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本編
第1話 剣帯の組紐 1
しおりを挟む 剣帯のベルトを飾る組紐。
レフラがその紐に気が付いたのは、たまたまだった。正確に言うなら、今まで見掛けた武官の剣帯を飾っているのを見てはいた。ただ身近に居る3人や、ギガイの剣帯に付いていなかったため、何となく気になりながらも、聞くタイミングが無かったのだ。
だけど今日たまたま気が付いたその紐は、身に着けた武官の雰囲気にもよく似合っていた。誂えたように見える紐が、何か特別な意味があるような気がして、どうしても気になってしまったのだ。
「あの、前から思っていたんですが……これはなんですか?」
突然レフラから声を掛けられた武官は、驚いた表情を浮かべていた。
警備隊第2小隊長である彼は、これまでギガイの市場の視察に付いて行った時に、顔を合わせた事のある武官だった。
会話をしたことだって何度かある。それでも、日頃から一緒に過ごすことのない者にとって、ギガイの寵妃であるレフラから直接話し掛けられるのは、相変わらず戸惑ってしまうのだろう。
気軽に声を掛けたレフラの雰囲気に反して、その武官は少し困惑した表情を浮かべている。このまま答えて良いのか、悩んでいるのがハッキリ伝わってくる表情で、確認するように、リュクトワスを伺い見ていた。
ちょうど鍛錬を終えたばかりのギガイは、今は奥の間の私室に着替えに戻っていて不在なのだから。この場で伺いを立てるのは、リュクトワスが確かに相応しいのかもしれない。
だけど、ギガイの側近として、ギガイの感情をくみ取って優秀に立ち回るリュクトワス相手では、期待できないのだ。
事前に許した者達以外とレフラが交流することを、ギガイが好まない以上、伺いを立てられたリュクトワスが、許可をしてくれる可能性は低いのだから。
武官の視線を追ってリュクトワスを見上げたレフラに、柔らかい笑みが向けられる。これまでのリュクトワスとのやり取りから、こういった表情の時には交渉の余地がないと分かっている。
「レフラ様、これとは?」
案の定、その武官と直接対話をさせるのではなく、間に入る事にしたようだった。レフラの側まで近付いたリュクトワスは、傍らに膝を折ってレフラと目線を合わせてきた。
(これぐらいは、許して下さってもいいのに)
だってギガイが側に居れば、面白くないと思っていても、一応は許してくれる振る舞いなのだ。だけど、そういった行動ほど、リュクトワスはあまり許可をしてくれなかった。
『ささいな事ほど、遊びが少ないんです』
『遊びですか……?』
『はい』
以前別な事でリュクトワスへ『この程度なら、ギガイ様も……』と訴えてみた時に、返された言葉だった。その時も、少しも感情の読めない笑顔だけを向けて、リュクトワスは口を噤んでいた。それ以上は語るつもりはないと、暗に告げる表情なのだと、その時にハッキリ分かったのだ。
助けを求めるように見上げた3人も、上官であるリュクトワス相手にはどうしようもないのか。レフラへ申し訳なさそうに笑いながら、首を横に振るだけだった。
その度にレフラだって何度も説得を試みたのだ。でも、リュクトワスのあまりにとりつく島のない様子に、ついに諦めたのは、ギガイの執務室に当たり前のように来るようになってしばらく経った頃だから、もう半年以上前の事だった。
レフラがその紐に気が付いたのは、たまたまだった。正確に言うなら、今まで見掛けた武官の剣帯を飾っているのを見てはいた。ただ身近に居る3人や、ギガイの剣帯に付いていなかったため、何となく気になりながらも、聞くタイミングが無かったのだ。
だけど今日たまたま気が付いたその紐は、身に着けた武官の雰囲気にもよく似合っていた。誂えたように見える紐が、何か特別な意味があるような気がして、どうしても気になってしまったのだ。
「あの、前から思っていたんですが……これはなんですか?」
突然レフラから声を掛けられた武官は、驚いた表情を浮かべていた。
警備隊第2小隊長である彼は、これまでギガイの市場の視察に付いて行った時に、顔を合わせた事のある武官だった。
会話をしたことだって何度かある。それでも、日頃から一緒に過ごすことのない者にとって、ギガイの寵妃であるレフラから直接話し掛けられるのは、相変わらず戸惑ってしまうのだろう。
気軽に声を掛けたレフラの雰囲気に反して、その武官は少し困惑した表情を浮かべている。このまま答えて良いのか、悩んでいるのがハッキリ伝わってくる表情で、確認するように、リュクトワスを伺い見ていた。
ちょうど鍛錬を終えたばかりのギガイは、今は奥の間の私室に着替えに戻っていて不在なのだから。この場で伺いを立てるのは、リュクトワスが確かに相応しいのかもしれない。
だけど、ギガイの側近として、ギガイの感情をくみ取って優秀に立ち回るリュクトワス相手では、期待できないのだ。
事前に許した者達以外とレフラが交流することを、ギガイが好まない以上、伺いを立てられたリュクトワスが、許可をしてくれる可能性は低いのだから。
武官の視線を追ってリュクトワスを見上げたレフラに、柔らかい笑みが向けられる。これまでのリュクトワスとのやり取りから、こういった表情の時には交渉の余地がないと分かっている。
「レフラ様、これとは?」
案の定、その武官と直接対話をさせるのではなく、間に入る事にしたようだった。レフラの側まで近付いたリュクトワスは、傍らに膝を折ってレフラと目線を合わせてきた。
(これぐらいは、許して下さってもいいのに)
だってギガイが側に居れば、面白くないと思っていても、一応は許してくれる振る舞いなのだ。だけど、そういった行動ほど、リュクトワスはあまり許可をしてくれなかった。
『ささいな事ほど、遊びが少ないんです』
『遊びですか……?』
『はい』
以前別な事でリュクトワスへ『この程度なら、ギガイ様も……』と訴えてみた時に、返された言葉だった。その時も、少しも感情の読めない笑顔だけを向けて、リュクトワスは口を噤んでいた。それ以上は語るつもりはないと、暗に告げる表情なのだと、その時にハッキリ分かったのだ。
助けを求めるように見上げた3人も、上官であるリュクトワス相手にはどうしようもないのか。レフラへ申し訳なさそうに笑いながら、首を横に振るだけだった。
その度にレフラだって何度も説得を試みたのだ。でも、リュクトワスのあまりにとりつく島のない様子に、ついに諦めたのは、ギガイの執務室に当たり前のように来るようになってしばらく経った頃だから、もう半年以上前の事だった。
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