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第2章 〇い〇く〇りん〇ックス
第9話 心に従うという事
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翌日、俺はケン兄に少しでも闘技祭で勝てるようにと稽古を付けてもらった。
ケン兄の徴兵は初期の初期だった為に、ちゃんとした訓練期間が設けられていた為に、最低でもCランク冒険者相当の実力が養われる新兵訓練所をケン兄は卒業していて、ケン兄はそこでAランク相当の実力まで腕を上げて首席で卒業したらしい。
それでエリート部隊である、後方魔術支援課に配属されたのだとか。
だから魔術、格闘技、戦闘技術、身体能力、全てにおいてケン兄は俺の師匠になれるだけの素養があったという話だ。
それで俺はついでに乞食で無一文のケン兄に、少しでも先立つものを稼がせようと、稽古をつけてもらう片手間に、ギルドでBランク相当の依頼を受けて、山まで赴いて魔物を狩りに来たのであった。
「なんだライア、筋がいいじゃないか、もしかして誰かに稽古をつけて貰ってたのか?」
安物の剣でDランクの魔物であるスカベンハイエナを手こずりながらも無傷で討伐した俺に、ケン兄はそう賞賛の言葉をかけた。
「いいや、ただレベル上げの為にネームドからドラゴンまで、文字通り死ぬ様ような目に遭う死線をくぐり抜けた経験があるってだけだよ」
「そっか、村も平和かと思ったら以外と危ないんだな、・・・だったらやっぱり、俺も家に帰った方がいいのかな?」
「確かに、ケン兄ちゃんがいたらそりゃもう色々と助かると思うけど、でも村の防衛機能という意味ではヤバい魔王とヤバい魔神がいるんだよね、だから鳳凰が攻めて来ない限りは今は安泰っていうか、半年は大丈夫っていうか」
「ヤバい幼女ってなんだよ、もしかしてクロっちの事?、あいつ、やっぱりとんでもない奴だったのか?」
「まぁそんな感じ、そこいらのAランクネームドモンスターレベルなら片手で捻り潰すバケモンだから、だから村に関しての心配は無いかな、俺はとばっちりを受けただけだし」
「そうか、ならやっぱり、脱走兵の俺なんかいない方がいいよな、バレたら問題になるだろうし」
「まぁ多分、戦争ももうすぐ終わるだろうし、終戦してから帰るのがいいんじゃないかな、その方が格好もつくだろうし」
「終戦って何か根拠があるのか?、聖女が魔王と休戦協定を結んだとか」
「まぁ、それに近い話かな、あ、そうだケン兄ちゃんはリューピンが今何やってるか知ってる?」
「アニキ?、いや、何も知らないけど、まさかアニキが関係あるのか?」
「そ、信じ難い話だけど、この内乱の2面戦争は、リューピンが聖女派で暗躍して作り出したものらしいんだよ、だから、そのうちリューピンが討たれて聖女派と騎士団派も仲直りするだろうし、それで【魔王】も【勇者】もいなくなって魔族との戦争も有耶無耶になるんじゃないかなっていう、俺の希望的観測だけどね、でも、ま、多分現実になると思うよ、だって、この世の真の魔王はフエメだから」
「アニキがこの乱世を作ったのか・・・すげぇ、流石アニキだぜ、てか真の魔王がフエメってどういう事だ、あのお姫様が【勇者】になったとかそういう話になるのか?」
「まぁ、当たらずも遠からず、いや、フエメのジョブは【女傑】なんだけどね、【魔王】を手なずけたから、そのうちフエメが魔王になるかも、って感じかな」
「うーん、よく分からんが、取り敢えず、お姫様がこの戦争を終わらせるって事でいいのか?」
「うん、フエメがこの世界を征服して、差別も格差も暴力も無い、平等で平和な世界を作ってくれるって事でいいよ、フエメは街でも人望あるみたいで、社交界にも進出するみたいだし、順当に王国の内側から世界を変革していく、そんな圧倒的な支配者になるし、それできっと戦争は終わるよ」
「なんか壮大でイメージは出来ないけど、でも【魔王】を味方につけてるなら戦争をする理由も無くなるか、じゃあ俺はもうしばらく潜伏する事にするぜ、冬さえ越せるなら山篭り自体は温ゲーだしな、っと、こいつが今回の獲物であるBランクネームド、リンシャンタイガーの王、通称『影虎』か、手強そうだが、どうだ、やれるか?、10秒生き延びるだけでも上出来だが」
「うん、取り敢えずやってみるよ、ま、死んでもケン兄に生き返らせて貰える訳だし」
「生き返ると分かってても死ぬのは怖いもんだろ、なんかお前、いつの間にか人間として大切なネジがぶっ飛んでやがるな」
凶悪なBランクネームドに真正面から対峙した俺に対してケン兄はそう返すが、俺も、正気で『影虎』とタイマン張っている訳では無い。
結局、昨日の、ナルカとの会話があまりにも不甲斐なくて、情けなくて、自分の弱さでナルカを傷付けた後悔が今になって怒涛の如く押し寄せて来るから。
その罪悪感を振り払うように、『影虎』に鬱憤を八つ当たりさせているだけだ。
『影虎』は咆哮し、俺を押し潰すような勢いで飛び掛る。
無論、全ステータスオールEの俺に正面から受けとめられるものでは無い、だから、前に飛び退いて間一髪で避ける。
と、そこで『影虎』は背後に回った俺ではなく、そのままケン兄の方へと駆け抜けた。
恐らく、脅威の低い俺を無視して、脅威になるケン兄を先に潰そうという考えだろう、流石にBランクネームドクラスともなると、そういう冷静な状況判断は当然の様にしてくるものであった。
「まぁ、今のライアには流石に相手にならんよな・・・、──────風よ《ウインド》」
ケン兄は簡易詠唱の風魔術で、しかし簡易詠唱とは思えない威力の烈風で『影虎』を浮き上がらせる。
「雷神の怒りよ、雷槍となりて我の敵を突き刺せ《サンダーボルト・スピア》」
そして間髪入れずに上級魔法で無防備になった『影虎』を串刺しにして討伐する。
「すごい、・・・Bランクネームドを瞬殺かよ、これがAランク魔術師の力・・・」
「まぁ俺は冒険者登録してないからAランクでは無くてあくまで相当だけどな、てかあの地獄を生き抜くには多分、Aランクでも足りねぇんだ、魔族の精鋭はSランクと言っても過言じゃないし、そいつにAランクの実力者が何人もやられてるしな」
「にしてもすごいよ、これだけ実力あれば乞食しなくても普通に冒険者としてやっていけるじゃん、なんで乞食なんてやってたんだ?」
「いや、俺も最初はサティ市のギルドで冒険者になってたまに村に帰る感じで生活しようとしてたんだが、何故か指名手配されてた上に門前払いを受けてな、なぁ、下着泥棒ってどういう事なんだ?」
つまり、何故か下着泥棒として指名手配されてたから、ケン兄は冒険者になれなかったという訳か。
「いや、俺は知らないけど、ケン兄ちゃんじゃないなら下着泥棒のそっくりさんがいるとか、そういう話なんじゃないか」
「だとしたら迷惑な話だな、とりあえず、今の俺なら指名手配の似顔絵と違うし大丈夫かな?」
「どうだろう、似顔絵は抽象的で誰にでも似てる感じだったし、それに、今の世の中だったらAランク冒険者ってめちゃくちゃ希少な存在だし、実力隠せるならいいけど、Aランクだってバレたら結構ヤバいんじゃないの?」
「確かに、余計な火種は作らない方がいいな、てかだとしたら、『影虎』の討伐もヤバいんじゃないのか?、こんなん倒したら普通に疑われる話だろう」
「それについては大丈夫だよ、俺、口上手いから、うまく誤魔化すの得意だし」
「流石詐欺師の息子だな、そういう仕事はお手の物ってか、まぁ覗き魔の息子の俺が言えた話でもないか、見たくねぇもんいっぱい見てきた訳だし」
「取り敢えず、もう少し訓練付き合ってよ、ケン兄ちゃんに稽古して貰えれば、それなりの腕にはなりそうだし」
「まぁお前は心構えだけなら既に戦士だし、ちょっとコツを教えて軽く訓練するだけで結構いい所いけるかもな、じゃあ次は実践的な訓練をするぞ」
その後俺は日が暮れるまで山でケン兄に稽古をつけて貰った。
教えて貰ったのはスポーツであるような、左から来た攻撃に右手で対応しないとか、半身になった時の重心の置き方とか、咄嗟の攻撃に目を瞑らなくなるようにする訓練とか。
よくある「決まり事」の訓練をして貰った。
一朝一夕で戦闘技術や能力の向上は見込めない、故に、一流の兵士だったケン兄は、こういう「決まり事」を体に覚えさせる事によって、素人が犯す致命的なミスを減らし、そして基礎を養うことで俺本来の持ち味を決闘に生かせる機会を増やそうという狙いだった。
「ふぅ、今日はこれまでだな、まぁお前は不意打ちのセンスだけは間違いなく一級品だから、それをうまく生かせば、格上相手にも勝ち目はあるさ、俺も反射神経が訓練される前だったら多分、お前の一撃を貰ってただろうし」
「お、おす、ご指導、ありがとうございました・・・」
クタクタになった俺は銭湯で汗を流した後、軽く変装をして、ゆる楽亭へと向かった。
「へー、ここが可愛い女の子がいっぱいいるお前のオススメの店か、なんか、居酒屋にしては華やかな感じでいいな」
「まぁちょっと女性向けな感じでオシャレ感もあるからね、それで、ここの唐揚げがオススメで人気メニューかな、特性のタレに漬け込んだ地鶏を香味油で揚げててジューシーかつスパイシーで、一度食べたら手作り唐揚げは一生食えなくなるレベルなんだよ」
「へー、それは美味そうだな、じゃあ『影虎』の報酬でパーッといくか!、昨日は奢って貰ったし、今日は俺の奢りでいいぞ」
『影虎』の討伐報酬はBランクネームドなのに50万と、かなりしけていた。
まぁ、治安維持の為にギルドが依頼主である任務は相場の半分以下になるし、報酬が安いからこそ売れ残りの任務になっていたのだが、相場は300万くらいだと思うので、これはかなりぼられた報酬だったが。
ちなみにBランクネームドの討伐について俺は、前回の『男爵』の件を引き合いに出して、ガス爆発を使えばBランクネームドも倒せるかもしれないと実験をした結果だと報告した。
それ故に『影虎』の首にも匂い玉と焦げカスの匂いを刷り込ませる事になったが、まぁそれで『男爵』の件もうまく誤魔化せて、一石二鳥の成果を出せたという訳だ。
「いらっしゃいませ、2名様でよろしいでしょうか?」
「はい」
「テーブル席へどうぞ」
バイトの女の子に案内され席に着いた俺は先ずナルカの姿を探した。
目立つ赤髪なのでいれば直ぐに見つかるのだが、どうやら今日は休みのようだった。
わざわざ変装して様子を見に来たのだが、不在というのは少しやるせない話だ。
「へー、確かに女の子みんなかわいいな!、それでライア、どうしたんだよ、なんか店に入った途端元気なくね?」
「・・・まぁ色々とね、変装してる事から察して欲しい所だけど」
「って事はあれか?、ここがお前がフラれた子のいる店って事か、お前よくそんな所に行こうと誘ったなぁ」
「・・・一人だと変装してもバレそうだけど、二人ならバレないかなーって、それにまぁ、あれは俺の落ち度というか不甲斐なさ故の過ちだったし、なんかとてつもなくヤバい嘘をついたっていう、そういう手応えというか実感があったから、気になるっていうか・・・」
「ふーん、じゃあ俺が聞いてやるよ、すみませーん、店員さーん」
「あ、ちょっ・・・」
俺が止めるのも無視して、ケン兄は店員を呼んだ、俺は身バレしないようにと帽子を深く被って目線を逸らした。
「すみません店員さん、俺あの、赤髪の子目当てで今日来たんですけど、今日は休みっすかね?、次いつ来るかとか分かりますか」
「すみません、ナンパ目的なら帰って貰えますか?」
「あ、いえ、そういうんじゃくて、ただ俺、あの子の元気な姿見てると癒されるっていうか、辛くて悲しい事ばかりの現実だけど頑張ろうっていう勇気貰えるっていうか、そういう感じで勝手に元気貰ってただけなんでナンパとかじゃないんスけど、ただいつもはいるのに今日いないのは、辞めたのかなーって気になっただけで、休んでるだけなら別にいいんすけど」
と、俺が言うのも何だが、ケン兄もあの村の住人なだけあって、結構な演技派だった。
そのケン兄の剣幕に、バイトの女の子も真摯さを感じたのか固く結んだ口を緩めた。
「・・・まぁ、ちょっと色々あって、体調崩しちゃったみたいです、暫くしたら治ると思うんですけど、・・・ただ、本当によくない風邪を拗らせちゃったんで、だから・・・」
「・・・そうなんですね、じゃあ今度花でも買ってきたら、届けて貰えますかね?、見舞いの品って事で、まぁ迷惑なら別にいいんですけど」
「・・・まぁ、考えておきます、でも、ナンパ目的なら捨てますけど」
「じゃあ俺は大丈夫ですね、だって俺は、全くナンパとか考えてませんから、それじゃ注文しますね」
そう言ってケン兄は適当に注文して、俺に話を振った。
「それでお前、お前は様子見に来てどうしたいんだ、正直女の子を泣かせるお前は最低のクズ野郎だが、そんなお前にも事情がある事くらい俺も分かってる、今日だって真面目にしてる風で上の空だったしな」
「俺、は・・・」
やはり幼なじみでもあるケン兄には、俺が真面目なのか真面目にしてる風の演技なのかも見抜けるようだった、そういう点でも、俺はケン兄には何一つ敵わないのかもしれない。
でも俺自身、ナルカが吹っ切れていれば俺の罪悪感も薄まるという期待だけで店に来た。
何がしたい訳でも無い、ただナルカが俺を忘れてくれてたらいいなというだけの浅い考えで。
だから、ナルカが今も苦しんでいる時に、何をしたらいいかなんて考えてすらないし、答えも分からない話だ。
あの時の俺は、ナルカに対して真剣じゃ無かったし、浅い付き合いだから適当に接したし、ナルカの気持ちに動揺して、「拒絶」を目的にした何の得もない嘘をついてしまった。
嘘は、自分の為につくものではなくてはならない。
それは俺が嘘をつく上で常に前提となっていたルールであり、ナルカへの嘘にはそれが殆ど含まれていなかった。
だからそんな嘘で拒絶されたナルカがどうなるのか、俺は考えていなかったし、それ故に傷付けた事に後悔しているという状況。
そんな俺の、本来胸の内に秘めるべき感傷を、俺はケン兄に赤裸々に語った。
「・・・そうか、多分、俺にもお前の気持ち分かるよ、初恋したっていっただろ、その人は俺の上官で直属の上司だったんだけど、ゾンビ作戦の過酷さに心を病んで、それで自殺しちゃったんだ、・・・俺自身、ゾンビ作戦なんてやってる俺が恋とか烏滸がましいとか考えてて、・・・その人が「これ以上は無駄だから君だけでも脱走して、責任は全部私がとるから」って言った時も、一人だけ逃げるのが怖くなって、「あなたがいる限り俺は平気ですから、だから俺は何があっても逃げません」って返したんだ、今思えばあれは、きっと「私を連れて一緒に逃げよう」って意味だったのに、立場が、環境が、そういう素直な気持ちを言葉に出来なくするんだよな。
・・・だから俺には、お前の気持ちが分かる、お前にも徴兵とか闘技祭とか、色々と抱えてるものがあるもんな」
と、ケン兄は、ひどく情けなくて自分勝手な告白をした俺に対しても、優しい言葉をかけてくれた。
俺の知ってるケン兄は俺とそんなに変わらない、遊びたい盛りで幼稚で自由きままな、そんな人間だった筈なのに、戦地という過酷な環境が、ケン兄をここまでの人格者に変えたのだろう。
そして俺は、ケン兄が俺の抱えている【勇者】や村の対立や徴兵などのもろもろの問題、その全てを理解してくれたような気がして、その場でみっともなく号泣してしまった。
それも仕方ない話だろう、俺は嘘つきでひねくれ者だけど、それ以前に16歳になったばかりのガキでしかないのだから。
「うぅっ・・・、ケン兄っ、俺っ、俺っ・・・」
「辛いよな、自分を騙して他人を不幸にしてしまうのって、世界がもっと自由で優しく出来ていたら、悲劇なんて起こらないのにって、やるせないよな」
急に店で号泣しだした俺を周囲の客たちは奇異の目で見るが、ケン兄は気にせずに続けた。
「ライア、この悲しみに満ちた世界で、俺たちが後悔しないようにする事は多分、一つしか無いんだと、俺は思う」
「それは、何・・・?」
「まぁ、詐欺師の息子で大嘘つきのお前に言うのも変な話だが、それは自分に正直に生きる事、自分の心に従う事、自分のやりたくない事はやらない事だ。
・・・まぁ、軍人としてやりたくない事をいっぱいやった俺だからこそ言える事だが、やりたくない事をすれば自分の心を壊す、だから、自分らしく生きるならば、自分に嘘をつくのだけは、絶対にやっちゃいけないって事だ、そんなので騙し騙しやっていたとしても、治世ならそれで何とかなっても、乱世ならいずれは「取り返しのつかない選択」を強要される。
・・・たとえば、「恋人を助けるか友達を助けるか」みたいにな、だから、そうなった時に合理性で選ぶんじゃなくて、本能で選ぶようになる事が、後悔しない為に、人間として、一番大切な事なんだと、俺は思う」
「──────────っ」
そうだ、自由に生きる事、それこそが俺の夢であり、もっとも遵守すべき矜恃だった筈だ。
それを、ナルカの人生にとって俺は不要だと、俺と関わらない方がいいと、勝手に決めつけて、それで自分に嘘をついてまでナルカを傷付けたからこそ、俺はこんなにも傷ついているのだ。
きっと、このまま関係を終わらせれば、お互い傷ついたまま、その傷を残して、お互いの事を忘れて生きる事も出来るのだろう。
だが、それは俺の主義に反する行いだし、そもそも自分に嘘をついている時点でそんなのは欺瞞だ、俺の真実では無い。
本音と本音でぶつからないと分からない事もあるだろう、俺は、ナルカが何かを抱えていると知って、それ故にナルカから距離を置こうと考えたが、それこそが間違いだったのだ。
お互いをさらけ出しもしないで、上辺だけで接して、それで傷つくなんて馬鹿げているとしか言えない。
だから俺は覚悟を決めた、本音でぶつかる覚悟を、自分の心に従う覚悟を、ナルカの真実を受け止める覚悟を、全部決めた上で俺は自分が何をしたいのかをあらためて胸の内に問うと、答えはすんなりと出た。
「・・・迷いは、吹っ切れたみたいだな」
「・・・うん、もう俺は嘘をつかないよ、少なくとも、自分自身には」
俺が変装を解くとバイトの女の子に水をかけられたが、「ナルカと話がしたい」と言うと、今度は「警察を呼ぶ」と言われ、渋々引き返した。
だが俺は諦めない、ナルカと会って話をして、素直な気持ちを伝えようと、そう心に決めたから。
その後は別の居酒屋で適当に飯を食って、ケン兄はそのままキャバクラに繰り出して別れた。
ケン兄の徴兵は初期の初期だった為に、ちゃんとした訓練期間が設けられていた為に、最低でもCランク冒険者相当の実力が養われる新兵訓練所をケン兄は卒業していて、ケン兄はそこでAランク相当の実力まで腕を上げて首席で卒業したらしい。
それでエリート部隊である、後方魔術支援課に配属されたのだとか。
だから魔術、格闘技、戦闘技術、身体能力、全てにおいてケン兄は俺の師匠になれるだけの素養があったという話だ。
それで俺はついでに乞食で無一文のケン兄に、少しでも先立つものを稼がせようと、稽古をつけてもらう片手間に、ギルドでBランク相当の依頼を受けて、山まで赴いて魔物を狩りに来たのであった。
「なんだライア、筋がいいじゃないか、もしかして誰かに稽古をつけて貰ってたのか?」
安物の剣でDランクの魔物であるスカベンハイエナを手こずりながらも無傷で討伐した俺に、ケン兄はそう賞賛の言葉をかけた。
「いいや、ただレベル上げの為にネームドからドラゴンまで、文字通り死ぬ様ような目に遭う死線をくぐり抜けた経験があるってだけだよ」
「そっか、村も平和かと思ったら以外と危ないんだな、・・・だったらやっぱり、俺も家に帰った方がいいのかな?」
「確かに、ケン兄ちゃんがいたらそりゃもう色々と助かると思うけど、でも村の防衛機能という意味ではヤバい魔王とヤバい魔神がいるんだよね、だから鳳凰が攻めて来ない限りは今は安泰っていうか、半年は大丈夫っていうか」
「ヤバい幼女ってなんだよ、もしかしてクロっちの事?、あいつ、やっぱりとんでもない奴だったのか?」
「まぁそんな感じ、そこいらのAランクネームドモンスターレベルなら片手で捻り潰すバケモンだから、だから村に関しての心配は無いかな、俺はとばっちりを受けただけだし」
「そうか、ならやっぱり、脱走兵の俺なんかいない方がいいよな、バレたら問題になるだろうし」
「まぁ多分、戦争ももうすぐ終わるだろうし、終戦してから帰るのがいいんじゃないかな、その方が格好もつくだろうし」
「終戦って何か根拠があるのか?、聖女が魔王と休戦協定を結んだとか」
「まぁ、それに近い話かな、あ、そうだケン兄ちゃんはリューピンが今何やってるか知ってる?」
「アニキ?、いや、何も知らないけど、まさかアニキが関係あるのか?」
「そ、信じ難い話だけど、この内乱の2面戦争は、リューピンが聖女派で暗躍して作り出したものらしいんだよ、だから、そのうちリューピンが討たれて聖女派と騎士団派も仲直りするだろうし、それで【魔王】も【勇者】もいなくなって魔族との戦争も有耶無耶になるんじゃないかなっていう、俺の希望的観測だけどね、でも、ま、多分現実になると思うよ、だって、この世の真の魔王はフエメだから」
「アニキがこの乱世を作ったのか・・・すげぇ、流石アニキだぜ、てか真の魔王がフエメってどういう事だ、あのお姫様が【勇者】になったとかそういう話になるのか?」
「まぁ、当たらずも遠からず、いや、フエメのジョブは【女傑】なんだけどね、【魔王】を手なずけたから、そのうちフエメが魔王になるかも、って感じかな」
「うーん、よく分からんが、取り敢えず、お姫様がこの戦争を終わらせるって事でいいのか?」
「うん、フエメがこの世界を征服して、差別も格差も暴力も無い、平等で平和な世界を作ってくれるって事でいいよ、フエメは街でも人望あるみたいで、社交界にも進出するみたいだし、順当に王国の内側から世界を変革していく、そんな圧倒的な支配者になるし、それできっと戦争は終わるよ」
「なんか壮大でイメージは出来ないけど、でも【魔王】を味方につけてるなら戦争をする理由も無くなるか、じゃあ俺はもうしばらく潜伏する事にするぜ、冬さえ越せるなら山篭り自体は温ゲーだしな、っと、こいつが今回の獲物であるBランクネームド、リンシャンタイガーの王、通称『影虎』か、手強そうだが、どうだ、やれるか?、10秒生き延びるだけでも上出来だが」
「うん、取り敢えずやってみるよ、ま、死んでもケン兄に生き返らせて貰える訳だし」
「生き返ると分かってても死ぬのは怖いもんだろ、なんかお前、いつの間にか人間として大切なネジがぶっ飛んでやがるな」
凶悪なBランクネームドに真正面から対峙した俺に対してケン兄はそう返すが、俺も、正気で『影虎』とタイマン張っている訳では無い。
結局、昨日の、ナルカとの会話があまりにも不甲斐なくて、情けなくて、自分の弱さでナルカを傷付けた後悔が今になって怒涛の如く押し寄せて来るから。
その罪悪感を振り払うように、『影虎』に鬱憤を八つ当たりさせているだけだ。
『影虎』は咆哮し、俺を押し潰すような勢いで飛び掛る。
無論、全ステータスオールEの俺に正面から受けとめられるものでは無い、だから、前に飛び退いて間一髪で避ける。
と、そこで『影虎』は背後に回った俺ではなく、そのままケン兄の方へと駆け抜けた。
恐らく、脅威の低い俺を無視して、脅威になるケン兄を先に潰そうという考えだろう、流石にBランクネームドクラスともなると、そういう冷静な状況判断は当然の様にしてくるものであった。
「まぁ、今のライアには流石に相手にならんよな・・・、──────風よ《ウインド》」
ケン兄は簡易詠唱の風魔術で、しかし簡易詠唱とは思えない威力の烈風で『影虎』を浮き上がらせる。
「雷神の怒りよ、雷槍となりて我の敵を突き刺せ《サンダーボルト・スピア》」
そして間髪入れずに上級魔法で無防備になった『影虎』を串刺しにして討伐する。
「すごい、・・・Bランクネームドを瞬殺かよ、これがAランク魔術師の力・・・」
「まぁ俺は冒険者登録してないからAランクでは無くてあくまで相当だけどな、てかあの地獄を生き抜くには多分、Aランクでも足りねぇんだ、魔族の精鋭はSランクと言っても過言じゃないし、そいつにAランクの実力者が何人もやられてるしな」
「にしてもすごいよ、これだけ実力あれば乞食しなくても普通に冒険者としてやっていけるじゃん、なんで乞食なんてやってたんだ?」
「いや、俺も最初はサティ市のギルドで冒険者になってたまに村に帰る感じで生活しようとしてたんだが、何故か指名手配されてた上に門前払いを受けてな、なぁ、下着泥棒ってどういう事なんだ?」
つまり、何故か下着泥棒として指名手配されてたから、ケン兄は冒険者になれなかったという訳か。
「いや、俺は知らないけど、ケン兄ちゃんじゃないなら下着泥棒のそっくりさんがいるとか、そういう話なんじゃないか」
「だとしたら迷惑な話だな、とりあえず、今の俺なら指名手配の似顔絵と違うし大丈夫かな?」
「どうだろう、似顔絵は抽象的で誰にでも似てる感じだったし、それに、今の世の中だったらAランク冒険者ってめちゃくちゃ希少な存在だし、実力隠せるならいいけど、Aランクだってバレたら結構ヤバいんじゃないの?」
「確かに、余計な火種は作らない方がいいな、てかだとしたら、『影虎』の討伐もヤバいんじゃないのか?、こんなん倒したら普通に疑われる話だろう」
「それについては大丈夫だよ、俺、口上手いから、うまく誤魔化すの得意だし」
「流石詐欺師の息子だな、そういう仕事はお手の物ってか、まぁ覗き魔の息子の俺が言えた話でもないか、見たくねぇもんいっぱい見てきた訳だし」
「取り敢えず、もう少し訓練付き合ってよ、ケン兄ちゃんに稽古して貰えれば、それなりの腕にはなりそうだし」
「まぁお前は心構えだけなら既に戦士だし、ちょっとコツを教えて軽く訓練するだけで結構いい所いけるかもな、じゃあ次は実践的な訓練をするぞ」
その後俺は日が暮れるまで山でケン兄に稽古をつけて貰った。
教えて貰ったのはスポーツであるような、左から来た攻撃に右手で対応しないとか、半身になった時の重心の置き方とか、咄嗟の攻撃に目を瞑らなくなるようにする訓練とか。
よくある「決まり事」の訓練をして貰った。
一朝一夕で戦闘技術や能力の向上は見込めない、故に、一流の兵士だったケン兄は、こういう「決まり事」を体に覚えさせる事によって、素人が犯す致命的なミスを減らし、そして基礎を養うことで俺本来の持ち味を決闘に生かせる機会を増やそうという狙いだった。
「ふぅ、今日はこれまでだな、まぁお前は不意打ちのセンスだけは間違いなく一級品だから、それをうまく生かせば、格上相手にも勝ち目はあるさ、俺も反射神経が訓練される前だったら多分、お前の一撃を貰ってただろうし」
「お、おす、ご指導、ありがとうございました・・・」
クタクタになった俺は銭湯で汗を流した後、軽く変装をして、ゆる楽亭へと向かった。
「へー、ここが可愛い女の子がいっぱいいるお前のオススメの店か、なんか、居酒屋にしては華やかな感じでいいな」
「まぁちょっと女性向けな感じでオシャレ感もあるからね、それで、ここの唐揚げがオススメで人気メニューかな、特性のタレに漬け込んだ地鶏を香味油で揚げててジューシーかつスパイシーで、一度食べたら手作り唐揚げは一生食えなくなるレベルなんだよ」
「へー、それは美味そうだな、じゃあ『影虎』の報酬でパーッといくか!、昨日は奢って貰ったし、今日は俺の奢りでいいぞ」
『影虎』の討伐報酬はBランクネームドなのに50万と、かなりしけていた。
まぁ、治安維持の為にギルドが依頼主である任務は相場の半分以下になるし、報酬が安いからこそ売れ残りの任務になっていたのだが、相場は300万くらいだと思うので、これはかなりぼられた報酬だったが。
ちなみにBランクネームドの討伐について俺は、前回の『男爵』の件を引き合いに出して、ガス爆発を使えばBランクネームドも倒せるかもしれないと実験をした結果だと報告した。
それ故に『影虎』の首にも匂い玉と焦げカスの匂いを刷り込ませる事になったが、まぁそれで『男爵』の件もうまく誤魔化せて、一石二鳥の成果を出せたという訳だ。
「いらっしゃいませ、2名様でよろしいでしょうか?」
「はい」
「テーブル席へどうぞ」
バイトの女の子に案内され席に着いた俺は先ずナルカの姿を探した。
目立つ赤髪なのでいれば直ぐに見つかるのだが、どうやら今日は休みのようだった。
わざわざ変装して様子を見に来たのだが、不在というのは少しやるせない話だ。
「へー、確かに女の子みんなかわいいな!、それでライア、どうしたんだよ、なんか店に入った途端元気なくね?」
「・・・まぁ色々とね、変装してる事から察して欲しい所だけど」
「って事はあれか?、ここがお前がフラれた子のいる店って事か、お前よくそんな所に行こうと誘ったなぁ」
「・・・一人だと変装してもバレそうだけど、二人ならバレないかなーって、それにまぁ、あれは俺の落ち度というか不甲斐なさ故の過ちだったし、なんかとてつもなくヤバい嘘をついたっていう、そういう手応えというか実感があったから、気になるっていうか・・・」
「ふーん、じゃあ俺が聞いてやるよ、すみませーん、店員さーん」
「あ、ちょっ・・・」
俺が止めるのも無視して、ケン兄は店員を呼んだ、俺は身バレしないようにと帽子を深く被って目線を逸らした。
「すみません店員さん、俺あの、赤髪の子目当てで今日来たんですけど、今日は休みっすかね?、次いつ来るかとか分かりますか」
「すみません、ナンパ目的なら帰って貰えますか?」
「あ、いえ、そういうんじゃくて、ただ俺、あの子の元気な姿見てると癒されるっていうか、辛くて悲しい事ばかりの現実だけど頑張ろうっていう勇気貰えるっていうか、そういう感じで勝手に元気貰ってただけなんでナンパとかじゃないんスけど、ただいつもはいるのに今日いないのは、辞めたのかなーって気になっただけで、休んでるだけなら別にいいんすけど」
と、俺が言うのも何だが、ケン兄もあの村の住人なだけあって、結構な演技派だった。
そのケン兄の剣幕に、バイトの女の子も真摯さを感じたのか固く結んだ口を緩めた。
「・・・まぁ、ちょっと色々あって、体調崩しちゃったみたいです、暫くしたら治ると思うんですけど、・・・ただ、本当によくない風邪を拗らせちゃったんで、だから・・・」
「・・・そうなんですね、じゃあ今度花でも買ってきたら、届けて貰えますかね?、見舞いの品って事で、まぁ迷惑なら別にいいんですけど」
「・・・まぁ、考えておきます、でも、ナンパ目的なら捨てますけど」
「じゃあ俺は大丈夫ですね、だって俺は、全くナンパとか考えてませんから、それじゃ注文しますね」
そう言ってケン兄は適当に注文して、俺に話を振った。
「それでお前、お前は様子見に来てどうしたいんだ、正直女の子を泣かせるお前は最低のクズ野郎だが、そんなお前にも事情がある事くらい俺も分かってる、今日だって真面目にしてる風で上の空だったしな」
「俺、は・・・」
やはり幼なじみでもあるケン兄には、俺が真面目なのか真面目にしてる風の演技なのかも見抜けるようだった、そういう点でも、俺はケン兄には何一つ敵わないのかもしれない。
でも俺自身、ナルカが吹っ切れていれば俺の罪悪感も薄まるという期待だけで店に来た。
何がしたい訳でも無い、ただナルカが俺を忘れてくれてたらいいなというだけの浅い考えで。
だから、ナルカが今も苦しんでいる時に、何をしたらいいかなんて考えてすらないし、答えも分からない話だ。
あの時の俺は、ナルカに対して真剣じゃ無かったし、浅い付き合いだから適当に接したし、ナルカの気持ちに動揺して、「拒絶」を目的にした何の得もない嘘をついてしまった。
嘘は、自分の為につくものではなくてはならない。
それは俺が嘘をつく上で常に前提となっていたルールであり、ナルカへの嘘にはそれが殆ど含まれていなかった。
だからそんな嘘で拒絶されたナルカがどうなるのか、俺は考えていなかったし、それ故に傷付けた事に後悔しているという状況。
そんな俺の、本来胸の内に秘めるべき感傷を、俺はケン兄に赤裸々に語った。
「・・・そうか、多分、俺にもお前の気持ち分かるよ、初恋したっていっただろ、その人は俺の上官で直属の上司だったんだけど、ゾンビ作戦の過酷さに心を病んで、それで自殺しちゃったんだ、・・・俺自身、ゾンビ作戦なんてやってる俺が恋とか烏滸がましいとか考えてて、・・・その人が「これ以上は無駄だから君だけでも脱走して、責任は全部私がとるから」って言った時も、一人だけ逃げるのが怖くなって、「あなたがいる限り俺は平気ですから、だから俺は何があっても逃げません」って返したんだ、今思えばあれは、きっと「私を連れて一緒に逃げよう」って意味だったのに、立場が、環境が、そういう素直な気持ちを言葉に出来なくするんだよな。
・・・だから俺には、お前の気持ちが分かる、お前にも徴兵とか闘技祭とか、色々と抱えてるものがあるもんな」
と、ケン兄は、ひどく情けなくて自分勝手な告白をした俺に対しても、優しい言葉をかけてくれた。
俺の知ってるケン兄は俺とそんなに変わらない、遊びたい盛りで幼稚で自由きままな、そんな人間だった筈なのに、戦地という過酷な環境が、ケン兄をここまでの人格者に変えたのだろう。
そして俺は、ケン兄が俺の抱えている【勇者】や村の対立や徴兵などのもろもろの問題、その全てを理解してくれたような気がして、その場でみっともなく号泣してしまった。
それも仕方ない話だろう、俺は嘘つきでひねくれ者だけど、それ以前に16歳になったばかりのガキでしかないのだから。
「うぅっ・・・、ケン兄っ、俺っ、俺っ・・・」
「辛いよな、自分を騙して他人を不幸にしてしまうのって、世界がもっと自由で優しく出来ていたら、悲劇なんて起こらないのにって、やるせないよな」
急に店で号泣しだした俺を周囲の客たちは奇異の目で見るが、ケン兄は気にせずに続けた。
「ライア、この悲しみに満ちた世界で、俺たちが後悔しないようにする事は多分、一つしか無いんだと、俺は思う」
「それは、何・・・?」
「まぁ、詐欺師の息子で大嘘つきのお前に言うのも変な話だが、それは自分に正直に生きる事、自分の心に従う事、自分のやりたくない事はやらない事だ。
・・・まぁ、軍人としてやりたくない事をいっぱいやった俺だからこそ言える事だが、やりたくない事をすれば自分の心を壊す、だから、自分らしく生きるならば、自分に嘘をつくのだけは、絶対にやっちゃいけないって事だ、そんなので騙し騙しやっていたとしても、治世ならそれで何とかなっても、乱世ならいずれは「取り返しのつかない選択」を強要される。
・・・たとえば、「恋人を助けるか友達を助けるか」みたいにな、だから、そうなった時に合理性で選ぶんじゃなくて、本能で選ぶようになる事が、後悔しない為に、人間として、一番大切な事なんだと、俺は思う」
「──────────っ」
そうだ、自由に生きる事、それこそが俺の夢であり、もっとも遵守すべき矜恃だった筈だ。
それを、ナルカの人生にとって俺は不要だと、俺と関わらない方がいいと、勝手に決めつけて、それで自分に嘘をついてまでナルカを傷付けたからこそ、俺はこんなにも傷ついているのだ。
きっと、このまま関係を終わらせれば、お互い傷ついたまま、その傷を残して、お互いの事を忘れて生きる事も出来るのだろう。
だが、それは俺の主義に反する行いだし、そもそも自分に嘘をついている時点でそんなのは欺瞞だ、俺の真実では無い。
本音と本音でぶつからないと分からない事もあるだろう、俺は、ナルカが何かを抱えていると知って、それ故にナルカから距離を置こうと考えたが、それこそが間違いだったのだ。
お互いをさらけ出しもしないで、上辺だけで接して、それで傷つくなんて馬鹿げているとしか言えない。
だから俺は覚悟を決めた、本音でぶつかる覚悟を、自分の心に従う覚悟を、ナルカの真実を受け止める覚悟を、全部決めた上で俺は自分が何をしたいのかをあらためて胸の内に問うと、答えはすんなりと出た。
「・・・迷いは、吹っ切れたみたいだな」
「・・・うん、もう俺は嘘をつかないよ、少なくとも、自分自身には」
俺が変装を解くとバイトの女の子に水をかけられたが、「ナルカと話がしたい」と言うと、今度は「警察を呼ぶ」と言われ、渋々引き返した。
だが俺は諦めない、ナルカと会って話をして、素直な気持ちを伝えようと、そう心に決めたから。
その後は別の居酒屋で適当に飯を食って、ケン兄はそのままキャバクラに繰り出して別れた。
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