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第2章 〇い〇く〇りん〇ックス
幕間 終焉、少年時代の終わり
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俺は、夢を見ていた。
それは懐かしい夢だった。
家にひとりぼっちで、一人で絵本を読んだり、親父のコレクションだった音楽を奏でる魔道具で遊んだりするだけだった俺の退屈で閉じ籠もった日々に、妹という他人が割り込んで来た。
妹という話し相手が出来て俺は沢山言葉を話すようになり、作り話をするようになり、嘘をつくようになった。
妹は俺の言う事になんでも頷いて、喜んでくれた、それが嬉しくて、俺は妹ともっともっと沢山話すようになった。
でも、妹が出来てから、父さんと母さんの俺に対する態度は変わった。
今まで優しかったのに、俺を変な子だと叱りつけるようになり、外に出て遊ぶようにと家から追い出すようになった。
俺は一人で村を歩き回り、そして、その時に従兄弟叔父であるリューピン、普段は村から邪魔者扱いされている稀代の変人と出会ったのだ。
そして俺はライムを殺して、罪悪感からクロを拾い、そしてリューピンは俺とクロを可愛がってくれて、俺はライムの事を忘れて生きてきた。
俺は自分を肯定していた、他人なんてどうなってもいいと言葉にして生きていた、でも、ライムの記憶だけは、死んでも忘れる事は出来ないのだろう。
こうして死の淵に立った時、ライムは必ず俺の前に出てくるのだから。
「兄さん、調子はいかがですか?」
「・・・どうだろうな、意外と悪くないけど、そこまで良くもないというか、いい事と悪い事が半々になったような、微妙な気分だ」
「でしょうね、だって兄さんは、いい事と悪いこと、半々しかしていませんから、因果報応に報われるなら、兄さんが完全無欠のハッピーエンドに至るなんて無理な話ですよ」
「・・・どうせ俺は元々悪人だよ、だって、他人を切り捨てる事に、犠牲を生み出す事に、俺は肯定して生きているんだから」
「全ての人間は救えない、それは道理です、それを成し遂げる事なんて、神様にも出来ません、でも、兄さんは救う人間を選べる立場じゃないですか、兄さんが救いたいクズとは、本当に兄さんと同じ、人の事をなんとも思わないクズなんですか?」
「・・・だって、この世がクズでいっぱいでないと、世の中が善人ばかりだと、胸を張ってお天道様の下を歩けないだろ、・・・だから俺がなるんだ、世界最低の勇者に、世界で一番クズなヤツに、それでしか救われない人間がいて、そうする事で救われる俺がいる、だからそれは俺が本当にしたい事なんだ」
「・・・本当にしたい事、兄さんが本当にしたい事は、本当にこの世をクズだらけのクズの楽園にする事なんですか、獣と同じ無法が蔓延る、親も子も等しく殺されるような澆薄の世界、末法の世、純粋な力のみが成立させる真実の世界、そんなものが兄さんの望みなんですか」
「・・・そりゃあ俺だって、自分の過去を帳消しにして、この世から悲劇の全てを無くせるならそっちの方がいい、・・・でも、それは無理なんだ、人間が人間である以上、誰かを犠牲にする必要はあるし、他人を傷つけてしまうものなんだ、だから、同じ地獄なら、自分にとって都合がいい地獄の方を選ぶのは当然だろ」
「でも、そんな兄さんの願いは嘘じゃないですか、自分の、本当の心に従って生きないと、果たしてそれは自分の人生を生きたと言えるのでしょうか、自分の運命という役割に従っているだけなのでは無いですか?」
「それは・・・」
「私は、本当の兄さんを知っています、兄さんは本当は、誰よりも平和を愛する優しくて素晴らしい兄さんなんだって私は知っています、だから兄さん、兄さんは、自分の心に従い、兄さんの本当にしたい事をしてください、私の願いは、それだけです・・・」
そう言ってライムは消えてゆく。
ライアが長年背負った十字架を引き連れて。
その時ライアは、自分の中に幾重にも折り重なった嘘という楔から解き放たれて、本当の自由な心を取り戻したのだった。
それは懐かしい夢だった。
家にひとりぼっちで、一人で絵本を読んだり、親父のコレクションだった音楽を奏でる魔道具で遊んだりするだけだった俺の退屈で閉じ籠もった日々に、妹という他人が割り込んで来た。
妹という話し相手が出来て俺は沢山言葉を話すようになり、作り話をするようになり、嘘をつくようになった。
妹は俺の言う事になんでも頷いて、喜んでくれた、それが嬉しくて、俺は妹ともっともっと沢山話すようになった。
でも、妹が出来てから、父さんと母さんの俺に対する態度は変わった。
今まで優しかったのに、俺を変な子だと叱りつけるようになり、外に出て遊ぶようにと家から追い出すようになった。
俺は一人で村を歩き回り、そして、その時に従兄弟叔父であるリューピン、普段は村から邪魔者扱いされている稀代の変人と出会ったのだ。
そして俺はライムを殺して、罪悪感からクロを拾い、そしてリューピンは俺とクロを可愛がってくれて、俺はライムの事を忘れて生きてきた。
俺は自分を肯定していた、他人なんてどうなってもいいと言葉にして生きていた、でも、ライムの記憶だけは、死んでも忘れる事は出来ないのだろう。
こうして死の淵に立った時、ライムは必ず俺の前に出てくるのだから。
「兄さん、調子はいかがですか?」
「・・・どうだろうな、意外と悪くないけど、そこまで良くもないというか、いい事と悪い事が半々になったような、微妙な気分だ」
「でしょうね、だって兄さんは、いい事と悪いこと、半々しかしていませんから、因果報応に報われるなら、兄さんが完全無欠のハッピーエンドに至るなんて無理な話ですよ」
「・・・どうせ俺は元々悪人だよ、だって、他人を切り捨てる事に、犠牲を生み出す事に、俺は肯定して生きているんだから」
「全ての人間は救えない、それは道理です、それを成し遂げる事なんて、神様にも出来ません、でも、兄さんは救う人間を選べる立場じゃないですか、兄さんが救いたいクズとは、本当に兄さんと同じ、人の事をなんとも思わないクズなんですか?」
「・・・だって、この世がクズでいっぱいでないと、世の中が善人ばかりだと、胸を張ってお天道様の下を歩けないだろ、・・・だから俺がなるんだ、世界最低の勇者に、世界で一番クズなヤツに、それでしか救われない人間がいて、そうする事で救われる俺がいる、だからそれは俺が本当にしたい事なんだ」
「・・・本当にしたい事、兄さんが本当にしたい事は、本当にこの世をクズだらけのクズの楽園にする事なんですか、獣と同じ無法が蔓延る、親も子も等しく殺されるような澆薄の世界、末法の世、純粋な力のみが成立させる真実の世界、そんなものが兄さんの望みなんですか」
「・・・そりゃあ俺だって、自分の過去を帳消しにして、この世から悲劇の全てを無くせるならそっちの方がいい、・・・でも、それは無理なんだ、人間が人間である以上、誰かを犠牲にする必要はあるし、他人を傷つけてしまうものなんだ、だから、同じ地獄なら、自分にとって都合がいい地獄の方を選ぶのは当然だろ」
「でも、そんな兄さんの願いは嘘じゃないですか、自分の、本当の心に従って生きないと、果たしてそれは自分の人生を生きたと言えるのでしょうか、自分の運命という役割に従っているだけなのでは無いですか?」
「それは・・・」
「私は、本当の兄さんを知っています、兄さんは本当は、誰よりも平和を愛する優しくて素晴らしい兄さんなんだって私は知っています、だから兄さん、兄さんは、自分の心に従い、兄さんの本当にしたい事をしてください、私の願いは、それだけです・・・」
そう言ってライムは消えてゆく。
ライアが長年背負った十字架を引き連れて。
その時ライアは、自分の中に幾重にも折り重なった嘘という楔から解き放たれて、本当の自由な心を取り戻したのだった。
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