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第3章 カルセランド基地奪還作戦
外伝 聖女アミスの受難
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アンデス王国の王都「ウォルマト」、そこは王国の中心に建てられた先祖伝来の土地であり、アンデス王国の建国より以前から大陸の首都として王家の住まう地として重宝された場所であった。
そしてそこは現在、聖女派閥でありながら勝手に王を名乗るリューピンに占拠されており、リューピンの手勢と多数の浮浪者や孤児の住処となっていたのであった。
そこの王城の一室にて、男が4人、机を囲んでトランプに興じていた。
「よっしゃフルハウス!!、へへっ悪ぃなお頭、今日の巡回も頼んますわ!!」
「あーもーちっくしょう!!今日はツキに見放され過ぎだ、たまには勝たせろや!!」
「毎回ストレートフラッシュを狙うお頭が悪いっす、実はお頭がイカサマをする事を見越して、今回のトランプからは5、10の札を全部抜いときました、でもイカサマとかはしてないんで負けたのはお頭のせいっす」
「なんか上手くいかねぇとおもったらそういう事かよオイ、ちっ、ってオイオイオイ、よく見たら俺の手・・・」
「イカサマは無しっすよ、お頭、お頭がヤマからカード引き抜くとこ、見てたっす」
「あーもう分かったよ、ハイハイハイ、俺が行けばいいんだろ俺が、今日も今日とて警備の巡回、俺が行ってきますよ」
そう言ってお頭と呼ばれた男、リューピンは丸腰のまま帽子を被ると巡回の為に部屋を出ていく。
本来王都の警備や警衛などは騎士の役割だが、徴兵により全ての騎士がカルセランドに集結した事、そして革命の影響により治安が悪化した事を理由にリューピンが城下町の警備をしているが。
その巡回の目的は治安維持ではなく力を持て余したならず者のスカウトや、騎士勢力の横暴や反乱を防ぐ事が目的であり、基本的には人助けには関与しないものだった。
故にリューピンはツケの溜まっている居酒屋で飲み食いして地元の若者達と交流した後に、泥酔した状態で思い出したかのように巡回コースを馬に乗って歩いていく。
警備をしていると言ってもこれはあくまで見せかけだけのものであり、これはリューピンが王として民を守護しているという実績作りのものであるので、そもそも一人で王都を警備するというのが不可能である為に、リューピン自身にも責任意識は皆無だった。
暫く歩いた所でリューピンは絡まれている一人の女を発見した。
夜間に若い婦女が無防備に歩いていれば、路地裏に連れ込まれるのは予定調和された出来事だろう、リューピンは危機意識の低い女が悪いし、路地裏で一発やられた所で死ぬ訳でもないと思い見て見ぬふりをしようとしたが。
「あ、リューピン、私です、あなたの同志のアミスです、助けてください」
と、無視出来ぬ相手から名指しで声をかけられた為に仕方なく駆けつけたのであった。
「なんだぁ兄ちゃん、やんのか、ああん?」
「おえっ、ひっく、お前俺を知らないとかさてはモグリだな、俺を誰だと心得る、俺はこの国の王様だぞぉ」
「ははっ、寝言は寝て言えってんだ、王様が護衛も付けずにこんな所にいる訳が無いだろ、それに今は乱世、暴力が支配し、悪魔が微笑む時代だ、神様も王様もいねぇんだよ!!!」
男は泥酔して馬の背中にもたれかかっているだらしないリューピンの姿に油断し、真正面から愚直に殴りかかった。
それに対してリューピンはめんどくさそうに対応して躱す。
「ここに一つのナイフがあります」
「ってそれ、俺のナイフじゃねぇか!いつの間に!!」
「これを・・・はい消えました、ここにあなたの上着が・・・ズボンが・・・消えました」
リューピンは酔っている為にただただ面倒くさそうに『手品』を披露し、無慈悲に男の装備を剥ぎ取っては消した。
いつのまにか男は下着一枚を残して半裸になっていた、それは瞬きをする間に行われた事であり、男は狐に摘まれたように呆然としていた。
「さてここにサイフがあります、中身は・・・まぁまぁだな、これ、消してもいいかな?」
そこでリューピンは男に脅しをかけるように尋ねると、男は流石に半裸で素寒貧になるのは嫌だったのだろう、命乞いするようにリューピンに懇願した。
「俺が悪かった、謝る、だから返してくれ」
「しょうがないにゃあ・・・いいよ」
そう言ってリューピンは男にサイフを手渡すように男の手にサイフを置こうとする、そこで。
「──────────なーんちゃって、ほーら飛んでけぇ」
と、サイフを手渡した瞬間に無数の鳩が現れ、サイフを覆い隠した後にどこかへと飛び立っていく。
「な、くそっ、覚えてろよぉっ!!」
男は鳩を追いかけるようにしてその場を立ち去っていき、後にはリューピンと女だけが残された。
「相変わらず凶悪な催眠術ですね、何が手品で何が催眠術なのか、私にはさっぱりでした」
女の名前はアミス。
この世界において【勇者】、【魔王】に次ぐ存在である【聖女】のジョブに選ばれた、この世で最も重要な人物の一人である。
「それでアミスちゃんは護衛もつけずに何しにここに?、散々刺客送り込んどいて今更手打ちにしようって話か?、それとも騎士がいなくなって手薄になった王都を乗っ取り来たのか?」
「いえ、私は ・・・あなたとお話をしに来ました」
「話って何のだよ、言っとくが俺はもう王様になったんだ、この王都にいる人間も多くは俺を認めている、今更退位しろと言われても退かねぇかんな」
リューピンは酔っていたが故にアミスに対して無警戒だったが、それでもアミス以外の刺客の存在を警戒してアミスから距離を置いていた。
そんなリューピンの様子を見てアミスは、警戒を解こうとリューピンに近づいていく。
「心配しなくても私一人ですよ、ウーナは一緒に来てくれたのですが、名剣の匂いがすると言っていつの間にか消えてしまいました、オズとピーターは偵察でカルセランドに出張中です、なのでこの場で私の盾になってくれる人間は、あなたしかいません」
刺客を送ってき来たくせに未だに自分を同志とのたまうアミスの態度の図太さに辟易としつつも。
自分を真っ直ぐと見つめるアミスのその駆け引きを感じさせない曇りの無い瞳にリューピンはたじろぎ、渋々アミスの言葉を聞く姿勢を見せた。
「・・・ちっ、まぁいいや、馬に乗れよ、今は巡回中なんだ、暫く歩くから」
そう言ってリューピンはアミスのケツを押し上げて馬に乗せてやる。
それはアミスが運動能力に関しては著しくポンコツである事を知るリューピンの優しさだった。
それに対してアミスは上品に礼を言うと、二人は夜の街を並んで歩いた。
「・・・覚えてますかリューピン、私たちが初めて会った日の事を」
「いや全然、過去には縛られない主義だし、昔の女の事も引きずらないタイプだからな」
リューピンは欠伸をしながら答えるが、アミスは気にせず続ける。
「なら言って聞かせましょう、あれは2年前、私が【聖女】として活動したての頃に、とある悪徳貴族の屋敷にて、偶然同じ日に襲撃をかけた事がきっかけでした、あの時に私たちは出会い、そして苦しんでいる人々の為に共に戦う事を誓いあったのではありませんか。
私たちはあの日、悪徳貴族を討って得た戦利品を二分しました、共に戦った見返りとして私が奴隷として捕まっていた方たちを、あなたが財産を引き取ることになったのですね。
しかしあなたはその財産を私欲で独占する事無く、〝宴〟を開く事で数日で使い果たし、貧しい人々に分け与えていました。
その時に私は思ったのです、私たちは同じ未来に向かっていると、あなたは同志になれると確信したのです」
「俺はそんな風に思った事一度もないけどな、そもそも俺が王になる事に反対なんだろ?、だったらそれはもう既に決別したって事じゃんよ」
「・・・確かに、最初にあなたが王を名乗って騎士団派に喧嘩を売った時はとても悲しい気持ちになりました、でも今はそれが誤解だったと反省しています。
あの時、降伏した王国の地盤をそのまま騎士団が引き継いでいたならば、それは体制の頭を入れ替えるだけで革命した意義を失っていたでしょう。
しかしあなたが王となった事で、あなたは自身が王に即位した〝宴〟を開く事で王家が溜め込んだ財産を民に再分配し、そして自身が没落していく事で王権という権力そのものを衰退させて消滅させようという考えだった、その事に気づいた時は目が覚めるような思いでした。
自身が飢えても徴税したりせず、王自らが巡回や警備をする事で住民から僅かな寄付を貰って慎ましく暮らしていると聞きました、時には孤児と一緒に芸を披露して日銭を稼いだり、乞食までして・・・。
ここまでの王権の冒涜と尊厳破壊、これはあなたにしか出来ない事であり、今思えばあなたが王になる事こそ、私の理想を叶える最善だったのだと思います、つまり、私の一番の理解者であったあなたを私が否定する理由がありません、なので今度は私があなたを助ける為に、理解したいと思ってここに来ました」
「はははははは、ひっく、俺を理解したい?面白い事を言うな、ウーナの差し金か?、いいぜ面白そうだし少しだけ相手してやるよ。
あれは単純に学が無さ過ぎて王になって何すればいいか分かんなかっただけなんだがな、役人も皆逃げ出して行政も機能停止したし、それで取り敢えず税金をゼロにしたら商人は集まってきたが乞食も増えた、今は金持ち商人の援助で魔王軍が攻めてきた時の私兵や、賊が入り込まないようにする警備を請け負う事でなんとか食って言ってるようなギリギリの状況だ。
・・・おかげで今じゃ誰も俺を崇めねぇし敬わねぇ、結局人間が有難がってるのは権威や身分や能力じゃなく、金と権力なんだって思い知らされたぜ、税金をゼロにしても誰も感謝すらしてくれねぇもんな、こんなつまんない役割だって知ったら、冒涜したくもなるって話だぜ」
「・・・確かに、お金や権力は人を動かすのに最も簡単な〝力〟かもしれません、でも、それは人を幸せにする〝力〟ではありません、あなたの『手品』や私の『歌』のように、人の心に訴えるものこそ、未来までの人の心を打ち、大きな幸せを紡ぐ為に必要なものではありませんか」
「・・・ああ、俺もアミスちゃんの『歌』は好きだし、そういう笑えるもので世界を満たしたいという願望は俺にもある、でも、俺とアミスちゃんは根本的に相容れないんだ」
「・・・何故ですか?、この世を幸せで埋めつくしたい、その為にこの世に不幸な人がいるのが耐えられない、だから魔族を保護し、弱者に救いの手を差し伸べる、そんな我々の理想は同じなのではありませんか?」
「・・・そうだな、表面上は同じだし九十里先までは手を繋いで歩いて行ける道だろう、でもそこまでだ、俺とアミスちゃんの理想は根本的に違う、だからそこに行った時点でお互いが間違いに気づくんだよ」
「根本的に・・・?、一体何がダメなのでしょうか、私には理解出来ません。
私はンシャリ村に行ったウーナからあなたの生い立ちの話を聞きました、ンシャリ村の村長の家に生まれ、優遇されて生きてきて、そして魔族の妹と共に暮らしたと聞きました、私と同じです、優遇されて、負い目があって、守りたい人がいる、それのどこが違うというのですか」
「へぇ、あそこに行ったのか、ライアは元気してるかな・・・。
っと閑話休題、俺とアミスちゃんの違い、それは役者が違うのさ」
「役者が・・・?」
「そう、君の住む世界はきっと、子供にとっては理想的で苦しみの無い世界なんだろう、酒もタバコも麻薬も無くなれば、依存性で苦しむ人も、後遺症で苦しむ人もいない、浮気や不倫を禁止すれば、浮気や不倫で苦しむ人もいないというだけの、消去法の世界、でも、俺の求めるものは真逆なんだよ」
そう言ってリューピンは上着を脱いで上半身を露出させた。
「この腕の傷は初めてシャドウウルフにかまれた時の跡、この脇腹の奴は最初のメンヘラ彼女に刺された時の奴で、乳首のは弟にクワガタに挟まれた時の奴で、ケツの穴は妹に全力の浣腸をされた時からずっと切れ痔だ、博打の借金がバレて親父にぶん殴られた時に奥歯を折られたなぁ、他にも色々ある、切り傷も火傷も致命傷も色々と経験して今の俺があるんだ、何が言いたいかって言うと、俺の冒険はノンフィクションであり、理想とするものもノンフィクションだという事だ、そこがアミスちゃんと俺の理想の、決定的な違いなんだよ」
「・・・つまり、箱庭の中の小鳥に過ぎない私の、この世界の悲劇を全て消し去りたいという私の理想は、夢物語であり、叶わないものだから協力出来ない、そういう事ですか」
「いいや、もっと根本的な話さ、アミスちゃんはこの世界が悲劇に満ち溢れていてそれを無くすのが目的だが、俺は俺の世界が喜劇で満たされればそれでいいんだ、極端な話だが、無様に野垂れ死にしようと、理不尽に処刑されようと、笑いながら死ねるならそれは喜劇であり、救う必要の無いものだと俺は思ってるって事、この違いが俺とアミスちゃんが相容れない理由だよ」
「・・・何故、悲劇を無くしたい私と、喜劇で満たしたいあなたが共存出来ないのですか、本質は違えど、お互いに共存出来る価値観の筈です、私たちはお互いに押し付け合い強制するような価値観では無いのだから、ならば上手く共存出来る筈でしょう」
「だから、役者が違うんだよ、俺たちはさ、人間生きてれば大なり小なり傷を負って生きているんだ、傷を負って生きた人間だからこそ他人の欠点や汚点を許す事が出来る、でもアミスちゃんは両親を処刑し、汚職した貴族を世直しの名の下に粛清しているだろう、圧政は悪という正義の為に悪を許さない、それが俺と君の役者の違いだよ」
「・・・確かに、愛や平和を説いて民衆を率いる私が、その手段は武力や粛清に頼っている事が矛盾している事は理解してます・・・。
そして私が苦労を知らない箱入りの小娘であり、道理を語るのが烏滸がましいというのも分かります。
確かに私は未熟者です、ですが、より良い未来を目指すという気持ちが同じならば、互いに歩み寄り、理想へと向かっていけるのでは無いのですか?」
「歩み寄る、ね、・・・ならアミスちゃんは、俺と一緒にスラムの路地裏で寝て、腐りかけのパンを食べて、子供に笑われながら乞食をする事が出来るかい」
「・・・何故それをする必要があるのか分かりませんが、必要であるのならばやります」
「うい~ひっく、その答えがアミスちゃんという人間の本質で、俺とは根本的に違う所なんだよ。
・・・「必要ならばやる」たとえ路上に放置されたうんこだろうと、玉座の上に守られているうんこだろうと、それがたとえどれだけ滑稽で困難で無様で悲劇的な〝役割〟だろうと「必要ならばやる」、それが俺とアミスちゃんの〝役者〟の違いさ、俺は「やりたくない事は死んでもやらない」主義だからね。
・・・単刀直入に言うと、俺はアミスちゃんの事がつまらない、知れば知るほど興味を無くす、だからアミスちゃんと色んな事をヤリたいと思わないし、協力したくなるような興味がない、女としての興味なら変態のウーナの方がマシに思えるくらいにな」
「・・・つまり、私に女としての魅力が無いから、協力する見返りが無いと、そういう事、ですか・・・?」
「女としてじゃなくて人間として生理的に無理って話だな、俺は両刀使いだから男女で区別したりしねぇよ、面白い人間なら老若男女問わねぇし、ガキだろうがババアだろうがヤリたいと思ったら口説くさ、そういう話じゃなくて個性の話、不気味なんだ、言っちゃ悪いけど。
ええと、なんつーかさ、・・・人間のコミュニティの最小単位は家族だ、家族愛に恵まれて初めて他者愛や自己愛を獲得する、それなのに家族から愛されていた筈のアミスちゃんが両親を処刑し、その上で【聖女】として愛と平和を説いているという事、その様がとても歪で不気味に思えるんだ、ま、何でそうなのか分からない訳じゃないんだけどな。
ただ、ひとつ言えるのは、俺は〝道化〟で、アミスちゃんは〝人形〟だっていう事さ、サーカスと人形劇は食べ合わせが悪いだろ、だから共存は出来ないって話さ」
「人形・・・ですか」
「ひっく、あくまで持論だけどな、人間ってのは自由で無くなった時、拳を握る理由を他人に依存するようになった時に、人間として価値が無くなり、ただの歯車に変わるんだ、アミスちゃんは、自分の為に拳を振るった事はあるかい、両親を処刑したのは自分の為にやった事かい」
「いいえ・・・」
「これで分かっただろ、エゴの塊でその日暮らしに生きてる俺と、私欲が無くて〝完璧な聖女〟を演じてるアミスちゃん、ひょんなきっかけで協力する事になったけど、元々結ばれない運命なんだよ、だからごめんアミスちゃんの気持ちには応えられないんだ」
リューピンはそう言うと、馬ごとアミスを置いて王城に戻っていく。
その背中をアミスはぼんやりと眺めた。
「・・・つまらない人形」
それは潔癖なるアミスの体に刺さった唯一の 荊棘。
幼い日に姉が放った心無い一言だった、完全に忘れたと思っていた、しかし今その疼痛を思い出したのだ。
思案に耽ってその場に留まっていたアミスに、背後から一人の女が声をかけた。
「フラれてしまいましたね・・・、どうします、アミス様が命じるなら今すぐあの首持ち帰って来ますよ」
女の名はウーナ、聖女派四天王の1人にして、その実力は特級騎士に並ぶと評される実力者。
彼女はアミスらの背後から、リューピンに感知されないギリギリの距離を保って尾行していたのであった。
「フラれたみたいな空気出すのやめてください、私はそもそも口説いてなどいませんから」
「ですが交渉は決裂したのでしょう、ならば粛清するしか・・・。
それに折角私がリューピンを篭絡する勘所の情報を伝えたのにアミス様は人がいい、ンシャリ村や【勇者】の事を引き合いに出せば、リューピンと言えども放置出来なかった筈なのに」
ウーナは暗に人質を使えば良かったのにと主に苦言を呈した。
「それもリューピンの真意を確かめねば本末転倒でしょう、いえ、騎士団派の暴走を止める為には今日、彼の協力を取り付ける他無かったのですが」
「騎士団派と魔王軍が玉砕し、【魔王】は死没して【勇者】は隠遁、この展開は我々としてはこれ以上無い好機ですが、それなのにわざわざ騎士団派を阻止しようというお考えが?」
「敵対してるからとは言え、見捨てる理由は無いでしょう、私は騎士団が私を嫌う理由も、魔王軍が我々と戦う理由も理解してますから、だからそれらを解決出来れば歩み寄れるものでしょう、いえ、リューピンひとり説得出来ない私の言葉など、ただの夢物語に過ぎないものでしょうが」
「見たところロクな護衛もいないようですし、聖女派の全勢力を上げれば王城は5分で陥落しそうなもので話も早そうですが、まぁアミス様が遠回りをしたいというのであれば私もそれを応援しますよ」
ウーナは煮え切らない主の態度をそう皮肉るとアミスは申し訳なさそうに答える。
「・・・分かってます、そうこうしているうちにも前線では命が失われている、だからリューピンの首を手土産に和解するなら早くしろ、という事でしょう」
「いえ、私は前線で何人死のうとそれは自己責任なので気にとめませんが、ですが聖女派が援軍として参戦する機会を逸失するのは勿体ないと思っているだけです、折角新しい名剣を手に入れたのだから」
ウーナは超一級の変態、名剣名刀に触れる事と、それを担う強敵と見える事だけが全ての人でなしであった。
「・・・・・・」
アミスは部下達の奔放さ非常識さに頭を悩ませながらも、一刻も早い和解の為に更に頭を働かせるのだった。
しかし聖女派の予想に反し、カルセランド基地奪還作戦は「インサイダー・カタストロフ」によって僅か一日で終結するのである。
そしてそこは現在、聖女派閥でありながら勝手に王を名乗るリューピンに占拠されており、リューピンの手勢と多数の浮浪者や孤児の住処となっていたのであった。
そこの王城の一室にて、男が4人、机を囲んでトランプに興じていた。
「よっしゃフルハウス!!、へへっ悪ぃなお頭、今日の巡回も頼んますわ!!」
「あーもーちっくしょう!!今日はツキに見放され過ぎだ、たまには勝たせろや!!」
「毎回ストレートフラッシュを狙うお頭が悪いっす、実はお頭がイカサマをする事を見越して、今回のトランプからは5、10の札を全部抜いときました、でもイカサマとかはしてないんで負けたのはお頭のせいっす」
「なんか上手くいかねぇとおもったらそういう事かよオイ、ちっ、ってオイオイオイ、よく見たら俺の手・・・」
「イカサマは無しっすよ、お頭、お頭がヤマからカード引き抜くとこ、見てたっす」
「あーもう分かったよ、ハイハイハイ、俺が行けばいいんだろ俺が、今日も今日とて警備の巡回、俺が行ってきますよ」
そう言ってお頭と呼ばれた男、リューピンは丸腰のまま帽子を被ると巡回の為に部屋を出ていく。
本来王都の警備や警衛などは騎士の役割だが、徴兵により全ての騎士がカルセランドに集結した事、そして革命の影響により治安が悪化した事を理由にリューピンが城下町の警備をしているが。
その巡回の目的は治安維持ではなく力を持て余したならず者のスカウトや、騎士勢力の横暴や反乱を防ぐ事が目的であり、基本的には人助けには関与しないものだった。
故にリューピンはツケの溜まっている居酒屋で飲み食いして地元の若者達と交流した後に、泥酔した状態で思い出したかのように巡回コースを馬に乗って歩いていく。
警備をしていると言ってもこれはあくまで見せかけだけのものであり、これはリューピンが王として民を守護しているという実績作りのものであるので、そもそも一人で王都を警備するというのが不可能である為に、リューピン自身にも責任意識は皆無だった。
暫く歩いた所でリューピンは絡まれている一人の女を発見した。
夜間に若い婦女が無防備に歩いていれば、路地裏に連れ込まれるのは予定調和された出来事だろう、リューピンは危機意識の低い女が悪いし、路地裏で一発やられた所で死ぬ訳でもないと思い見て見ぬふりをしようとしたが。
「あ、リューピン、私です、あなたの同志のアミスです、助けてください」
と、無視出来ぬ相手から名指しで声をかけられた為に仕方なく駆けつけたのであった。
「なんだぁ兄ちゃん、やんのか、ああん?」
「おえっ、ひっく、お前俺を知らないとかさてはモグリだな、俺を誰だと心得る、俺はこの国の王様だぞぉ」
「ははっ、寝言は寝て言えってんだ、王様が護衛も付けずにこんな所にいる訳が無いだろ、それに今は乱世、暴力が支配し、悪魔が微笑む時代だ、神様も王様もいねぇんだよ!!!」
男は泥酔して馬の背中にもたれかかっているだらしないリューピンの姿に油断し、真正面から愚直に殴りかかった。
それに対してリューピンはめんどくさそうに対応して躱す。
「ここに一つのナイフがあります」
「ってそれ、俺のナイフじゃねぇか!いつの間に!!」
「これを・・・はい消えました、ここにあなたの上着が・・・ズボンが・・・消えました」
リューピンは酔っている為にただただ面倒くさそうに『手品』を披露し、無慈悲に男の装備を剥ぎ取っては消した。
いつのまにか男は下着一枚を残して半裸になっていた、それは瞬きをする間に行われた事であり、男は狐に摘まれたように呆然としていた。
「さてここにサイフがあります、中身は・・・まぁまぁだな、これ、消してもいいかな?」
そこでリューピンは男に脅しをかけるように尋ねると、男は流石に半裸で素寒貧になるのは嫌だったのだろう、命乞いするようにリューピンに懇願した。
「俺が悪かった、謝る、だから返してくれ」
「しょうがないにゃあ・・・いいよ」
そう言ってリューピンは男にサイフを手渡すように男の手にサイフを置こうとする、そこで。
「──────────なーんちゃって、ほーら飛んでけぇ」
と、サイフを手渡した瞬間に無数の鳩が現れ、サイフを覆い隠した後にどこかへと飛び立っていく。
「な、くそっ、覚えてろよぉっ!!」
男は鳩を追いかけるようにしてその場を立ち去っていき、後にはリューピンと女だけが残された。
「相変わらず凶悪な催眠術ですね、何が手品で何が催眠術なのか、私にはさっぱりでした」
女の名前はアミス。
この世界において【勇者】、【魔王】に次ぐ存在である【聖女】のジョブに選ばれた、この世で最も重要な人物の一人である。
「それでアミスちゃんは護衛もつけずに何しにここに?、散々刺客送り込んどいて今更手打ちにしようって話か?、それとも騎士がいなくなって手薄になった王都を乗っ取り来たのか?」
「いえ、私は ・・・あなたとお話をしに来ました」
「話って何のだよ、言っとくが俺はもう王様になったんだ、この王都にいる人間も多くは俺を認めている、今更退位しろと言われても退かねぇかんな」
リューピンは酔っていたが故にアミスに対して無警戒だったが、それでもアミス以外の刺客の存在を警戒してアミスから距離を置いていた。
そんなリューピンの様子を見てアミスは、警戒を解こうとリューピンに近づいていく。
「心配しなくても私一人ですよ、ウーナは一緒に来てくれたのですが、名剣の匂いがすると言っていつの間にか消えてしまいました、オズとピーターは偵察でカルセランドに出張中です、なのでこの場で私の盾になってくれる人間は、あなたしかいません」
刺客を送ってき来たくせに未だに自分を同志とのたまうアミスの態度の図太さに辟易としつつも。
自分を真っ直ぐと見つめるアミスのその駆け引きを感じさせない曇りの無い瞳にリューピンはたじろぎ、渋々アミスの言葉を聞く姿勢を見せた。
「・・・ちっ、まぁいいや、馬に乗れよ、今は巡回中なんだ、暫く歩くから」
そう言ってリューピンはアミスのケツを押し上げて馬に乗せてやる。
それはアミスが運動能力に関しては著しくポンコツである事を知るリューピンの優しさだった。
それに対してアミスは上品に礼を言うと、二人は夜の街を並んで歩いた。
「・・・覚えてますかリューピン、私たちが初めて会った日の事を」
「いや全然、過去には縛られない主義だし、昔の女の事も引きずらないタイプだからな」
リューピンは欠伸をしながら答えるが、アミスは気にせず続ける。
「なら言って聞かせましょう、あれは2年前、私が【聖女】として活動したての頃に、とある悪徳貴族の屋敷にて、偶然同じ日に襲撃をかけた事がきっかけでした、あの時に私たちは出会い、そして苦しんでいる人々の為に共に戦う事を誓いあったのではありませんか。
私たちはあの日、悪徳貴族を討って得た戦利品を二分しました、共に戦った見返りとして私が奴隷として捕まっていた方たちを、あなたが財産を引き取ることになったのですね。
しかしあなたはその財産を私欲で独占する事無く、〝宴〟を開く事で数日で使い果たし、貧しい人々に分け与えていました。
その時に私は思ったのです、私たちは同じ未来に向かっていると、あなたは同志になれると確信したのです」
「俺はそんな風に思った事一度もないけどな、そもそも俺が王になる事に反対なんだろ?、だったらそれはもう既に決別したって事じゃんよ」
「・・・確かに、最初にあなたが王を名乗って騎士団派に喧嘩を売った時はとても悲しい気持ちになりました、でも今はそれが誤解だったと反省しています。
あの時、降伏した王国の地盤をそのまま騎士団が引き継いでいたならば、それは体制の頭を入れ替えるだけで革命した意義を失っていたでしょう。
しかしあなたが王となった事で、あなたは自身が王に即位した〝宴〟を開く事で王家が溜め込んだ財産を民に再分配し、そして自身が没落していく事で王権という権力そのものを衰退させて消滅させようという考えだった、その事に気づいた時は目が覚めるような思いでした。
自身が飢えても徴税したりせず、王自らが巡回や警備をする事で住民から僅かな寄付を貰って慎ましく暮らしていると聞きました、時には孤児と一緒に芸を披露して日銭を稼いだり、乞食までして・・・。
ここまでの王権の冒涜と尊厳破壊、これはあなたにしか出来ない事であり、今思えばあなたが王になる事こそ、私の理想を叶える最善だったのだと思います、つまり、私の一番の理解者であったあなたを私が否定する理由がありません、なので今度は私があなたを助ける為に、理解したいと思ってここに来ました」
「はははははは、ひっく、俺を理解したい?面白い事を言うな、ウーナの差し金か?、いいぜ面白そうだし少しだけ相手してやるよ。
あれは単純に学が無さ過ぎて王になって何すればいいか分かんなかっただけなんだがな、役人も皆逃げ出して行政も機能停止したし、それで取り敢えず税金をゼロにしたら商人は集まってきたが乞食も増えた、今は金持ち商人の援助で魔王軍が攻めてきた時の私兵や、賊が入り込まないようにする警備を請け負う事でなんとか食って言ってるようなギリギリの状況だ。
・・・おかげで今じゃ誰も俺を崇めねぇし敬わねぇ、結局人間が有難がってるのは権威や身分や能力じゃなく、金と権力なんだって思い知らされたぜ、税金をゼロにしても誰も感謝すらしてくれねぇもんな、こんなつまんない役割だって知ったら、冒涜したくもなるって話だぜ」
「・・・確かに、お金や権力は人を動かすのに最も簡単な〝力〟かもしれません、でも、それは人を幸せにする〝力〟ではありません、あなたの『手品』や私の『歌』のように、人の心に訴えるものこそ、未来までの人の心を打ち、大きな幸せを紡ぐ為に必要なものではありませんか」
「・・・ああ、俺もアミスちゃんの『歌』は好きだし、そういう笑えるもので世界を満たしたいという願望は俺にもある、でも、俺とアミスちゃんは根本的に相容れないんだ」
「・・・何故ですか?、この世を幸せで埋めつくしたい、その為にこの世に不幸な人がいるのが耐えられない、だから魔族を保護し、弱者に救いの手を差し伸べる、そんな我々の理想は同じなのではありませんか?」
「・・・そうだな、表面上は同じだし九十里先までは手を繋いで歩いて行ける道だろう、でもそこまでだ、俺とアミスちゃんの理想は根本的に違う、だからそこに行った時点でお互いが間違いに気づくんだよ」
「根本的に・・・?、一体何がダメなのでしょうか、私には理解出来ません。
私はンシャリ村に行ったウーナからあなたの生い立ちの話を聞きました、ンシャリ村の村長の家に生まれ、優遇されて生きてきて、そして魔族の妹と共に暮らしたと聞きました、私と同じです、優遇されて、負い目があって、守りたい人がいる、それのどこが違うというのですか」
「へぇ、あそこに行ったのか、ライアは元気してるかな・・・。
っと閑話休題、俺とアミスちゃんの違い、それは役者が違うのさ」
「役者が・・・?」
「そう、君の住む世界はきっと、子供にとっては理想的で苦しみの無い世界なんだろう、酒もタバコも麻薬も無くなれば、依存性で苦しむ人も、後遺症で苦しむ人もいない、浮気や不倫を禁止すれば、浮気や不倫で苦しむ人もいないというだけの、消去法の世界、でも、俺の求めるものは真逆なんだよ」
そう言ってリューピンは上着を脱いで上半身を露出させた。
「この腕の傷は初めてシャドウウルフにかまれた時の跡、この脇腹の奴は最初のメンヘラ彼女に刺された時の奴で、乳首のは弟にクワガタに挟まれた時の奴で、ケツの穴は妹に全力の浣腸をされた時からずっと切れ痔だ、博打の借金がバレて親父にぶん殴られた時に奥歯を折られたなぁ、他にも色々ある、切り傷も火傷も致命傷も色々と経験して今の俺があるんだ、何が言いたいかって言うと、俺の冒険はノンフィクションであり、理想とするものもノンフィクションだという事だ、そこがアミスちゃんと俺の理想の、決定的な違いなんだよ」
「・・・つまり、箱庭の中の小鳥に過ぎない私の、この世界の悲劇を全て消し去りたいという私の理想は、夢物語であり、叶わないものだから協力出来ない、そういう事ですか」
「いいや、もっと根本的な話さ、アミスちゃんはこの世界が悲劇に満ち溢れていてそれを無くすのが目的だが、俺は俺の世界が喜劇で満たされればそれでいいんだ、極端な話だが、無様に野垂れ死にしようと、理不尽に処刑されようと、笑いながら死ねるならそれは喜劇であり、救う必要の無いものだと俺は思ってるって事、この違いが俺とアミスちゃんが相容れない理由だよ」
「・・・何故、悲劇を無くしたい私と、喜劇で満たしたいあなたが共存出来ないのですか、本質は違えど、お互いに共存出来る価値観の筈です、私たちはお互いに押し付け合い強制するような価値観では無いのだから、ならば上手く共存出来る筈でしょう」
「だから、役者が違うんだよ、俺たちはさ、人間生きてれば大なり小なり傷を負って生きているんだ、傷を負って生きた人間だからこそ他人の欠点や汚点を許す事が出来る、でもアミスちゃんは両親を処刑し、汚職した貴族を世直しの名の下に粛清しているだろう、圧政は悪という正義の為に悪を許さない、それが俺と君の役者の違いだよ」
「・・・確かに、愛や平和を説いて民衆を率いる私が、その手段は武力や粛清に頼っている事が矛盾している事は理解してます・・・。
そして私が苦労を知らない箱入りの小娘であり、道理を語るのが烏滸がましいというのも分かります。
確かに私は未熟者です、ですが、より良い未来を目指すという気持ちが同じならば、互いに歩み寄り、理想へと向かっていけるのでは無いのですか?」
「歩み寄る、ね、・・・ならアミスちゃんは、俺と一緒にスラムの路地裏で寝て、腐りかけのパンを食べて、子供に笑われながら乞食をする事が出来るかい」
「・・・何故それをする必要があるのか分かりませんが、必要であるのならばやります」
「うい~ひっく、その答えがアミスちゃんという人間の本質で、俺とは根本的に違う所なんだよ。
・・・「必要ならばやる」たとえ路上に放置されたうんこだろうと、玉座の上に守られているうんこだろうと、それがたとえどれだけ滑稽で困難で無様で悲劇的な〝役割〟だろうと「必要ならばやる」、それが俺とアミスちゃんの〝役者〟の違いさ、俺は「やりたくない事は死んでもやらない」主義だからね。
・・・単刀直入に言うと、俺はアミスちゃんの事がつまらない、知れば知るほど興味を無くす、だからアミスちゃんと色んな事をヤリたいと思わないし、協力したくなるような興味がない、女としての興味なら変態のウーナの方がマシに思えるくらいにな」
「・・・つまり、私に女としての魅力が無いから、協力する見返りが無いと、そういう事、ですか・・・?」
「女としてじゃなくて人間として生理的に無理って話だな、俺は両刀使いだから男女で区別したりしねぇよ、面白い人間なら老若男女問わねぇし、ガキだろうがババアだろうがヤリたいと思ったら口説くさ、そういう話じゃなくて個性の話、不気味なんだ、言っちゃ悪いけど。
ええと、なんつーかさ、・・・人間のコミュニティの最小単位は家族だ、家族愛に恵まれて初めて他者愛や自己愛を獲得する、それなのに家族から愛されていた筈のアミスちゃんが両親を処刑し、その上で【聖女】として愛と平和を説いているという事、その様がとても歪で不気味に思えるんだ、ま、何でそうなのか分からない訳じゃないんだけどな。
ただ、ひとつ言えるのは、俺は〝道化〟で、アミスちゃんは〝人形〟だっていう事さ、サーカスと人形劇は食べ合わせが悪いだろ、だから共存は出来ないって話さ」
「人形・・・ですか」
「ひっく、あくまで持論だけどな、人間ってのは自由で無くなった時、拳を握る理由を他人に依存するようになった時に、人間として価値が無くなり、ただの歯車に変わるんだ、アミスちゃんは、自分の為に拳を振るった事はあるかい、両親を処刑したのは自分の為にやった事かい」
「いいえ・・・」
「これで分かっただろ、エゴの塊でその日暮らしに生きてる俺と、私欲が無くて〝完璧な聖女〟を演じてるアミスちゃん、ひょんなきっかけで協力する事になったけど、元々結ばれない運命なんだよ、だからごめんアミスちゃんの気持ちには応えられないんだ」
リューピンはそう言うと、馬ごとアミスを置いて王城に戻っていく。
その背中をアミスはぼんやりと眺めた。
「・・・つまらない人形」
それは潔癖なるアミスの体に刺さった唯一の 荊棘。
幼い日に姉が放った心無い一言だった、完全に忘れたと思っていた、しかし今その疼痛を思い出したのだ。
思案に耽ってその場に留まっていたアミスに、背後から一人の女が声をかけた。
「フラれてしまいましたね・・・、どうします、アミス様が命じるなら今すぐあの首持ち帰って来ますよ」
女の名はウーナ、聖女派四天王の1人にして、その実力は特級騎士に並ぶと評される実力者。
彼女はアミスらの背後から、リューピンに感知されないギリギリの距離を保って尾行していたのであった。
「フラれたみたいな空気出すのやめてください、私はそもそも口説いてなどいませんから」
「ですが交渉は決裂したのでしょう、ならば粛清するしか・・・。
それに折角私がリューピンを篭絡する勘所の情報を伝えたのにアミス様は人がいい、ンシャリ村や【勇者】の事を引き合いに出せば、リューピンと言えども放置出来なかった筈なのに」
ウーナは暗に人質を使えば良かったのにと主に苦言を呈した。
「それもリューピンの真意を確かめねば本末転倒でしょう、いえ、騎士団派の暴走を止める為には今日、彼の協力を取り付ける他無かったのですが」
「騎士団派と魔王軍が玉砕し、【魔王】は死没して【勇者】は隠遁、この展開は我々としてはこれ以上無い好機ですが、それなのにわざわざ騎士団派を阻止しようというお考えが?」
「敵対してるからとは言え、見捨てる理由は無いでしょう、私は騎士団が私を嫌う理由も、魔王軍が我々と戦う理由も理解してますから、だからそれらを解決出来れば歩み寄れるものでしょう、いえ、リューピンひとり説得出来ない私の言葉など、ただの夢物語に過ぎないものでしょうが」
「見たところロクな護衛もいないようですし、聖女派の全勢力を上げれば王城は5分で陥落しそうなもので話も早そうですが、まぁアミス様が遠回りをしたいというのであれば私もそれを応援しますよ」
ウーナは煮え切らない主の態度をそう皮肉るとアミスは申し訳なさそうに答える。
「・・・分かってます、そうこうしているうちにも前線では命が失われている、だからリューピンの首を手土産に和解するなら早くしろ、という事でしょう」
「いえ、私は前線で何人死のうとそれは自己責任なので気にとめませんが、ですが聖女派が援軍として参戦する機会を逸失するのは勿体ないと思っているだけです、折角新しい名剣を手に入れたのだから」
ウーナは超一級の変態、名剣名刀に触れる事と、それを担う強敵と見える事だけが全ての人でなしであった。
「・・・・・・」
アミスは部下達の奔放さ非常識さに頭を悩ませながらも、一刻も早い和解の為に更に頭を働かせるのだった。
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