には苦笑が浮かんでいる。
「その辺りは、きっと今頃、あの3人を相手に案を講じていると思います」
「……やはり、そうか……」
再び、はぁ、と息を吐き出して、ギガイは眉間を揉み込んだ。
レフラの純粋な想いは嬉しい。贈られたプロメイナは、間違いなく、どんな貢ぎ物よりも、貴重でギガイの大切な物になるだろう。だが、それを越えて、その物を贈るレフラ自身の方が何倍も何千倍も、ギガイにとっては大切な宝なのだ。
「私はあれを市場で降ろす気はないぞ」
「存じております」
「それでも、私に隠れて購入すると」
「先ほどのご様子を拝見するに、代わりの者に購入を任せる可能性は低いかと存じます」
「……拗れるな……」
「おそらく」
ギガイとしては、視察先でレフラを腕の中から降ろす気などは全くない。だが、ギガイが抱える状態で、ギガイに内緒で組紐を買う事ができず、レフラにそれを諦める気がないのなら。確実に降りるために何かを企むはずなのだ。
リュクトワスもそれを思っての苦笑なのだと分かっている。そしてそんな表情のまま、何の提案も無いのだから、手をこまねいているのだろう。
「あれの講じる策ならば、どうとでもなるだろう」
「はい」
ギガイが日々身を置く世界は、権謀術数が渦巻いている。レフラの策程度にはまるようなら、黒族の長は務まらない。だからといって、他の者へするように、その策を容赦なく封じて良いか、と言えば別だった。
「謝礼?」
「はい。私どもはレフラ様へ報賞等を差し上げきれる立場ではありませんので、今回はあくまでレフラ様への感謝のお品です」
それならば、レフラの立場を軽んじた事にならなければ、近衛隊を管轄しているリュクトワスの独断で決める事も可能だった。
「ほう、考えたな」
リュクトワスの後で、アドフィルが目を見開いていた。そのような方法でレフラの望みを聞き、ギガイを納得させるとは思わなかったようだ。たぶん、それは。嬉しそうに隠し事をしていたレフラにしても、同じだろう。
「やはり、お前は食えないヤツだな」
「何を仰いますか。私ほど、ギガイ様へ実直な者はおりません。ですので、この件はレフラ様へは内密にお願い致します」
ギガイ様へお伝えした事が知られてしまえば、本格的に嫌われかねません。
苦笑を浮かべてそう言ったリュクトワスに、何も言わずにギガイは口角を上げた。
「それで、具体的にはどうするんだ?」
「次回のギガイ様の視察の前までには、護衛の3人へ預ける事になっております」
「次の視察か」
ギガイが執務机を指先で叩きながら、次の視察予定の北区を思い出す。予定しているエリアは、陶器工房や鍛冶工房など工業的なエリアで、いまのレフラが求めている物を扱うような場所ではない。
「組紐などは西区か?」
「はい、西区と中央区にあり、日頃の取引は中央区の店となります」
「なら、次の視察は中央区にしよう。北区はその後とする」
ギガイの一言に、アドフィルが「承知致しました」と頭を下げて退出をした。これで数時間後には、スケジュールの調整や視察資料は取り揃えられる事だろう。そこまで指示をしたギガイは、口元に添えた指で自身の唇をなぞりながら、黙り込んだ。
組紐を買う。レフラに取り扱わせるなら、最上級の物を与えたい。それなら中央区の店を使わせるのが間違いない。
(だが、そもそもどうやって、購入するつもりだ?)
特に深く考えなくとも、日々の様子を思い返せば、前提が成り立つとは思えない。
「……あれがプロメイナを贈ろうとしている事は分かった。その為に、自分で組紐を買おうとしている事も、それを私へ隠している事も理解した。だが、どうやって私に隠れて、組紐を購入するのだ?」
そこが一向に見えてこない。
「あれを外で降ろした事など、ろくに無い。次の視察の際も、当然抱えているつもりだ。となれば、私の腕の中にいるあれが、どうするつもりだ?」
何か聞いているか、とギガイがリュクトワスを見上げれば、その顔には苦笑が浮かんでいる。
「その辺りは、きっと今頃、あの3人を相手に案を講じていると思います」
「……やはり、そうか……」
再び、はぁ、と息を吐き出して、ギガイは眉間を揉み込んだ。
レフラの純粋な想いは嬉しい。贈られたプロメイナは、間違いなく、どんな貢ぎ物よりも、貴重でギガイの大切な物になるだろう。だが、それを越えて、その物を贈るレフラ自身の方が何倍も何千倍も、ギガイにとっては大切な宝なのだ。
「私はあれを市場で降ろす気はないぞ」
「存じております」
「それでも、私に隠れて購入すると」
「先ほどのご様子を拝見するに、代わりの者に購入を任せる可能性は低いかと存じます」
「……拗れるな……」
「おそらく」
ギガイとしては、視察先でレフラを腕の中から降ろす気などは全くない。だが、ギガイが抱える状態で、ギガイに内緒で組紐を買う事ができず、レフラにそれを諦める気がないのなら。確実に降りるために何かを企むはずなのだ。
リュクトワスもそれを思っての苦笑なのだと分かっている。そしてそんな表情のまま、何の提案も無いのだから、手をこまねいているのだろう。
「あれの講じる策ならば、どうとでもなるだろう」
「はい」
ギガイが日々身を置く世界は、権謀術数が渦巻いている。レフラの策程度にはまるようなら、黒族の長は務まらない。だからといって、他の者へするように、その策を容赦なく封じて良いか、と言えば別だった。
10
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる