【勇者】が働かない乱世で平和な異世界のお話

aruna

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第2章 〇い〇く〇りん〇ックス

第11話 闘技祭予選、百鬼夜行の大レース

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 闘技祭当日。

「さぁ、それでは本年度闘技祭予選、百鬼夜行夜行レースについて解説させて頂きます、ルールは簡単、会場であるサマーディ村のスタート地点から、“沈黙の林”“殺戮の森”を抜けて“黄金山地”へと向かい、そこにある8つの龍玉、そのどれかを持ってここに戻ってくる事、それをした人間が予選突破となります、ちなみに龍玉を一人で二つ持つのも、龍玉を奪うのも自由です、どこかで龍玉を獲得し、そしてこの会場に持ってくれば、その時点で予選突破です、もちろん、妨害、強奪は自由で、乗り物を使うなどの反則行為などもありません、部外者を使うのも自由のなんでもありです、なので、参加は自由ですが、参加する人は覚悟して臨んでください、では出走は30分後、1着を予想するくじは、出走後10分後まで受付ますので、どうぞ後悔の無いようにご購入ください、誰が1着になっても払い出しは10倍の激甘仕様となっておりますのでお得ですよ」

 と、身内人事で闘技祭の主催者側にいる母さんが、拡声器を使って予選のルールを喧伝する。

 予選はレース形式となった、理由は参加者の厳選が楽な事、工作が容易な事、ステータスの低い俺でも、マラソンだけは人並み以上に走れた事、これらの要因から、マラソン形式が最も適切だという話になったからだ。

「ふっふっふ、腕がなるな、別にここにいる全員、一瞬で蹴散らしてもよいのだろう?」

「いけませんミュトス様、人間は脆くか弱い生き物なのです、ですのでどうか手加減くださいませ」

「む、むう、しかし余が復活してからひと月ぶりの戦ぞ、血湧き肉躍らせてもらわねば、参加する甲斐がないではないか」

「それは決勝で思う存分出していただければ宜しいかと、ミュトス様が全力を出せば大会そのものが崩壊してしまいますから、だからどうか人間に合わせて手加減くださいませ、もし村が滅んでしまえば、ユリシーズ様を圧倒する機会を損ねる事になりますから!!」

「なら仕方ないか、まぁいい、人間は皆弱そうだが、魔族のメスどもは中々いい仕上がりだ、二人とも余の好みの荒々しい闘気をしておるし、奴らを狩る分には文句は無いよな?」

「ええ、勿論、人間以外はどうぞお好きにしてください」

「ならよい、ああ、ひと月ぶりの戦闘、昂られずにはいられぬぞ」

「魔族相手なら如何様にしても構いません、しかし、人間に危害を加えれば、ミュトス様と私の契約も白紙に戻る事をご留意して、どうか力を行使くださいませ・・・」

 俺はミュトスに釘を刺すように注意すると、早速予想くじの売り場の列に並んだ。
 後ろでは「ミュトス様に全財産賭けました」とミュトスに激励を送る村人もいたが、ミュトスに優勝されるのも困りものなので、どうしたものかと俺は頭を悩ませた。
 ちなみに全財産と言ってもくじの上限が10万なので、別に大した額では無い。
 ただ単純に、黄金山地の重労働に駆り出される人達は、蓄財が下手な債務者が多いというだけの話である。



「ライア・ノストラダムスに10万デン」

「あいよ、・・・って記念参加かと思ったら、ちゃんと勝つ気でいるんだねぇ、気張りなよ」

「うす、頑張ります!」

 まぁ俺の本命はクロだったのだが、だが、既に黒龍とタイマンしたクロの名声は徐々に村に広まっていて、クロは元々の愛嬌もあり一番人気だ、故に工作によりクロは妨害を受ける事が確定している、だからクロが勝つ可能性は限りなく低いと言える。
 他にもサマーディ村の実力者や街から物見遊山に来た冒険者など、油断出来ないような対抗馬も沢山いるし、いかに普段は三英傑が八百長して演出する出来レースと言えども、今回ばかりは優勝者を絞るのは難しいだろう。

 予選参加者は記念参加の子供や腕試しに参加する村のおっさん、フエメにいい所を見せたくてこの闘技祭をただのお祭りのイベントと勘違いしているサマーディ村の若者など、老若男女交々こもごもとして、のべ100人近くの大所帯となる、過去最高の盛り上がりを見せていた。

 俺は出走するまで軽く準備運動でもするかなと体操していると、余所者の飛び入り参加らしい若い男に話しかけられる。

「やぁ君、君も参加者?、“沈黙の林”とか“黄金山地”とか、聞きなれない単語があったんだけど、どういうルートを通ればいいか教えて貰ってもいいかな?」

「いいですよ、まず、最初は真っ直ぐ走ります、まぁだいたいコースの付近の魔物は狩り尽くしてるので、最初は参加者同士の潰し合いになりますかね、それに気をつけながら道なりに進めば、“殺戮の森”に入って、そこの途中で二手に道が別れてるんですけど、そこを勾配が急な左側に進んでいけば、“黄金山地”に行きます、まぁ、道が不安なら後ろからついて行けばいいと思います」

「なるほど、ありがとう、ところで、この村には魔族の女の子もいるみたいなんだけど、村の人達は気にしていないみたいだね、それについても教えてくれるかな?」

 どうやらそっちが本命の質問だったらしい、男は人にはばかる事なく出歩くミュトスを見てそう言うが。

「・・・ああ、あれはただのコスプレですよ、こんな辺境の村に、魔族なんている訳ないじゃ無いですか、だからあれはただのコスプレ、おちゃめな幼女のいたずらですよ」

「コスプレ・・・でもあの角はどう見ても・・・、いやだが奴隷でも無い魔族の幼女がこんな所にいる方がおかしいか・・・、ありがとう、じゃあこれで、健闘を祈らせてもらうよ」

「ええ、お互いベストを尽くしましょう」

 そう言って男は去っていく。
 黄金山地のバブルの影響か、部外者も多く、ミュトスの存在を公にするのは中々危険な行為だが、未来の覇王となるフエメがいる事だし、いざとなれば武力で解決するから問題無いか。

 俺は何かとんでもない事件の予兆を感じつつも、レースに集中する為に意識から外したのであった。




「それではようい、スタート!!」

 母さんの合図で一斉にスタートする。

 先頭を走るのはクロ、そしてミュトスだった。

「やるなぁわっぱ余の豪脚についてくるとは」

「負けないのん!、えーと」

「ミュトスだ、偉大なる魔神にして最強の覇王」

「クロはクローディアなのん!、ギア、上げるのん!」

 初っ端からフルスロットルでクロとミュトスが駆け抜けて、後塵を拝する脆弱な人間たちは瞬く間に置いていかれた。

「ヒューっ、いつの間にかクロっちもとんでもないくらい仕上がってんなぁ、ありゃ豪脚を通り越して神脚だぜ」

「なぁ親父、トラップの準備は万全なのか?」

「ああ、例年通り初見殺し率9割オーバーの最高のトラップがある、今回はガキに配慮して危険は下げてるが、トラップだけで半数は脱落するだろうな・・・、おっと早速前段の連中が引っかかてってるぜ」



「開始3秒で落とし穴とか、そんなんありかよーー!?」

 これが百鬼夜行レース、なんでもありの本領発揮なのであった。


 俺はトラップの被害を最小限に押さえつつも自力で龍玉を確保出来る先行にポジションを取り、先頭がトラップにより脱落、消耗していくのを遠目で眺めながら、難なくトラップ地獄と化していた“沈黙の林”を踏破する。

 そして俺はそこで、開けた公道から草むらに隠れた隘路へと方向転換した。

 ここは殺戮の森を抜けるには遠回りだが、黄金山地には直進できる近道であり、黄金山地への往路としてよく利用される、村人だけが知る近道。

 親父がこの近道を使わない事から、ここにも何かしらのトラップが仕掛けてある可能性は高いが、まぁ、レースで勝つ為には必要なリスクだろう。

 至る所に罠線が仕掛けられていたが、俺はそれを華麗にさけて、黄金山地へ一本道となる急勾配の坂まで来た。

 後ろを振り返ると顔見知りの村人も何人か追って来ていたが、このルートを使う人間はそんなに多く無いようだ、もしかしたらマラソン的な行事として記念参加している人間の方が圧倒的に多いのかもしれない。
 純粋に会場から黄金山地のマラソンは片道10キロ近くあり、調整やトレーニングでの手間を考えれば、気軽に優勝を狙えるものでもないし、今回は初の合同開催という事もあり、完走を目的とした参加者も少なくないのかもしれない。

「はぁはぁ、うお、きっつ・・・」

 歩幅1メートルもない崖道は走るのには不向きだし危険も伴うが、だがそんなリスクを負わなければ優勝を狙うなど不可能だろう、崖道を超えて、傾斜45度の激坂の前で一度息を入れる。

 心臓破りの坂とも呼ぶべき坂を、汗だくになりがらなんとか踏破すると、俺は折り返し地点である黄金山地へと無事到達した。

 そこには休憩所があり龍玉の管理係であるメリーさんがいて、中継地点に置かれた机の上に龍玉はまだ7つ置かれていた。

「はぁはぁ、メリーさん、ヒールお願いします・・・」

「水の精霊よ、癒しの加護を与え、彼の者に力を《ネオ・ヒール》」

「・・・ふぅ、よし、これで枠内は確定ですね、先頭はミュトスですか?」

「ええ、クロさんは・・・、ライアさんに言われて設置した、ナイト&ウィザードのカードを餌にするトラップに引っかかり、そのまま“失われた聖域”の方へ・・・」

 俺はナイト&ウィザードのカードがクロへの対抗札になると知り、必勝法を編み出した時点で防具を不要と判断し、余った金でカードを買い漁ったのであった。

 「時空の魔剣士・プロメテウス」が1枚10万の値がつく事からも、カードはかなり高騰していて痛い出費だったものの、それでクロを出し抜けたのなら成果としては十分だ。

 そして折り返し地点を先頭で走って他の参加者に見られずにメリーさんにヒールをかけて貰う事により万全の状態で復路を帰還出来る作戦。
 主催者側とグルになってる事に文句を言う人間もいるかもしれないが、村人は全員、このレースが出来レースだと分かった上で優勝者を予測してくじを買っている、故に、仮に部外者が咎めた所でそれが村のルールだと返すだけの話だった。

 俺は自身の分の龍玉を持つとメリーさんに礼を言って、来た道ではなく絶壁の方へと向かう。

 そこには下へと垂れるロープが設置されていた。

 ここからミュトスに追いつけるかは賭けだが、だが10万賭けた訳だし、クロへの対抗策も上手く嵌った訳だし、勝てるなら勝ちたい勝負だ。

 ミュトスの速度を馬と同速と仮定しても、順路をすすむミュトスとは距離に3倍近い差が生まれるだろう、故に、沈黙の林を抜けた直線1キロまでにリード出来ていれば十分に勝機はある。

 俺は手を滑らせれば死は免れないような命綱無しのロープ降下を一息に下り降りて、これで何秒短縮出来たかなと計算しながら草むらをゴールに向かって突き進んだ。




「はぁはぁ、よし、抜けた」

 敵を避ける為に草むらを進んだ俺は泥と草と汗に塗れていたが、そのおかげでトラップや妨害に遭う事もなく、俺は沈黙の林を抜けて最終直線へと到達する。

 ここでミュトスの背中が見えれば負け、見えなければ勝ち、と言った具合なのだが  
 ──────────。

「ほう、遅かったな勇者よ、しかし、やはりそなたが一番か、待ちくたびれたぞ」

「あの・・・、なんで出待ちしてるんスか?」

「競う相手がおらぬと退屈でな、途中まではいきのいい童がおったのだが、いつの間にかおらんくなったし、このまま余がゴールするのも興が削がれる行いであろう、故に、として、非力な人間にチャンスを与えてやろうと思ったのだ」

「・・・・・・」

 俺はそこで俺が優勝する為にはミュトスを上手いこと詐欺って勝つしか無いと思い、俺は大博打に出たのであった。

「それで勇者よ、貴様はどれだけハンデが欲しい?、余は目をつぶろうとも片脚で走ろうとも逆立ちで走ろうとも構わんぞ」

 逆立ちなら勝てるか?、いや、この過酷な10キロの障害物マラソンを息を切らさずに走破している時点で、逆立ちだとしても俺に勝てる道理は無いだろう、故に、詐欺って勝つ方が勝算は高いはずだ、故に俺は、切羽詰まった演技でミュトスに語りかける。

「・・・どうか、落ち着いてお聞きくださいミュトス様、クロは、童のクロは・・・、卑劣なショートカットで近道をして、おそらく、今は反対方向からゴールに向かっておられる事でしょう・・・」

「な、何ぃ!?、では余は、童にまんまと出し抜かれて、ここで無意味に惰性を貪っていたという訳か!、こうしておられん、今すぐ・・・」

「お待ちくださいミュトス様!!、今更普通に追いかけても、クロに追いつくのは不可能でしょう、あの小娘の速さは、ミュトス様に並ぶものなのですから!!」

「むぅ、確かに、ここで敵を見誤った時点で、余の敗北か、くそっ、チャンやデニスは余に全財産賭けてくれたというのに、不甲斐ない、余を許してくれるだろうか・・・」

「・・・いいえミュトス様、諦めるには早いです、ここから逆転する方法が一つだけあります」

「な、何、ここからでも逆転出来る方法があるのか!?、して、その方法とは!?」

「古来より、人馬一体となった馬は馬だけで走るよりも速いと言われています、私がミュトス様の目となり頭となることで、ミュトス様は走る事に専念し、通常の三倍の速度で走る事も可能となるでしょう、無論、実現すれば、の話にはなりますが・・・」

「人馬一体、・・・昔聞いた事がある、騎手が悪ければどんな名馬も駄馬に劣る、故に、騎手となるものは馬の特性を理解し、馬の性能を全て引き出せるようにならなくてはならないと」

「ええ、ですからここで逆転するにはもはや、我らが心を合わせ、人馬一体となる事でミュトス様の底力を引き出す事に賭けるしかない、状況は絶望的ですが時間はありません、・・・どうしますか?」

「ふ、余を誰だと思っておる、史上最強にして最高の魔王、ミュトス、その余がそんな小さな絶望で諦めるものか、やるぞ勇者、二人であの童に目にものを見せてくれるわ」

「流石ですミュトスさま、一人では無理でも二人なら奇跡だって起こせる筈です!!では参りましょう、あ、ミュトス様は目を瞑っててください、指示は私が出すので、では、よっこいしょ」

 俺はクロより小柄なミュトスの肩に跨って、ミュトスの角を掴んで足をミュトスの両腕に抱えさせる。

「お、おい勇者、気安く余の角に触るな、それは気安く触れていいものでは・・・」

「ミュトス様の角!、とても硬くて太くて逞しくて、カッコよくて惚れ惚れしてしまいます!!、ああ、男なら誰しも、こんな角が欲しいと思うような理想の角、すみません、ミュトス様、ミュトス様の角があまりにもカッコよくて美しくて素晴らしいものなので、つい手にとってしまいました!!」

「そ、そうか、なら仕方ないな!、特別に許す、しっかり掴まっていろ!!」

 そう言ってミュトスは弾丸のような膂力で地面を蹴りあげ一気に加速する。

「うおお!!素晴らしい加速ですミュトス様!、最高ですミュトス様!、あなたこそが世界の支配者に相応しいお方です!!!」

「ふふ、まだまだ、こんなもんじゃないぞ、振り落とされるなよ・・・!!」

 ダダダダダダダと、機関銃のように忙しなく暴力的な破裂音を響かせて、ミュトスは一直線に駆け抜ける。

 しかしそこで、後ろから強烈なプレッシャーを感じて、俺は振り返った。

「ぬふふ~、いっぱいカード拾えたのん、あ、ライア、それにミュトス、何してるのん!?」

 俺は慌てて「もっと走る事に集中してください」と言い、ミュトスの耳を塞いだ。

「お、お前、追いつくの早くないか?、俺より後に龍玉取ったよな?」

 断崖のロープ降下によるショートカットの時間短縮を考えれば、クロが順路で追いつける道理は無い筈だが。

「そこはライアに負けるかもしれないと思って崖を飛び降りてショートカットしたのん、意外となんとかなったのん」

 崖を飛び降りる・・・?、相変わらずデタラメにも程がある、せっかくこれで優勝出来ると思ったのに、いい所で邪魔しやがって畜生。

「それじゃあお先にーなのん、優勝したら皆おもちゃとお菓子くれるって言ってたのん、だから勝つのん」

 そう言ってクロはギアを上げてスパートに入った。

 残り300mあるか無いか、・・・やばい、このままでは順当に負ける。

 俺はミュトスの耳に当てていた手を退けて、ミュトスに囁いた。

「ミュトス様、一瞬だけ目を開けてください、クロの背中が見えました!」

「ん、おお!!、追いついたとは、しかしまだ負けておる、しかも引き離されてないか?」

「ええ、追いつかれたクロは今、最後の力を振り絞ってスパートに入りました、だからミュトス様、残り100mで俺たちもスパートの体制に入りましょう、そうしなければ追いつけません」

「す、スパートの体制とな!?」

「ええ、俺がミュトス様の首を上下に振り、それによる反動でミュトス様は足を踏み込むのです、こうする事で俺の力がミュトス様に加わり、勇者と魔神の力が合わされば、魔王如きに負ける道理も無いでしょう、だからミュトス様、最後の力を振り絞って駆け抜けてください!!」

「なるほど、はぁはぁ、余も先達として、童如きに負ける訳にはいかん、勇者、余に力を貸せ・・・!!」

「俺の全てをミュトス様に託します・・・!!」





「来た来た!、先頭はクロ、後ろはミュトス様、差は2馬身差、でもミュトス様の方が猛烈な末脚で迫ってきている」

「ミュトス様!?、何故ライアを背負っているんだ?、まさか舐めプか!?」

「なんでもいい、頼むミュトス様、あなたに全財産賭けたんです、どうか勝ってください!!」

「クロちゃーん、好きなおもちゃ買って上げるから頑張ってーーー!!」

「いけ!差せ!」や「捲れ捲れ」などと、観客は口々に叫び、熱狂に包まれる。

 勝負の大一番、残り100メートルの直線、意地とプライドと土地や家などの財産を賭けて、二人の優駿まぞくと一人の騎手クズが、栄光へ続く道を駆けていく。



「ミュトス様!全部俺に預けてください、感覚を一つにラストスパート、人馬一体になってきつつきのように首を振るのです!!」

「分かった、余の五感の全て、そなたに預ける・・・!!!」

「うおおおおおおお!!!、これが俺の、俺たちの、マスタングスペシャルだ!!!!、最速二輪マァアアアアアアックス!!!!」

 俺はミュトスの角を掴んで激しく上下に動かす、それで俺の力がミュトスに伝わる事に特になんの効果も無いが、ただ必殺技を発動したという事実が、ミュトスの体になんらかの錯覚を引き起こし、ミュトスは驚異的な末脚を見せつけて加速する。

 残り100mでクロに追いついた、ミュトス様は最高の仕事をしてくれた、ここからは俺の腕の見せ所だ。

「な、追いつかれたのん、はぁはぁ、そんな、有り得ないのん、ライアを背負ってるのに追いつくなんて・・・!」

「クロ、お前とミュトスの違いが何か、よく観察しろ、それがお前の敗因だ」

「・・・・・・!、な、目を瞑ってるのん」

「ミュトス様は目を瞑る事で走る事に集中し、完全なる人馬一体を実現なされたお方だ、目を瞑って走るなんて普通の奴には出来ないだろう、それが俺たちとお前との力の差なんだよ、それじゃあ遊びはここまでだ、お先に失礼するぜ」

 俺はきつつきを加速させる、それになんの効果があるのかは分からないが、それによりミュトスは更に加速し、クロを追い抜いた。

「・・・走る事に集中、ようし、クロも目を瞑るのん、んああああああああ、負けないのん!!!」




「クローディア選手、ここで並んだ、両者並んだままだ、そしてゴールまで残り50…40…30…20…」

「頼むクロちゃあああああん、勝ってええええええ!!!」

「うおおおおおおミュトス様あああああいけえええええええ!!!」


 ゴールまで残り僅かになって完全に互角、最後の最後まで勝敗は分からない、そんな大接戦に観客は勝敗を忘れて熱中する。
 出来レースだらけのンシャリ村のレース史に於いて、このレースは間違いなく空前絶後の名レースとして語り継がれる事になると、誰もがそう思うほどに白熱していた。

 ──────────しかし。







「おおっと、ここで、クローディア選手とミュトス選手、スタート地点に掘られていた落とし穴に嵌ってしまったーーーー!!!!、そしてミュトス選手の背中に乗っていたはずのウチの馬鹿息子のライア、今堂々とゴールイーーーーーン!!!、この結末、一体誰が予想出来たでしょうか、まさかまさかの大番狂わせ、百鬼夜行レース1着は、うちのバカ息子のライアです!!!!」

「はぁ!?」「えぇ!?」「嘘だろ!?」

 と、観客は沸きに沸いた、そして誰も俺を賞賛する事はなく、俺は観客達から石を投げつけられるが、俺は堂々と会場の本部に行き、龍玉を提出した。

「な、負けちゃったのん、・・・みんなごめんなのん、クロがカードに気を取られなければ勝ってたのん・・・」

「勇者よ、貴様、余を謀ったのか・・・?」

 ミュトスが戦慄の表情で俺を見る、当然の怒りだろう、だが俺は笑顔でミュトスに駆け寄り、ミュトスに熱い抱擁を浴びせた。

「やりました!ミュトス様!!我らの勝利です!!、一人では成し遂げられない事を、二人で成し遂げました!!、ミュトス様一人でも、私一人でも勝てなかったでしょう、だからこれは私達二人の勝利です!!」

「う、うむ、いや、本当にこれは余の勝利なのか・・・?、勇者にうまく利用されただけのような・・・」

「ミュトス様」

「な、なんだ、勇者よ」

「ミュトス様は感じませんでしたか?、共に駆けている時に、我らの心が一つとなったような、人馬一体となったあの高揚感、あれこそが我らが二人で一つのものだった事の証ではありませんか、そしてその狙い通りに勝った、つまり、これは我らの勝利であり、それ以外の何者でもないという話なのです」

「・・・!!、確かに、勇者に跨がれてる間、余は自身が馬になったかのような走る事への万能感を感じた、あの昂り、あれが無ければ確かに余は負けていただろう、つまり、余は勇者と一心同体となった訳か」

「そうです、私はミュトス様の一の家臣、その私の勝利こそミュトス様に献上するべきもの、であればこそ、私の勝利がミュトス様の勝利で何が悪いという話なのです、ミュトス様、ミュトス様に勝利を捧げた私めに、どうかお褒めの言葉を」

「う、うむ、大義であった、そなたの忠義、誠に大義である」

「ははっ、有り難き幸せ」

 ミュトスは不満げだったが、小芝居を挟む事により無理矢理納得させて、元々こういう路線だったという体で強引に納得させる。

 ミュトスとクロに賭けていた村人達からは恨まれるだろうが、どうせ元々三英傑の八百長レースであり、うちの家族は元々恨まれている為にそこまで気になるものでは無い。

 こうして俺は当初の予定通り、レースに番狂わせを起こして親父から特別ボーナスを貰うという目標を達成したのであった。
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