25 / 55
第2章 〇い〇く〇りん〇ックス
幕間 ある少女の背負うモノ
しおりを挟む
その少女は望まれない子供だった。
父親からも、母親からも、祖父母も誰も、彼女の誕生を望んではいなかった。
何故なら少女は、不義による一夜の過ちで生まれた子供だったからだ。
貴族の男が、戯れに夜伽を申し付けた下女を孕ませたという、そんな忌み子。
男児の跡取りを欲していたその家は少女を軽んじて、当初は使用人の子として育てたが、結局跡継ぎが生まれる事無く当主が没して、嫡子をその少女にするしか無くなった事で家に迎え入れられたが、10歳から始める貴族の英才教育は通常の2倍の量をこなさなくてはいけない苛烈なものであり、愛も情けも知らない少女に向けられた期待は、およそ少女の手に余るほどの熱量を期した。
そんな少女の唯一の心の支えとなったのが、御伽噺の勇者の英雄譚であった。
現実は理不尽で過酷で苦しいものだったが、勇者の英雄譚は見るものに勇気を与えて、そして幼い少女の心を幾度となく奮い立たせてくれた。
その時からきっと、少女の心は、勇者に囚われて、依存していたのだろう。
だから少女が、自分を救ってくれた少年に心を奪われるのも必然だったのだ。
両親から愛されず、そして革命により両親を失い、母方の実家に父親の違う姉とともに帰省して、何にも執着せずに生きてきた。
そんな少女が初めて執着し、裏切られた。
その時に少女の心は、真っ暗な闇へと落ちていったのだ。
愛されない事、選ばれない事、必要とされない事。
それは少女にとっての傷であり、急所であり、抉られた穿孔。
ぽっかり空いた隙間から、悲しみと苦しみと、どうにもならない闇が溢れ出す。
「はぁはぁ、うっ・・・」
気がつくと少女は、またナイフで胸を突き刺そうとしていた。
胸の疼痛を鎮めるために、空っぽの心を抉り出す為に。
昨日から何度も何度も、眠れずに気が滅入っては胸にナイフを突き刺して、その痛みで正気に返り、自身が調合した薬草で治療するという行為を繰り返していたのである。
「本当に、ばっかみたい・・・」
あんな、ダサくて冴えない芋虫みたいな男が自分の勇者様だと、そんな風に考えていた自分を罵ってやりたいくらいに、少女は自分の過去を恥じていた。
そして、冷静になればなるほどに、自分の行為の愚かさ、浅ましさ、滑稽さにいたたまれなくなり、心なんて無くなってしまえばいいと、全部忘れてしまえばいいと、そんな後悔の涙を流すのだった。
父親からも、母親からも、祖父母も誰も、彼女の誕生を望んではいなかった。
何故なら少女は、不義による一夜の過ちで生まれた子供だったからだ。
貴族の男が、戯れに夜伽を申し付けた下女を孕ませたという、そんな忌み子。
男児の跡取りを欲していたその家は少女を軽んじて、当初は使用人の子として育てたが、結局跡継ぎが生まれる事無く当主が没して、嫡子をその少女にするしか無くなった事で家に迎え入れられたが、10歳から始める貴族の英才教育は通常の2倍の量をこなさなくてはいけない苛烈なものであり、愛も情けも知らない少女に向けられた期待は、およそ少女の手に余るほどの熱量を期した。
そんな少女の唯一の心の支えとなったのが、御伽噺の勇者の英雄譚であった。
現実は理不尽で過酷で苦しいものだったが、勇者の英雄譚は見るものに勇気を与えて、そして幼い少女の心を幾度となく奮い立たせてくれた。
その時からきっと、少女の心は、勇者に囚われて、依存していたのだろう。
だから少女が、自分を救ってくれた少年に心を奪われるのも必然だったのだ。
両親から愛されず、そして革命により両親を失い、母方の実家に父親の違う姉とともに帰省して、何にも執着せずに生きてきた。
そんな少女が初めて執着し、裏切られた。
その時に少女の心は、真っ暗な闇へと落ちていったのだ。
愛されない事、選ばれない事、必要とされない事。
それは少女にとっての傷であり、急所であり、抉られた穿孔。
ぽっかり空いた隙間から、悲しみと苦しみと、どうにもならない闇が溢れ出す。
「はぁはぁ、うっ・・・」
気がつくと少女は、またナイフで胸を突き刺そうとしていた。
胸の疼痛を鎮めるために、空っぽの心を抉り出す為に。
昨日から何度も何度も、眠れずに気が滅入っては胸にナイフを突き刺して、その痛みで正気に返り、自身が調合した薬草で治療するという行為を繰り返していたのである。
「本当に、ばっかみたい・・・」
あんな、ダサくて冴えない芋虫みたいな男が自分の勇者様だと、そんな風に考えていた自分を罵ってやりたいくらいに、少女は自分の過去を恥じていた。
そして、冷静になればなるほどに、自分の行為の愚かさ、浅ましさ、滑稽さにいたたまれなくなり、心なんて無くなってしまえばいいと、全部忘れてしまえばいいと、そんな後悔の涙を流すのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる