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第3章 カルセランド基地奪還作戦
第16話 王国の守護者
しおりを挟む「・・・ええ、確かに閣下の言う通りです、「憎しみ」こそ最も正当な理由で、この世で最も強い「力」になるのでしょう。
──────────ですが
──────────今私を衝き動かすものは、憎しみではありません」
オウカはヤマト家に代々受け継がれた名剣『フソウ』を抜剣した。
その手には迷いの無い純心な力が宿っており、そしてその目には確固とした光が宿っていた。
「憎しみで無く、それで魔族を斬り、私を斬るか、問わせて貰おう、ならば何故君は私を斬る」
「それは、私の心が、胸の声が、閣下を斬れと叫ぶからです、これは憎しみではありません、ただ一重に、私が愛する者たちを、私が守りたい者たちを、閣下のエゴで殺されるのが嫌だからです」
オウカは自身の班員を6名失っていた、それについての憎しみ、悲しみは確かに存在していたが、しかし、それをジェリドンにぶつける気は無かった。
「子供の理屈だな、私は陛下の作り上げた王国を永遠にする為に、その秩序の守護者としてこの戦を主導した、もしも私を否定すれば、それは騎士である君自身も、君が仕えた王国自身も否定する事になるのだぞ」
「未来の100億人の為に今の1億人に涙を飲めと、そんな事を言う閣下は詐欺師です、そして仮に陛下がそれを命じたのだとしても、私の殿下は、ディメア王女は、絶対にそれを許しません、だから私は、この世に生きる殿下の意思を示す為に、今ここで、閣下を斬らせてもらいます・・・!」
「・・・ほう、殿下の生存を知ったのか、それで殿下を自身の旗印として戦う訳か、それも騎士らしい生き様だが、だが、その建前が通用すると思うか、陛下に全てを託されたのはこの私だ、私を斬る事は王国を否定する事になりそして私が死ねばこの国を守る者もいなくなる、それでも君は、王国の要石たる私を斬るというのか」
「・・・私が閣下を超えれば、私がこの国の騎士の頂点です、ならば閣下を斬れば、私の存在が王国の象徴となり要石となるでしょう」
「確かに、代々特級騎士の座と近衛騎士の座を継承して来たヤマト家の君ならば、それを成す道理もあるが、しかし、それを君に出来るのかね、それは君たちの在り方の真逆では無いのかね、君たちは王家の盾として、従者として、己の意思など持たぬ隷属する存在の筈、それなのに何故、ここで私に楯突く気になったのだ」
「心に従った結果です、例え騎士として間違っていたとしても、人として間違っていたとしても、私は殿下に生きていて欲しい、王家を残して欲しいと、そう思う私のエゴが、王家を見捨てて魔族を滅ぼそうとする貴方とは相容れないと、そう思うからです」
「恣意的で独りよがりな理由だな、王家が滅んだのは陛下の意思だ、時勢のうねり、歪んだ秩序の再生、それが運命だと陛下は全て受け入れ、故に断頭台に自ら立った、それが陛下の運命で、お役目だったならば、受け入れるしか無いだろう」
「それでも私は、私にとっては、殿下の代わりなどいない、だから、私が守りたいもの、殿下の愛するものを、住む世界を、私が守る───────。
その〝意思〟を否定すれば、人は人では無くただの道具と成り果てる、騎士が王国を守る為の道具だというのならば、私は道具である事を捨て、一人の人間として殿下と殿下の愛する者たちを守る、それが私の生き様です」
それがオウカの辿り着いた答えだった。
他者の理屈で、騎士の使命で、王国のシステムでは守れない命があると、オウカは自身の家族と、慕ってくれた班員を失って思い知ったのだ。
自分が築き上げた信頼関係とは、効率的に戦場に送り込む為の強制力に過ぎないと、気づいたのだ。
だから失わない為には、自分の大切なものを守る為には、自分の心に従って戦うしかないと、そこで真理に辿り着いた、故に。
「・・・ふ、騎士の規範であるべき君が、意思と心を持つか、ならば私も騎士として、君に誅を下そう、私に逆らうものは死罪だ、だが正面から挑んだその気概に免じて、これを決闘として受けてやろう」
ジェリドンはそれで対話は十分と判断し、剣を構えた。
僅かな問答の間にジェリドンは呼吸を整え、激しく消耗しているにも関わらず今日一番の集中力を見せた。
ジェリドンの持つ剣は王国最高の名剣『パトリオット』、特級騎士の第一席に代々継承された剣は、剣に認められた者にのみ聖剣に匹敵する力を授ける最強の名剣。
達人同士の決着は一撃で着く。
何故ならそれは、ある一定の領域に到達した者同士であれば余計な小細工や駆け引きなど必要とせず、初手に不可避にして究極の、必殺の一撃を互いに打ち込むからだ。
テンガとジェリドンの対決を見ていたオウカはジェリドンがその領域に至った到達者であると、肌で理解していた。
しかしオウカはまだその領域に至る器では無い、本来ならば勝ち目の無い戦い、ジェリドンが疲弊している事にしか勝機は無いが、対面するジェリドンの目には一分の緩みも無く付け入る隙など無かった。
万に一つの勝機、それを手繰り寄せる手札を、オウカは持っていなかったが。
だがオウカは、それでも前に進む為には、新しい自分を受け入れる為には、騎士の象徴であり、そして王国至上のひとでなしであるジェリドンを、ここで斬らねばならぬと腹を括る。
(父上、母上、兄上、姉上、皆、どうか今一度だけ、私に力を貸してください─────)
──────────鍛錬を積み上げた数の差で、敵う道理は無いだろう。
──────────修羅場を潜り抜けた場数の差で、敵う道理は無いだろう。
──────────力でも、加護でも、生まれ持った才能や悪運、胸に秘めた想いの強ささえも、何一つ敵う道理は無いだろう。
ジェリドンは人の心を捨てているが故に誰にも追いつける事の無い領域まで辿り着いた、人類の極限への到達者なのだから。
だが敵う道理が無かったとしても、オウカがここで退く理由は無かった。
何故なら、「逃げたくなったら逃げる」と宣言していた男が、最後までこの戦場を戦い抜く姿を見たから。
救えなかった部下たちの命に、一矢報いる必要があったから。
そして残酷で無慈悲な「騎士」という生き様、その全てを断ち切ろうと思ったから。
それらの因縁を背負ってこの場に立った時、オウカはこの役目を運命だと思い、そして必ず成し遂げねばならぬ己に課せられた使命だと思った。
故にオウカは己の心のままに、心で剣を握り締めるのだ。
この剣に込めるものは、王国の未来でも、人類の総意でも無い、ただ、一人の人間の我儘だ。
──────────気に入らないヤツがいたら、そいつを殴る理由は自分の心に従う事、ただそれだけの理屈。
王国や人類の未来など何も背負っていない剣は、何のしがらみも無く、そしてそこに相手を捩じ伏せるだけの重みは無い、──────────が。
しかし、19年の間、騎士として生きてきたオウカの人生の積み重ねは、その無責任な剣にも、安くは無い重みを与えてくれた。
オウカの先祖と親兄弟が積み上げた遥かなる歴史は、最後の末裔であるオウカに、騎士の時代を終わらせる事の意味を与えてくれた。
オウカの持つ剣、『フソウ』は、その乾坤一擲の大勝負に、全てを断ち切る力を与えてくれた。
故にオウカは若輩者で未熟者だったが、騎士の頂点であるジェリドンに見合う強敵でもあった。
どちらに転んでもどちらも得をしない不毛な勝負、だが、それが「戦争」では無く当事者同士の「暴力」ならば、それは余程平和的な解決になるのだろうと、オウカはここで悟ったから。
だから心で握る剣に己の殺意を込めて、理不尽と不条理、その全ての代償を支払わせる為に、オウカは剣を振るった。
「──────────参ります」
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