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第2章 〇い〇く〇りん〇ックス
第3話 クロの売却
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その日、俺はクロを連れてフエメの邸宅へと赴いた。
普段は全く俺の言う事など聞く耳を持たない自由人のクロだったが、先日の「時空の魔剣士プロメテウス事件」の甲斐もあってか、今日のクロは俺と二人きりにも関わらず、いつものように後ろからカンチョーしたりくっつき虫を背中にベタベタ貼りまくるような鬱陶しいイタズラを仕掛けてくることもなく、借りてきた猫のような不気味な大人しさで、俺の後を従順に付いてきた。
くどいようだが俺とクロは仲の悪い幼なじみだ、心の友の対義語、心の宿敵とでも形容すべきような間柄だ。
その関係性が【勇者】と【魔王】という、宿命の敵という運命に帰結したというのも、俺の主観で言えばいくらか妥当性のある話ではあった。
まぁ、俺はクロを葬る事に躊躇は無いだろうが、それでも俺の中に僅かに存在する良心の呵責、幼なじみであり幼女であるクロを手にかけるのは人としての超えてはいけないラインに当たるので、クロが成人して分別つくくらいになるまでは、それを実行する事は無いが。
だが俺にとってクロは死んだ妹ライムの身代わりであるが故に、愛する事も憎む事も出来ない微妙な相手なのだ。
故に、勇者という役割に沿ってクロを葬るという選択肢は、確かに俺の中に存在するものでもあった。
ちなみにクロが魔王である事は黒龍を退治したその日にメリーさんに聞いたが、俺が勇者である事はクロには秘密にしている。
当然だ、俺は本物の勇者となった今でも、もう一度レベルカンストさせて勇者から転職する事を目標にしているのだから。
──────────あの日、レベルカンストした【詐術師】のままでは、周りから【モンク】では無い事がバレて、面倒な仕事を押し付けられると思って取り敢えずレベルをリセットする為に転職しようと考えた俺の選択を、俺は生涯悔やみ続けるだろう。
フエメがそもそも伏線として教えてくれていたのだ、異常者のテーブルにいる俺は、転職すれば上位職に転職する可能性が高いと。
そして、【勇者】に擬態していた俺が転職して【勇者】になるのもまた、道理ではあった話なのだ、その伏線として【黒龍の因子】と【神狼の加護】という謎スキルまで手に入れてしまっていたのだから。
あの時点で、【勇者】の資格を十全に保有していたのだから、転職した俺が【勇者】になるのも必然だったのだ。
しかしだからと言って素直に「これからは勇者として世のため人のため精一杯頑張ります!」とはならないのが、超一級のひねくれ者である俺の本領発揮だ。
【勇者】を放棄する理由など、ひと月前から既にごまんと考えて結論を出した話なのだから、この思想だけは、仮に生まれ変わっても変わらない自信がある。
───────故に、今後、俺を勇者であると看破し、その義務を問うような人物が現れた場合、俺は全力でそいつを否定し、論破し、それが出来なければ逐電、蒸発して。
───────全身全霊、何がなんでも、俺は勇者という役割を放棄し、冒涜し、怠惰に悪辣に非常識に生きようと、そう心に誓ったのであった。
驚異的な推理力でクロが【魔王】である事さえも看破していたフエメの事だ、その上で俺が【詐術師】である事まで予想出来ていた、ならばきっと、今日の会談でフエメが俺の正体を看破するのは道理だろう。
だが今はフエメも協力者であり、そして“黄金山地”という金山の利権を獲得した立役者の手柄も上げさせて、俺はフエメに多大なる利益をもたらした存在だ。
ならば例え相手が魔王の百倍厄介なフエメだろうと、俺は引かぬ媚びぬ働かぬの精神で、俺の意思を貫いて見せようと覚悟を決めて、俺はフエメとの対談に望んだのであった。
「・・・それで、その幼女がンシャリ村に誕生した【魔王】という訳ね」
「・・・クローディア・カンベル、なのん」
クロは覇気のない顔で俯きがちに挨拶する。
そんな態度をフエメが訝しんでいたので、俺は「相手がお前だから緊張しているんだ」と適当に誤魔化した。
今回の対談は、積もりに積もったンシャリ村の怨念をどう清算するか、フエメと話し合った際に決着となった。
「ンシャリ村が武力を生業としていた武断派の村ならば、魔王を中心として覇業をなす時に必要になるし、魔王が世界征服した時にフエメが宰相として統治すれば、それでフエメの望む世界になる」と俺が説いた夢物語の、そのすり合わせが目的だ。
俺としてはフエメにクロを売ればそれで話は終わりだし、クロをコントロールするのも幼女なのでそんなに難しい話では無い。
フエメの財力ならばクロの望みを叶える事は容易いし、フエメの知性ならクロを支配下に置く事も容易だろう。
フエメが本当に世界征服なんてものを望むのかは不明だが、だが、この世で一番魔王という存在を上手く利用出来る人間の一人がフエメになるのも間違いない話だし、だからこの癒着は水魚の交わりのように運命的なものでもあると俺は考えている。
それに、クロが世界の全てを手に入れた瞬間に、俺が勇者としてクロを討伐して横取りしてもいいし、その時にまた何かしらの因縁をつけてクロを脅し、不労所得で一生働かずに過ごせる程度の領地を貰えれば、俺としても丸儲けの話な訳だし。
だから俺は、この場では極力フエメの協力者を装い、自分が勇者である事をバレないようにしつつ、クロをフエメに売り飛ばそうという考えだった。
「一応聞いておきたいのだけど、【魔王】の事を知っている人間は何人いるのかしら?」
「俺とメリーさんとウーナだけだ、ウーナに関しては、最初から【魔王】の捜索が目的で、そして聖女派がクロをどうこうするような事は恐らく無いという話だった」
ウーナは金還作戦の翌日に、用が済んだと帰って行ったが、その時に軽く挨拶をした時にウーナの真意を聞かせて貰った。
クロはウーナのメインディッシュとして認められたから、上手く聖女を説得して、クロの存在を無害であるとアピールするという話だった。
その代わりとして、クロの存在をシェーンを含めた魔族の陣営に明かさない事、村で人間の少女として普通の生活させる事を約束したのだが、まぁ、フエメの奴隷になって貰う事は、この約束を反故する事にはならないだろう、多分、きっと、ギリギリのラインで・・・。
「だとすれば、今の状態ならばこの子を外交のカードとして利用する事も出来るという事ね、例えば私が【魔王】を名乗っても誰もそれを確かめる事は出来ないし、私の背後に魔王がいると脅しをかけて取引をする事も出来る訳だし、最初からそういう利用方法を勘定に入れて秘匿していたのだとしたら、素直に賞賛してあげてもいいわ」
「・・・いや、それに関しては偶然だ、クロは自分を人間だと思っているから、それでメリーさんが気を利かせて【軍師】だと嘘をついただけで、それ以上でも以下でも無い偶然だ」
「そう、それで、その子のレベルは幾つなのかしら?、噂では黒龍とも殴り合ったと聞いたし、それなりのステータスにはなっているのでしょう?」
「・・・それに関してはメリーさんの機転でライセンスが偽装だから最新のステータスは分からないんだが・・・、クロ、ステータスを説明してくれ」
「・・・レベルは75で、ステータスはオールA、スキルは【覇者の大号令】【不死身の肉体】【魔王の誘い】、魔法は下級魔法一通りと、中級魔法は調教だけ、使えるのん・・・」
ちなみにクロは黒龍との一戦から更新をしなくなったので、これは最新のステータスでは無い。
おいしいとこ取りしただけの俺が一気にカンストしたのだから、黒龍との経験値も加味すれば90はあってもおかしくないだろう。
「宣告して僅かひと月でレベル75、驚異的ね、流石、魔族の最高位にして世界最強の存在である魔王の器だわ」
クロの出鱈目さにはフエメも舌を巻いたのか、初めて聞くような嫌味のない賞賛の言葉でクロを称えた。
「それでクローディア、先ずはあなたの野望を聞かせて貰えるかしら、自分が【魔王】だと知ったのならば、いえ、あなたが【魔王】に選ばれし者ならば、他の誰にも真似出来ないような、恣意的で独りよがりで誇大妄想な願いの一つや二つ、あって然るべき話でしょう?、私ならあなたの願いを叶えてあげられるし、だからこそ私はあなたの味方になれると、私はそう考えている、だから、先ずはあなたの夢を聞かせてくれるかしら」
ここからが本番だと言わんばかりに、フエメは人たらしの本領発揮でクロに寄り添うようにそう優しく言い聞かせた。
フエメの魔性は老若男女問わないものであるが故に、その言葉はクロの心にも刺さっただろう。
フエメは言葉一つで自分の為に死ぬ兵隊を量産する、そのレベルの魔性なのだから。
「クロの、クロの夢は・・・」
だが俺の知る幼女で遊びたいざかりの悪ガキのクロに、そんなおおそれた夢や目標なんかあるとは到底思えなかったし、予想通りフエメの質問にクロは言葉を詰まらせた。
「まだ見つからない?それとも自信を持って話せるほどはっきりとしない?、どんなものでもいいのよ、だって私たちは味方同士、どんな夢だとしても、私たちは協力し合う事で互いの夢を叶えられる筈なのだから」
「・・・クロの夢は、・・・まだ分からないのん、でも欲しいものは一つだけ、あるのん」
「それは何?聞かせてもらえるかしら?」
「クロが欲しいのは
──────────おとぎ話の中にある秘薬、人間になる薬、なのん、魔族は嫌なのん、人と違うのは嫌なのん、だからクロは、人間になりたいのん・・・」
人間になる薬、それはオデュッセウスのおとぎ話にある、魔物を人間に変える魔法の薬だ。
古の魔女が作り出したという、実在するかもあやふやな、ただの架空の舞台装置。
それを飲んで人間になった龍は、それでも愛した勇者を振り向かせる事は出来ず、最期は世界に裏切られた勇者を守ろうとするも人間の姿では力及ばずに、勇者と共に滅ぼされるという結末まで含めて皮肉に満ちたおとぎ話だが。
でも、俺がクロを魔族だからと差別しないとしても、仮に村の中でもクロを差別する人間がいないのだとしても、この偏見と悪意に満ちた世界でクロが普通の人間になりたいと願う事は至極当然の願いだったし、人間になりたいクロの想いは理解出来た。
だが、そんな存在するかも不明な薬など、フエメと言えども入手を確約出来るものでは無いだろう、それを担保にしてクロと取引するのであれば、フエメも俺と同じ詐欺師という事になるが。
しかし、その願いを聞いたフエメの言葉は俺の予想をいい意味で裏切ってくれた。
「──────────そう、人間になりたい、それも確かに人間的な要求であり、人間として育てられたあなたにとっては至極当然の願いよね」
フエメは役者だった。
みなしごの幼女にとって、男所帯である村長の家で育てられたクロにとって。
母性的で本能的に甘えたくなる年上の女性という仮面は、それだけでクロの心の隙間を埋められるものだったし。
それをフエメは理解して、弱点をつくようにクロにとって最善の仮面を被っていた。
俺はまるでメリーさんのように慈愛に満ちた偽りのフエメの表情に、内心吐き気を催していたが、母性に飢えているクロにとっては、それは麻薬のように覿面だった。
いや、俺もきっと、メリーさんという唯一無二の協力者がいなければ、フエメの偽りの笑顔に絆されていのは間違いないだろう、それほどまでにフエメの魔性は暴力的なのだから。
フエメの優しい声音に騙されて、アホな幼女でしかないクロは完全にフエメを信用し切っていた。
「──────────でも、人間になる薬なんてそんなもの、この世には存在しないわ、だって、人間は人間で、魔族は魔族、神が対立するように争うようにそう作り上げたものなのだから。
・・・例え、姿だけを人間に変えたとしても、あなたを完全な人間と認めない人間は必ずいる、だから、あなたの人間になりたいという願いを叶えたいのならば、人間になる薬では叶えられないものよ」
そして意外な事にフエメは、幼女に対してきちんと現実を突きつけた。
俺には信頼を得るためのパフォーマンスだとは分かっているが、だがそんなパフォーマンス無しでも雑に籠絡出来るのがフエメの本領発揮であり、クロと真剣に向き合う必要性も全く無い話だった筈だ。
だから俺はフエメがクロとどう向き合うのか、それが気になってフエメに尋ねた。
「クロが姿だけ人間になっても、魔族を憎み差別する一般人に、心まで人間にはなり切れないのは確かだし、だからこそようは心の持ちようで、クロが自分を人間かどうかを決めるのはクロの心次第だというのは俺も同意見だ。
・・・でも、姿を変える事を無意味と断じるのならば、お前はどうすればクロが人間になれると考えるんだ」
「簡単な話よ、この世界を、魔族も人間もいない、そう、魔族も人間も同じ生き物として扱う世の中にすれば、必然として魔族も人間も憎しみ合う必要も、争う必要も無くなるという話」
「魔族も人間も同じ生き物として扱う世界、だと・・・、そんなの、・・・夢物語だろ」
それは確かにクロの希望を叶える真の平等な世界になるだろうがとても実現可能だとは思えない夢物語だった。
そんな世界に根付いた価値観や対立や体制の、それらの世の摂理逆らうような世界が、簡単に実現出来る訳がないのだから。
「じゃあ犬、あなたはどうしたらこの世界が平和になると思う、何が世界に対立を生む原因だと考える?、少なくとも魔王に選ばれし者ならば、そんな世の秩序を否定して、新たな世界を創造する権利があると、私は考えているのだけれど」
「この世が乱れるのは単純に、搾取をしたい支配階級が、魔族を弱者として敵として定める事で国内の団結を図り、そしてそこから搾取し憎悪をスケープゴートする事で自分達の利益を得るというシステムを作ったからだ。
朝敵、夷狄、異民族、異人を迫害し敵と定めるのは国家運営を効率よくする為のシステムであり、それを無くしたら国内が群雄割拠と化して内乱の時代になるのは歴史が証明している、だから、外敵無くして国の安定は作れないというだけの残酷なシステムだと俺は考えているし、人間と魔族の戦争だって予定調和で、終わらない事で平和と繁栄を保つ事の出来るシステムでもあると俺はそう考えている、だから、平等で平和な世界なんて夢物語でしかない」
「まぁ、歴史が2000年も続けば、効率的で合理的な着地点がどこになるかくらい、愚かで愚民的な犬でも理解出来る話よね、でも、それは本当に人間にとっての最適解だと言えるのかしら」
「・・・どういう事だ?、世の中には搾取される少数の弱者がいないと成り立たないのは明らかな話だろう、それを無くして平等にすれば、今度は皆が無秩序に主権を主張して万人の闘争、内乱の時代になると歴史が証明している」
「だからあなたの考えは浅いのよ、犬、そんな本や歴史で聞きかじった知識だけに頼って物を考えるから、いつまでも本質を見ることが出来ない、仮に争いを無くす方法があるとすればそれは簡単、絶対王政で国民の9割が搾取されるべき民となり、軍権の全てを王家が掌握して、恐怖政治で国民を従わせれば、それだけで簡単に平和な世界に出来るものだもの、でも私が言ってるのは平和じゃなくて平等よ、それがどういう事か、もう一度あなたのその足りない頭でよく考えてみなさい」
平和ではなく平等、その意味について俺は熟考する。
今の世の中は果たして平等だろうか?。
魔族は生まれながらに奴隷の身分だったり、人間に過剰な徴税を受けたりと不遇ではあるが、人間側は身分制度こそあるが、職業は宣告によって決まる為に完全なる運頼りで自由であり、底辺職に宣告されても冒険者として自由に生きる事も出来るし、人間に関しては平等にも思えるが。
確かに既得権益の貴族や王族などは税金が免除されて安定した生活が保証されているが、しかし兵役が強制されたり、ノブレス・オブリージュと呼ばれるようなしがらみだってついて回る話だし、平民の方がいいという人間だっているだろう。
それに、王国は手柄を立てた人間ならば貴族に取り立てる事もままあるし、そこまで不平等な世の中だとは思わない。
だから、仮に今も滅ぼされずに王国というシステムが存在していたとしても、多くの国民は重税を課して贅沢をする貴族に不満を抱きこそすれ、それに疑問を抱く事は無かったように思える。
聖女が王国を滅ぼせたのもきっと、「無能な貴族の排斥と、貧しい農村の救済」というスローガンが、頭の弱い弱者にとって心地よい言葉だったから、という感想しか無い話だが。
だから戦時でなければ、王国は仮に暗君を輩出しようとも国民から憎まれることも無くつつがなく運営されていたと思う。
だから魔族の犠牲の上に成り立っている王国のシステムは人間にとっては平等で優しい世界だと、俺はそう思う。
だからこそ、俺はフエメのいう平等が何かよく分からなかった。
魔族は元々のこの世界の住人ではなく、異世界から突如出現し、そしてこの世界を征服しようとした悪者だ。
だから管理、搾取しなければ、力を持たせれば人間側に危害を加えるのも道理だし、そして、異界人である魔族を人間側が尊重しないのも道理である話なのだから。
だから、人間と魔族の平等など、俺のクソみそちんけな頭脳では、いかにしようと実現しない話であり、それを結論とするのは理解出来ない話だった。
無言で考え込む俺にしびれを切らしたのか、フエメは俺にヒントを授けるようにポツリと零した。
「この世は一見平等に出来ているけれど、でも、【宣告】に関しては残酷な話よね、だって、私がどれだけ渇望しても手に入れられないものを、あっさりと手に入れる人間がいる訳なのだから」
【宣告】、村一番の知恵者に【愚者】の役割を付与したり、田舎の腰の曲がった老婆に【狂戦士】の役割を付与したりする、完全ランダムに見えるが、たまに偶然とは思えない挙動も見せる、作為と不作為のシステム。
そう、【勇者】と【魔王】の誕生は予定調和であり、そして、その結末も予定調和されているもの。
魔族の反抗は【魔王】の存在に予定調和されて、人間の繁栄は【勇者】の存在に予定調和されるもの。
つまり、【勇者】がいるから、人間は繁栄し、魔族は負かされる。
それはきっと、運命づけられた、不条理で不平等な摂理という事だろう。
でももし、宣告が本当にランダムに選ばれるのだとしたら。
そこで俺は解を理解した。
「────────魔族が【勇者】になる時が来たら、その時は人間にとって暗黒の時代が来る、世の中は栄枯盛衰、腐敗と革命のいたちごっこで成り立つものであり、絶対的な支配など長続きはしない、だからお前は、人間の魔王になって、人間と魔族が対等である事を示し、それが本当の平等で平和な世界を作る事になると、そう説くという訳か」
いつか来るかもしれない魔族の【勇者】という転換期、その時に人類と魔族が憎しみ合ったままでは、人類は滅びるまで戦うしか無くなるし、魔族側も人間を許す事は無いだろう。
そして魔族より種としての強さが脆弱である人間は、その時に本当の地獄を見る事になるのだろう。
だからこそ、人間も魔族も平等であると、「その日」が来るまでに示さなくてはならない、という話。
杞憂に思えるかもしれないが、人間と魔族に違いが無いのであれば、魔族が勝つ日はいつか必ず来る、いや、【勇者】という唯一無二の存在に俺のようなクソ凡夫が選ばれてる時点で、魔族が下克上するような兆候は現れていると言ってもいい。
だからフエメの魔族と宥和政策を取るべきという主張は理解出来るし納得出来る。
そもそも王国の歴史だって200年くらいのもので、どんな栄えた王国にも栄枯盛衰は訪れるものだ、今はたまたま人間の方が勢力が多く、そして【勇者】が誕生し続けるから繁栄しているだけで、その繁栄は明確に期限付きのもの、だからこそ、そんな未来の無い愚かな繰り返しに終止符を打とうと、フエメはそう言っている訳だ。
フエメの深謀遠慮は遥か未来を見据えた真の名君のものであると素直に納得出来る程に、フエメの言っている事は正しいとそう思えた、何故なら俺は言葉の裏までフエメの考えを理解出来たからだ。
「そう、我々の感じている平等は、神の、確率の神の気まぐれで割り振られた偽りの繁栄でしかない、それにきっと、王国の隠蔽体質な歴史からすれば、人間の魔王や魔族の勇者という存在もおそらく存在していたし、魔族が異世界人で侵略者というのも王国の印象操作の可能性だってある訳だし、だからこそ、私たちは与えられた情報ではなく、本質で物事を考えて、未来の為に行動する必要があるという事よ」
「それでクロの力を使って人間の側から覇を唱えて新しい秩序を作る、という結論になる訳か・・・とんだ大事業だな」
つまりフエメは、魔王であるクロの力を頼りに本気で世界征服を考えているし、今は黄金山地のおかげで先立つものも増えて乱世という情勢だ、魔族の協力を取り付ければこの乱世に一旗上げることは容易い事だろう。
本気で世界の支配者になろうと考えているという話になる訳だ。
「もちろん、あなたにも協力して貰うわよ、犬、今度は5万デンとケチな事は言わないわ、もし私が世界を掌握したら、その時は金も女も地位も、好きなだけ与える事を約束するわ」
と、そこでフエメは抜け目なく俺を勧誘してきたが、当然やる気も働く気もない俺は、そんなフエメの誘いに対する解答は言われるまでもなく決まっていた。
「いや、俺はもう黄金山地の奪還とクロの救出というデカ過ぎる功績を二つも上げているし、先ずはその報酬を支払うのが先だろう?、それに、俺は自分で言うのもアレだが無欲な人間だ、金は一生働かなくていいだけあればいいし、女も金さえあれば自然と寄ってくるし、地位なんて邪魔なだけだからな、黄金山地の奪還の報酬さえ貰えれば、後は関与しないから、クロと一緒に平和で平等な優しい世界を勝手に作ってくれ、俺はこの村で穏やかに暮らせれば、それだけで十分だからな」
「金金って、無欲といいつつ浅ましいわね、・・・この報酬は、あなたが私の家来になった後で気持ちよく渡したかったものだけれど、今回は誠意として、渡す事にするわ、受け取りなさい」
と、フエメは控えていた従者であるメルにずっしりと金貨の入った袋を俺に渡させた。
「え・・・、・・・嘘だろ、こ、こんなに貰っていいのか!?、・・・これ金貨100枚で1000万くらいあるだろ、・・・こんなにあったら、一生働かずに暮らせるじゃねぇか!?」
村では自給自足で殆ど賄われる為に、最低限の支出に抑えれば、年に30万デンくらいでも余裕で生活は出来るだろう、つまり、この報酬だけで俺の勝ち逃げは確定した。
その瞬間、【勇者】として頑張っても報われず、たった一人で孤独な戦いをして、それで命懸けで過酷過ぎる冒険をした俺の二週間が、全て肯定されたような幸福感に包まれて。
俺はその瞬間の幸福だけを味わって死んでもいいような多幸感、全身を包み込む喜びの絶頂に号泣し、泣き崩れた。
「フエメ様!、ありがとうございます!フエメ様!、一生ついて行きます!、靴でもケツの穴でもなんでも舐めます!、芸が見たいと仰るなら公開オナ○ーでもなんでもします!!!」
「きも・・・、というか私の美貌に靡かない犬が、こんな小銭で人が変わったように喜ぶのは複雑過ぎるわね、あなたはこんな小銭で死んでも売らないと豪語していたプライドを簡単に売れるという事なの・・・?」
突如泣き崩れた俺にフエメはドン引きしていたが。
お嬢様のフエメには分からないだろうが、1000万は紛うことなき大金であり、その為に人を殺せるし、それで人を売り買いできるお金だ。
そもそも5万デンでいい?と舐めた搾取をしようとしていたフエメが急に1000万も払うのが予想外過ぎたし、俺の頑張りが正当に報われた瞬間というのが初めての経験だったので、それは俺の経験値を遥かに上回る出来事だった故に、こんなリアクションになるのも仕方ない事だった。
「・・・うぅ、・・・ぐすっ、後でこれが先払いの生涯賃金とかいうのは無しだからな、そしたら村を捨てて王都で物乞いになるからな!」
「・・・心配しなくても、それは今回の報酬という事で結構よ、犬の働きは、それに見合うだけの価値があった訳だし、それで、新ためて聞きたいのだけど、これで私の家来になる気は無いかしら」
「それは・・・」
何があってもフエメの下僕に身を落としてたまるかという反抗心は、金貨袋を貰った時に雲散霧消と消え去っていた。
今なら曇りの無い瞳でフエメの事が見える。
フエメは才色兼備、天衣無縫、聡明叡智な真の名君であり、フエメの作る世界は、きっと今よりももっと素晴らしいものになるし、そんなフエメを支える仕事は、やりがいに満ちた素晴らしいものになるだろう。
普通の人間ならば喜んでお供しますと答えるに決まっているし、曇りの無い瞳でフエメを見られる今の俺ならば、真の名君であるフエメに尽くす事もやぶさかではなかった。
しかし。
「誘いは嬉しいし、俺だって君の力になりたい気持ちはあるけど、でも、俺には俺の夢があるんだ、だから、君と一緒の道には進めない、・・・ゴメン」
涙を拭って、曇りの無い瞳で俺はフエメの瞳を見つめ返す、その迷いの無い顔にフエメは気圧されたように、視線を逸らしつつ言葉を返した。
「そう、参考までに聞かせてもらえるかしら、あなたの夢とは何?」
「俺の夢は、自由でいる事、・・・自分の好きなように生きて、好きなように死ねる事、・・・かな、他人の為に、とか、誰かの為に・・・、みたいな理想は、俺とは真逆の思想だから、だから、どれだけ君の理想が素晴らしくても、俺とは相容れないもので・・・、だからゴメン」
「・・・つまり、これからも寝てばかり遊んでばかり怠けてばかりの生活をしていたいから、私に協力はしたくないと、そういう事になるのね」
「ああ!、だけど金に困ったらまた仕事を貰いに来るし、そん時は報酬に見合った働きをする予定だから、そん時はよろしく!」
俺は以前実践したフエメの要求の断り方のマニュアルに沿って、希望を持たせる言い方でやんわりと拒絶した。
吹っ切れた曇りの無い瞳でそんな風に答えた俺にフエメは苦虫を噛み潰したようだが、クロといる手前か、ビンタをするみたいな暴力的な対応はせずに、そう、と静かに呟くだけだった。
「それでクローディア、あなたは私と一緒に、世界征服という夢を一緒に見てくれるかしら」
「クロは・・・」
そこでクロは俺に遠慮するように俺を見る、きっと、先日の一件が後を引いていて、俺の機嫌を伺っているのだろう。
俺はクロに優しく諭すように言葉をかけた。
「クロ、クロがフエメお姉さんと一緒に世界征服して、その時に俺に世界の半分をくれれば俺はそれでいいから、それにフエメお姉さんは優しくて素晴らしいお姉さんだから、クロが欲しいものはなんでもくれるし、クロが困った時はいつでも助けてくれる、だから今後は、フエメお姉さんの言う事をよく聞いて、そしてフエメお姉さんの言う通りにしていれば間違いないから、だからクロは今日からフエメお姉さんの家の子として、フエメお姉さんと幸せに暮らしなさい、村長には俺から言っておくし、寂しくなったらいつでも村に帰ってくればいいから」
寂しくなったらという条件をつける事で、簡単には帰って来られないようにクロを誘導しておく。
「・・・え?、嫌なのん、離れ離れなんて嫌なのん、捨てないでほしいのん、皆と一緒にいさせて欲しいのん、だからフエメお姉さんの家の子になるのは嫌なのん!」
「我儘言うんじゃありませんっ、宣告は16歳になってからだと言ったのに、勝手に宣告を受けて【魔王】になったのはクロだろ、お前、人間の村に【魔王】がいるってどういう事か理解してるのか?、俺だってお前と別れるのは寂しいよ、でも、お前が村にいて、それで村が滅ばされたりしたらもっと悲しいだろっ、だからこれは仕方の無い事なんだよ、フエメお姉さんの家の子になれば、【魔王】のお前の事も聖女派やら騎士派やら魔族の勢力から守ってやれるけど、でもンシャリ村にお前を守る力は無い、だからお前は、フエメお姉さんと一緒に世界征服するまで、村に帰ってきちゃいけないんだよ!!!!」
「──────────っ」
それっぽい理由で強引に説得しただけだが、それでクロも自分が【魔王】に選ばれるという事がどういう事か、少しは自覚を持っただろう。
その自覚を持ったクロは目に大粒の涙を浮かべて号泣しだしたが、俺はそんなクロに追い討ちをかけるように言ってやった。
「お前がいい子にしてれば俺だってたまには会いに来るし、世界征服が早く終われば皆と会うのも自由だ、だからこれからはフエメお姉さんと一緒に、クロが人間と平等に暮らせる世界を頑張って作れ、征服した後の世界の面倒ごとは、俺が引受けてやるから」
「うぅ・・・、分かったのん、絶対作るのん、クロ頑張るのん、だからライアも時々は、クロに会いに来て欲しいのん」
「・・・ああ、もちろんだ、必ずまた会いに来るよ、だからいい子にしてるんだぞ」
「あなたも相当な人でなしね・・・」とフエメは呟くが、おれは人を不幸にするタイプでは無いので一緒にされるのは心外だった。
それに、クロが【魔王】だと判明した時点で、どう足掻いてもクロは村にいられない。
時空の魔剣士・プロメテウス事件を起こした時から既にこの着地点は予定されていたのだから。
こうしてクロはフエメさん家の子供として引き取られる事となり、共に世界征服というヤバい野望へと漕ぎ出す次第となったのである。
この事を説明すると村長はガックリと肩を落として項垂れたが、宣告を受けた以上、いずれは巣立つ事を覚悟をしていたらしい、あっさりと受け入れた。
フエメから貰った金の保管については頭を悩ませる事になったが、まぁ知らん間に親に見つかって盗られるくらいならと、700万をメリーさんに預けて、残りの300万だけ貰った事にしてそれは親孝行として家族で仲良く三等分した。
やはりというか、親父もお袋も戦時の困窮であちこちに借金していたらしく、黄金山地で村が潤っていると言えども村人の懐に入る分は殆ど存在しない為に、俺の金は借金の返済などに当てられたようだ。
親父に質屋に入れた音楽を奏でる魔道具のコレクションを取り返せたりはしないかと聞いたが、それらは全部売却済みで出来なかったと言われたのは少し寂しかったが、これで少しとはいえ親孝行出来たので、俺も心のつっかえが無くなって晴れ晴れとした気分となったのであった。
普段は全く俺の言う事など聞く耳を持たない自由人のクロだったが、先日の「時空の魔剣士プロメテウス事件」の甲斐もあってか、今日のクロは俺と二人きりにも関わらず、いつものように後ろからカンチョーしたりくっつき虫を背中にベタベタ貼りまくるような鬱陶しいイタズラを仕掛けてくることもなく、借りてきた猫のような不気味な大人しさで、俺の後を従順に付いてきた。
くどいようだが俺とクロは仲の悪い幼なじみだ、心の友の対義語、心の宿敵とでも形容すべきような間柄だ。
その関係性が【勇者】と【魔王】という、宿命の敵という運命に帰結したというのも、俺の主観で言えばいくらか妥当性のある話ではあった。
まぁ、俺はクロを葬る事に躊躇は無いだろうが、それでも俺の中に僅かに存在する良心の呵責、幼なじみであり幼女であるクロを手にかけるのは人としての超えてはいけないラインに当たるので、クロが成人して分別つくくらいになるまでは、それを実行する事は無いが。
だが俺にとってクロは死んだ妹ライムの身代わりであるが故に、愛する事も憎む事も出来ない微妙な相手なのだ。
故に、勇者という役割に沿ってクロを葬るという選択肢は、確かに俺の中に存在するものでもあった。
ちなみにクロが魔王である事は黒龍を退治したその日にメリーさんに聞いたが、俺が勇者である事はクロには秘密にしている。
当然だ、俺は本物の勇者となった今でも、もう一度レベルカンストさせて勇者から転職する事を目標にしているのだから。
──────────あの日、レベルカンストした【詐術師】のままでは、周りから【モンク】では無い事がバレて、面倒な仕事を押し付けられると思って取り敢えずレベルをリセットする為に転職しようと考えた俺の選択を、俺は生涯悔やみ続けるだろう。
フエメがそもそも伏線として教えてくれていたのだ、異常者のテーブルにいる俺は、転職すれば上位職に転職する可能性が高いと。
そして、【勇者】に擬態していた俺が転職して【勇者】になるのもまた、道理ではあった話なのだ、その伏線として【黒龍の因子】と【神狼の加護】という謎スキルまで手に入れてしまっていたのだから。
あの時点で、【勇者】の資格を十全に保有していたのだから、転職した俺が【勇者】になるのも必然だったのだ。
しかしだからと言って素直に「これからは勇者として世のため人のため精一杯頑張ります!」とはならないのが、超一級のひねくれ者である俺の本領発揮だ。
【勇者】を放棄する理由など、ひと月前から既にごまんと考えて結論を出した話なのだから、この思想だけは、仮に生まれ変わっても変わらない自信がある。
───────故に、今後、俺を勇者であると看破し、その義務を問うような人物が現れた場合、俺は全力でそいつを否定し、論破し、それが出来なければ逐電、蒸発して。
───────全身全霊、何がなんでも、俺は勇者という役割を放棄し、冒涜し、怠惰に悪辣に非常識に生きようと、そう心に誓ったのであった。
驚異的な推理力でクロが【魔王】である事さえも看破していたフエメの事だ、その上で俺が【詐術師】である事まで予想出来ていた、ならばきっと、今日の会談でフエメが俺の正体を看破するのは道理だろう。
だが今はフエメも協力者であり、そして“黄金山地”という金山の利権を獲得した立役者の手柄も上げさせて、俺はフエメに多大なる利益をもたらした存在だ。
ならば例え相手が魔王の百倍厄介なフエメだろうと、俺は引かぬ媚びぬ働かぬの精神で、俺の意思を貫いて見せようと覚悟を決めて、俺はフエメとの対談に望んだのであった。
「・・・それで、その幼女がンシャリ村に誕生した【魔王】という訳ね」
「・・・クローディア・カンベル、なのん」
クロは覇気のない顔で俯きがちに挨拶する。
そんな態度をフエメが訝しんでいたので、俺は「相手がお前だから緊張しているんだ」と適当に誤魔化した。
今回の対談は、積もりに積もったンシャリ村の怨念をどう清算するか、フエメと話し合った際に決着となった。
「ンシャリ村が武力を生業としていた武断派の村ならば、魔王を中心として覇業をなす時に必要になるし、魔王が世界征服した時にフエメが宰相として統治すれば、それでフエメの望む世界になる」と俺が説いた夢物語の、そのすり合わせが目的だ。
俺としてはフエメにクロを売ればそれで話は終わりだし、クロをコントロールするのも幼女なのでそんなに難しい話では無い。
フエメの財力ならばクロの望みを叶える事は容易いし、フエメの知性ならクロを支配下に置く事も容易だろう。
フエメが本当に世界征服なんてものを望むのかは不明だが、だが、この世で一番魔王という存在を上手く利用出来る人間の一人がフエメになるのも間違いない話だし、だからこの癒着は水魚の交わりのように運命的なものでもあると俺は考えている。
それに、クロが世界の全てを手に入れた瞬間に、俺が勇者としてクロを討伐して横取りしてもいいし、その時にまた何かしらの因縁をつけてクロを脅し、不労所得で一生働かずに過ごせる程度の領地を貰えれば、俺としても丸儲けの話な訳だし。
だから俺は、この場では極力フエメの協力者を装い、自分が勇者である事をバレないようにしつつ、クロをフエメに売り飛ばそうという考えだった。
「一応聞いておきたいのだけど、【魔王】の事を知っている人間は何人いるのかしら?」
「俺とメリーさんとウーナだけだ、ウーナに関しては、最初から【魔王】の捜索が目的で、そして聖女派がクロをどうこうするような事は恐らく無いという話だった」
ウーナは金還作戦の翌日に、用が済んだと帰って行ったが、その時に軽く挨拶をした時にウーナの真意を聞かせて貰った。
クロはウーナのメインディッシュとして認められたから、上手く聖女を説得して、クロの存在を無害であるとアピールするという話だった。
その代わりとして、クロの存在をシェーンを含めた魔族の陣営に明かさない事、村で人間の少女として普通の生活させる事を約束したのだが、まぁ、フエメの奴隷になって貰う事は、この約束を反故する事にはならないだろう、多分、きっと、ギリギリのラインで・・・。
「だとすれば、今の状態ならばこの子を外交のカードとして利用する事も出来るという事ね、例えば私が【魔王】を名乗っても誰もそれを確かめる事は出来ないし、私の背後に魔王がいると脅しをかけて取引をする事も出来る訳だし、最初からそういう利用方法を勘定に入れて秘匿していたのだとしたら、素直に賞賛してあげてもいいわ」
「・・・いや、それに関しては偶然だ、クロは自分を人間だと思っているから、それでメリーさんが気を利かせて【軍師】だと嘘をついただけで、それ以上でも以下でも無い偶然だ」
「そう、それで、その子のレベルは幾つなのかしら?、噂では黒龍とも殴り合ったと聞いたし、それなりのステータスにはなっているのでしょう?」
「・・・それに関してはメリーさんの機転でライセンスが偽装だから最新のステータスは分からないんだが・・・、クロ、ステータスを説明してくれ」
「・・・レベルは75で、ステータスはオールA、スキルは【覇者の大号令】【不死身の肉体】【魔王の誘い】、魔法は下級魔法一通りと、中級魔法は調教だけ、使えるのん・・・」
ちなみにクロは黒龍との一戦から更新をしなくなったので、これは最新のステータスでは無い。
おいしいとこ取りしただけの俺が一気にカンストしたのだから、黒龍との経験値も加味すれば90はあってもおかしくないだろう。
「宣告して僅かひと月でレベル75、驚異的ね、流石、魔族の最高位にして世界最強の存在である魔王の器だわ」
クロの出鱈目さにはフエメも舌を巻いたのか、初めて聞くような嫌味のない賞賛の言葉でクロを称えた。
「それでクローディア、先ずはあなたの野望を聞かせて貰えるかしら、自分が【魔王】だと知ったのならば、いえ、あなたが【魔王】に選ばれし者ならば、他の誰にも真似出来ないような、恣意的で独りよがりで誇大妄想な願いの一つや二つ、あって然るべき話でしょう?、私ならあなたの願いを叶えてあげられるし、だからこそ私はあなたの味方になれると、私はそう考えている、だから、先ずはあなたの夢を聞かせてくれるかしら」
ここからが本番だと言わんばかりに、フエメは人たらしの本領発揮でクロに寄り添うようにそう優しく言い聞かせた。
フエメの魔性は老若男女問わないものであるが故に、その言葉はクロの心にも刺さっただろう。
フエメは言葉一つで自分の為に死ぬ兵隊を量産する、そのレベルの魔性なのだから。
「クロの、クロの夢は・・・」
だが俺の知る幼女で遊びたいざかりの悪ガキのクロに、そんなおおそれた夢や目標なんかあるとは到底思えなかったし、予想通りフエメの質問にクロは言葉を詰まらせた。
「まだ見つからない?それとも自信を持って話せるほどはっきりとしない?、どんなものでもいいのよ、だって私たちは味方同士、どんな夢だとしても、私たちは協力し合う事で互いの夢を叶えられる筈なのだから」
「・・・クロの夢は、・・・まだ分からないのん、でも欲しいものは一つだけ、あるのん」
「それは何?聞かせてもらえるかしら?」
「クロが欲しいのは
──────────おとぎ話の中にある秘薬、人間になる薬、なのん、魔族は嫌なのん、人と違うのは嫌なのん、だからクロは、人間になりたいのん・・・」
人間になる薬、それはオデュッセウスのおとぎ話にある、魔物を人間に変える魔法の薬だ。
古の魔女が作り出したという、実在するかもあやふやな、ただの架空の舞台装置。
それを飲んで人間になった龍は、それでも愛した勇者を振り向かせる事は出来ず、最期は世界に裏切られた勇者を守ろうとするも人間の姿では力及ばずに、勇者と共に滅ぼされるという結末まで含めて皮肉に満ちたおとぎ話だが。
でも、俺がクロを魔族だからと差別しないとしても、仮に村の中でもクロを差別する人間がいないのだとしても、この偏見と悪意に満ちた世界でクロが普通の人間になりたいと願う事は至極当然の願いだったし、人間になりたいクロの想いは理解出来た。
だが、そんな存在するかも不明な薬など、フエメと言えども入手を確約出来るものでは無いだろう、それを担保にしてクロと取引するのであれば、フエメも俺と同じ詐欺師という事になるが。
しかし、その願いを聞いたフエメの言葉は俺の予想をいい意味で裏切ってくれた。
「──────────そう、人間になりたい、それも確かに人間的な要求であり、人間として育てられたあなたにとっては至極当然の願いよね」
フエメは役者だった。
みなしごの幼女にとって、男所帯である村長の家で育てられたクロにとって。
母性的で本能的に甘えたくなる年上の女性という仮面は、それだけでクロの心の隙間を埋められるものだったし。
それをフエメは理解して、弱点をつくようにクロにとって最善の仮面を被っていた。
俺はまるでメリーさんのように慈愛に満ちた偽りのフエメの表情に、内心吐き気を催していたが、母性に飢えているクロにとっては、それは麻薬のように覿面だった。
いや、俺もきっと、メリーさんという唯一無二の協力者がいなければ、フエメの偽りの笑顔に絆されていのは間違いないだろう、それほどまでにフエメの魔性は暴力的なのだから。
フエメの優しい声音に騙されて、アホな幼女でしかないクロは完全にフエメを信用し切っていた。
「──────────でも、人間になる薬なんてそんなもの、この世には存在しないわ、だって、人間は人間で、魔族は魔族、神が対立するように争うようにそう作り上げたものなのだから。
・・・例え、姿だけを人間に変えたとしても、あなたを完全な人間と認めない人間は必ずいる、だから、あなたの人間になりたいという願いを叶えたいのならば、人間になる薬では叶えられないものよ」
そして意外な事にフエメは、幼女に対してきちんと現実を突きつけた。
俺には信頼を得るためのパフォーマンスだとは分かっているが、だがそんなパフォーマンス無しでも雑に籠絡出来るのがフエメの本領発揮であり、クロと真剣に向き合う必要性も全く無い話だった筈だ。
だから俺はフエメがクロとどう向き合うのか、それが気になってフエメに尋ねた。
「クロが姿だけ人間になっても、魔族を憎み差別する一般人に、心まで人間にはなり切れないのは確かだし、だからこそようは心の持ちようで、クロが自分を人間かどうかを決めるのはクロの心次第だというのは俺も同意見だ。
・・・でも、姿を変える事を無意味と断じるのならば、お前はどうすればクロが人間になれると考えるんだ」
「簡単な話よ、この世界を、魔族も人間もいない、そう、魔族も人間も同じ生き物として扱う世の中にすれば、必然として魔族も人間も憎しみ合う必要も、争う必要も無くなるという話」
「魔族も人間も同じ生き物として扱う世界、だと・・・、そんなの、・・・夢物語だろ」
それは確かにクロの希望を叶える真の平等な世界になるだろうがとても実現可能だとは思えない夢物語だった。
そんな世界に根付いた価値観や対立や体制の、それらの世の摂理逆らうような世界が、簡単に実現出来る訳がないのだから。
「じゃあ犬、あなたはどうしたらこの世界が平和になると思う、何が世界に対立を生む原因だと考える?、少なくとも魔王に選ばれし者ならば、そんな世の秩序を否定して、新たな世界を創造する権利があると、私は考えているのだけれど」
「この世が乱れるのは単純に、搾取をしたい支配階級が、魔族を弱者として敵として定める事で国内の団結を図り、そしてそこから搾取し憎悪をスケープゴートする事で自分達の利益を得るというシステムを作ったからだ。
朝敵、夷狄、異民族、異人を迫害し敵と定めるのは国家運営を効率よくする為のシステムであり、それを無くしたら国内が群雄割拠と化して内乱の時代になるのは歴史が証明している、だから、外敵無くして国の安定は作れないというだけの残酷なシステムだと俺は考えているし、人間と魔族の戦争だって予定調和で、終わらない事で平和と繁栄を保つ事の出来るシステムでもあると俺はそう考えている、だから、平等で平和な世界なんて夢物語でしかない」
「まぁ、歴史が2000年も続けば、効率的で合理的な着地点がどこになるかくらい、愚かで愚民的な犬でも理解出来る話よね、でも、それは本当に人間にとっての最適解だと言えるのかしら」
「・・・どういう事だ?、世の中には搾取される少数の弱者がいないと成り立たないのは明らかな話だろう、それを無くして平等にすれば、今度は皆が無秩序に主権を主張して万人の闘争、内乱の時代になると歴史が証明している」
「だからあなたの考えは浅いのよ、犬、そんな本や歴史で聞きかじった知識だけに頼って物を考えるから、いつまでも本質を見ることが出来ない、仮に争いを無くす方法があるとすればそれは簡単、絶対王政で国民の9割が搾取されるべき民となり、軍権の全てを王家が掌握して、恐怖政治で国民を従わせれば、それだけで簡単に平和な世界に出来るものだもの、でも私が言ってるのは平和じゃなくて平等よ、それがどういう事か、もう一度あなたのその足りない頭でよく考えてみなさい」
平和ではなく平等、その意味について俺は熟考する。
今の世の中は果たして平等だろうか?。
魔族は生まれながらに奴隷の身分だったり、人間に過剰な徴税を受けたりと不遇ではあるが、人間側は身分制度こそあるが、職業は宣告によって決まる為に完全なる運頼りで自由であり、底辺職に宣告されても冒険者として自由に生きる事も出来るし、人間に関しては平等にも思えるが。
確かに既得権益の貴族や王族などは税金が免除されて安定した生活が保証されているが、しかし兵役が強制されたり、ノブレス・オブリージュと呼ばれるようなしがらみだってついて回る話だし、平民の方がいいという人間だっているだろう。
それに、王国は手柄を立てた人間ならば貴族に取り立てる事もままあるし、そこまで不平等な世の中だとは思わない。
だから、仮に今も滅ぼされずに王国というシステムが存在していたとしても、多くの国民は重税を課して贅沢をする貴族に不満を抱きこそすれ、それに疑問を抱く事は無かったように思える。
聖女が王国を滅ぼせたのもきっと、「無能な貴族の排斥と、貧しい農村の救済」というスローガンが、頭の弱い弱者にとって心地よい言葉だったから、という感想しか無い話だが。
だから戦時でなければ、王国は仮に暗君を輩出しようとも国民から憎まれることも無くつつがなく運営されていたと思う。
だから魔族の犠牲の上に成り立っている王国のシステムは人間にとっては平等で優しい世界だと、俺はそう思う。
だからこそ、俺はフエメのいう平等が何かよく分からなかった。
魔族は元々のこの世界の住人ではなく、異世界から突如出現し、そしてこの世界を征服しようとした悪者だ。
だから管理、搾取しなければ、力を持たせれば人間側に危害を加えるのも道理だし、そして、異界人である魔族を人間側が尊重しないのも道理である話なのだから。
だから、人間と魔族の平等など、俺のクソみそちんけな頭脳では、いかにしようと実現しない話であり、それを結論とするのは理解出来ない話だった。
無言で考え込む俺にしびれを切らしたのか、フエメは俺にヒントを授けるようにポツリと零した。
「この世は一見平等に出来ているけれど、でも、【宣告】に関しては残酷な話よね、だって、私がどれだけ渇望しても手に入れられないものを、あっさりと手に入れる人間がいる訳なのだから」
【宣告】、村一番の知恵者に【愚者】の役割を付与したり、田舎の腰の曲がった老婆に【狂戦士】の役割を付与したりする、完全ランダムに見えるが、たまに偶然とは思えない挙動も見せる、作為と不作為のシステム。
そう、【勇者】と【魔王】の誕生は予定調和であり、そして、その結末も予定調和されているもの。
魔族の反抗は【魔王】の存在に予定調和されて、人間の繁栄は【勇者】の存在に予定調和されるもの。
つまり、【勇者】がいるから、人間は繁栄し、魔族は負かされる。
それはきっと、運命づけられた、不条理で不平等な摂理という事だろう。
でももし、宣告が本当にランダムに選ばれるのだとしたら。
そこで俺は解を理解した。
「────────魔族が【勇者】になる時が来たら、その時は人間にとって暗黒の時代が来る、世の中は栄枯盛衰、腐敗と革命のいたちごっこで成り立つものであり、絶対的な支配など長続きはしない、だからお前は、人間の魔王になって、人間と魔族が対等である事を示し、それが本当の平等で平和な世界を作る事になると、そう説くという訳か」
いつか来るかもしれない魔族の【勇者】という転換期、その時に人類と魔族が憎しみ合ったままでは、人類は滅びるまで戦うしか無くなるし、魔族側も人間を許す事は無いだろう。
そして魔族より種としての強さが脆弱である人間は、その時に本当の地獄を見る事になるのだろう。
だからこそ、人間も魔族も平等であると、「その日」が来るまでに示さなくてはならない、という話。
杞憂に思えるかもしれないが、人間と魔族に違いが無いのであれば、魔族が勝つ日はいつか必ず来る、いや、【勇者】という唯一無二の存在に俺のようなクソ凡夫が選ばれてる時点で、魔族が下克上するような兆候は現れていると言ってもいい。
だからフエメの魔族と宥和政策を取るべきという主張は理解出来るし納得出来る。
そもそも王国の歴史だって200年くらいのもので、どんな栄えた王国にも栄枯盛衰は訪れるものだ、今はたまたま人間の方が勢力が多く、そして【勇者】が誕生し続けるから繁栄しているだけで、その繁栄は明確に期限付きのもの、だからこそ、そんな未来の無い愚かな繰り返しに終止符を打とうと、フエメはそう言っている訳だ。
フエメの深謀遠慮は遥か未来を見据えた真の名君のものであると素直に納得出来る程に、フエメの言っている事は正しいとそう思えた、何故なら俺は言葉の裏までフエメの考えを理解出来たからだ。
「そう、我々の感じている平等は、神の、確率の神の気まぐれで割り振られた偽りの繁栄でしかない、それにきっと、王国の隠蔽体質な歴史からすれば、人間の魔王や魔族の勇者という存在もおそらく存在していたし、魔族が異世界人で侵略者というのも王国の印象操作の可能性だってある訳だし、だからこそ、私たちは与えられた情報ではなく、本質で物事を考えて、未来の為に行動する必要があるという事よ」
「それでクロの力を使って人間の側から覇を唱えて新しい秩序を作る、という結論になる訳か・・・とんだ大事業だな」
つまりフエメは、魔王であるクロの力を頼りに本気で世界征服を考えているし、今は黄金山地のおかげで先立つものも増えて乱世という情勢だ、魔族の協力を取り付ければこの乱世に一旗上げることは容易い事だろう。
本気で世界の支配者になろうと考えているという話になる訳だ。
「もちろん、あなたにも協力して貰うわよ、犬、今度は5万デンとケチな事は言わないわ、もし私が世界を掌握したら、その時は金も女も地位も、好きなだけ与える事を約束するわ」
と、そこでフエメは抜け目なく俺を勧誘してきたが、当然やる気も働く気もない俺は、そんなフエメの誘いに対する解答は言われるまでもなく決まっていた。
「いや、俺はもう黄金山地の奪還とクロの救出というデカ過ぎる功績を二つも上げているし、先ずはその報酬を支払うのが先だろう?、それに、俺は自分で言うのもアレだが無欲な人間だ、金は一生働かなくていいだけあればいいし、女も金さえあれば自然と寄ってくるし、地位なんて邪魔なだけだからな、黄金山地の奪還の報酬さえ貰えれば、後は関与しないから、クロと一緒に平和で平等な優しい世界を勝手に作ってくれ、俺はこの村で穏やかに暮らせれば、それだけで十分だからな」
「金金って、無欲といいつつ浅ましいわね、・・・この報酬は、あなたが私の家来になった後で気持ちよく渡したかったものだけれど、今回は誠意として、渡す事にするわ、受け取りなさい」
と、フエメは控えていた従者であるメルにずっしりと金貨の入った袋を俺に渡させた。
「え・・・、・・・嘘だろ、こ、こんなに貰っていいのか!?、・・・これ金貨100枚で1000万くらいあるだろ、・・・こんなにあったら、一生働かずに暮らせるじゃねぇか!?」
村では自給自足で殆ど賄われる為に、最低限の支出に抑えれば、年に30万デンくらいでも余裕で生活は出来るだろう、つまり、この報酬だけで俺の勝ち逃げは確定した。
その瞬間、【勇者】として頑張っても報われず、たった一人で孤独な戦いをして、それで命懸けで過酷過ぎる冒険をした俺の二週間が、全て肯定されたような幸福感に包まれて。
俺はその瞬間の幸福だけを味わって死んでもいいような多幸感、全身を包み込む喜びの絶頂に号泣し、泣き崩れた。
「フエメ様!、ありがとうございます!フエメ様!、一生ついて行きます!、靴でもケツの穴でもなんでも舐めます!、芸が見たいと仰るなら公開オナ○ーでもなんでもします!!!」
「きも・・・、というか私の美貌に靡かない犬が、こんな小銭で人が変わったように喜ぶのは複雑過ぎるわね、あなたはこんな小銭で死んでも売らないと豪語していたプライドを簡単に売れるという事なの・・・?」
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そもそも5万デンでいい?と舐めた搾取をしようとしていたフエメが急に1000万も払うのが予想外過ぎたし、俺の頑張りが正当に報われた瞬間というのが初めての経験だったので、それは俺の経験値を遥かに上回る出来事だった故に、こんなリアクションになるのも仕方ない事だった。
「・・・うぅ、・・・ぐすっ、後でこれが先払いの生涯賃金とかいうのは無しだからな、そしたら村を捨てて王都で物乞いになるからな!」
「・・・心配しなくても、それは今回の報酬という事で結構よ、犬の働きは、それに見合うだけの価値があった訳だし、それで、新ためて聞きたいのだけど、これで私の家来になる気は無いかしら」
「それは・・・」
何があってもフエメの下僕に身を落としてたまるかという反抗心は、金貨袋を貰った時に雲散霧消と消え去っていた。
今なら曇りの無い瞳でフエメの事が見える。
フエメは才色兼備、天衣無縫、聡明叡智な真の名君であり、フエメの作る世界は、きっと今よりももっと素晴らしいものになるし、そんなフエメを支える仕事は、やりがいに満ちた素晴らしいものになるだろう。
普通の人間ならば喜んでお供しますと答えるに決まっているし、曇りの無い瞳でフエメを見られる今の俺ならば、真の名君であるフエメに尽くす事もやぶさかではなかった。
しかし。
「誘いは嬉しいし、俺だって君の力になりたい気持ちはあるけど、でも、俺には俺の夢があるんだ、だから、君と一緒の道には進めない、・・・ゴメン」
涙を拭って、曇りの無い瞳で俺はフエメの瞳を見つめ返す、その迷いの無い顔にフエメは気圧されたように、視線を逸らしつつ言葉を返した。
「そう、参考までに聞かせてもらえるかしら、あなたの夢とは何?」
「俺の夢は、自由でいる事、・・・自分の好きなように生きて、好きなように死ねる事、・・・かな、他人の為に、とか、誰かの為に・・・、みたいな理想は、俺とは真逆の思想だから、だから、どれだけ君の理想が素晴らしくても、俺とは相容れないもので・・・、だからゴメン」
「・・・つまり、これからも寝てばかり遊んでばかり怠けてばかりの生活をしていたいから、私に協力はしたくないと、そういう事になるのね」
「ああ!、だけど金に困ったらまた仕事を貰いに来るし、そん時は報酬に見合った働きをする予定だから、そん時はよろしく!」
俺は以前実践したフエメの要求の断り方のマニュアルに沿って、希望を持たせる言い方でやんわりと拒絶した。
吹っ切れた曇りの無い瞳でそんな風に答えた俺にフエメは苦虫を噛み潰したようだが、クロといる手前か、ビンタをするみたいな暴力的な対応はせずに、そう、と静かに呟くだけだった。
「それでクローディア、あなたは私と一緒に、世界征服という夢を一緒に見てくれるかしら」
「クロは・・・」
そこでクロは俺に遠慮するように俺を見る、きっと、先日の一件が後を引いていて、俺の機嫌を伺っているのだろう。
俺はクロに優しく諭すように言葉をかけた。
「クロ、クロがフエメお姉さんと一緒に世界征服して、その時に俺に世界の半分をくれれば俺はそれでいいから、それにフエメお姉さんは優しくて素晴らしいお姉さんだから、クロが欲しいものはなんでもくれるし、クロが困った時はいつでも助けてくれる、だから今後は、フエメお姉さんの言う事をよく聞いて、そしてフエメお姉さんの言う通りにしていれば間違いないから、だからクロは今日からフエメお姉さんの家の子として、フエメお姉さんと幸せに暮らしなさい、村長には俺から言っておくし、寂しくなったらいつでも村に帰ってくればいいから」
寂しくなったらという条件をつける事で、簡単には帰って来られないようにクロを誘導しておく。
「・・・え?、嫌なのん、離れ離れなんて嫌なのん、捨てないでほしいのん、皆と一緒にいさせて欲しいのん、だからフエメお姉さんの家の子になるのは嫌なのん!」
「我儘言うんじゃありませんっ、宣告は16歳になってからだと言ったのに、勝手に宣告を受けて【魔王】になったのはクロだろ、お前、人間の村に【魔王】がいるってどういう事か理解してるのか?、俺だってお前と別れるのは寂しいよ、でも、お前が村にいて、それで村が滅ばされたりしたらもっと悲しいだろっ、だからこれは仕方の無い事なんだよ、フエメお姉さんの家の子になれば、【魔王】のお前の事も聖女派やら騎士派やら魔族の勢力から守ってやれるけど、でもンシャリ村にお前を守る力は無い、だからお前は、フエメお姉さんと一緒に世界征服するまで、村に帰ってきちゃいけないんだよ!!!!」
「──────────っ」
それっぽい理由で強引に説得しただけだが、それでクロも自分が【魔王】に選ばれるという事がどういう事か、少しは自覚を持っただろう。
その自覚を持ったクロは目に大粒の涙を浮かべて号泣しだしたが、俺はそんなクロに追い討ちをかけるように言ってやった。
「お前がいい子にしてれば俺だってたまには会いに来るし、世界征服が早く終われば皆と会うのも自由だ、だからこれからはフエメお姉さんと一緒に、クロが人間と平等に暮らせる世界を頑張って作れ、征服した後の世界の面倒ごとは、俺が引受けてやるから」
「うぅ・・・、分かったのん、絶対作るのん、クロ頑張るのん、だからライアも時々は、クロに会いに来て欲しいのん」
「・・・ああ、もちろんだ、必ずまた会いに来るよ、だからいい子にしてるんだぞ」
「あなたも相当な人でなしね・・・」とフエメは呟くが、おれは人を不幸にするタイプでは無いので一緒にされるのは心外だった。
それに、クロが【魔王】だと判明した時点で、どう足掻いてもクロは村にいられない。
時空の魔剣士・プロメテウス事件を起こした時から既にこの着地点は予定されていたのだから。
こうしてクロはフエメさん家の子供として引き取られる事となり、共に世界征服というヤバい野望へと漕ぎ出す次第となったのである。
この事を説明すると村長はガックリと肩を落として項垂れたが、宣告を受けた以上、いずれは巣立つ事を覚悟をしていたらしい、あっさりと受け入れた。
フエメから貰った金の保管については頭を悩ませる事になったが、まぁ知らん間に親に見つかって盗られるくらいならと、700万をメリーさんに預けて、残りの300万だけ貰った事にしてそれは親孝行として家族で仲良く三等分した。
やはりというか、親父もお袋も戦時の困窮であちこちに借金していたらしく、黄金山地で村が潤っていると言えども村人の懐に入る分は殆ど存在しない為に、俺の金は借金の返済などに当てられたようだ。
親父に質屋に入れた音楽を奏でる魔道具のコレクションを取り返せたりはしないかと聞いたが、それらは全部売却済みで出来なかったと言われたのは少し寂しかったが、これで少しとはいえ親孝行出来たので、俺も心のつっかえが無くなって晴れ晴れとした気分となったのであった。
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召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
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2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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