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第2章 〇い〇く〇りん〇ックス
第12話 最低トーナメント 一回戦
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「ええ、続きましては決勝トーナメントになります、トーナメント表はくじで決定しますが、優勝予想くじの方の締切は組み合わせ決定前に行いますのでお早めに購入ください、なお、前回の大番狂わせによりオッズは今回に限り、誰に賭けても3倍の超超超激甘仕様となっておりますので、本命と対抗に2枚がけする事も可能となっておりますので、どうぞ奮って参加ください」
「むぅ、予選は負けちゃったけど、決勝では負けないのん、ライアの事、ボコボコにしてやるのん、プロメテウスの仇、絶対取るのん」
「・・・いや、先ず、俺が俺の仇を取らせて欲しいんだが、お前、俺を殺した事を忘れてないか?」
「ライアは死んでも生き返るのん、でもプロメテウスは死んだら生き返らないのん、しかもフエメから聞いたのん、プロメテウスは元々フエメの物で、捨てるようにライアに渡したものだったのん、ライアのものじゃなかったのん、それなのにそれでクロを脅すなんて、ライアは最低のクズなのん、根性叩き直す為にもう一度地獄に送ってやるのん」
「・・・・・・はぁ、そっか、じゃあクロにはもう一度絶望を味わってもらう事になるけど、ま、それも仕方ねェな!、言っても聞かない訳だし」
「ふ、ふん、今更ライアが何しようともクロには効かないのん、クロの欲しい物は全部フエメが買ってくれるのん、だからライアが何しようとクロが動じる事は無いのん」
「ま、今のうちに好きなだけ余裕ぶっとけ、どうせ本番で泣くのはお前なんだからな、・・・いやそもそも幼女に、トーナメントを勝ち抜くのは無理か、決勝まで来れたら、相手してやるよ」
俺は三下っぽいセリフを吐いて予想くじの列に並んで、またまた自分に10万だけ賭ける。
予選の賞金で100万の勝ちではあるものの、この大会の為に俺が使った費用は100万を超えるのでまだ赤字。
出来ることならトーナメントも勝ち抜いて、ここでも番狂わせを起こして親父にボーナスを貰いたい所だ。
トーナメントの開始までに手持ち無沙汰になった俺は、暇つぶしにメリーさんの所にでも行こうかと思ったら、その道中で知らない男に肩をぶつけられた。
わざとぶつかって来たのは分かっていたが、面倒事も嫌だったので適当に「すみません」とやり過ごそうとしたら、向こうの方から絡んできた。
「よぉバカ息子、予選一位抜けしたんだって?、凄いじゃないか、ま、どうせ魔族のガキをお得意の詐術で上手く利用しての事なんだろうが」
「なんだこいつ・・・」
知らない男にいきなり喧嘩を吹っかけられる理由はそれなりに心当たりがあるが、博打でスった腹いせに絡まれているのだろうか、だとしてもそれは自己責任だと言いたいが。
「ふ、俺の名はレンフォー・アラフォード、サマーディ村のアラフォード家の御曹司だ」
「ああ、あの大地主の、・・・確か酪農と製乳が主な家業で、地元民からは「乳汁王子」と呼ばれてるんだっけか?、大丈夫かお前、フエメに貢ぎ過ぎて心に余裕無くなってないか?」
サマーディ村の独身男は殆どがフエメの信者であり、勝手に貢ぐように調教されている。
俺はそれを近くで目の当たりにしているからよく知っていた。
「貴様、フエメ様を呼び捨てに・・・!、ゆるさん!!、それと誰が乳汁王子だ、俺は牛乳王子だ、最近では酪農だけでなく軍馬の生産まで請け負っているし金には苦労していない、俺は貴様に一つ、言っておきたい事がある・・・!」
「なんだよ乳汁王子」
「俺は、フエメ様に集る貴様を許さない、よって、決闘を申し込む、俺が勝ったら貴様は村から消え失せて、二度とフエメ様の前に顔を見せるな!」
「はぁ、男の嫉妬かよ~、見苦しいにも程があるだろ、自分がフエメからてんで相手にされないからってさぁ、そもそも文句あるならテメェが黒龍と戦って撃退すれば良かったんだよ、何もしないで金だけ巻き上げられてる憐れなカモが嫉妬で逆恨みするとか、男として情けないとか思わないのか?」
「はっ、黒龍だと?、笑わせてくれる、どうせそれも詐欺師お得意の大ボラだろ、ただの人間風情がどうやって黒龍に立ち向かえる?、どうやったら黒龍が人間の言葉に従う?、そんな事は有り得ない、お前が黒龍を撃退した事など、村人は誰も信じちゃいない、フエメ様は騙されているだけだ、だから俺が貴様を決闘で完膚無きまでに打ちのめして、フエメ様の目を覚まさせてやる・・・!」
「・・・そうかい、ま、心意気は買ってやるぜ、俺はお前みたいな馬鹿は、嫌いじゃないからな・・・!」
「くくく、俺はこの日の為に力を蓄えて来たんだ、決勝トーナメント、俺と当たるまで負けるなよ、まぁどうせ、出来レで幼女を相手にして勝ちを拾うんだろうが、最後に勝つのは俺だ、村の最強の男が誰かを教えてやる・・・!」
どうやら乳汁王子は自分の目で見たものしか信じられない典型的な現場主義者らしい。
このトーナメント最強の存在が幼女である事にも気づいてないようだった。
普通に考えて、オッズやら序盤の爆走やらで気づけるもんだと思うが、まぁ乳汁王子は自分の考えが絶対だと思うような偏見タイプなんだろうな。
こうして俺は、村長に工作を頼み、一回戦の相手を乳汁王子と組ませてもらうように工作した。
「勝者、ウチのバカ息子のライア!!!、開始3秒で臭い玉を使い、レンフォー選手を秒殺です!!!、これはどう見ても禁じ手ですが、大丈夫なのでしょうか、村長!」
「うむ、この戦いに反則という概念は無い、最後に立っていたものこそ勝者、これは油断したレンフォーが招いた落ち度であるとも言える、故に、勝者、ライア!!」
村長がそういうと俺にブーイングをしながら石を投げつける観客や「死ね」と罵る乳汁王子のファンらしき女たちが騒ぐが、俺はそれらを無視して控え室に戻った。
気絶した乳汁王子は消臭と除菌魔法を受けて医療班に運ばれて行ったが、臭い玉の直撃を受けて悪臭を放つレンフォーに近寄るものはおらず、会場の端っこの方に密閉されて放置された。
「続きまして、第2回戦、うちのバカ亭主のペテンスト・ノストラダムス対、飛び入り参加の冒険者、スザク・コバヤシ選手です」
「おいおい、バカ亭主は無いだろ、ま、ウチのバカ息子のバカな戦いぶり見たら、そう言いたくなるのも分かるけどよう」
ちなみに今回、予選レースがトラップの危険度を大きく下げた影響により、三英傑で勝ち上がったのは【詐欺師】の親父と【当たり屋】のダイナモだけであり、【覗き魔】のトムタクは途中で親父たちのサポートに回ってなんとか親父たちをアシストしてゴールさせたらしい。
順路を通った一般人同士の争いは熾烈を極めたらしく、その中でもスザク選手は人間の中では抜きん出た実力を示していたらしい。
親父たちがBランク相当の実力がある事からも、それを上回るスザク選手はAランク相当の実力がある事が予想された。
この戦いの勝者が、次の俺の対戦相手になるので、是非とも親父には勝って貰いたい所ではあるが、それは流石に高望みが過ぎるか、せめて少しでも消耗させて俺にアシストしてもらいたい所だが。
「あんちゃん、先に言っとくぜ、この勝負、勝敗は一瞬で決まる」
「達人同士の戦いは、と言う奴ですか、それとも、貴方も何か小細工を、どちらにせよ、望む所です」
スザク選手は予選前に俺に話しかけてきた優男だったが、見た目通りの好青年らしい、小細工ごとねじ伏せようという気持ちのいい気概で親父に応えた。
「では両者構えて、勝負…はじめ!!」
「参った、俺の負けだ」
「って親父いいいいいいい!、何いきなり降参してんだテメェ!!」
俺はスザク選手の実力の一片すら見させずに降参した親父に詰め寄った。
「いやだって、聞いたら俺に賭けてる奴一人もいないみたいだし、ガチで戦うような歳でも無いしなぁ、クロっちや他のやつ相手なら名勝負を見せてやる自信があるが、こんな強そうなやつ相手に出来るほど俺も若くねぇんだよ」
「おいおい、だからって初手降参は無いだろ、少しは息子にアシストしてやろうって親心は無いのかよ、ちょっとでも消耗させてくれるだけいいんだよ、なんで戦いもしねぇんだよ、徴兵されるかもしれない息子に対して少しくらい手助けしてやろうって気持ちはねぇのかよ!!」
「・・・・・・ねェな!!、お前は失敗作だし、お前が徴兵でいなくなったら丁度いいし二人目こさえるわ!、二人目は女の子がいいな、クロっちみたいな元気な女の子がいれば、日々の仕事もハリが出るってもんだ」
「・・・そうかよ、クソ親父、俺が村長になっても、親父にはびた一文やらないからな!!」
なんて息子不幸な親父なんだと俺は憤るが、実際誰も親父には賭けていなかったのだろう、俺の時とは違いブーイングは無かった。
「えーそれでは第3試合を始めますので、関係ない人達は退場してください、あと私はまたこんなバカ息子の面倒みるのも嫌だし、男の子が産まれたら一人で面倒みてね」
お袋がそう言うと会場から失笑や冷笑のような冷めた笑いが漏れて俺たち親子はバカにされるが、俺は怒りに燃える闘志を静かに力に変えて、なんとしてでも優勝して村長になってやると、改めて心に誓うのであった。
「では第3試合、ダイナモ・リーヴス選手対シェーン選手、この大会には角が生えた人達が混じっていますが、全部コスプレですので悪しからず、節分の鬼のようなものだと思ってください」
母さんの司会によりダイナモとシェーンが闘技場の上に登場する。
ダイナモは親父と歳の近い中年だが、【当たり屋】のジョブだけあって、その体当たりは岩をも砕く威力をもつ大男だった。
シェーンがこの茶番に参加するのは意外だが、まぁ、クロやミュトスが参加している事だし、いくさ人の血が騒ぐという感じだろうか、ちなみに、シェーン、クロ、ミュトスは、俺と反対方向の死のブロックになるように工作して対戦表は組まれている。
「へへ、嬢ちゃん、一つ言っておくことがある」
ダイナモは丸太のように太い指をした拳をポキポキと鳴らしながら、シェーンを威嚇していた。
どうやらシェーンが黒龍と正面から殴り合ったSランク級の実力者と知った上でも、闘る気のようだ。
「なンだおっさん」
シェーンは興味は無さそうだが、殺気も出さずに穏やかな調子だ、流石に人里で2週間も暮らして村に馴染んだのだろうか、当初のような毒気は抜かれていたのが伺えた。
「この勝負・・・一瞬で決まるぜ、覚悟しろ姉ちゃん・・・!!」
「あー、降参するなら早くしてくれますか、ちなみにダイナモ選手に賭けている人間もゼロなので、何も問題ありません、後ろも押してるので降参するならパパっと降参してください」
と、誰もが予想された天丼ネタは、母さんが先読みした事により日の目を浴びる事も無く、ダイナモのおっさんは小声で「あっはい、降参します・・・」と大男に似合わない態度で退場して言った。
それを隣で見ていた親父が呟いた。
「マズイぞライア」
「?、何がだよ、別にこんな勝負、勝敗は最初から分かっていた事だろ」
「いや、だが今回のオッズは誰にかけても3倍、そして今、優勝しても還元が0の目が二つ無くなった、シェーンの姉ちゃんはクロっちとミュトス様と比べればまだレートは低いものの、このままでは破産する可能性がある」
「・・・いや、そりゃオッズこ3倍にしたら魔族の誰かにかけるだけでほぼ還元されるし、てかそもそも皆クロかミュトスの二択だって分かってるだろ、予選だって実際圧倒してた訳だし」
「まぁな、だから初戦で潰し合ってもらう訳だが、だが、今年の大会はサマーディ村と合同になったせいかな、賢い奴らが増えたせいで、普通は俺らで内輪でやるからはずれくじも増えるし、大会も白熱して盛り上がるんだが、サマーディ村の賢い奴らが投資的に大金をクロっちとミュトス様に賭けているせいで、クロっちとミュトス様のBETがとんでもない事になってる、つまり、クロっちとミュトス様のどちらかが勝った場合・・・ンシャリ村は破産する!!」
「ちょっ、まじかよ、じゃあなんで青天井で決勝トーナメントのくじを販売したんだよ、こっちも10万上限にして、適当に還元しとけば丁度良かっただろ」
「いや、それでも俺は、お前なら優勝出来ると信じている、悪ぃなライア、何の手助けも出来ねェが、それでも黒龍を撃退したお前なら、何か奇跡を起こせるんじゃねェかって、俺と村長はそう思ったんだ、考えてみろライア、お前がもし優勝したら、村長になって大金が手に入るし、逆に負けても徴兵される訳だしノーダメージだ、つまりこれは、村長になるお前に対する俺たちの親心なんだよ」
「いや、何が親心だよ、そんな欲に塗れた博打をする前に、少しでも俺に貢献するように戦ってくれよ、結局俺、初見であの強そうな冒険者と、その後にSランク級に強い奴らと戦わなきゃならねぇんだよ、せめてそこを他人任せじゃなくて必勝法とか考えてくれよ!!」
「ま、どうせお前はいざとなったら夜逃げするんだし、別にいいじゃねェか、ダメで元々、勝ったら万々歳、どうせやるなら、アガりは少しでもデカい方がいい」
「計画性無さすぎだろ、いや、それがこの村の習性というか特色だからしょうがないけどさ・・・」
伸るか反るかの大勝負、そういう物に心惹かれるからこそンシャリ村は武闘派であり、貧しいんだろうなと俺はため息をついた。
でもまぁ確かに親父の言う通り、勝たなければ徴兵されて俺には関係ない話になる訳だし、それなら少しでもアガりがデカい方がいいか、俺が勝ったら大金が手に入って、負けたらクロに村長を任せて借金を押し付けるみたいな事も出来る訳だし。
緻密に計算された杜撰な計画だが、胆大心小という言葉もある、大胆さと繊細を併せ持ってこそ、大きな成果を得られるのかもしれない。
「では第4回戦、これは事実上の決勝戦になるでしょう、大本命の二人の対戦です、初戦で本命二人が当たるなんて運命の神様は残酷ですね(棒読み)、では本日最注目のカード、クローディア選手対ミュトス選手、どうぞ入場ください」
そこで会場は今日一番の盛り上がりを見せた。
博打も好きだが、ンシャリ村の住人は何よりもバトルが好きなのだ。
故に、茶番のような戦いを3回も見せられた後に、この二人ならすごい戦いを見せてくれるのでは無いかと観客の期待は高まっていたし、実際、二人の戦いは村の歴史に残る程に壮絶なものとなった。
「ふ、一丁揉んでやろう、童よ、先達として魔王の頂に立った者の力を見せてやる」
「わっぱじゃないのんクロなのん、ミュトスはシェーンよりもウーナよりもすごい闘気を放ってるのん、クロも最初から全開でいくのん」
そう言ってクロは自身に何かしらのバフをかけたのだろう、全身から闘気を漲らせて、構えを取る。
「ふ、面白い、余の力、童にどれだけ受け止められるかな・・・!」
ミュトスも余裕の笑みを浮かべながら構えをとる、クロが大号令+αのバフをかけてるのに対して、ヒラの状態で戦うつもりらしい。
流石にここはミュトスが勝つのだろうが、決勝で戦いたい相手は俺にとってはクロなので、せめてクロには少しでもミュトスを消耗させて欲しい所だった。
会場はこれ以上ない緊張に包まれる。
「勝負・・・はじめ!!」
静寂を切り裂くように両者開始の合図と同時に激突する。
突き合わせた拳の余波は突風となり衝撃となって周囲を圧倒した。
パワースピード手数、強化のついたクロは全てにおいてミュトスを上回っていたが、戦闘経験の差が段違いなのだろう、ミュトスは余裕の笑みでそれらを捌き、的確に反撃をしてクロを弾き返す。
しかしクロも格上相手の戦い方を心得ているのだろう、ジャブなどのフェイントや足払いなどの奇襲を手数に組み込む事により、ミュトスの虚をついて、僅かでもダメージを返していく。
その一連の動きは人智を超越していて、観客は完全なる沈黙の中で二人の戦いを見守る
そして何分経っただろう、一連のラッシュにより息が上がったのか、クロが一度距離を取って、ミュトスはそれを追撃せずに、一息つく事になった。
そこで観客が沸いた。
当たり前だ、こんな見世物、金払っても惜しくないくらいに熱狂するし、見応えがあった。
八百長プロレスばかり見ていた村人にとっては、その戦いは今までにない鮮烈な感動を感じさせたに違いないのだから。
ガキどもは当然として中年ですらその衝撃に感動を抑えられずに「すげー」と拍手で称える程なのだから。
「はぁはぁはぁ、全然、歯が立たないのん」
クロは全力で息をつく暇も無かったのだろう、呼吸は乱れて全身も汗まみれになるほどに消耗している。
黒龍と正面から殴り合ったクロの本気でこれなのだとしたら、もしかしたらミュトスは黒龍と互角の実力があってもおかしくないと、俺は一人、自分が封印を解いた魔神のヤバさについて後悔の念を感じずにはいられなかったが。
「ふむ、どうやらレベルが大分下がっておるようだな・・・まぁ200年も寝ていた訳だし、衰えるのも当然か、童よ、準備運動はこれくらいにして、剣を持つがよい、童は剣士であろう、素手の童に勝ったとしても余は誇るどころか恥となるだろう、だから、次は本気で来るがよい」
そう言うミュトスは余裕の表情でクロに武器を取るように促した。
クロもプライドとしては素手で戦いたかったのだろうが、ミュトスには敵わない事を理解してか、背中に担いでいた刀を抜刀する。
「ほう、奇っ怪だな、妖刀とは、幾百、いや、幾千幾万の血を吸った怨念のようなものが刀気に宿っておる、面白い、休憩は十分か?、いつでも来い」
「・・・・・・ふぅ、こうなったら手加減は出来ないのん、本気でいくのん・・・ッ!!」
「こ、これは覇王色か・・・!?」
妖刀を持ったクロの殺気は凄まじく俺は思わず唸った、クロはAランク以上の化け物が放つ様な背筋が凍りつくような強烈なプレッシャーを放って周囲に威圧感を与える。
そしてクロは、残像が見えるほどに揺らめいた幽玄な動きで、音もなく間合いを詰めてミュトスに肉薄した。
「──────────疾」
迷いも忖度も無い、ミュトスの首を狙った必殺の一撃、妖刀の殺意100%で放たれた通常攻撃にして必殺技となったその究極の一撃が、無慈悲にミュトスに襲いかかる。
その瞬間ミュトスも油断していたのだろう、初めて余裕の表情を崩して緊張感を見せた。
「くっ・・・」
ガキンと、重厚な金属音が響く。
ミュトスは間一髪、己の角を刀と合わせる事によって首の切断を防いだが、だが、妖刀に取り憑かれたクロは、それで怯むことも無く、そのまま攻勢へと転じる。
ミュトスは角でクロの攻撃を繰り返し捌くが、間合いの差もあり、角で受け止めれば必然としてミュトスは押され、闘技場の際まで追い詰められた。
そこで妖刀は勝ちを確信したのだろう、奥義で確実に仕留めるという意気込みを込めて、初めて大きく振りかぶり、ミュトスに袈裟に斬り掛かる。
角ごと全て断ち切らんという圧倒的な殺意で、クロはミュトスに激突する。
万事休す、誰もがそう思った。
だが、ミュトスは、その瞬間にも笑ったのだ。
ガキン、と、再び金属音が鳴り響く。
見れば今度はミュトスは、巨大な剣を持ってクロの斬撃を受け止めていた。
「見事だ童、いや、クローディアよ、主は余と対等に戦うに相応しい相手だ、よって、余も、主を認め、少し本気を出そうか」
そこで俺は思い出した、ミュトスが初めて現れた時にユリシーズを狙った攻撃、あれは確かに大型のバスターソードだったと。
つまりミュトスも元々剣士だったという訳だ。
魔力で形成された魔法剣であるが故に、実体剣と違い使用時間に制限はあるが、ミュトスは自身の身長よりもデカい剣を軽々と振り回し、一転攻勢へと転じた。
クロの動きが幽玄を極めた往年の人斬りの技であるのと対照的に、ミュトスの動きは大剣をただぶん回すというだけの雑なものなのだが、それを低身長で身長よりも大きい剣を自在に振り回すという矛盾により、間合いを詰める事も適わず、攻撃が最大の防御というような合理性で、最大の剣は最大の盾とでもいうように力の暴力でクロを追い詰める。
スピードではクロに分があるかと思われたが、ミュトスは剣の重さなど感じさせないように自在に振り回す為に、実際の移動量はクロの方が多いのに、ミュトスはそれに拮抗する手数を剣を振り回して生み出していた。
それによりクロは完全にミュトスに押し込まれる形となって、己の間合いにすら入れずに防戦一方となっていた。
「殺意全開のクロと戦うのもきついと思ったが、ミュトスの全力も無理ゲー過ぎる・・・っ、あーあ、都合よく共倒れとかしてくれねぇかな・・・」
魔王対魔神の戦い、それは黒龍と神狼の大怪獣バトルと同じで俺には入り込む余地の無い遥かなる高みの戦い。
改めて俺は、下手をしたらこいつらに命を狙われるかもしれない【勇者】という肩書きがいかに重いかを思い知り、早く転職したいと心から願うのであった。
「はぁはぁ、うっ、げほっげほっ・・・」
「ふむ、そろそろ時間切れのようだな、なかなか楽しめたぞクローディア、そなたはいずれ余と同じ高みへと至る器かもしれぬな、では、ここまで余を昂らせてくれた褒美として、最後に余の「とっておき」を披露してやろう、クローディアよ、そなたも全力で来い、余が全て受け止めやる」
ここでミュトスは幼女相手だからかそういう性格なのかは分からないが、余興のつもりの舐めプ癖を発動し、大剣の形に具現化していた魔法剣を刀の形に縮小させた。
大剣相手では一切間合いに入れなかったクロからすれば、ここが唯一の勝機であり、付け入る隙になるだろう。
「はぁはぁはぁ、それじゃあ最後にクロの全身全霊の一撃、いくのん、これはライアと戦う為にとっておいたクロの「とっておき」だけど、背に腹はかえられないのん」
そう言ってクロは剣を中段に構えて呼吸を整える。
次の一撃でこの長い戦いに終止符が打たれる、既に勝負はミュトスの勝ちだろうという流れだったが、だがクロがただで負ける訳が無い、俺は少しでもミュトスに手傷を与え、爪痕を残してくれとクロを応援した。
「いけ!!クロ!!!、お前ならやれる!!!、だから迷わず行け!!!!お前の力を見せてやれーーーー!!!!!」
「・・・不思議なのん、百人の応援より、ライアの「やれる」って言葉の方が出来そうって気持ちになるのん、今なら黒龍にも勝てそうな気がするのん・・・!」
「・・・来い!!」
「行くのん、奥義!!、鎧袖一閃!!
──────────『黒斬』」
「余の必殺技、パートEX、偽・魔神大切斬」
「って、あれはウーナの技じゃねぇか、あのガキ、いつの間に・・・、てかあのガキ、あれ使ったら刀が壊れるって分かってンのか・・・」
クロの必殺技を見て控え室で観戦していたシェーンがそう呟くが。
俺はあの殺意120%の技が俺に向けられる予定だったのが衝撃的過ぎて、唖然としていた。
間違いなく最上級魔法であるSランク魔法の「神の裁き」や「大爆発」、「超聖剣」に匹敵する大技だろう。
二つの斬撃の衝突は大爆発を起こし、地面を鳴動させる程の振動を生み出す。
闘技場は粉砕され爆煙に包まれた。
「はぁはぁ、・・・これでクロは、完全に使い切ったのん・・・」
「ふふ、やるなぁ、クローディア、余の必殺技を相殺するとは、いや、技の完成度で言えばそなたが完全に上だった、余が少しでも手心を加えていたならば、この首飛んでいたかもな、褒めて遣わそう」
完全決着、ミュトスは無傷だった、そこでクロは自身の敗北を悟り、膝をついて降参しようとするが。
「はぁはぁ、じゃあこれでクロの負
──────────」
「待ってください村長!!」
俺はそこで割り込んで闘技場内に乱入した。
「どうしたライア、この勝負に何か申し立てでも?」
俺が乱入した事で、名勝負に感動してスタンディング・オベーションの準備をしていた観客達は水を刺されて不服そうにするが、俺にとっては文字通りの死活問題なので割り込んで発言した。
「皆さん見てください、ミュトス様の、角を」
「角?、余の角がどうかしたのか?」
そう言って皆が、魔族のシンボルとしてたくましく黒光りするミュトスの角に注目する。
「ここをご覧ください、ミュトス様の角はクロの斬撃を受けて
────────折られています!!、
村人ファイト第一条、頭部を破壊された者は失格となる、つまり、この勝負はクロの勝ちです」
無論そんなルールは無いが、だが村長が俺の身内である以上、この説得は受け入れられるものだった。
「──────────確かに、魔族にとって角は命よりも大事なものときく、それにより魔族のコスプレをしている以上は魔族のルールに従うべきであるし、命より大事な物を壊されれば、それはすなわち敗北という事になるだろう」
実際に折られたミュトスの角はほんの数センチ程度で、直ぐに生え直す程度の損傷だったが、ミュトスにとっても自慢の角を折られた事が堪えたらしい、膝をついて「嘘だ」と呟きながら自分の角を触って確認していた。
「ええでは、ルールに則り、魔族のコスプレをしていたミュトス選手は魔族のルールに則り失格という事で、勝者、クローディア選手!!」
母さんがそう言って締め括ると観客は狐につままれたような感じで納得いかない感じだったが。
だがそれは誰かが言った「ま、どうせ俺はクロっちとミュトス様に二枚がけしてるから関係無いか」という発言により疑念は払拭され、観客達は皆でミュトスとクロの激闘を拍手で称えたのであった。
動けなくなったクロを救護係であるメリーさんが控え室まで運び、そして俺はショックに沈んでいるミュトスを励まそうと声をかけようとした、そこで。
「茶番ですね、こんな暴挙、とても許し難いし度し難い、コスプレ?それで済む話ですか──────────っ!!!」
と、控え室にいた筈の次の俺の対戦相手、スザク・コバヤシ選手が背後からミュトスに斬り掛かる。
「危ない!!」
俺は慌ててミュトス様を突き飛ばして避けるが、スザク選手は悪びれもせずに俺に告げた。
「魔族を庇うのですか?、救い難いですね、とても救い難い、貴方も同罪です、判決は、死刑だ」
「・・・どういうつもりだ、コスプレしてるだけの幼女に刃を向けるなんて、それが大の男がする事かよ!!!」
「茶番は結構です、・・・申し遅れましたね、私は、騎士団正道協会所属の監察官、スザク・コバヤシ特級騎士です、特級騎士は不穏分子の排除をする為に罪人を自分の裁量で裁く殺しのライセンスが認められている、魔族を庇うのであれば、あなたもそれに与するものとして排除せねばなりませんが、いかがなさいますか」
スザク選手はこちらの事情などお構いなしと言った風に、ミュトスの首を寄越せと催促して来た。
特級騎士とか騎士団正道協会の概念は初めて知ったが、なんか偉そうな奴だし逆らうとマズイのは理解出来た。
仮に全部ウソだとしても、スザク選手がかなりの実力者である事は事実だし、それにスザク選手がミュトスに勝てるとも思えないので、俺がミュトスを庇う理由も無いのだが。
むしろ、スザク選手がミュトスに潰されて、それで不戦勝になった方が俺にとって都合がいいのは間違い無かった。
──────────だが、俺にはもっと深い考えがあったのだ。
「ゆ、勇者、余をかばう必要などない、余は自分の身くらい自分で守れる、だから下がっておれ」
「なにを仰いますかミュトス様、あんな下郎、ミュトス様の手を煩わせる程の相手ではございません、どうかお下がりください、そして勝利の暁には、俺にお褒めの言葉を・・・!!」
「う、うむ、ならばそなたに任せよう、余の配下として、下郎如きに敗北する事は許さぬ、必ず勝て」
「はい、ミュトス様」
「・・・はぁ、どうやらあなたは魔族に洗脳されているようですね、つまり、この村全員が魔族の支配下という訳か、魔族とはなんと卑劣で下劣で醜悪な生き物でしょうか、やはり私が、この手で一匹残らずこの世から消し去らねば・・・!!!」
「おおっと、なんということでしょう、スザク選手とライア、開始を待たずにいきなり一触即発です、それでは勝負はじめ!!」
こうして俺とスザク選手は、よく分からない因縁により戦う事になったのであった。
「むぅ、予選は負けちゃったけど、決勝では負けないのん、ライアの事、ボコボコにしてやるのん、プロメテウスの仇、絶対取るのん」
「・・・いや、先ず、俺が俺の仇を取らせて欲しいんだが、お前、俺を殺した事を忘れてないか?」
「ライアは死んでも生き返るのん、でもプロメテウスは死んだら生き返らないのん、しかもフエメから聞いたのん、プロメテウスは元々フエメの物で、捨てるようにライアに渡したものだったのん、ライアのものじゃなかったのん、それなのにそれでクロを脅すなんて、ライアは最低のクズなのん、根性叩き直す為にもう一度地獄に送ってやるのん」
「・・・・・・はぁ、そっか、じゃあクロにはもう一度絶望を味わってもらう事になるけど、ま、それも仕方ねェな!、言っても聞かない訳だし」
「ふ、ふん、今更ライアが何しようともクロには効かないのん、クロの欲しい物は全部フエメが買ってくれるのん、だからライアが何しようとクロが動じる事は無いのん」
「ま、今のうちに好きなだけ余裕ぶっとけ、どうせ本番で泣くのはお前なんだからな、・・・いやそもそも幼女に、トーナメントを勝ち抜くのは無理か、決勝まで来れたら、相手してやるよ」
俺は三下っぽいセリフを吐いて予想くじの列に並んで、またまた自分に10万だけ賭ける。
予選の賞金で100万の勝ちではあるものの、この大会の為に俺が使った費用は100万を超えるのでまだ赤字。
出来ることならトーナメントも勝ち抜いて、ここでも番狂わせを起こして親父にボーナスを貰いたい所だ。
トーナメントの開始までに手持ち無沙汰になった俺は、暇つぶしにメリーさんの所にでも行こうかと思ったら、その道中で知らない男に肩をぶつけられた。
わざとぶつかって来たのは分かっていたが、面倒事も嫌だったので適当に「すみません」とやり過ごそうとしたら、向こうの方から絡んできた。
「よぉバカ息子、予選一位抜けしたんだって?、凄いじゃないか、ま、どうせ魔族のガキをお得意の詐術で上手く利用しての事なんだろうが」
「なんだこいつ・・・」
知らない男にいきなり喧嘩を吹っかけられる理由はそれなりに心当たりがあるが、博打でスった腹いせに絡まれているのだろうか、だとしてもそれは自己責任だと言いたいが。
「ふ、俺の名はレンフォー・アラフォード、サマーディ村のアラフォード家の御曹司だ」
「ああ、あの大地主の、・・・確か酪農と製乳が主な家業で、地元民からは「乳汁王子」と呼ばれてるんだっけか?、大丈夫かお前、フエメに貢ぎ過ぎて心に余裕無くなってないか?」
サマーディ村の独身男は殆どがフエメの信者であり、勝手に貢ぐように調教されている。
俺はそれを近くで目の当たりにしているからよく知っていた。
「貴様、フエメ様を呼び捨てに・・・!、ゆるさん!!、それと誰が乳汁王子だ、俺は牛乳王子だ、最近では酪農だけでなく軍馬の生産まで請け負っているし金には苦労していない、俺は貴様に一つ、言っておきたい事がある・・・!」
「なんだよ乳汁王子」
「俺は、フエメ様に集る貴様を許さない、よって、決闘を申し込む、俺が勝ったら貴様は村から消え失せて、二度とフエメ様の前に顔を見せるな!」
「はぁ、男の嫉妬かよ~、見苦しいにも程があるだろ、自分がフエメからてんで相手にされないからってさぁ、そもそも文句あるならテメェが黒龍と戦って撃退すれば良かったんだよ、何もしないで金だけ巻き上げられてる憐れなカモが嫉妬で逆恨みするとか、男として情けないとか思わないのか?」
「はっ、黒龍だと?、笑わせてくれる、どうせそれも詐欺師お得意の大ボラだろ、ただの人間風情がどうやって黒龍に立ち向かえる?、どうやったら黒龍が人間の言葉に従う?、そんな事は有り得ない、お前が黒龍を撃退した事など、村人は誰も信じちゃいない、フエメ様は騙されているだけだ、だから俺が貴様を決闘で完膚無きまでに打ちのめして、フエメ様の目を覚まさせてやる・・・!」
「・・・そうかい、ま、心意気は買ってやるぜ、俺はお前みたいな馬鹿は、嫌いじゃないからな・・・!」
「くくく、俺はこの日の為に力を蓄えて来たんだ、決勝トーナメント、俺と当たるまで負けるなよ、まぁどうせ、出来レで幼女を相手にして勝ちを拾うんだろうが、最後に勝つのは俺だ、村の最強の男が誰かを教えてやる・・・!」
どうやら乳汁王子は自分の目で見たものしか信じられない典型的な現場主義者らしい。
このトーナメント最強の存在が幼女である事にも気づいてないようだった。
普通に考えて、オッズやら序盤の爆走やらで気づけるもんだと思うが、まぁ乳汁王子は自分の考えが絶対だと思うような偏見タイプなんだろうな。
こうして俺は、村長に工作を頼み、一回戦の相手を乳汁王子と組ませてもらうように工作した。
「勝者、ウチのバカ息子のライア!!!、開始3秒で臭い玉を使い、レンフォー選手を秒殺です!!!、これはどう見ても禁じ手ですが、大丈夫なのでしょうか、村長!」
「うむ、この戦いに反則という概念は無い、最後に立っていたものこそ勝者、これは油断したレンフォーが招いた落ち度であるとも言える、故に、勝者、ライア!!」
村長がそういうと俺にブーイングをしながら石を投げつける観客や「死ね」と罵る乳汁王子のファンらしき女たちが騒ぐが、俺はそれらを無視して控え室に戻った。
気絶した乳汁王子は消臭と除菌魔法を受けて医療班に運ばれて行ったが、臭い玉の直撃を受けて悪臭を放つレンフォーに近寄るものはおらず、会場の端っこの方に密閉されて放置された。
「続きまして、第2回戦、うちのバカ亭主のペテンスト・ノストラダムス対、飛び入り参加の冒険者、スザク・コバヤシ選手です」
「おいおい、バカ亭主は無いだろ、ま、ウチのバカ息子のバカな戦いぶり見たら、そう言いたくなるのも分かるけどよう」
ちなみに今回、予選レースがトラップの危険度を大きく下げた影響により、三英傑で勝ち上がったのは【詐欺師】の親父と【当たり屋】のダイナモだけであり、【覗き魔】のトムタクは途中で親父たちのサポートに回ってなんとか親父たちをアシストしてゴールさせたらしい。
順路を通った一般人同士の争いは熾烈を極めたらしく、その中でもスザク選手は人間の中では抜きん出た実力を示していたらしい。
親父たちがBランク相当の実力がある事からも、それを上回るスザク選手はAランク相当の実力がある事が予想された。
この戦いの勝者が、次の俺の対戦相手になるので、是非とも親父には勝って貰いたい所ではあるが、それは流石に高望みが過ぎるか、せめて少しでも消耗させて俺にアシストしてもらいたい所だが。
「あんちゃん、先に言っとくぜ、この勝負、勝敗は一瞬で決まる」
「達人同士の戦いは、と言う奴ですか、それとも、貴方も何か小細工を、どちらにせよ、望む所です」
スザク選手は予選前に俺に話しかけてきた優男だったが、見た目通りの好青年らしい、小細工ごとねじ伏せようという気持ちのいい気概で親父に応えた。
「では両者構えて、勝負…はじめ!!」
「参った、俺の負けだ」
「って親父いいいいいいい!、何いきなり降参してんだテメェ!!」
俺はスザク選手の実力の一片すら見させずに降参した親父に詰め寄った。
「いやだって、聞いたら俺に賭けてる奴一人もいないみたいだし、ガチで戦うような歳でも無いしなぁ、クロっちや他のやつ相手なら名勝負を見せてやる自信があるが、こんな強そうなやつ相手に出来るほど俺も若くねぇんだよ」
「おいおい、だからって初手降参は無いだろ、少しは息子にアシストしてやろうって親心は無いのかよ、ちょっとでも消耗させてくれるだけいいんだよ、なんで戦いもしねぇんだよ、徴兵されるかもしれない息子に対して少しくらい手助けしてやろうって気持ちはねぇのかよ!!」
「・・・・・・ねェな!!、お前は失敗作だし、お前が徴兵でいなくなったら丁度いいし二人目こさえるわ!、二人目は女の子がいいな、クロっちみたいな元気な女の子がいれば、日々の仕事もハリが出るってもんだ」
「・・・そうかよ、クソ親父、俺が村長になっても、親父にはびた一文やらないからな!!」
なんて息子不幸な親父なんだと俺は憤るが、実際誰も親父には賭けていなかったのだろう、俺の時とは違いブーイングは無かった。
「えーそれでは第3試合を始めますので、関係ない人達は退場してください、あと私はまたこんなバカ息子の面倒みるのも嫌だし、男の子が産まれたら一人で面倒みてね」
お袋がそう言うと会場から失笑や冷笑のような冷めた笑いが漏れて俺たち親子はバカにされるが、俺は怒りに燃える闘志を静かに力に変えて、なんとしてでも優勝して村長になってやると、改めて心に誓うのであった。
「では第3試合、ダイナモ・リーヴス選手対シェーン選手、この大会には角が生えた人達が混じっていますが、全部コスプレですので悪しからず、節分の鬼のようなものだと思ってください」
母さんの司会によりダイナモとシェーンが闘技場の上に登場する。
ダイナモは親父と歳の近い中年だが、【当たり屋】のジョブだけあって、その体当たりは岩をも砕く威力をもつ大男だった。
シェーンがこの茶番に参加するのは意外だが、まぁ、クロやミュトスが参加している事だし、いくさ人の血が騒ぐという感じだろうか、ちなみに、シェーン、クロ、ミュトスは、俺と反対方向の死のブロックになるように工作して対戦表は組まれている。
「へへ、嬢ちゃん、一つ言っておくことがある」
ダイナモは丸太のように太い指をした拳をポキポキと鳴らしながら、シェーンを威嚇していた。
どうやらシェーンが黒龍と正面から殴り合ったSランク級の実力者と知った上でも、闘る気のようだ。
「なンだおっさん」
シェーンは興味は無さそうだが、殺気も出さずに穏やかな調子だ、流石に人里で2週間も暮らして村に馴染んだのだろうか、当初のような毒気は抜かれていたのが伺えた。
「この勝負・・・一瞬で決まるぜ、覚悟しろ姉ちゃん・・・!!」
「あー、降参するなら早くしてくれますか、ちなみにダイナモ選手に賭けている人間もゼロなので、何も問題ありません、後ろも押してるので降参するならパパっと降参してください」
と、誰もが予想された天丼ネタは、母さんが先読みした事により日の目を浴びる事も無く、ダイナモのおっさんは小声で「あっはい、降参します・・・」と大男に似合わない態度で退場して言った。
それを隣で見ていた親父が呟いた。
「マズイぞライア」
「?、何がだよ、別にこんな勝負、勝敗は最初から分かっていた事だろ」
「いや、だが今回のオッズは誰にかけても3倍、そして今、優勝しても還元が0の目が二つ無くなった、シェーンの姉ちゃんはクロっちとミュトス様と比べればまだレートは低いものの、このままでは破産する可能性がある」
「・・・いや、そりゃオッズこ3倍にしたら魔族の誰かにかけるだけでほぼ還元されるし、てかそもそも皆クロかミュトスの二択だって分かってるだろ、予選だって実際圧倒してた訳だし」
「まぁな、だから初戦で潰し合ってもらう訳だが、だが、今年の大会はサマーディ村と合同になったせいかな、賢い奴らが増えたせいで、普通は俺らで内輪でやるからはずれくじも増えるし、大会も白熱して盛り上がるんだが、サマーディ村の賢い奴らが投資的に大金をクロっちとミュトス様に賭けているせいで、クロっちとミュトス様のBETがとんでもない事になってる、つまり、クロっちとミュトス様のどちらかが勝った場合・・・ンシャリ村は破産する!!」
「ちょっ、まじかよ、じゃあなんで青天井で決勝トーナメントのくじを販売したんだよ、こっちも10万上限にして、適当に還元しとけば丁度良かっただろ」
「いや、それでも俺は、お前なら優勝出来ると信じている、悪ぃなライア、何の手助けも出来ねェが、それでも黒龍を撃退したお前なら、何か奇跡を起こせるんじゃねェかって、俺と村長はそう思ったんだ、考えてみろライア、お前がもし優勝したら、村長になって大金が手に入るし、逆に負けても徴兵される訳だしノーダメージだ、つまりこれは、村長になるお前に対する俺たちの親心なんだよ」
「いや、何が親心だよ、そんな欲に塗れた博打をする前に、少しでも俺に貢献するように戦ってくれよ、結局俺、初見であの強そうな冒険者と、その後にSランク級に強い奴らと戦わなきゃならねぇんだよ、せめてそこを他人任せじゃなくて必勝法とか考えてくれよ!!」
「ま、どうせお前はいざとなったら夜逃げするんだし、別にいいじゃねェか、ダメで元々、勝ったら万々歳、どうせやるなら、アガりは少しでもデカい方がいい」
「計画性無さすぎだろ、いや、それがこの村の習性というか特色だからしょうがないけどさ・・・」
伸るか反るかの大勝負、そういう物に心惹かれるからこそンシャリ村は武闘派であり、貧しいんだろうなと俺はため息をついた。
でもまぁ確かに親父の言う通り、勝たなければ徴兵されて俺には関係ない話になる訳だし、それなら少しでもアガりがデカい方がいいか、俺が勝ったら大金が手に入って、負けたらクロに村長を任せて借金を押し付けるみたいな事も出来る訳だし。
緻密に計算された杜撰な計画だが、胆大心小という言葉もある、大胆さと繊細を併せ持ってこそ、大きな成果を得られるのかもしれない。
「では第4回戦、これは事実上の決勝戦になるでしょう、大本命の二人の対戦です、初戦で本命二人が当たるなんて運命の神様は残酷ですね(棒読み)、では本日最注目のカード、クローディア選手対ミュトス選手、どうぞ入場ください」
そこで会場は今日一番の盛り上がりを見せた。
博打も好きだが、ンシャリ村の住人は何よりもバトルが好きなのだ。
故に、茶番のような戦いを3回も見せられた後に、この二人ならすごい戦いを見せてくれるのでは無いかと観客の期待は高まっていたし、実際、二人の戦いは村の歴史に残る程に壮絶なものとなった。
「ふ、一丁揉んでやろう、童よ、先達として魔王の頂に立った者の力を見せてやる」
「わっぱじゃないのんクロなのん、ミュトスはシェーンよりもウーナよりもすごい闘気を放ってるのん、クロも最初から全開でいくのん」
そう言ってクロは自身に何かしらのバフをかけたのだろう、全身から闘気を漲らせて、構えを取る。
「ふ、面白い、余の力、童にどれだけ受け止められるかな・・・!」
ミュトスも余裕の笑みを浮かべながら構えをとる、クロが大号令+αのバフをかけてるのに対して、ヒラの状態で戦うつもりらしい。
流石にここはミュトスが勝つのだろうが、決勝で戦いたい相手は俺にとってはクロなので、せめてクロには少しでもミュトスを消耗させて欲しい所だった。
会場はこれ以上ない緊張に包まれる。
「勝負・・・はじめ!!」
静寂を切り裂くように両者開始の合図と同時に激突する。
突き合わせた拳の余波は突風となり衝撃となって周囲を圧倒した。
パワースピード手数、強化のついたクロは全てにおいてミュトスを上回っていたが、戦闘経験の差が段違いなのだろう、ミュトスは余裕の笑みでそれらを捌き、的確に反撃をしてクロを弾き返す。
しかしクロも格上相手の戦い方を心得ているのだろう、ジャブなどのフェイントや足払いなどの奇襲を手数に組み込む事により、ミュトスの虚をついて、僅かでもダメージを返していく。
その一連の動きは人智を超越していて、観客は完全なる沈黙の中で二人の戦いを見守る
そして何分経っただろう、一連のラッシュにより息が上がったのか、クロが一度距離を取って、ミュトスはそれを追撃せずに、一息つく事になった。
そこで観客が沸いた。
当たり前だ、こんな見世物、金払っても惜しくないくらいに熱狂するし、見応えがあった。
八百長プロレスばかり見ていた村人にとっては、その戦いは今までにない鮮烈な感動を感じさせたに違いないのだから。
ガキどもは当然として中年ですらその衝撃に感動を抑えられずに「すげー」と拍手で称える程なのだから。
「はぁはぁはぁ、全然、歯が立たないのん」
クロは全力で息をつく暇も無かったのだろう、呼吸は乱れて全身も汗まみれになるほどに消耗している。
黒龍と正面から殴り合ったクロの本気でこれなのだとしたら、もしかしたらミュトスは黒龍と互角の実力があってもおかしくないと、俺は一人、自分が封印を解いた魔神のヤバさについて後悔の念を感じずにはいられなかったが。
「ふむ、どうやらレベルが大分下がっておるようだな・・・まぁ200年も寝ていた訳だし、衰えるのも当然か、童よ、準備運動はこれくらいにして、剣を持つがよい、童は剣士であろう、素手の童に勝ったとしても余は誇るどころか恥となるだろう、だから、次は本気で来るがよい」
そう言うミュトスは余裕の表情でクロに武器を取るように促した。
クロもプライドとしては素手で戦いたかったのだろうが、ミュトスには敵わない事を理解してか、背中に担いでいた刀を抜刀する。
「ほう、奇っ怪だな、妖刀とは、幾百、いや、幾千幾万の血を吸った怨念のようなものが刀気に宿っておる、面白い、休憩は十分か?、いつでも来い」
「・・・・・・ふぅ、こうなったら手加減は出来ないのん、本気でいくのん・・・ッ!!」
「こ、これは覇王色か・・・!?」
妖刀を持ったクロの殺気は凄まじく俺は思わず唸った、クロはAランク以上の化け物が放つ様な背筋が凍りつくような強烈なプレッシャーを放って周囲に威圧感を与える。
そしてクロは、残像が見えるほどに揺らめいた幽玄な動きで、音もなく間合いを詰めてミュトスに肉薄した。
「──────────疾」
迷いも忖度も無い、ミュトスの首を狙った必殺の一撃、妖刀の殺意100%で放たれた通常攻撃にして必殺技となったその究極の一撃が、無慈悲にミュトスに襲いかかる。
その瞬間ミュトスも油断していたのだろう、初めて余裕の表情を崩して緊張感を見せた。
「くっ・・・」
ガキンと、重厚な金属音が響く。
ミュトスは間一髪、己の角を刀と合わせる事によって首の切断を防いだが、だが、妖刀に取り憑かれたクロは、それで怯むことも無く、そのまま攻勢へと転じる。
ミュトスは角でクロの攻撃を繰り返し捌くが、間合いの差もあり、角で受け止めれば必然としてミュトスは押され、闘技場の際まで追い詰められた。
そこで妖刀は勝ちを確信したのだろう、奥義で確実に仕留めるという意気込みを込めて、初めて大きく振りかぶり、ミュトスに袈裟に斬り掛かる。
角ごと全て断ち切らんという圧倒的な殺意で、クロはミュトスに激突する。
万事休す、誰もがそう思った。
だが、ミュトスは、その瞬間にも笑ったのだ。
ガキン、と、再び金属音が鳴り響く。
見れば今度はミュトスは、巨大な剣を持ってクロの斬撃を受け止めていた。
「見事だ童、いや、クローディアよ、主は余と対等に戦うに相応しい相手だ、よって、余も、主を認め、少し本気を出そうか」
そこで俺は思い出した、ミュトスが初めて現れた時にユリシーズを狙った攻撃、あれは確かに大型のバスターソードだったと。
つまりミュトスも元々剣士だったという訳だ。
魔力で形成された魔法剣であるが故に、実体剣と違い使用時間に制限はあるが、ミュトスは自身の身長よりもデカい剣を軽々と振り回し、一転攻勢へと転じた。
クロの動きが幽玄を極めた往年の人斬りの技であるのと対照的に、ミュトスの動きは大剣をただぶん回すというだけの雑なものなのだが、それを低身長で身長よりも大きい剣を自在に振り回すという矛盾により、間合いを詰める事も適わず、攻撃が最大の防御というような合理性で、最大の剣は最大の盾とでもいうように力の暴力でクロを追い詰める。
スピードではクロに分があるかと思われたが、ミュトスは剣の重さなど感じさせないように自在に振り回す為に、実際の移動量はクロの方が多いのに、ミュトスはそれに拮抗する手数を剣を振り回して生み出していた。
それによりクロは完全にミュトスに押し込まれる形となって、己の間合いにすら入れずに防戦一方となっていた。
「殺意全開のクロと戦うのもきついと思ったが、ミュトスの全力も無理ゲー過ぎる・・・っ、あーあ、都合よく共倒れとかしてくれねぇかな・・・」
魔王対魔神の戦い、それは黒龍と神狼の大怪獣バトルと同じで俺には入り込む余地の無い遥かなる高みの戦い。
改めて俺は、下手をしたらこいつらに命を狙われるかもしれない【勇者】という肩書きがいかに重いかを思い知り、早く転職したいと心から願うのであった。
「はぁはぁ、うっ、げほっげほっ・・・」
「ふむ、そろそろ時間切れのようだな、なかなか楽しめたぞクローディア、そなたはいずれ余と同じ高みへと至る器かもしれぬな、では、ここまで余を昂らせてくれた褒美として、最後に余の「とっておき」を披露してやろう、クローディアよ、そなたも全力で来い、余が全て受け止めやる」
ここでミュトスは幼女相手だからかそういう性格なのかは分からないが、余興のつもりの舐めプ癖を発動し、大剣の形に具現化していた魔法剣を刀の形に縮小させた。
大剣相手では一切間合いに入れなかったクロからすれば、ここが唯一の勝機であり、付け入る隙になるだろう。
「はぁはぁはぁ、それじゃあ最後にクロの全身全霊の一撃、いくのん、これはライアと戦う為にとっておいたクロの「とっておき」だけど、背に腹はかえられないのん」
そう言ってクロは剣を中段に構えて呼吸を整える。
次の一撃でこの長い戦いに終止符が打たれる、既に勝負はミュトスの勝ちだろうという流れだったが、だがクロがただで負ける訳が無い、俺は少しでもミュトスに手傷を与え、爪痕を残してくれとクロを応援した。
「いけ!!クロ!!!、お前ならやれる!!!、だから迷わず行け!!!!お前の力を見せてやれーーーー!!!!!」
「・・・不思議なのん、百人の応援より、ライアの「やれる」って言葉の方が出来そうって気持ちになるのん、今なら黒龍にも勝てそうな気がするのん・・・!」
「・・・来い!!」
「行くのん、奥義!!、鎧袖一閃!!
──────────『黒斬』」
「余の必殺技、パートEX、偽・魔神大切斬」
「って、あれはウーナの技じゃねぇか、あのガキ、いつの間に・・・、てかあのガキ、あれ使ったら刀が壊れるって分かってンのか・・・」
クロの必殺技を見て控え室で観戦していたシェーンがそう呟くが。
俺はあの殺意120%の技が俺に向けられる予定だったのが衝撃的過ぎて、唖然としていた。
間違いなく最上級魔法であるSランク魔法の「神の裁き」や「大爆発」、「超聖剣」に匹敵する大技だろう。
二つの斬撃の衝突は大爆発を起こし、地面を鳴動させる程の振動を生み出す。
闘技場は粉砕され爆煙に包まれた。
「はぁはぁ、・・・これでクロは、完全に使い切ったのん・・・」
「ふふ、やるなぁ、クローディア、余の必殺技を相殺するとは、いや、技の完成度で言えばそなたが完全に上だった、余が少しでも手心を加えていたならば、この首飛んでいたかもな、褒めて遣わそう」
完全決着、ミュトスは無傷だった、そこでクロは自身の敗北を悟り、膝をついて降参しようとするが。
「はぁはぁ、じゃあこれでクロの負
──────────」
「待ってください村長!!」
俺はそこで割り込んで闘技場内に乱入した。
「どうしたライア、この勝負に何か申し立てでも?」
俺が乱入した事で、名勝負に感動してスタンディング・オベーションの準備をしていた観客達は水を刺されて不服そうにするが、俺にとっては文字通りの死活問題なので割り込んで発言した。
「皆さん見てください、ミュトス様の、角を」
「角?、余の角がどうかしたのか?」
そう言って皆が、魔族のシンボルとしてたくましく黒光りするミュトスの角に注目する。
「ここをご覧ください、ミュトス様の角はクロの斬撃を受けて
────────折られています!!、
村人ファイト第一条、頭部を破壊された者は失格となる、つまり、この勝負はクロの勝ちです」
無論そんなルールは無いが、だが村長が俺の身内である以上、この説得は受け入れられるものだった。
「──────────確かに、魔族にとって角は命よりも大事なものときく、それにより魔族のコスプレをしている以上は魔族のルールに従うべきであるし、命より大事な物を壊されれば、それはすなわち敗北という事になるだろう」
実際に折られたミュトスの角はほんの数センチ程度で、直ぐに生え直す程度の損傷だったが、ミュトスにとっても自慢の角を折られた事が堪えたらしい、膝をついて「嘘だ」と呟きながら自分の角を触って確認していた。
「ええでは、ルールに則り、魔族のコスプレをしていたミュトス選手は魔族のルールに則り失格という事で、勝者、クローディア選手!!」
母さんがそう言って締め括ると観客は狐につままれたような感じで納得いかない感じだったが。
だがそれは誰かが言った「ま、どうせ俺はクロっちとミュトス様に二枚がけしてるから関係無いか」という発言により疑念は払拭され、観客達は皆でミュトスとクロの激闘を拍手で称えたのであった。
動けなくなったクロを救護係であるメリーさんが控え室まで運び、そして俺はショックに沈んでいるミュトスを励まそうと声をかけようとした、そこで。
「茶番ですね、こんな暴挙、とても許し難いし度し難い、コスプレ?それで済む話ですか──────────っ!!!」
と、控え室にいた筈の次の俺の対戦相手、スザク・コバヤシ選手が背後からミュトスに斬り掛かる。
「危ない!!」
俺は慌ててミュトス様を突き飛ばして避けるが、スザク選手は悪びれもせずに俺に告げた。
「魔族を庇うのですか?、救い難いですね、とても救い難い、貴方も同罪です、判決は、死刑だ」
「・・・どういうつもりだ、コスプレしてるだけの幼女に刃を向けるなんて、それが大の男がする事かよ!!!」
「茶番は結構です、・・・申し遅れましたね、私は、騎士団正道協会所属の監察官、スザク・コバヤシ特級騎士です、特級騎士は不穏分子の排除をする為に罪人を自分の裁量で裁く殺しのライセンスが認められている、魔族を庇うのであれば、あなたもそれに与するものとして排除せねばなりませんが、いかがなさいますか」
スザク選手はこちらの事情などお構いなしと言った風に、ミュトスの首を寄越せと催促して来た。
特級騎士とか騎士団正道協会の概念は初めて知ったが、なんか偉そうな奴だし逆らうとマズイのは理解出来た。
仮に全部ウソだとしても、スザク選手がかなりの実力者である事は事実だし、それにスザク選手がミュトスに勝てるとも思えないので、俺がミュトスを庇う理由も無いのだが。
むしろ、スザク選手がミュトスに潰されて、それで不戦勝になった方が俺にとって都合がいいのは間違い無かった。
──────────だが、俺にはもっと深い考えがあったのだ。
「ゆ、勇者、余をかばう必要などない、余は自分の身くらい自分で守れる、だから下がっておれ」
「なにを仰いますかミュトス様、あんな下郎、ミュトス様の手を煩わせる程の相手ではございません、どうかお下がりください、そして勝利の暁には、俺にお褒めの言葉を・・・!!」
「う、うむ、ならばそなたに任せよう、余の配下として、下郎如きに敗北する事は許さぬ、必ず勝て」
「はい、ミュトス様」
「・・・はぁ、どうやらあなたは魔族に洗脳されているようですね、つまり、この村全員が魔族の支配下という訳か、魔族とはなんと卑劣で下劣で醜悪な生き物でしょうか、やはり私が、この手で一匹残らずこの世から消し去らねば・・・!!!」
「おおっと、なんということでしょう、スザク選手とライア、開始を待たずにいきなり一触即発です、それでは勝負はじめ!!」
こうして俺とスザク選手は、よく分からない因縁により戦う事になったのであった。
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