【勇者】が働かない乱世で平和な異世界のお話

aruna

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第3章 カルセランド基地奪還作戦

第3話 軍人の東都 ドンキホテ市

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 王国と帝国の国境線に跨る山岳地帯。

 その中間に存在する谷間に作られた王国と帝国を繋ぐ街道上に存在するのがカルセランド基地であり、その街道を基地から西に30キロ歩いた地点に存在するのが軍人の都、ドンキホテ市だ。

 そしてそれは辺境のンシャリ村からは王国の端から端になる為に、直線距離で500キロ以上離れた場所にある僻地だった。

 俺は期日に遅れたものは死刑となると書かれた赤紙を持って、山あり谷ありの道中を昼夜歩き通しの強行軍をする事でなんとか期日までに徴兵の目的地であるドンキホテ市に辿り着いたのであった。

 ドンキホテ市は軍人を多く収容しており半ば駐屯地化している為に要塞都市としての一面もあり、城壁で囲まれた堅牢な出で立ちは腰を抜かしそうな程に壮観だった。

「・・・というか10日で500キロって、マラソン強者の俺以外じゃ間違いなく間に合わない無理ゲースケジュールだよな・・・」

 俺は【勇者】であるせいか、〝根性〟を試されるような競技に於いては人並以上に無理が利く体になっているが、訓練してない普通の人間に10日で500キロという毎日フルマラソンを超える距離を歩くという苦行をこなすのはキツいだろう。

 1日に50キロは時速5キロで10時間と考えればそれなりに余裕があるように思えるかもしれないが、だがこれを毎日するというのは精神的にキツいし、それに平地では無く山道や坂の上り下りもあるので足腰への負担もそれなりだ。
 それを毎日すれば必然として過剰な消費カロリーにより肉体は疲労で倦怠感に包まれるし、そして毎日宿に泊まれる訳でもないので寝れば回復するという訳でも無い。
 雨の日は最悪だった、7月の蒸し暑さは容赦なく体力を奪い取るし、それが嫌で日が昇る前の早朝に距離を稼ぐようにと早起きするハメになった訳だ。


 俺は全身の倦怠感や疲労を感じながらも、早く宿を取って寝ようと門番に通行証代わりの赤紙を見せて、ドンキホテ市の城壁の内側へと入ったのであった。



「ええと、案内によると先ずは中央にある行政府に行って、そこで軍人としての身分証明書を発行して貰う、か・・・、偽装ライセンスバレ無いかな?」

 軍人としての身分証明書が何か分からないが、だが【宣告】で示された【ジョブ】から何かしらの振り分けがなされる訳だろうし、だとすれば偽装ライセンスを看破する為に【プリースト】がそこの審査をする可能性はある。

 もし俺が【勇者】であるとバレたらどんな扱いを受けるかは未知数だが、だが何を頼まれたとしても俺に出来る事は些細な事なので、まぁ出たとこ勝負でいいかと俺は投げやり気味にこなす事にした。

 中央にある行政府は大きな城であり、そこには俺と同じように徴兵されたであろう多くの若者から老人までが長蛇の列を作っており、俺はそこの最後尾に並ぶ。

 他の人間は当然の如く同郷の人間同士で団体となっている中で俺は一人だったので完全に浮いていたが、まぁそれを咎められる事もなく暫くして順番が回ってきて、城内に案内される。


 俺は受付の中年の軍人に赤紙を渡し、案内を受けた。

「・・・令状には10人とあるが、他の者はどうした・・・?」

 当然の如く10人の徴兵に対して俺一人しか来なかった事をツッコまれるが、俺は予め用意しておいた演技で答えた。

「・・・それが、うっ、ここに来る途中にAランクモンスターであるキラービートルに襲われて・・・、っそれで俺以外は皆、キラービートルに殺されたんです、うわあああああああああああん」

 俺は泣きながら膝を着いて、とてつもない悲劇に見舞われた雰囲気を作り出す。

 その演技に心打たれたのか、時間を節約したかったのか、面接官らしき軍人もそれで納得してくれた。

「・・・むう、本来なら令状の不履行は死罪だが、まぁ今回は特例で許す事にしよう、それでお前、歳はいくつだ?」

「・・・15です」

 俺は宣告を受けていない体を貫こうと未成年で申告する。
 まぁ1歳くらいなら鯖を呼んでもバレないだろうと言う目論見だった。

「ならお前は施設回収課に配属だ、その識別タグを持って、指定された場所へ行け」

「施設回収課・・・」

 案内役の軍人に渡された黄色の識別タグを首にかけて、指示された座標へと向かう。

 施設回収課、名前からして恐らくゾンビ作戦の死体回収係の事なんだろうが、やはり歳が王国基準の未成年だから前線には出せないとかそういう話なのだろうか。

 まぁ正直俺の戦闘力なんて本当にタカが知れてるので、前線で戦う兵科じゃないだけマシだろう。



 俺が指示された座標である教会に行くと、施設回収課は予想通り未成年の少年兵が集まる職種であり、下は9歳くらいまでの子供ばかりが集められていた。

 赤紙には女子供問わずに10人の若者という条件だったが、それでも本当に未成年の少年少女が差し出されているのは世も末だと思わざるを得ないような話だ。

 俺はそこの案内係に説明を受けて、配属や任務の説明は夜に行うから、それまではここで自由にするようにと言われた。

 手持ち無沙汰になった俺は辺りを見渡すが、この施設回収課は少年兵の部隊だけあって今の所は16歳の俺が一番の年長者のようで、自分より年下ばかりなので積極的話しかけられそうな相手も少なかった。

 俺はこういう集団に於ける交友関係の構築は迅速に行うべきと親父からの教訓を受けていたので、話す内容を一度反芻してから、一番歳の近い人あたりの良さそうな少年に話しかける。

 向こうも会話相手を探していたのか、気さくな態度で応えてくれた。

「どうも、君も徴兵された人かな?、俺はライアだ」

「ああ、僕はベネット、よろしく」

「こちらこそよろしく、君は出身はどこ?、俺はマハーラージャ領のンシャリ村っていう西の端っこらへんから来たんだけど」

「へぇ、マハーラージャ領って言ったらここの反対側だね、結構長旅だったんじゃない?」

「まぁな、10日もかかったし、歩きだと大変過ぎて期日に間に合うかヒヤヒヤしたぜ」

「それは間に合って良かったね、僕の出身はケーニッヒ領のアルトアイゼン村で、三日でついたよ」

「えーと、アルトアイゼン村って鉱山で有名な所だっけ?」

「昔はね、今は採掘できる鉱物も無くなって過疎村って感じ、村から出せる若者も全然いないくらいにね」

「そっか、やっぱ村はどこもそんな感じなんだな、うちの村も・・・」

 そんな感じでベネットとは過疎村トークに花を咲かせて直ぐに打ち解ける事が出来た。
 やはり話を聞いた感じだとどの村も戦時の徴収で困窮しているようで、それ故に間引きに近い形で貧しい家の子供が徴兵に差し出されているようだ。

 そしてベネットは自分が戦争で活躍して戦争を終わらせて家族に楽をさせたいという善良な息子のお手本のような熱い志を持った、俺と正反対の男だった。

 ベネットと雑談しつつ続々と教会を訪問する他の少年兵たちを観察して時間を潰していると、程なくして夜となり、この部隊のおさとなるらしい若い女の軍人が整列するように呼び掛けた。
 この部隊の長というか、この場にいる軍人は彼女だけだったので、彼女は恐らくこの劣兵部隊の指揮という貧乏くじを引いた人間という事になるのだろう。


「整列、先ず、私が諸君らの指揮を取る事になる、オウカ・ヤマト軍曹だ、諸君らはこれから私の指揮で任務を行う事になる」



 オウカ軍曹は騎士階級の人間のようであり、襟の階級章とは別に、肩に騎士団のシンボルである女神と盾をあしらった徽章バッジを付けていた。

 そしてオウカ軍曹の迫力のある号令に他の子供達は萎縮し、不格好にも整列し背筋を伸ばしていた。

 俺は周りのそんな様子を傍目に、目をつけられないようにといやいやながらも背筋を伸ばして直立する。

「それでは先ず諸君らの班分けをさせて貰う、諸君らは戦地に於いてこの班を1個分隊として作戦に参加してもらう、4人一組だが既に班分けはこちらでさせて貰った、班を識別するタスキを渡すから名前を呼んだら前に出てこい」

 そう言ってオウカ軍曹は教会に30人ばかりいた少年少女達を8つの班に分けた。

 俺とベネットは年長者だから2人分働けると思われたのだろう、それぞれ3人組の班であり、俺は白のタスキ、ベネットは黒のタスキを渡された。

「作戦行動中はこの班で一つの天幕に寝泊まりしそして寝食を共にしてもらう、全ての行動は連帯責任となり、班員の命令違反や逃亡の罪は他の班員の連帯責任となる、故に各人、違反に注意して行動するように、説明は以上だ、質問はあるか」

 そこで一番の年少である幼げな少年が手を上げて質問した。

「レンタイセキニン?ってなんですか?」

「・・・班員の誰かが命令違反をしたら、その巻き添えで全員が罰を受けるという事だ、例えば班員の一人でも朝礼に遅れれば全員朝食抜き、班員の一人でも命令違反を行えば全員巻き添えで減給処分となる、任期満了金を満額で受け取りたければ班員一丸となって任務に励む事だな」

 質問した少年はありがとうございますと返事をしたが、その説明でもよく理解出来ていないようだった。
 どうやら少年兵の大半はロクな教育も受けていないようなはなたれ小僧ばかりなので理解力に乏しいのも仕方ないのだろうが、そんな子供が戦地に送られてくるというのがますますこの戦争の悲惨さを物語っていた。

「他に質問のあるものはいるか・・・、ではこれより作戦行動の指示を行う、明日0700マルナナマルマルより朝礼、その後朝食を摂ったのちに物資の受領をしに行く、そして物資の受領を終えた後に速やかにベースキャンプへと向かう、以降現地で天幕を組み立てて野営の準備をし、必要であれば他の部隊の施設建築の手助けをする事になるが、それは現地にて指示する、以上だ、これより夕食を摂った後に休養時間とし、2100に消灯するので今日はここで寝るように、以上だ」

 オウカ軍曹が「解散」と言って敬礼すると、皆反射的に不慣れな敬礼を返してそれで整列を解いた。

 取り敢えず俺は同じ班に振り分けられた二人の班員と挨拶をしてみる事にした。



「ええと、白タスキ班で一番年上なのは俺みたいだな、俺はライアだ、二人とも、オウカ軍曹の説明で分からない事は無かったか?」

 俺の班員は俺がこの集団で年長者側というのもあってか、見るからに劣兵側のガキ二人を押し付けられていた。
 その事に文句がある訳では無いが、社会経験皆無のガキがいきなり戦場に放り込まれて何が出来る訳でも無いと思うので、取り敢えず俺がフォローしなくてはこの班は回らないという話だ。

 俺の質問にクロと同い年くらいの少年とクロより幼なそうな少女がそれぞれ答えた。

「俺はレオス、説明は・・・あれだろ、とりあえず敵をぶっ殺せばいいんだろ、そんでいっぱい敵を倒せばいっぱい勲章が貰えて貴族になれるんだろ、余裕だぜ」

「拙者はハヤテでごじゃる、説明はよく分から無かったからむつかしい事はライア殿に任せるでごじゃる、拙者はご飯が食べれればそれで満足でごじゃるから」

「・・・・・・はぁ」

 見た感じ二人ともポンコツっぽい雰囲気だったので俺はこの時点で恐怖政治を敷く事を決意し、こいつらが馬鹿な特攻で命を無駄にしないように手綱を握る事をこの瞬間に誓ったのであった。
 俺は早速クロの相手で培われたクソガキ相手のコントロール方法その1、損得感情で従わせるを実行する。

「・・・どうやら二人とも勘違いしているようだな、戦争は子供の遊びじゃないんだよ、半端な覚悟なら死ぬぞ、言っておくが俺に逆らって命令違反をして俺に迷惑かけた時は、仮にお前らが死にそうになっても俺は助けないからな、だから死にたくなかったら俺の言葉に従え、勝手な行動はするな、でなければ、・・・死ぬぞ」

 と、俺は死線を2度くぐり抜けた(死んでいるが)本気の目で二人の肩を掴んで圧をかける。
 その手は年上の力で強めに握って相手を威圧し、逆らったらシバくぞと言外に告げた。

 その言葉は嘘であって嘘では無い事を理解したのか、その真偽は分からないが二人とも元気よく頷いたので、俺は満足して手を離した。

 その後、教会のシスターさんが作ったらしいシチューとパンの夕食を摂った後に、教会から貸し出された洗濯したての毛布で教会の椅子や床に皆で雑魚寝してその日を終えた。
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