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第1章 P勇者誕生の日
第12話 災厄の黒竜
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「あの、ペテンストさん、一体どこまで進むのですか?」
殲滅作戦改めて「金環作戦」、そのメンバーは“殺戮の森”を抜けて、“黄金山地”まで来ていた。
「あれ?、お姫様からきいてねぇか、今回は“黄金山地”の奪還が目的なんだよ」
「は?」
「まじかよ」
フエメの護衛であるBランク冒険者の男二人が驚いた声を上げたが、ペテンストは何食わぬ顔で答えた。
「あれ~?、おかしいなぁ、お姫様とはライアがちゃんと話つけてくれたって言ってたんだがなぁ、まぁネームドの『女王』『白虎』『黒子』もいなかったし、このまま行けば楽にミッション達成出来るだろ、この調子で行こうぜ」
「おうそうだな、黄金山地を取り返した俺たちには特別なボーナスも貰えるし、こんな楽に取り返せるなら儲けもんだぜ!」
「兄ちゃん達、ボーナス入ったら一発チンチロで倍プッシュしようぜ!、いい店紹介するからよう!」
と、三英傑は上手く連携して話を「黄金山地」から「ボーナス」に誘導し、強引に話しかけて有耶無耶にした。
「なんか、拍子抜けだな、この辺の魔物は凶暴で活きがいいのが多いって聞いてたンだがよォ、雑魚ばっかじゃねェか」
「うにゅ、普段はもっとバチバチやり合ってて殺伐としてるし、Bランク以上の手強いのがウヨウヨいたのん、何かがおかしいのん」
「・・・そう言えば、事の発端は『女王』が縄張りの外へと出た事が始まりだと聞きましたが、だとするのならば、それには原因がある筈、つまり、この静けさというのは」
「─────嵐の予兆、という訳か」
“黄金山地”、山道を歩いてたどり着いた、台地となって開けたかつて人が住んでいた廃墟の佇む区画を抜けて、本命である貴金属の採れる洞窟の中に入ると、それはいた。
「黒龍、これは、バハムート種か?」
「バハムートと言えばSSランクの災厄級モンスター、それが秘境では無く片田舎の洞窟を縄張りにしているとは、なんとも奇妙な話ですね」
災厄級というのは台風や洪水のように人間には抗えないような強さを示し、討伐したという実例は伝説の勇者による伝承くらいしか存在しないものだった。
つまり、この黒龍の存在が『女王』を縄張りの外へと追い出し、周囲の凶悪な魔物を“殺戮の森”から駆逐した真の原因だったという訳である。
「えーと、それでお二方、二人ならバハムートを倒せますかね?」
「「無理だ(ですね)」」
「あーやっぱり、よし、撤収すっぞ、作戦は失敗!、流石に黒龍相手には出来ん、刺激しないように静かに帰るぞ」
「えーつまんないのん、逃げるなら戦っても損は無いのん」
「おまっ、ちょっ、馬鹿野郎!、人間が黒龍に勝てる訳無いだろ!幼女は黙っとれ!」
駄々をこねるクローディアをペテンストは脇に抱えて、駆け足でその場から退散する。
しかし。
「疼クナ・・・」
「ん?、今誰か喋ったか?」
ペテンストが確認するが全員首を横に振る。
「右目ガ疼ク、勇者ニ切ラレタコノ右目ガ、ドウヤラ居ルヨウダナ、我ガ仇敵ノ末裔ガ」
ずしん、と、大地が揺れる様な鳴動をする。
「ま、まさか・・・」
ペテンストは恐る恐る後ろを振り返った。
黒龍の隻眼は炯々と見開かれており、悠然とした動作でこちらに向けて歩き出していた。
「強制バトルかよ!誰だよ戦闘フラグ立てた奴!皆、逃げろおおおおおおおおおおお!」
ペテンストが叫ぶより早く、各人逃走を始めた。
「あちゃー!」
「アウチッ、何すんだよクロっち、いきなりケツに刀ねじ込むなんて!」
クローディアは自分を抱えるペテンストを下ろさせるために持っていた刀の鞘をペテンストのケツにねじ込んだのであった。
「殿は任せるのん、どうせ逃げても追いかけてくるのん、そしたら村が滅ぶのん、だったら誰かがここで倒すしかないのん」
そう言ってクローディアは、妖刀を鞘から抜いた。
「待てよクロっち、黒龍は人間に勝てる相手じゃ無いんだって、戦えば確実に死ぬ、自殺行為だ、だからはやまるな、いのちだいじにが作戦だろ!」
「うにゅ、勝てない事は分かってるのん、でも誰かが殿をして、奴が追ってこられないようにする必要があるのん、だからこれがクロのお役目なのん、ペテっち今日までクロを養殖してくれてありがとうなのん、最期に村に恩返しするのん!」
「クロっち、お前・・・」
クローディアの本気の覚悟を感じ取り、ペテンストは揺れた、自分では足止めにすらならないと分かっていても、クローディアを置いて逃げるなんて出来なかったからだ。
「・・・へへ、やっぱりお前は見込みがあるぜ、黒龍退治か、それが出来ればアタシも勇者と肩を並べられる、だったら俄然やる気が湧いてくるぜ」
「シェーン!、逃げなかったのん!?」
「自慢じゃないが、アタシはアタシより強い奴と戦った経験なんてごまんとある、それでも逃げずに賭けに勝ったからここにいる、だったら今日ここでこいつから逃げる理由もアタシには無いのさ」
「姉ちゃん、アンタ・・・」
「ふむ、なら私も協力しましょう、メインディッシュが・・・、いえ、お二方をここで死なせるのは、私の道義に反しますから」
「糸目の姉ちゃんまで・・・、クッソ、しゃあねぇ、女に殿やらせてケツ巻いて逃げられるか、男を見せるぜペテンスト」
ペテンストも覚悟を決めた、震える膝を叩いて鼓舞し、立ち向かって見せたのであった。
「ペテっちはいらないのん」
「おっさんは逃げてくれ」
「ペテンストさんは逃げてください、邪魔になるので」
「そんな!?」
しかしいくら覚悟を決めた所でペテンストは負け組ジョブのBランク、足でまといにしかならないと皆に必要とされていなかった。
「くそう、悪ぃが姉ちゃん達、それにクロっち、村の皆を避難させて、それで安全が確保出来たらまた報告に来るから、それまで死ぬんじゃねぇぞ、武運長久を祈ってるぜ」
「ペテっち、後は任せるのん、だから代わりにライアには今までの色々、謝って欲しいのん、まだごめんなさいが言えてないのん」
「悪いな、それは生きて帰って自分の口で伝えてくれ、なぁに、あいつはロリコンだからな、クロっちのごめんなさいなら何やっても許してくれるに決まってるさ」
「うにゅ、クロはもう14歳で立派なレディなのん、でも分かったのん、自分で伝えて今までの全部、ちゃんと告白して許して貰うのん、だから死なないのん」
クローディアはそこで妖刀を握りこんだ。
死ぬ為では無い、生きてライアに伝えたい事があるからだ。
その想いだけで、拳に力が宿った。
「グルォオ、貴様タチノ中ニ勇者ノ末裔ハオラヌヨウダガ、ダガソノ心意気ヲ買ッテヤロウ、我ハ強キ人間ヲ好ム」
「クロも好きなのん」
「アタシも好きだ、気が合うな」
「ふむ、黒龍もやはり戦闘オタクという事なのですね」
戦闘オタク、それがこの場にいる全員の奇妙な共通点だった。
故に圧倒的な力と体躯を持つ黒龍に、三人は嬉々として挑んだのであった。
「ふわぁ、いい天気だなぁ」
「今頃、幼女達は汗水たらして過酷な任務に従事していると言うのに、呑気なものね」
「・・・欠伸くらいいだろ、俺が心配した所で何も変わらないし、細かい事を気にしないでくれよ、器が小さいぞ」
「小さいのはあなたの恥を感じる道徳心でしょう、どうやったらそこまで厚顔無恥にふてぶてしくなれるのよ」
「鴻鵠の志ってヤツだよ、小さい事を気にするのは小さい人間のする事で、だから俺は小さい事を気にしない主義なの」
「大物ぶった所で、あなたが怠惰で無能で話もつまらないゴミだっていう事実は変わらないけどね」
「言い過ぎだろ、お前自分がちょっと可愛くてチヤホヤされてるからって、他人を馬鹿にする権利も、パワハラする権利も無いんだからな、あー思い出したらムカムカしてきた、この間サティ市でタダ働きした分ちょっとでいいから報酬くれよ」
「あら、日当五万デンの破格の契約を断ったのはあなたでしょう、そう言えば好感度を上げれば考え直すという話だったけれど、今はどうなのかしら、あと何が鴻鵠の志よ、めちゃくちゃ小さい事を気にしてるじゃないの」
「お前俺の好感度を上げるような事何もして無いだろ、むしろ戦わせたり蹴ったり馬鹿にしたり、イラつかせるような事しかしてねぇじゃねぇか、ふざけんな!、あとあの日の労働、普通に50キロ走らされた後に20キロの荷物を持って街を歩き回るの、普通にキツかったからな、俺の人生のキツい出来事トップ3に入るレベルのキツさだったからな、全然小さくねぇよ、むしろめちゃくちゃ大きいのに今日まで我慢してたんだよ、お前が知らない赤の他人だったらガチビンタで泣かせてるよ」
「・・・参考までに、他のトップ3を聞かせてもらえるかしら、それによっては待遇を改善し、報酬を引き上げてあげない事も無いわ」
「えーと、1位が準備無し、手ぶらで登山して遭難して虫に刺されまくって3日間飲まず食わずでさ迷った事、2位がガチ貧困で1週間火を通した昆虫だけを食べて飢えを凌いだ事、かな、便所虫がご馳走に見えるのは我ながら貴重な経験だったと思うぜ」
ちなみに一日で過労死しそうなくらい働かされたのに、それによる報酬がたったの銀貨一枚だったというのも、涙が止まらなくなりそうなくらいにやるせない話だった。
「・・・なるほどね、確かにそんな経験したら、死生観も歪むし、頭のネジが外れて馬鹿にもなる、か、ちなみに聞きたいのだけれど、あなたの体の骨折って、どこまでが本当なの?」
「あ?、魔物に襲われたのが本当で、完治して無いっていうのが嘘だよ、分かるだろそれくらい」
「じゃあつまり、あなたは骨折した体で化け猫を背負って村まで一晩で走って来た、っていう部分は本当という事になるのね」
「つっても骨折してからは10キロくらいだと思うけどな、それに人間の骨って、走りながらでも回復するらしいぜ、だからまぁ、気合と根性さえあれば誰だって出来る事だよ」
「そう、それで今回の話を聞いて私があなたに提示する年俸なんだけれど・・・」
「まぁ最低でも100万は欲しいな贅沢は言わないでも」
「───────五万でどう?、福利厚生充実させて、三食昼寝抜きで昇給は年10%を保証するわ」
「───────五万でどう?、じゃねーよ!、どんだけ搾取するつもりなんだよ、なんで日当が年俸と入れ替わってるんだよ、しかも昼寝付かないのかよ!」
「あら、どうせ怠けるのだし、だったら年俸を払っても一日しか働かないのと同じでしょ、別にいいじゃない」
「その理屈で言えば俺は一日5分くらいしか働かないからな、つーか俺が怠ける事を見越したとして何のために雇うんだよ!」
「そうね、毎朝私が目覚めた時に一度顔面を貸してくれるだけでいいわ、それなら5分でも十分に役立てるだろうし」
「結局サンドバッグかよ!、てかなんで俺なんだよ、雇うならもっとイケメンとか美少女雇えよ、俺なんて殴っても絵的に汚くてむしろ不快感しか生まないだろ!」
「あら、私にも美しい物を愛でるという感性くらい持っているのよ、だから醜い物を見ると壊したくなる、これも世の理というものでしょう」
「壊すなよ!、醜い物も必死に生きてるんだよ、愛でなくてもいいからそっとしておいてくれよ」
はぁはぁと俺は息を切らすほどに全力でツッコミをいれた。
フエメは語尾が無くなった俺相手に主導権を握ってツッコませるのがお気に召したのか、さっきからボケなのか本気なのか分からない会話が続いていたが、生粋の悪女であるフエメの考えなど俺には到底測り知れるものでは無いので、考えるだけ無駄だろう。
そんな風に俺たちは自室で悠々とお茶を嗜みながら、無益で益体もない駄弁りを続ける。
すると突然、切羽詰まった呼び声とともに扉が叩かれた。
「お嬢様!お嬢様!、いらっしゃいますか、お嬢様!」
俺とフエメは扉を叩くメルの剣幕に訝しみながら揃って玄関へと向かった。
「何かあったようね、メル、説明してくれるかしら」
「はい、作戦は失敗しました、彼らは“黄金山地”に手を出そうとしていたのです、しかしそこには黒龍が居着いていて、そして我々は、黒龍を目覚めさせてしまったのです」
「災厄の黒龍が・・・、そう」
「お嬢様は知っていらしましたか、今回の作戦が“黄金山地”の奪還という明らかにサマーディ村に対する抜け駆けの任務であるという事を」
メルは不信を告げるように主にそう尋ねた。
フエメは一度俺を確認するように見てから答えた。
「ええ、今回の作戦はサマーディ村と共同の物よ、勿論あなた達にも伝えるつもりだったのだけれど、私は離脱して伝え損ねてしまったわね、ごめんなさい、これは私の落ち度よ」
「・・・いえ、抜け駆けでは無いのならそれでよいのです、しかし問題はここからですお嬢様、目覚めた黒龍は「勇者の末裔」を探しているようでした、いずれここにも来るかもしれません、早く避難しないと」
「分かったわ、それで、犬、あなたはどうするの、今なら飼い主のよしみで屋敷の地下シェルターに匿ってあげることも出来るけれど」
「・・・冗談だろ、俺はお前の協力者になったんだ、だからこの村を潰させてたまるか」
「そう、思わぬ幕引きになったけれど、でもそれがこの村の命運であり、あなたの運命なのでしょう、ならそれを見届けるくらいはしてあげるわ、姉のよしみでね」
「いつから俺の姉になったんだよ・・・」
俺は自室に戻って役に立ちそうなものを片っ端からかき集めると、それらを持って戸締りもせずに家を飛び出した。
黒龍をペテンにかけて村を救う事、それが詐欺師で勇者な俺の運命だと言うのならやってやるとその瞬間に決めたのであった。
「あ、ライア!」
「親父、黒龍が来るって聞いたがどうなってる!?」
「ああ、それが、冒険者の姉ちゃん達とクロっちが殿になって戦ってる、村に来るかは分からないが、だが「勇者の末裔」を探してるみたいなんだ、だから村人全員逃がすように誘導しないと」
「つっても、この村じゃあ誰が火事場泥棒になるか分からねぇしなぁ、逃げろって言っても逃げる訳が無い」
「確かにそうだが、だったらどうする?」
「誰かが囮になって、黒龍を村以外のどこかに誘導するしかないだろう」
「!?、ライア、まさかお前」
「心配すんなよ親父、俺は一日で50キロを走る鉄人的なマラソンも、その復路で魔物に襲われながら走る殺人的なマラソンも両方経験した男だぜ、黒龍からだって逃げ切って見せるさ」
「くぅぅ、ライア、お前、いつの間にそんなかっこいい男になったんだよ」
「知らねぇのか親父、男子3日会わざれば刮目してみよ、だぜ、
───────行ってくる!」
俺は無謀と勇気と役に立つかどうかも分からないガラクタを頼りに駆け出した。
何が出来るか分からないが、それでもこれは俺の「役目」なのだと、命を賭ける時なのだと、フエメの話を聞いた影響か、【勇者】という役割に毒され始めたのか分からないが、本心からそう思っていたからだ。
「手緩イナ、暫ク見ナイ内ニ、人間トハココマデ脆弱トナッタカ」
「はぁはぁ、クソ、お前のウロコ硬すぎなんだよ、ダイアモンドかって」
「ダメなのん、【軍師】のスキルを使っても、勝ち目が全く見えないのん、ダメージを負わせる事すら叶わないのん」
「・・・ふむ、強さの次元が違いますね、我々のいかなる攻撃、魔法を用いても、黒龍には通用しない、しかし古の勇者はそんな黒龍に一矢報いたのだとしたら、それはそれで興味深い」
黒龍はクローディア、ウーナ、シェーンの三人を赤子の手を捻るように軽くあしらった。
どう足掻いても勝てないという強烈な力の差を何度も押し付けられて、それでも何とか生き延びて足掻いている、そんな状況だった。
「ツマランナ、終ワラセテヤロウ、スゥウウウ」
「!!、来るぞ!、ドラゴンブレスだ!」
「逃げ場は無いのん、避けられないのん」
「二人とも、私の後ろに下がってください!」
ウーナは気を練って抜刀術の構えを取った。
直後、黒龍は灼熱の黒炎を吐き出した。
「灰燼ニ帰スガヨイ──────」
必殺を冠する灼熱の息吹、それを受け止める為にウーナが二人の前に立ち塞がる。
「──────鎧袖一閃、『山斬』」
居合一閃、ウーナの放った斬撃が、全てを燃やし尽くす黒龍の息吹と衝突する。
その衝撃で辺りに熱風が吹き荒れて、周辺の木々は燃やされ、あたりは火の海となった。
「・・・すぅ、・・・ふぅ、なんとか、・・・凌げたよう、・・・ですね」
ウーナは額には汗が滲んでいたが、それを拭おうともせずに両腕を垂らし、握っていた剣を地面に落とした。
いや、それは既に剣では無かった。
「!?、すごい一撃だったのん、でもその代わりにウーナの剣が壊れてるのん」
「つまり、限界を超えた自傷技って事か、剣が壊れるほどの衝撃なら、当然体の負担もそれなりの筈」
「ええ、・・・今の一撃で、私は私の持てる全てを使い果たしてしまいました、残念ながらもう足止めすら出来ません、・・・逃げてください」
「・・・うにゅ、悪いけどクロはもう覚悟を決めてるのん、だから最期まで逃げないのん、もし歩けるならウーナこそ逃げるのん」
クローディアは震えながらも妖刀を両手で握り込み、黒龍と対峙する。
「っ、お前、なんでそこまでするんだよ、お前があいつらにそこまでする義理があるのかよ、自分を大切にしろよ、こんな捨て石の役割なんて、お前には似合わないんだよっ」
「うにゅ?、なんでシェーンがクロに怒ってるのん」
「怒ってねぇ、ただ理解出来ないだけだ、だってお前は・・・」
「クロは・・・、人間なのん、だから村の為に生きて村の為に死ぬ、それが出来れば文句は無いのん、村には大切な人達がいるのん、だから守るのん」
「っ!!、・・・そうか、なら止めはしねぇ、好きにしろ」
「うにゅ、それで、シェーンはどうして逃げないのん、クロと違って命を賭ける理由なんて無いのん」
「アタシの理由なんて単純だ、気に入らねぇ相手が目の前にいれば、そいつをぶん殴るまで立ち止まらねェ、ただそれだけの事、・・・ふぅ、アタシだけ奥の手使わないって訳にもいかねぇな、全力で行くぜ」
シェーンの瞳が赤く輝き、肉体が唸りを上げた。
「限界突破、悪いが出力は普段の三倍で三分しか持たねェ、その間にクロはウーナを連れて逃げろ」
そう言うとシェーンは大地を破裂させるように踏み抜いて突撃を敢行した。
「・・・うぅ、やっぱりクロにはこの戦いついていけないし、足手まといにしかなれないのん、だけど妖刀を握ったままだと手が離せないからウーナを背負う事も出来ないのん、どうすればいいのん」
シェーンが限界を超えた力と速さで黒龍を翻弄しているものの、それでも黒龍にダメージを与える程では無い。
そして妖刀を握ったクローディアは両手が使えず、動けなくなったウーナを背負う事も出来なかった。
クローディア一人だけなら【逃亡者】のスキルで逃げ切る算段もあった、しかし、他の二人を巻き込んだ事でそれは「2人を置いて逃げる」という選択肢に変わってしまった、そんな選択を選べるほど人情の浅い人間では無い、それ故に、この戦いには既に破滅しか選択肢が無かった。
このままシェーンが限界を迎えてしまった所で、クローディアに出来る事は無い、だからこのままでは三人とも犬死にするだけ、それを理解した時に、自分の無謀な作戦に二人を巻き込んでしまった罪悪感でクローディアは視界が歪んだ。
ここで三人とも死ぬしかない、【軍師】としてのクローディアの出した結論は一人で逃げるか、三人で死ぬかの二択しかなくて、だからクローディアはどうしようも無い絶望感に打ちひしがれて息が詰まった。
仮に両手が使えれば、煙玉などを駆使して三人で逃げるという手もあった、しかし今は三人全員が前進して滅ぶだけの猪武者となっており、後退する手立てが存在しない。
『女王』とタイマンしていた時すらここまでの絶望的では無かった、それ故にクローディアは完全に自身の許容量を上回る絶望感に感情を抑えられなくなり、「詰み」という現実に体が硬直し、そして涙が溢れてくるのを抑えられなくなった。
「・・・ふむ、どうやらここまでのようですね、クロ殿、私など放っていおいて逃げてください、ここで心中されるというのも私には寝覚めが悪い話ですから」
「うぅっ・・・、そんな事出来ないのん、せめてお役目として死ぬまで戦ってみせるのん、それくらいはしないといけないのん」
「何故かと、聞いても宜しいですか?、冥土の土産と思ってください、他言はしませんから」
「・・・だってクロは、ライアの妹の代わりに助けられたのん、クロのせいでライアの妹は死んじゃったのん、だからクロは絶対、その分の恩返しをしないといけないのんっ」
「なるほど、それがあなたの自殺願望のルーツ、という訳ですね、確かに、ここで死ぬ理由としては最も上等で、私などより遥かにちゃんとした理由だ、でも、それは足止めという役割をこなせて初めて成立する話、犬死にしかならないクロ殿の死は徒花にしかならない、つまり、ただの自殺にしかならない行為です」
「じゃあクロはどうすればいいのんっ!?、逃げるしか無くても、クロは逃げられないのんっ、犬死にするしか無いのん、それで死ぬのがクロの役割なのんっ、それすら許されないなら、クロはこの先どうやって生きればいいのんっ・・・!!」
「自殺がしたいというのならば、私は止めませんが、しかし、それで誰が浮かばれるのか考えてください、あなたが死ねば間違いなく、ライア殿は悲しむ筈です」
「うぅっ、ぐすっ、ひくっ、どうして、どうしてクロを死なせてくれないのんっ、覚悟は決まってたのん、ここで死んでもよかったのんっ、だから、死ねない理由なんて要らなかったのんっ!!」
クローディアとライアの確執、それは単純に見えて数々の要因が折り重なった根深いものだった。
何故ならクローディアは詐欺師を生業としているライアよりもずっとずっと嘘つきで、本心を隠してきた少女だったからだ。
普通の少女が単身で『女王』や黒龍に挑むような精神性をしている訳が無い。
そう、それらははっきりと、クローディアの自殺願望を表していたのだった。
そして、そんなクローディアと同じ位の大嘘つきな女が、この場にもう一人
──────────。
「──────────《ヒール》、
・・・クロさん、諦めてしまうのは簡単です、でも、私達のそんな絶望も、何もかも終わりにしたくなるような破滅願望も、全部を受け入れて救ってくれるような、そんな救いも、この世界にはあるんです、だからクロさんの事は、私が死なせません」
パーティの回復役として連れて来られたメリー、彼女はこの最悪の窮地に於いても己の役割を全うしようと、ずっと回復魔法をかけられる機会を伺っていたのであった。
死の危機であっても他人の為に命を懸けられる事、それはメリーという人間の本性であり、本質だからだ。
メリーの回復魔法によりウーナは瀕死の重症から全快状態へと回復する。
「・・・メリー、どうして逃げなかったのん、ここに来たらもう助からないのん、メリーまで死んじゃったら・・・」
「逃げられない理由なんて、私にはごまんとあります、でもそれでも、私は絶望していませんし自分が死ぬとは思っていません、だから私も戦います、お役に立てるかは分かりませんが、生き延びる為に、共に戦いましょう!」
そういうメリーの瞳はここを死地と思うような諦めなど感じさせないような、自信と希望が宿っていた。
「ふむ、つまり、メリー殿には秘策があるという訳ですね」
「・・・ええ、クロさん、先に謝ります、実は、クロさんのジョブは・・・、【軍師】ではありません」
「ええっ!?、【軍師】じゃなかったのん、それじゃあ一体なんなのん、まさか【乞食】や【遊び人】とか言わないのん」
とクロは大目を開けて驚いて見せるが、ウーナは最初から知っていたように無反応だった。
「クロさんの本当のジョブ、それは
──────────【魔王】です」
「え・・・?」
【魔王】、世界最強へと君臨する資格を与える唯一無二のジョブ。
確かに【魔王】ならば黒龍に対抗する手段も有り得るが。
「・・・この事は、メリー殿に免じて候補に留めておこうと思っていた話だったのですがね」
真実を知っていた女は、それが明らかとなる事を好ましく思っていなかったが、この窮地において真実を隠したままには出来ない事を理解していたが故にそうぼやいた。
だが何も知らないクロは混乱し、血の気が冷めたように狼狽していた。
それは彼女の嘘を暴く、メリーの優しい嘘という幻想から、クロに現実を突き付ける真実だったからだ。
「待って欲しいのん、クロが【魔王】なんて有り得ないのん、だってクロは人間で、だから・・・」
「クロさん、もう嘘は吐かなくて良いんです、全部、知ってますから」
そう言って、メリーはクロの左右に結ばれた髪留めを解いた。
すると、小さくて目立たないが、人間には無いモノ。
────────魔族の証である角が、はっきりと露わになった。
クローディアは一度呼吸を整えてからメリーに詰問する。
「すぅ、はぁ、・・・つまり、メリーは知ってたのね、私が魔族であるという事をずっと、なのにどうして黙っていたの?」
語尾はつけない、それはクローディアの人に対する仮面、殼のような物であり、魔族という素である今の彼女には不要だったからだ。
そしてクロという仮面を外した彼女の素顔は大人びていて、愛も情も知らないような、冷酷で冷徹な瞳をしていた。
「・・・だって、そんなの悲しいじゃないですか、ライアさんの幼なじみであるクロさんと、・・・二人が、戦う事になるなんて」
【勇者】と【魔王】、宿敵となる二つのジョブを類まれなる運命で宣告したプリーストは、最初の【勇者】がジョブを偽装した事に倣い、【魔王】のジョブも偽装して、誰にも知られないように秘匿しようとしていたのであった。
ライアは自分達二人が秘密を守れば誰にも知られないと言った、故にメリーは、自分一人が秘密を守れば、誰にも知られること無く、この世に【魔王】が誕生しない、そんな平和が実現すると思ったからだ。
でも、クローディアに【魔王】という真実を告げずこのまま死なせてしまうと、今度は別の誰かに【魔王】のジョブが移り争いを生んでしまう。
故にメリーはここで秘密を明かし、クローディアに【魔王】という宿命を負わせて、生き存えてもらおうと思ったのであった。
「それなら要らない心配ね、私は最低一回はライアの為に死ぬと、そう心に決めてるから、だからライアと戦う事になったら迷わずに死ぬ、でも、それを見極める為に今日まで黙っていたというのも分かるから、だからそういう事だと受け入れるわ、メリー、更新をお願い出来る?、【魔王】なら、あの黒龍を倒す手立てがあるかもしれない」
クローディアは淡々と全てを受け入れて、再び黒龍という死地に飛び込む事に躊躇を見せなかった。
その様にメリーは【魔王】という肩書きにバイアスされて、風格のようなものすら感じるほどに、語尾を外したクロに強烈に惹き込まれて、・・・魅入られた。
世界最高のジョブの宣告に二度立ち会った女は、クローディアが自分の妹に全く引けを取らない傑物であるとそこで確信し、故に彼女なら黒龍を倒せるかもしれないと、そんな期待すら抱いたのであった。
「分かりました、《汝の辿りし冒険の記憶を、ここに記録し編纂する》、─────更新────!」
「・・・!!、すごい力が湧いてくるっ!、これが!【魔王】の力・・・っ!」
今この瞬間をもって、クローディアは魔族最強である【魔王】として、この世に君臨したのであった。
「ライセンスを書き込む時間がありませんので口頭で言いますが、今のクロさんのレベルは75、ステータスはオールA+、運はSS、そしてスキルは【不死身の肉体】【覇者の大号令】【魔王の誘惑】です、スキルの効果までは知りませんが・・・」
「『女王』を倒した後に『白虎』と『黒子』も倒した割にはレベル50までしか上がらないのは不思議だったけど、やっぱり詐称してたのね、メリーの嘘つき」
Aランクの魔物は討伐推奨レベルが75で、魔物自身のレベルも75以上となっている、故に【超学習】の効果が無かったとしても、Aランクネームドを三体倒して50で頭打ちとなるのは少し収支が合わない話であり、また、30の低レベルでAランクと互角に戦うのもおかしな話なのだ。
つまりレベルがカンストしてしまってはクローディアが村から出ていくかもしれないと、それを避ける為にメリーはずっと更新の度に鯖を読んでいたのであった。
「だって、この調子でレベルを上げてしまったら、ひと月経たずにレベルがカンストしてしまい、そうなったらクロさんは村を出て行ってしまうでしょう・・・?」
「心配しなくても、私はずっとライアの傍にいる、望まれなくても、誰に引き離されても、死ぬまでずっと、だからライアがいる限りは、私も村から離れない」
クローディアのその感情は、愛でも情でも無い、もっと歪で理解出来ない、恣意的で洗脳的なものだった。
故に、その言葉はメリーには全く理解出来ない感情なのに、それだけでクローディアの覚悟が本物だと認めたのであった。
「それじゃあ、・・・行くよ、そろそろシェーンも限界みたいだから」
クローディアは位置を入れ替えるように限界を迎え体が動かなくなったシェーンを後方に弾き飛ばすと、自身に【覇者の大号令】をかけて能力の底上げをし、限界突破したシェーンに勝るとも劣らない力で黒龍を翻弄した。
「・・・!!、おいおいなんだよあのガキ、数日前とは別人じゃねぇか、一体どうなってんだよ!」
いくら妖刀が持ち主の技量に関係なく剣術を再現し力を発揮する武器と言えども、妖刀を持ったクローディアの力は最早完全に達人の域に到達しており、それはシェーンの全力、及び、ウーナの本気とも比肩する程の力であり、それを見たシェーンは、『女王』の時とは見違えるようなクローディアの成長ぶりに舌を巻いた。
満身創痍となったシェーンをメリーはヒールで治療しつつ、ぽつりと呟いた。
「クロさんは・・・、宿命を背負って生まれた人なんです、だから強い」
「宿命・・・?」
その質問にメリーは沈黙する、クローディアが【魔王】だとシェーンに知られれば、連れて行かれるか、魔王軍に狙われるかもしれないからだ。
「・・・本当に素晴らしいですね、ああ、あの妖刀、人間の血を啜った恩讐と怨念、果てしない業を背負った呪物だというのに、無垢なる少女が振るう事でこうも華麗で美麗な一太刀へと昇華するとは、やはり、この世の全ての名剣名刀には、それに相応しい担い手が存在するという事・・・!、新しい発見です、私も彼女に、・・・斬られてみたいっ!!」
そしてウーナはクローディアの剣舞に恍惚と鼻息を荒くして、その姿を目に焼き付けんと珍しく開眼し瞳を輝かせていた。
任務の為に探し求めていた人物が自分の本懐を叶える剣士でもあったという事実は、ウーナの琴線に絶頂を感じさせる程の喜びを与えたのであった。
「・・・お前、不謹慎過ぎるだろ、・・・てかアタシの時より格段に興味惹かれてるし、そこまで目を輝かせて、お前は一体なんなんだよ・・・」
「おや、てっきり我々は同じ目的に従事する商売敵のようなものと私は考えていたのですが、シェーン殿は彼女に興味は無いのですか?」
「は?、という事はアイツが【勇者】?、いや、でもあいつは魔族で・・・、それは有り得ねェだろ!?」
「・・・ふむ、なるほど、そういう事ですか、まぁシェーン殿は見るからに肉体派ですし、そういう事なのでしょう」
と、ここでウーナは自身とシェーンとのすれ違いに気付き、そして未だクロの正体を察せずにいるシェーンを放置する事にした。
「なンだよ肉体派って、確かに頭脳は大したもんでもねェけどよぉ、だったらどういう事か説明しろって」
「大した事ではありませんよ、それよりシェーン殿、宜しければ刀を貸して頂けませんか、シェーン殿が体を回復させるまでの時間は稼いでみせましょう」
ウーナの剣は先程のドラゴンブレスと相殺する事で粉微塵となった。
そして現在シェーンは体を限界を超えて酷使した反動により全身骨折級のダメージを負っており、それは高レベルプリーストであるメリーのヒールでも完治に数分かかるほどの大怪我だった。
「背に腹はかえられねェ状況だ、だけど頼むから折らねェでくれよ?、そいつを折られたらアタシは国に帰れなくなる」
そう言いつつもシェーンは渋々と自身の愛刀『十六夜ノ雲切』をウーナに手渡す。
「ふ、ならずっと村に住めばいい、そして彼女をずっと見守るのです、あなたならそれが出来るでしょう」
「は、なんでそうなるンだよ、というか、あんな治安が悪くて嘘つきばかりの村、流石に自分から住みたいって言う奴は居ねェだろ、キチガイばっかじゃねェか」
「へぇ、そうなのですね、私はフエメ殿の所でお世話になっていたので知りませんでしたが、ですが同じ魔族のよしみとして、少しくらいクロ殿に世話してあげてもよいのでは?、じゃないと危なっかしいでしょう、そそっかしい彼女を一人にするのは」
「ふん、人間の世界じゃどうかは知らないがな、魔族の世界では誰かに手を引いてもらうような事は赤ん坊ですらしないんだ、だからどんだけ危なっかしくても、手助けはしねェよ」
「そうですか残念です、もし二人が師弟となったなら、良きコンビとして私のメインディッシュ・・・、いえ、素晴らしい剣士へと成長出来ると思ったのですが」
「・・・お前は自分の欲望に正直だよな、というか頭の中はそれしか無いのか・・・、魔族でもそこまでの業突く張りは見た事ねェよ・・・」
いや、金の事しか頭に無いヒゲと、性欲の事しか頭に無いハゲには心当たりがあったが、それでもここまであけすけに包み隠さない人間は初めてだった。
「それはつまり、私が天下無双という事ですね、ふふ、シェーン殿に太鼓判を押して貰えるとは、照れてしまいますね」
「いや褒めてえねェよ!、信じられないくらい清々しい顔してるけど、アタシは今お前を罵倒したからな?」
「いえ、あなたの言う通り私の頭の中には一に名剣、二に名刀、三がその担い手の事しかありませんから、正直与えられた任務も魔王軍と人間の戦争もどうでもいい、その上で言わせてもらえば、私がこの世で一番剣を愛していると証明出来たなら、それは私がこの世で一番の剣士であるという証であり願いの成就、ならこの世で一番剣を愛していると認められる事を、私が拒む筈がありませんとも!」
それこそが【剣極】であるウーナの本領発揮であり、そして、厄介払いされるに至るウーナの本性であった。
「ではそろそろ参戦するとしましょう、『十六夜ノ雲切』、王国にすらその名が聞き及ぶほどの魔族の名匠が作った真の名刀、シェーン殿は丹念に手入れをしてらっしゃるようで、澄み切った刃、鍔の輝き、柄の握り心地、どれも最高です、やはり、他人が大切にして来た名刀を使う瞬間というのは年甲斐も無く浮かれてしまいますね、どうですか『雲切』私の手はシェーン殿より大きくて力強いでしょう?、私のモノになりたいと思いませんか?、私ならもっとあなたを使いこなしてみせますよ?」
「お前っ・・・、刀に話しかけるとか、素直にヤバい奴だったんだな・・・」
興奮し早口で独り言を呟くウーナにシェーンはドン引きするが、その言葉さえも聞こえないくらいウーナは自分の世界に没頭し、突貫した。
「スイッチです、クロ殿、私に連携して合わせる事は出来ますか?」
「ごめん、妖刀は意思を持たず、ただ目の前の敵を斬るだけ、だから私がウーナに合わせる事は出来ない、ウーナが私に合わせて」
「良いでしょう、剣戟の円舞曲、あなたに合わせて踊って見せましょう、ええ、出来ますとも、私とこの『雲切』なら!」
「ホウ、先刻ヨリ少シハ骨ノアル動キヲスルヨウニナッタナ、面白イ、ソノ剣術、我ニ見セテミヨ」
人間の限界を超えた二人の剣技、しかしそれはどこまでいっても結局黒龍の金剛のような鱗に弾かれてしまう、だが、それでも二人は力の限り剣を振るった。
「《我が軍勢よ、我が命に従い、我が覇道を示せ》」
「!!、なるほど、これが大号令の力ですか、アドレナリンがフル活動し、体が羽になったように軽い、時間限定の強化ではありますが、このSSクラスのステータスと、真の名刀である『雲切』なら黒龍にダメージを与える事が出来るかもしれません」
「本気出してもいいから頼むから『雲切』だけは折るなよ、絶対だからな!」
「シェーンさんそれフラグです」と、メリーは思ったが、流石に不憫だったので口には出さなかった。
こうして三人はクローディアとウーナが消耗したらシェーンが【大号令】をかけてもらって黒龍と戦い、シェーンが消耗したらウーナとクローディアが黒龍と戦うというローテーションで数刻の間、激闘を繰り広げた。
幾度となく剣と黒龍の爪はぶつかり合い、その果てにようやく黒龍の爪の一つが砕けた。
「はぁ、ふぅ、ようやく一つ部位破壊できた」
「ちっ、こっちは限界ギリギリだっていうのに、これで爪一つのダメージとは、流石に災厄級は伊達じゃねェな」
「ええ、想定よりマシとはいえ、依然として絶望的な状況です、シェーン殿、『十六夜ノ雲切』と引き換えにすれば、黒龍の腕の一本くらいは斬り裂いて見せますがどうでしょう?、勇者の遺産が貰えれば聖剣やら何やらで補填する事も出来るでしょうし、命が助かるなら安い買い物ですよ」
ウーナの奥義である鎧袖一閃は放てば必ず剣と体が砕ける諸刃の剣、しかし名だたる名剣名刀を使えばその威力は山を斬る事すらも出来るほどの最強の技でもあった。
「ふざけんなよオイ、この刀は死んでも折らせねぇ、アタシの魂だ、お前には刀に対する愛着とか大事に思う心は無いのかよ」
「いえ、刀剣など所詮は道具、家に飾って愛でたいのであれば、宝剣や祭儀剣などを愛でればいい、故に私はこう思うのです、刀剣の価値は何を斬ったか、それのみに集約されるべきだと、人の人生だって同じでしょう、どれだけ愛されたかでは無い、何を成し遂げたか、それこそを追い求め、尊ぶべきだと、故に、黒龍を斬れるのであれば、それは刀剣にとっても本望であると、私はそう思っています」
たしかに武器を大事に扱うのは剣士として当然の心構えであるが、それを実践し過ぎて武器を使わなくなるのも本末転倒だとシェーンは思ったが。
「・・・そんな事言って、お前は今まで一体何本の剣を折ってきたんだよ」
「さて・・・、物心ついた時には一日一本は折ってましたし、流石に今までに食べたパンの枚数を聞かれて答えられる人はいないでしょう」
「この人でなしが!いや、剣潰し!、お前剣を愛しているとかいって本当は、それ以上に剣を壊しているじゃねェか!、何が「世界で一番剣を愛している」だよ!」
「いやいや誤解です、世界で一番剣を愛している私の手で生涯を終えられるなら、剣にとってもそれが幸せ、剣の本懐を遂げさせている私こそ、最も剣を愛する者を名乗るに相応しい存在の筈です!」
「んな訳あるか!、剣は鉄打てば勝手に出来る鋼の塊じゃねぇ、鍛冶師が研究し研鑽し、長い歴史と技術の粋を集めて、職人の魂を込めた結晶、それが刀であり、そしてその中でも奇跡のような偶然から、量産型では有り得ないような輝きを放つようになったのが名刀なんだ、それを朝飯感覚でホイホイ消費してる奴に壊されたとあっちゃ、どんな巨龍を倒したとしても名剣も浮かばれる訳がねェ、だってお前が折る名刀は、今後千年生まれるかも分からない唯一無二の存在で、人間の命なんかよりもよっぽど貴重なんだからな」
シェーンは自分で刀鍛冶をした経験から刀に対する思い入れと知見は人一倍あった、それ故に職人の苦労など知りもしないようなウーナの言葉には憤慨せずにはいられなかったのである。
「ふむ、一つ、誤解があるようですね」
「ああ?、どういう事だよ、お前が刀剣をただの道具としてしか見ていない冷たい女ってのは間違い無ェだろがよぉ」
「ええ、それについては否定しません、私は今までに数多の剣を破壊し、そしてこれからも数多の剣を消費する、金貨一枚で買える鋳造剣も、国宝となった名剣も例外なく、徒に消費していくでしょう。
・・・でも、この世にはあるのです、私が全力で振るっても、仮に世界が滅びたとしても残るような、そんな真の名剣名刀が」
「神遺物って奴か、確かに聖剣はどれだけ使っても刃こぼれ一つしないと言われているが、だがそんなデタラメ武器、人間や魔族に作れるわけがねェ、この世の全ては有限で出来てる、だから壊れない剣なんて、それこそ御伽噺みたいなもんで、現実の武器と比べるもんじゃねェだろ」
「そうですね、形のあるものは全て壊れる、だからこそ、平穏な生を享受するよりも、一瞬の瞬きに散華する、それこそ剣の、剣士の、求めるべき理想なのでは無いですか」
ウーナはこの場においてすら抜きん出た異常者であり、とびきり抜きん出た狂気を秘めていた。
そしてその愚直で真っ直ぐな狂気にシェーンは、剣士であるが故に感化されてしまった。
本来は【勇者】の捜索という何よりも優先するべき任務があった筈なのに、それを忘れてウーナの言葉を受け入れてしまったのだ。
「・・・!!っ、クソっ、・・・ああそうだな、お前の言う通りだ、剣は飾って見せびらかすオモチャじゃねェ、テメェのムカつくもんをぶった斬る為の道具だ、道具である以上惜しむ方が間違っている、お前の言う通りだよ、アタシが間違っていた、・・・そうだよ、剣なんて無くしてもまた探せばいい、生きていれば代わりだって見つかるものなんだ」
生き延びる為にはウーナに託すしかない、『十六夜ノ雲切』を失えば魔族の中での地位や剣士としての面目、そして任務を達成する為の戦闘力、全て失う事になるが、それでも今は他に打開する手立てが無いと、シェーンは腹を括ったのだった。
この場においてシェーンにはそこまでして黒龍を討伐しなければならない理由など存在しないというのに、シェーンはそれを受け入れてしまったのであった。
「ふむ、これから折られるという愛刀を信じて託されるというのも、なんだかえも言われぬ背徳感がありますね、大丈夫ですよ、この子が真の名刀と言われるような最高ランクの刀ならば、見事黒龍は一刀両断され、そして刀身も原型を留める事は有り得るでしょう」
「期待を持たせる気があるのか無いのか分からねえ慰めは要らねェよ、せめて雲切が胸を張って逝けるような、雲切に相応しい最期を迎えさせてやってくれ、そしたら文句は言わねぇよ」
それはフラグだとメリーは思ったが、言わぬが花と口を慎んだ。
「承知しました、全身全霊、この身に宿る全ての力を振り絞って剣を振るいましょう、クロ殿、下がって・・・
────────────行きます」
二人が相談している間、クローディアが一人で黒龍の足止めをしていたが、【魔王】として覚醒したクローディアは単騎でもウーナやシェーンに引けを取らない力を発揮しており、短時間の戦闘で驚異的な成長を見せていた。
それ故に後退の指示に内心反感を持ちつつも、背後のウーナから練られた鋭利で強大なオーラを感じ取り渋々引き下がった。
「行きます、
─────────鎧袖一閃『雲切』」
その澄み切った一太刀は、ただ一文字に結ぶという結果だけを、音もなく成し遂げた。
嵐が吹き抜けるようにその一太刀で周囲は剣圧から生まれた大気に押し流される。
それは神速の一太刀が生み出した衝撃波による余波であり、空間全てを断ち切るという結果の残響だった。
その一太刀は目に見えない大気も、黒龍の背後に聳え立つ山も、その遥か彼方にある雲すらも、あらゆる物を断ち切る、天下無双、森羅万象を一刀両断する、最強にして究極の一太刀。
【剣極】に至った女が、その才能と得た名剣名刀をドブに捨てる事により生涯をかけて磨き上げた、決して誰にも真似出来る事の無い究極にして至高の一太刀だった。
「やった・・・のか?」
ウーナの放った凄まじい一太刀、流石にそれを食らっては黒龍もひとたまりもないと、その馬鹿げた破壊力を見て、シェーンは確信に近い予感を感じていたが。
「こふっ、・・・『十六夜ノ雲切』あなたはとても素晴らしい名刀でした、私が120%の力を出しても折れず、そして素晴らしい一太刀を生み出してくれた、私はここで果てても満足な程に絶頂と充実を感じています・・・しかし」
ぴしっ、と『十六夜ノ雲切』の刀身に亀裂が走った。
「─────────人間ヨ、ヨクモ私ノ角ヲ折ッテクレタナ、今ノハ死ヌカト思ッタ、コノ我二傷ヲツケタ人間ハコレデ二人目ダ、殺シテヤルゾ、覚悟セヨ」
ウーナの放った最高にして最強の一撃は黒龍に直撃せず、その角を折るに留まっていた。
全てを切り裂くその一撃は、黒龍の的を外していたのである。
そして黒龍は報復の為に全てを焼き尽くすドラゴンブレスを再び構える。
「ってオイまじかよ!、殆どダメージが入ってねェじゃねェか!、お前ドヤ顔で「腕の一本は断ち切って見せます」とか言っておきながら外してンじゃねェか!」
「こふっ、いやはや面目無い、まさかあの図体で咄嗟に身をかがめる事が出来るとは思わず、馬鹿正直に首級を狙った結果がこれでして、雲切も壊してしまい、シェーン殿には何と詫びていいか言葉もありません」
そう言うウーナは吐血し、体は既にボロボロの状態で動く事すらも出来ない、とんでもないミスをしたと言えども、そんなウーナを責めるほどシェーンは鬼では無かった。
メリーはそんなウーナにヒールをかけるが、ヒールをかけてもウーナは動けなかった。
「チクショウ、折られ損じゃねェかよ、でもそうだよな、そんな気はしてたさ、災厄と呼ばれる黒龍がそんな簡単に倒せる訳が無いって分かってた、だから仕方ねェと諦めてやるよ」
「一応私も災厄級ではあったんですがねぇ・・・」
「・・・は?」
ウーナの剣技は本気を出せば山を斬る事が出来る。
地形を変える程の破壊力を持つ攻撃が出来るのは黒龍のような災厄級だけであり、そしてかつてのウーナは街や田畑に被害が出る事など全く考慮せずに、日々、鎧袖一閃の鍛錬に明け暮れていたのであった。
ついたあだ名が『災厄の狂剣士』である。
「無駄口叩いている場合じゃない、シェーン、ウーナを背負ってここから離脱して、後は私が何とかするから」
危険を感じ取ったクローディアは武器を失った二人に撤退するように命じた。
「何とかするって、お前一人でどうにかなるのかよ、無理だろ、お前も逃げるんだよ」
「いいから早く逃げて、ドラゴンブレスは私が引き受けるから」
そう言ってクローディアは息を吸い込む最中の黒龍に突撃した。
そしてシェーンはクローディアのその言葉に、強制力を以て従った。
それが【魔王の誘惑】の効力、魔族である以上は誰もクローディアの言葉に逆らえないというものであった。
「ああ、チクショウ何故か体が勝手にっ!、クロ!、死ぬなよ!」
そう言ってシェーンがウーナを連れて離脱するのを確認すると、クローディアは黒龍のドラゴンブレスを吐き出させまいと黒龍の懐に潜り込んだ。
長い首を持つ龍であれば、自分の懐にいる相手を視認し、ブレスを吐きかける事は出来ない、そういう目論見での接近だったが、黒龍は想像より遥かに機敏な動きで一回転すると、尻尾で薙ぎ払い、クローディアをゴルフボールのようにはじき飛ばした。
「・・・っ!」
そしてクローディアが壁に激突した所に追撃で灼熱の息吹を吐きかける、木も土も壁も、全てを焼き尽くし、溶かした。
「かはっ、はぁはぁ、・・・」
しかしそれでもクローディアの体を溶かす事だけは出来なかった。
灼熱の大気で肺まで焼かれているにも関わらずクローディアは立ち上がり、炎に焼かれて体が燃えているにも関わらず、剣を握って黒龍に斬り掛かる。
それが【頑丈】の最上位スキルである【不死身の肉体】の効果。
どれだけの即死級の攻撃を喰らおうと、致命傷を受けようと、重傷を背負おうと、体力が残る限りは戦闘を継続する事が出来るという物。
それは完全に徒花であり、勝算など欠片も無い戦いであったが。
それでもクローディアは黒龍に挑み続ける。
そしてクローディアが立ち上がる度にメリーは、クローディアにヒールをかけ続けるのであった。
「ぜぇ、はぁはぁはぁ、ぜぇ、・・・中々、・・・しぶといね」
「終ワリニシテヤロウ人間、イヤ、魔族ノ娘ヨ、貴様トノ戦イハ昔ヲ思イ出シテ滾ル物ガアッタ、礼ヲ言ウ、手向ケトシテ一撃デ葬ッテクレル」
時間稼ぎには十分なくらいクローディアは戦った、文字通りに命を燃やし尽くす勢いのクローディアは何とか黒龍に踏み潰されずに時間を稼いで見せた。
しかしいくらA+のステータスを持つクローディアの魔力であっても限界はある、魔力が尽きれば【不死身の肉体】【覇者の大号令】の効果は消え、戦闘続行は不可能だ。
「っ、・・・もう限界、メリー、逃げて・・・」
途中からヒールが追いつかなくなったクローディアの体は全身に火傷、骨折、そして体中のいたるところから血を流しており、立っているのが不思議と思えるくらいに傷ついていた。
黒龍にトドメを刺されなくても直に死ぬ、それ故にクローディアはこれ以上は無駄と、最後まで付き添う必要は無いとメリーに退避を促すが。
「逃げません!!」
「なんで、このままじゃ犬死だよ?、メリーが死んだら、ライアが悲しむ」
「それはクロさんも同じです、だからクロさんを置いて逃げるなんて出来ません」
「私はいいの、だって私は生まれて来なければ良かった人間だから、それに【魔王】だって知られたら、きっとライアにも嫌われちゃうし、だから・・・もう死んでいいの」
クローディアが今日まで村で暮らして来れたのは自分を人間だと偽って生きてきたからだ。
でも、仮面を剥ぎ取った今のクローディアは、自身の冷酷で冷徹で残酷な本性を自覚してしまった、そんな自分に村で生きる資格が無いと分かっていたから、クローディアは徒花を咲かせる道でいいと諦観しきっていたのである。
そしてそれはかつてメリーが抱えていた感傷と似ていた。
「・・・っ、それは私も同じです、私だって生まれて来なければ良かった人間で、それで協力者であるライアさんに嘘もついている最低の人間なんです、でも、そんな私でもライアさんは救ってくれるんです、どんなにダメで最低で非道い私でも、ライアさんは必ず救ってくれるんです、だからクロさんの事も、ライアさんは必ず救ってくれる、ライアさんならそれが出来る、だからクロさんの事は必ずライアさんが救ってくれるんですっ!」
この死の一歩手前の詰みの局面でも、メリーはライアを信じていた。
メリーがライアを信頼するのは、告解を聞いて貰ったからだけでは無い。
嘘つきで怠け者で自分勝手なライアと一緒にいると、「無理に役割を演じる必要は無い」「好きな役を演じればいい」とそう思わせてくれるのだ。
メリーの人生は役割を演じるのか常で、悪徳商人の娘でお姫様のようなメリー、聖女の姉で聖母のようなメリー、村の頼れるプリーストであり聖人君子のメリーという役割をずっと演じてきた。
しかし、ライアと出会い、自らの大役である【勇者】を放棄するかのような生き様に感化されてメリーは、生まれて初めての自由を得て、そしてその時に初めて魂の解放、救いを得る事が出来たのだ。
そしてライアという自分の弱さや醜さをさらけ出せる相手という救いを得る事が出来たのだ。
不真面目で怠け者のライアと一緒にいると感じられる充実感、気安くセクハラされる事も、聖人君子でも高嶺の花でも無い本当の自分を見てくれているという肯定感を与えてくれ、何ものにも得がたい幸福を確かにメリーは与えられていたのだった。
そして【勇者】であるライアがこの間違いだらけで救いの無い世界を救ってくれたなら、自分の間違いだらけで救いの無い人生すらも肯定されるモノなのだと、ライアに全てを懸けて熱中するほどの強い希望を抱いていたから。
だからメリーは信じていた、ライアは必ず自分を救ってくれると、仮に世界を救えなくても、自分の事を救ってくれる勇者になってくれると。
「無理だよ、・・・だってライアが来たって黒龍には勝てない、・・・【魔王】である私ですら歯が立たなかったのに、モンクのライアに何が出来る訳でも無いもの」
「いいえ、倒せます、だってライアさんは
────────」
どれだけ情けなくても、その姿は挫けた人々に勇気を与えてくれた。
どれだけ貧弱でも、その背中には常に世界という多くを背負っていた。
どれだけ傷ついていても、その体は弱き人々の為に何度でも立ち上がって見せた。
だから人々は勇者を称え、崇拝し、勇者は御伽噺となったのである。
メリーの知る勇者は、御伽噺の英雄とは欠片も似つかない男だったが。
だけど現実の勇者である彼は、御伽噺の勇者の誰よりも、メリーにとって特別な勇者だった。
だからメリーは、仮に裏切られたとしても、何度騙されたとしても、最期に救ってくれなかったとしても、この先にどんな結末が待ち受けていたとしても、ライアの事を。
「おい、黒龍!!、俺は【勇者】だ!!、俺を倒しに来たんだろ!!、俺はここに居るぞ!!!」
「私の
────────勇者ですから」
信じていた。
殲滅作戦改めて「金環作戦」、そのメンバーは“殺戮の森”を抜けて、“黄金山地”まで来ていた。
「あれ?、お姫様からきいてねぇか、今回は“黄金山地”の奪還が目的なんだよ」
「は?」
「まじかよ」
フエメの護衛であるBランク冒険者の男二人が驚いた声を上げたが、ペテンストは何食わぬ顔で答えた。
「あれ~?、おかしいなぁ、お姫様とはライアがちゃんと話つけてくれたって言ってたんだがなぁ、まぁネームドの『女王』『白虎』『黒子』もいなかったし、このまま行けば楽にミッション達成出来るだろ、この調子で行こうぜ」
「おうそうだな、黄金山地を取り返した俺たちには特別なボーナスも貰えるし、こんな楽に取り返せるなら儲けもんだぜ!」
「兄ちゃん達、ボーナス入ったら一発チンチロで倍プッシュしようぜ!、いい店紹介するからよう!」
と、三英傑は上手く連携して話を「黄金山地」から「ボーナス」に誘導し、強引に話しかけて有耶無耶にした。
「なんか、拍子抜けだな、この辺の魔物は凶暴で活きがいいのが多いって聞いてたンだがよォ、雑魚ばっかじゃねェか」
「うにゅ、普段はもっとバチバチやり合ってて殺伐としてるし、Bランク以上の手強いのがウヨウヨいたのん、何かがおかしいのん」
「・・・そう言えば、事の発端は『女王』が縄張りの外へと出た事が始まりだと聞きましたが、だとするのならば、それには原因がある筈、つまり、この静けさというのは」
「─────嵐の予兆、という訳か」
“黄金山地”、山道を歩いてたどり着いた、台地となって開けたかつて人が住んでいた廃墟の佇む区画を抜けて、本命である貴金属の採れる洞窟の中に入ると、それはいた。
「黒龍、これは、バハムート種か?」
「バハムートと言えばSSランクの災厄級モンスター、それが秘境では無く片田舎の洞窟を縄張りにしているとは、なんとも奇妙な話ですね」
災厄級というのは台風や洪水のように人間には抗えないような強さを示し、討伐したという実例は伝説の勇者による伝承くらいしか存在しないものだった。
つまり、この黒龍の存在が『女王』を縄張りの外へと追い出し、周囲の凶悪な魔物を“殺戮の森”から駆逐した真の原因だったという訳である。
「えーと、それでお二方、二人ならバハムートを倒せますかね?」
「「無理だ(ですね)」」
「あーやっぱり、よし、撤収すっぞ、作戦は失敗!、流石に黒龍相手には出来ん、刺激しないように静かに帰るぞ」
「えーつまんないのん、逃げるなら戦っても損は無いのん」
「おまっ、ちょっ、馬鹿野郎!、人間が黒龍に勝てる訳無いだろ!幼女は黙っとれ!」
駄々をこねるクローディアをペテンストは脇に抱えて、駆け足でその場から退散する。
しかし。
「疼クナ・・・」
「ん?、今誰か喋ったか?」
ペテンストが確認するが全員首を横に振る。
「右目ガ疼ク、勇者ニ切ラレタコノ右目ガ、ドウヤラ居ルヨウダナ、我ガ仇敵ノ末裔ガ」
ずしん、と、大地が揺れる様な鳴動をする。
「ま、まさか・・・」
ペテンストは恐る恐る後ろを振り返った。
黒龍の隻眼は炯々と見開かれており、悠然とした動作でこちらに向けて歩き出していた。
「強制バトルかよ!誰だよ戦闘フラグ立てた奴!皆、逃げろおおおおおおおおおおお!」
ペテンストが叫ぶより早く、各人逃走を始めた。
「あちゃー!」
「アウチッ、何すんだよクロっち、いきなりケツに刀ねじ込むなんて!」
クローディアは自分を抱えるペテンストを下ろさせるために持っていた刀の鞘をペテンストのケツにねじ込んだのであった。
「殿は任せるのん、どうせ逃げても追いかけてくるのん、そしたら村が滅ぶのん、だったら誰かがここで倒すしかないのん」
そう言ってクローディアは、妖刀を鞘から抜いた。
「待てよクロっち、黒龍は人間に勝てる相手じゃ無いんだって、戦えば確実に死ぬ、自殺行為だ、だからはやまるな、いのちだいじにが作戦だろ!」
「うにゅ、勝てない事は分かってるのん、でも誰かが殿をして、奴が追ってこられないようにする必要があるのん、だからこれがクロのお役目なのん、ペテっち今日までクロを養殖してくれてありがとうなのん、最期に村に恩返しするのん!」
「クロっち、お前・・・」
クローディアの本気の覚悟を感じ取り、ペテンストは揺れた、自分では足止めにすらならないと分かっていても、クローディアを置いて逃げるなんて出来なかったからだ。
「・・・へへ、やっぱりお前は見込みがあるぜ、黒龍退治か、それが出来ればアタシも勇者と肩を並べられる、だったら俄然やる気が湧いてくるぜ」
「シェーン!、逃げなかったのん!?」
「自慢じゃないが、アタシはアタシより強い奴と戦った経験なんてごまんとある、それでも逃げずに賭けに勝ったからここにいる、だったら今日ここでこいつから逃げる理由もアタシには無いのさ」
「姉ちゃん、アンタ・・・」
「ふむ、なら私も協力しましょう、メインディッシュが・・・、いえ、お二方をここで死なせるのは、私の道義に反しますから」
「糸目の姉ちゃんまで・・・、クッソ、しゃあねぇ、女に殿やらせてケツ巻いて逃げられるか、男を見せるぜペテンスト」
ペテンストも覚悟を決めた、震える膝を叩いて鼓舞し、立ち向かって見せたのであった。
「ペテっちはいらないのん」
「おっさんは逃げてくれ」
「ペテンストさんは逃げてください、邪魔になるので」
「そんな!?」
しかしいくら覚悟を決めた所でペテンストは負け組ジョブのBランク、足でまといにしかならないと皆に必要とされていなかった。
「くそう、悪ぃが姉ちゃん達、それにクロっち、村の皆を避難させて、それで安全が確保出来たらまた報告に来るから、それまで死ぬんじゃねぇぞ、武運長久を祈ってるぜ」
「ペテっち、後は任せるのん、だから代わりにライアには今までの色々、謝って欲しいのん、まだごめんなさいが言えてないのん」
「悪いな、それは生きて帰って自分の口で伝えてくれ、なぁに、あいつはロリコンだからな、クロっちのごめんなさいなら何やっても許してくれるに決まってるさ」
「うにゅ、クロはもう14歳で立派なレディなのん、でも分かったのん、自分で伝えて今までの全部、ちゃんと告白して許して貰うのん、だから死なないのん」
クローディアはそこで妖刀を握りこんだ。
死ぬ為では無い、生きてライアに伝えたい事があるからだ。
その想いだけで、拳に力が宿った。
「グルォオ、貴様タチノ中ニ勇者ノ末裔ハオラヌヨウダガ、ダガソノ心意気ヲ買ッテヤロウ、我ハ強キ人間ヲ好ム」
「クロも好きなのん」
「アタシも好きだ、気が合うな」
「ふむ、黒龍もやはり戦闘オタクという事なのですね」
戦闘オタク、それがこの場にいる全員の奇妙な共通点だった。
故に圧倒的な力と体躯を持つ黒龍に、三人は嬉々として挑んだのであった。
「ふわぁ、いい天気だなぁ」
「今頃、幼女達は汗水たらして過酷な任務に従事していると言うのに、呑気なものね」
「・・・欠伸くらいいだろ、俺が心配した所で何も変わらないし、細かい事を気にしないでくれよ、器が小さいぞ」
「小さいのはあなたの恥を感じる道徳心でしょう、どうやったらそこまで厚顔無恥にふてぶてしくなれるのよ」
「鴻鵠の志ってヤツだよ、小さい事を気にするのは小さい人間のする事で、だから俺は小さい事を気にしない主義なの」
「大物ぶった所で、あなたが怠惰で無能で話もつまらないゴミだっていう事実は変わらないけどね」
「言い過ぎだろ、お前自分がちょっと可愛くてチヤホヤされてるからって、他人を馬鹿にする権利も、パワハラする権利も無いんだからな、あー思い出したらムカムカしてきた、この間サティ市でタダ働きした分ちょっとでいいから報酬くれよ」
「あら、日当五万デンの破格の契約を断ったのはあなたでしょう、そう言えば好感度を上げれば考え直すという話だったけれど、今はどうなのかしら、あと何が鴻鵠の志よ、めちゃくちゃ小さい事を気にしてるじゃないの」
「お前俺の好感度を上げるような事何もして無いだろ、むしろ戦わせたり蹴ったり馬鹿にしたり、イラつかせるような事しかしてねぇじゃねぇか、ふざけんな!、あとあの日の労働、普通に50キロ走らされた後に20キロの荷物を持って街を歩き回るの、普通にキツかったからな、俺の人生のキツい出来事トップ3に入るレベルのキツさだったからな、全然小さくねぇよ、むしろめちゃくちゃ大きいのに今日まで我慢してたんだよ、お前が知らない赤の他人だったらガチビンタで泣かせてるよ」
「・・・参考までに、他のトップ3を聞かせてもらえるかしら、それによっては待遇を改善し、報酬を引き上げてあげない事も無いわ」
「えーと、1位が準備無し、手ぶらで登山して遭難して虫に刺されまくって3日間飲まず食わずでさ迷った事、2位がガチ貧困で1週間火を通した昆虫だけを食べて飢えを凌いだ事、かな、便所虫がご馳走に見えるのは我ながら貴重な経験だったと思うぜ」
ちなみに一日で過労死しそうなくらい働かされたのに、それによる報酬がたったの銀貨一枚だったというのも、涙が止まらなくなりそうなくらいにやるせない話だった。
「・・・なるほどね、確かにそんな経験したら、死生観も歪むし、頭のネジが外れて馬鹿にもなる、か、ちなみに聞きたいのだけれど、あなたの体の骨折って、どこまでが本当なの?」
「あ?、魔物に襲われたのが本当で、完治して無いっていうのが嘘だよ、分かるだろそれくらい」
「じゃあつまり、あなたは骨折した体で化け猫を背負って村まで一晩で走って来た、っていう部分は本当という事になるのね」
「つっても骨折してからは10キロくらいだと思うけどな、それに人間の骨って、走りながらでも回復するらしいぜ、だからまぁ、気合と根性さえあれば誰だって出来る事だよ」
「そう、それで今回の話を聞いて私があなたに提示する年俸なんだけれど・・・」
「まぁ最低でも100万は欲しいな贅沢は言わないでも」
「───────五万でどう?、福利厚生充実させて、三食昼寝抜きで昇給は年10%を保証するわ」
「───────五万でどう?、じゃねーよ!、どんだけ搾取するつもりなんだよ、なんで日当が年俸と入れ替わってるんだよ、しかも昼寝付かないのかよ!」
「あら、どうせ怠けるのだし、だったら年俸を払っても一日しか働かないのと同じでしょ、別にいいじゃない」
「その理屈で言えば俺は一日5分くらいしか働かないからな、つーか俺が怠ける事を見越したとして何のために雇うんだよ!」
「そうね、毎朝私が目覚めた時に一度顔面を貸してくれるだけでいいわ、それなら5分でも十分に役立てるだろうし」
「結局サンドバッグかよ!、てかなんで俺なんだよ、雇うならもっとイケメンとか美少女雇えよ、俺なんて殴っても絵的に汚くてむしろ不快感しか生まないだろ!」
「あら、私にも美しい物を愛でるという感性くらい持っているのよ、だから醜い物を見ると壊したくなる、これも世の理というものでしょう」
「壊すなよ!、醜い物も必死に生きてるんだよ、愛でなくてもいいからそっとしておいてくれよ」
はぁはぁと俺は息を切らすほどに全力でツッコミをいれた。
フエメは語尾が無くなった俺相手に主導権を握ってツッコませるのがお気に召したのか、さっきからボケなのか本気なのか分からない会話が続いていたが、生粋の悪女であるフエメの考えなど俺には到底測り知れるものでは無いので、考えるだけ無駄だろう。
そんな風に俺たちは自室で悠々とお茶を嗜みながら、無益で益体もない駄弁りを続ける。
すると突然、切羽詰まった呼び声とともに扉が叩かれた。
「お嬢様!お嬢様!、いらっしゃいますか、お嬢様!」
俺とフエメは扉を叩くメルの剣幕に訝しみながら揃って玄関へと向かった。
「何かあったようね、メル、説明してくれるかしら」
「はい、作戦は失敗しました、彼らは“黄金山地”に手を出そうとしていたのです、しかしそこには黒龍が居着いていて、そして我々は、黒龍を目覚めさせてしまったのです」
「災厄の黒龍が・・・、そう」
「お嬢様は知っていらしましたか、今回の作戦が“黄金山地”の奪還という明らかにサマーディ村に対する抜け駆けの任務であるという事を」
メルは不信を告げるように主にそう尋ねた。
フエメは一度俺を確認するように見てから答えた。
「ええ、今回の作戦はサマーディ村と共同の物よ、勿論あなた達にも伝えるつもりだったのだけれど、私は離脱して伝え損ねてしまったわね、ごめんなさい、これは私の落ち度よ」
「・・・いえ、抜け駆けでは無いのならそれでよいのです、しかし問題はここからですお嬢様、目覚めた黒龍は「勇者の末裔」を探しているようでした、いずれここにも来るかもしれません、早く避難しないと」
「分かったわ、それで、犬、あなたはどうするの、今なら飼い主のよしみで屋敷の地下シェルターに匿ってあげることも出来るけれど」
「・・・冗談だろ、俺はお前の協力者になったんだ、だからこの村を潰させてたまるか」
「そう、思わぬ幕引きになったけれど、でもそれがこの村の命運であり、あなたの運命なのでしょう、ならそれを見届けるくらいはしてあげるわ、姉のよしみでね」
「いつから俺の姉になったんだよ・・・」
俺は自室に戻って役に立ちそうなものを片っ端からかき集めると、それらを持って戸締りもせずに家を飛び出した。
黒龍をペテンにかけて村を救う事、それが詐欺師で勇者な俺の運命だと言うのならやってやるとその瞬間に決めたのであった。
「あ、ライア!」
「親父、黒龍が来るって聞いたがどうなってる!?」
「ああ、それが、冒険者の姉ちゃん達とクロっちが殿になって戦ってる、村に来るかは分からないが、だが「勇者の末裔」を探してるみたいなんだ、だから村人全員逃がすように誘導しないと」
「つっても、この村じゃあ誰が火事場泥棒になるか分からねぇしなぁ、逃げろって言っても逃げる訳が無い」
「確かにそうだが、だったらどうする?」
「誰かが囮になって、黒龍を村以外のどこかに誘導するしかないだろう」
「!?、ライア、まさかお前」
「心配すんなよ親父、俺は一日で50キロを走る鉄人的なマラソンも、その復路で魔物に襲われながら走る殺人的なマラソンも両方経験した男だぜ、黒龍からだって逃げ切って見せるさ」
「くぅぅ、ライア、お前、いつの間にそんなかっこいい男になったんだよ」
「知らねぇのか親父、男子3日会わざれば刮目してみよ、だぜ、
───────行ってくる!」
俺は無謀と勇気と役に立つかどうかも分からないガラクタを頼りに駆け出した。
何が出来るか分からないが、それでもこれは俺の「役目」なのだと、命を賭ける時なのだと、フエメの話を聞いた影響か、【勇者】という役割に毒され始めたのか分からないが、本心からそう思っていたからだ。
「手緩イナ、暫ク見ナイ内ニ、人間トハココマデ脆弱トナッタカ」
「はぁはぁ、クソ、お前のウロコ硬すぎなんだよ、ダイアモンドかって」
「ダメなのん、【軍師】のスキルを使っても、勝ち目が全く見えないのん、ダメージを負わせる事すら叶わないのん」
「・・・ふむ、強さの次元が違いますね、我々のいかなる攻撃、魔法を用いても、黒龍には通用しない、しかし古の勇者はそんな黒龍に一矢報いたのだとしたら、それはそれで興味深い」
黒龍はクローディア、ウーナ、シェーンの三人を赤子の手を捻るように軽くあしらった。
どう足掻いても勝てないという強烈な力の差を何度も押し付けられて、それでも何とか生き延びて足掻いている、そんな状況だった。
「ツマランナ、終ワラセテヤロウ、スゥウウウ」
「!!、来るぞ!、ドラゴンブレスだ!」
「逃げ場は無いのん、避けられないのん」
「二人とも、私の後ろに下がってください!」
ウーナは気を練って抜刀術の構えを取った。
直後、黒龍は灼熱の黒炎を吐き出した。
「灰燼ニ帰スガヨイ──────」
必殺を冠する灼熱の息吹、それを受け止める為にウーナが二人の前に立ち塞がる。
「──────鎧袖一閃、『山斬』」
居合一閃、ウーナの放った斬撃が、全てを燃やし尽くす黒龍の息吹と衝突する。
その衝撃で辺りに熱風が吹き荒れて、周辺の木々は燃やされ、あたりは火の海となった。
「・・・すぅ、・・・ふぅ、なんとか、・・・凌げたよう、・・・ですね」
ウーナは額には汗が滲んでいたが、それを拭おうともせずに両腕を垂らし、握っていた剣を地面に落とした。
いや、それは既に剣では無かった。
「!?、すごい一撃だったのん、でもその代わりにウーナの剣が壊れてるのん」
「つまり、限界を超えた自傷技って事か、剣が壊れるほどの衝撃なら、当然体の負担もそれなりの筈」
「ええ、・・・今の一撃で、私は私の持てる全てを使い果たしてしまいました、残念ながらもう足止めすら出来ません、・・・逃げてください」
「・・・うにゅ、悪いけどクロはもう覚悟を決めてるのん、だから最期まで逃げないのん、もし歩けるならウーナこそ逃げるのん」
クローディアは震えながらも妖刀を両手で握り込み、黒龍と対峙する。
「っ、お前、なんでそこまでするんだよ、お前があいつらにそこまでする義理があるのかよ、自分を大切にしろよ、こんな捨て石の役割なんて、お前には似合わないんだよっ」
「うにゅ?、なんでシェーンがクロに怒ってるのん」
「怒ってねぇ、ただ理解出来ないだけだ、だってお前は・・・」
「クロは・・・、人間なのん、だから村の為に生きて村の為に死ぬ、それが出来れば文句は無いのん、村には大切な人達がいるのん、だから守るのん」
「っ!!、・・・そうか、なら止めはしねぇ、好きにしろ」
「うにゅ、それで、シェーンはどうして逃げないのん、クロと違って命を賭ける理由なんて無いのん」
「アタシの理由なんて単純だ、気に入らねぇ相手が目の前にいれば、そいつをぶん殴るまで立ち止まらねェ、ただそれだけの事、・・・ふぅ、アタシだけ奥の手使わないって訳にもいかねぇな、全力で行くぜ」
シェーンの瞳が赤く輝き、肉体が唸りを上げた。
「限界突破、悪いが出力は普段の三倍で三分しか持たねェ、その間にクロはウーナを連れて逃げろ」
そう言うとシェーンは大地を破裂させるように踏み抜いて突撃を敢行した。
「・・・うぅ、やっぱりクロにはこの戦いついていけないし、足手まといにしかなれないのん、だけど妖刀を握ったままだと手が離せないからウーナを背負う事も出来ないのん、どうすればいいのん」
シェーンが限界を超えた力と速さで黒龍を翻弄しているものの、それでも黒龍にダメージを与える程では無い。
そして妖刀を握ったクローディアは両手が使えず、動けなくなったウーナを背負う事も出来なかった。
クローディア一人だけなら【逃亡者】のスキルで逃げ切る算段もあった、しかし、他の二人を巻き込んだ事でそれは「2人を置いて逃げる」という選択肢に変わってしまった、そんな選択を選べるほど人情の浅い人間では無い、それ故に、この戦いには既に破滅しか選択肢が無かった。
このままシェーンが限界を迎えてしまった所で、クローディアに出来る事は無い、だからこのままでは三人とも犬死にするだけ、それを理解した時に、自分の無謀な作戦に二人を巻き込んでしまった罪悪感でクローディアは視界が歪んだ。
ここで三人とも死ぬしかない、【軍師】としてのクローディアの出した結論は一人で逃げるか、三人で死ぬかの二択しかなくて、だからクローディアはどうしようも無い絶望感に打ちひしがれて息が詰まった。
仮に両手が使えれば、煙玉などを駆使して三人で逃げるという手もあった、しかし今は三人全員が前進して滅ぶだけの猪武者となっており、後退する手立てが存在しない。
『女王』とタイマンしていた時すらここまでの絶望的では無かった、それ故にクローディアは完全に自身の許容量を上回る絶望感に感情を抑えられなくなり、「詰み」という現実に体が硬直し、そして涙が溢れてくるのを抑えられなくなった。
「・・・ふむ、どうやらここまでのようですね、クロ殿、私など放っていおいて逃げてください、ここで心中されるというのも私には寝覚めが悪い話ですから」
「うぅっ・・・、そんな事出来ないのん、せめてお役目として死ぬまで戦ってみせるのん、それくらいはしないといけないのん」
「何故かと、聞いても宜しいですか?、冥土の土産と思ってください、他言はしませんから」
「・・・だってクロは、ライアの妹の代わりに助けられたのん、クロのせいでライアの妹は死んじゃったのん、だからクロは絶対、その分の恩返しをしないといけないのんっ」
「なるほど、それがあなたの自殺願望のルーツ、という訳ですね、確かに、ここで死ぬ理由としては最も上等で、私などより遥かにちゃんとした理由だ、でも、それは足止めという役割をこなせて初めて成立する話、犬死にしかならないクロ殿の死は徒花にしかならない、つまり、ただの自殺にしかならない行為です」
「じゃあクロはどうすればいいのんっ!?、逃げるしか無くても、クロは逃げられないのんっ、犬死にするしか無いのん、それで死ぬのがクロの役割なのんっ、それすら許されないなら、クロはこの先どうやって生きればいいのんっ・・・!!」
「自殺がしたいというのならば、私は止めませんが、しかし、それで誰が浮かばれるのか考えてください、あなたが死ねば間違いなく、ライア殿は悲しむ筈です」
「うぅっ、ぐすっ、ひくっ、どうして、どうしてクロを死なせてくれないのんっ、覚悟は決まってたのん、ここで死んでもよかったのんっ、だから、死ねない理由なんて要らなかったのんっ!!」
クローディアとライアの確執、それは単純に見えて数々の要因が折り重なった根深いものだった。
何故ならクローディアは詐欺師を生業としているライアよりもずっとずっと嘘つきで、本心を隠してきた少女だったからだ。
普通の少女が単身で『女王』や黒龍に挑むような精神性をしている訳が無い。
そう、それらははっきりと、クローディアの自殺願望を表していたのだった。
そして、そんなクローディアと同じ位の大嘘つきな女が、この場にもう一人
──────────。
「──────────《ヒール》、
・・・クロさん、諦めてしまうのは簡単です、でも、私達のそんな絶望も、何もかも終わりにしたくなるような破滅願望も、全部を受け入れて救ってくれるような、そんな救いも、この世界にはあるんです、だからクロさんの事は、私が死なせません」
パーティの回復役として連れて来られたメリー、彼女はこの最悪の窮地に於いても己の役割を全うしようと、ずっと回復魔法をかけられる機会を伺っていたのであった。
死の危機であっても他人の為に命を懸けられる事、それはメリーという人間の本性であり、本質だからだ。
メリーの回復魔法によりウーナは瀕死の重症から全快状態へと回復する。
「・・・メリー、どうして逃げなかったのん、ここに来たらもう助からないのん、メリーまで死んじゃったら・・・」
「逃げられない理由なんて、私にはごまんとあります、でもそれでも、私は絶望していませんし自分が死ぬとは思っていません、だから私も戦います、お役に立てるかは分かりませんが、生き延びる為に、共に戦いましょう!」
そういうメリーの瞳はここを死地と思うような諦めなど感じさせないような、自信と希望が宿っていた。
「ふむ、つまり、メリー殿には秘策があるという訳ですね」
「・・・ええ、クロさん、先に謝ります、実は、クロさんのジョブは・・・、【軍師】ではありません」
「ええっ!?、【軍師】じゃなかったのん、それじゃあ一体なんなのん、まさか【乞食】や【遊び人】とか言わないのん」
とクロは大目を開けて驚いて見せるが、ウーナは最初から知っていたように無反応だった。
「クロさんの本当のジョブ、それは
──────────【魔王】です」
「え・・・?」
【魔王】、世界最強へと君臨する資格を与える唯一無二のジョブ。
確かに【魔王】ならば黒龍に対抗する手段も有り得るが。
「・・・この事は、メリー殿に免じて候補に留めておこうと思っていた話だったのですがね」
真実を知っていた女は、それが明らかとなる事を好ましく思っていなかったが、この窮地において真実を隠したままには出来ない事を理解していたが故にそうぼやいた。
だが何も知らないクロは混乱し、血の気が冷めたように狼狽していた。
それは彼女の嘘を暴く、メリーの優しい嘘という幻想から、クロに現実を突き付ける真実だったからだ。
「待って欲しいのん、クロが【魔王】なんて有り得ないのん、だってクロは人間で、だから・・・」
「クロさん、もう嘘は吐かなくて良いんです、全部、知ってますから」
そう言って、メリーはクロの左右に結ばれた髪留めを解いた。
すると、小さくて目立たないが、人間には無いモノ。
────────魔族の証である角が、はっきりと露わになった。
クローディアは一度呼吸を整えてからメリーに詰問する。
「すぅ、はぁ、・・・つまり、メリーは知ってたのね、私が魔族であるという事をずっと、なのにどうして黙っていたの?」
語尾はつけない、それはクローディアの人に対する仮面、殼のような物であり、魔族という素である今の彼女には不要だったからだ。
そしてクロという仮面を外した彼女の素顔は大人びていて、愛も情も知らないような、冷酷で冷徹な瞳をしていた。
「・・・だって、そんなの悲しいじゃないですか、ライアさんの幼なじみであるクロさんと、・・・二人が、戦う事になるなんて」
【勇者】と【魔王】、宿敵となる二つのジョブを類まれなる運命で宣告したプリーストは、最初の【勇者】がジョブを偽装した事に倣い、【魔王】のジョブも偽装して、誰にも知られないように秘匿しようとしていたのであった。
ライアは自分達二人が秘密を守れば誰にも知られないと言った、故にメリーは、自分一人が秘密を守れば、誰にも知られること無く、この世に【魔王】が誕生しない、そんな平和が実現すると思ったからだ。
でも、クローディアに【魔王】という真実を告げずこのまま死なせてしまうと、今度は別の誰かに【魔王】のジョブが移り争いを生んでしまう。
故にメリーはここで秘密を明かし、クローディアに【魔王】という宿命を負わせて、生き存えてもらおうと思ったのであった。
「それなら要らない心配ね、私は最低一回はライアの為に死ぬと、そう心に決めてるから、だからライアと戦う事になったら迷わずに死ぬ、でも、それを見極める為に今日まで黙っていたというのも分かるから、だからそういう事だと受け入れるわ、メリー、更新をお願い出来る?、【魔王】なら、あの黒龍を倒す手立てがあるかもしれない」
クローディアは淡々と全てを受け入れて、再び黒龍という死地に飛び込む事に躊躇を見せなかった。
その様にメリーは【魔王】という肩書きにバイアスされて、風格のようなものすら感じるほどに、語尾を外したクロに強烈に惹き込まれて、・・・魅入られた。
世界最高のジョブの宣告に二度立ち会った女は、クローディアが自分の妹に全く引けを取らない傑物であるとそこで確信し、故に彼女なら黒龍を倒せるかもしれないと、そんな期待すら抱いたのであった。
「分かりました、《汝の辿りし冒険の記憶を、ここに記録し編纂する》、─────更新────!」
「・・・!!、すごい力が湧いてくるっ!、これが!【魔王】の力・・・っ!」
今この瞬間をもって、クローディアは魔族最強である【魔王】として、この世に君臨したのであった。
「ライセンスを書き込む時間がありませんので口頭で言いますが、今のクロさんのレベルは75、ステータスはオールA+、運はSS、そしてスキルは【不死身の肉体】【覇者の大号令】【魔王の誘惑】です、スキルの効果までは知りませんが・・・」
「『女王』を倒した後に『白虎』と『黒子』も倒した割にはレベル50までしか上がらないのは不思議だったけど、やっぱり詐称してたのね、メリーの嘘つき」
Aランクの魔物は討伐推奨レベルが75で、魔物自身のレベルも75以上となっている、故に【超学習】の効果が無かったとしても、Aランクネームドを三体倒して50で頭打ちとなるのは少し収支が合わない話であり、また、30の低レベルでAランクと互角に戦うのもおかしな話なのだ。
つまりレベルがカンストしてしまってはクローディアが村から出ていくかもしれないと、それを避ける為にメリーはずっと更新の度に鯖を読んでいたのであった。
「だって、この調子でレベルを上げてしまったら、ひと月経たずにレベルがカンストしてしまい、そうなったらクロさんは村を出て行ってしまうでしょう・・・?」
「心配しなくても、私はずっとライアの傍にいる、望まれなくても、誰に引き離されても、死ぬまでずっと、だからライアがいる限りは、私も村から離れない」
クローディアのその感情は、愛でも情でも無い、もっと歪で理解出来ない、恣意的で洗脳的なものだった。
故に、その言葉はメリーには全く理解出来ない感情なのに、それだけでクローディアの覚悟が本物だと認めたのであった。
「それじゃあ、・・・行くよ、そろそろシェーンも限界みたいだから」
クローディアは位置を入れ替えるように限界を迎え体が動かなくなったシェーンを後方に弾き飛ばすと、自身に【覇者の大号令】をかけて能力の底上げをし、限界突破したシェーンに勝るとも劣らない力で黒龍を翻弄した。
「・・・!!、おいおいなんだよあのガキ、数日前とは別人じゃねぇか、一体どうなってんだよ!」
いくら妖刀が持ち主の技量に関係なく剣術を再現し力を発揮する武器と言えども、妖刀を持ったクローディアの力は最早完全に達人の域に到達しており、それはシェーンの全力、及び、ウーナの本気とも比肩する程の力であり、それを見たシェーンは、『女王』の時とは見違えるようなクローディアの成長ぶりに舌を巻いた。
満身創痍となったシェーンをメリーはヒールで治療しつつ、ぽつりと呟いた。
「クロさんは・・・、宿命を背負って生まれた人なんです、だから強い」
「宿命・・・?」
その質問にメリーは沈黙する、クローディアが【魔王】だとシェーンに知られれば、連れて行かれるか、魔王軍に狙われるかもしれないからだ。
「・・・本当に素晴らしいですね、ああ、あの妖刀、人間の血を啜った恩讐と怨念、果てしない業を背負った呪物だというのに、無垢なる少女が振るう事でこうも華麗で美麗な一太刀へと昇華するとは、やはり、この世の全ての名剣名刀には、それに相応しい担い手が存在するという事・・・!、新しい発見です、私も彼女に、・・・斬られてみたいっ!!」
そしてウーナはクローディアの剣舞に恍惚と鼻息を荒くして、その姿を目に焼き付けんと珍しく開眼し瞳を輝かせていた。
任務の為に探し求めていた人物が自分の本懐を叶える剣士でもあったという事実は、ウーナの琴線に絶頂を感じさせる程の喜びを与えたのであった。
「・・・お前、不謹慎過ぎるだろ、・・・てかアタシの時より格段に興味惹かれてるし、そこまで目を輝かせて、お前は一体なんなんだよ・・・」
「おや、てっきり我々は同じ目的に従事する商売敵のようなものと私は考えていたのですが、シェーン殿は彼女に興味は無いのですか?」
「は?、という事はアイツが【勇者】?、いや、でもあいつは魔族で・・・、それは有り得ねェだろ!?」
「・・・ふむ、なるほど、そういう事ですか、まぁシェーン殿は見るからに肉体派ですし、そういう事なのでしょう」
と、ここでウーナは自身とシェーンとのすれ違いに気付き、そして未だクロの正体を察せずにいるシェーンを放置する事にした。
「なンだよ肉体派って、確かに頭脳は大したもんでもねェけどよぉ、だったらどういう事か説明しろって」
「大した事ではありませんよ、それよりシェーン殿、宜しければ刀を貸して頂けませんか、シェーン殿が体を回復させるまでの時間は稼いでみせましょう」
ウーナの剣は先程のドラゴンブレスと相殺する事で粉微塵となった。
そして現在シェーンは体を限界を超えて酷使した反動により全身骨折級のダメージを負っており、それは高レベルプリーストであるメリーのヒールでも完治に数分かかるほどの大怪我だった。
「背に腹はかえられねェ状況だ、だけど頼むから折らねェでくれよ?、そいつを折られたらアタシは国に帰れなくなる」
そう言いつつもシェーンは渋々と自身の愛刀『十六夜ノ雲切』をウーナに手渡す。
「ふ、ならずっと村に住めばいい、そして彼女をずっと見守るのです、あなたならそれが出来るでしょう」
「は、なんでそうなるンだよ、というか、あんな治安が悪くて嘘つきばかりの村、流石に自分から住みたいって言う奴は居ねェだろ、キチガイばっかじゃねェか」
「へぇ、そうなのですね、私はフエメ殿の所でお世話になっていたので知りませんでしたが、ですが同じ魔族のよしみとして、少しくらいクロ殿に世話してあげてもよいのでは?、じゃないと危なっかしいでしょう、そそっかしい彼女を一人にするのは」
「ふん、人間の世界じゃどうかは知らないがな、魔族の世界では誰かに手を引いてもらうような事は赤ん坊ですらしないんだ、だからどんだけ危なっかしくても、手助けはしねェよ」
「そうですか残念です、もし二人が師弟となったなら、良きコンビとして私のメインディッシュ・・・、いえ、素晴らしい剣士へと成長出来ると思ったのですが」
「・・・お前は自分の欲望に正直だよな、というか頭の中はそれしか無いのか・・・、魔族でもそこまでの業突く張りは見た事ねェよ・・・」
いや、金の事しか頭に無いヒゲと、性欲の事しか頭に無いハゲには心当たりがあったが、それでもここまであけすけに包み隠さない人間は初めてだった。
「それはつまり、私が天下無双という事ですね、ふふ、シェーン殿に太鼓判を押して貰えるとは、照れてしまいますね」
「いや褒めてえねェよ!、信じられないくらい清々しい顔してるけど、アタシは今お前を罵倒したからな?」
「いえ、あなたの言う通り私の頭の中には一に名剣、二に名刀、三がその担い手の事しかありませんから、正直与えられた任務も魔王軍と人間の戦争もどうでもいい、その上で言わせてもらえば、私がこの世で一番剣を愛していると証明出来たなら、それは私がこの世で一番の剣士であるという証であり願いの成就、ならこの世で一番剣を愛していると認められる事を、私が拒む筈がありませんとも!」
それこそが【剣極】であるウーナの本領発揮であり、そして、厄介払いされるに至るウーナの本性であった。
「ではそろそろ参戦するとしましょう、『十六夜ノ雲切』、王国にすらその名が聞き及ぶほどの魔族の名匠が作った真の名刀、シェーン殿は丹念に手入れをしてらっしゃるようで、澄み切った刃、鍔の輝き、柄の握り心地、どれも最高です、やはり、他人が大切にして来た名刀を使う瞬間というのは年甲斐も無く浮かれてしまいますね、どうですか『雲切』私の手はシェーン殿より大きくて力強いでしょう?、私のモノになりたいと思いませんか?、私ならもっとあなたを使いこなしてみせますよ?」
「お前っ・・・、刀に話しかけるとか、素直にヤバい奴だったんだな・・・」
興奮し早口で独り言を呟くウーナにシェーンはドン引きするが、その言葉さえも聞こえないくらいウーナは自分の世界に没頭し、突貫した。
「スイッチです、クロ殿、私に連携して合わせる事は出来ますか?」
「ごめん、妖刀は意思を持たず、ただ目の前の敵を斬るだけ、だから私がウーナに合わせる事は出来ない、ウーナが私に合わせて」
「良いでしょう、剣戟の円舞曲、あなたに合わせて踊って見せましょう、ええ、出来ますとも、私とこの『雲切』なら!」
「ホウ、先刻ヨリ少シハ骨ノアル動キヲスルヨウニナッタナ、面白イ、ソノ剣術、我ニ見セテミヨ」
人間の限界を超えた二人の剣技、しかしそれはどこまでいっても結局黒龍の金剛のような鱗に弾かれてしまう、だが、それでも二人は力の限り剣を振るった。
「《我が軍勢よ、我が命に従い、我が覇道を示せ》」
「!!、なるほど、これが大号令の力ですか、アドレナリンがフル活動し、体が羽になったように軽い、時間限定の強化ではありますが、このSSクラスのステータスと、真の名刀である『雲切』なら黒龍にダメージを与える事が出来るかもしれません」
「本気出してもいいから頼むから『雲切』だけは折るなよ、絶対だからな!」
「シェーンさんそれフラグです」と、メリーは思ったが、流石に不憫だったので口には出さなかった。
こうして三人はクローディアとウーナが消耗したらシェーンが【大号令】をかけてもらって黒龍と戦い、シェーンが消耗したらウーナとクローディアが黒龍と戦うというローテーションで数刻の間、激闘を繰り広げた。
幾度となく剣と黒龍の爪はぶつかり合い、その果てにようやく黒龍の爪の一つが砕けた。
「はぁ、ふぅ、ようやく一つ部位破壊できた」
「ちっ、こっちは限界ギリギリだっていうのに、これで爪一つのダメージとは、流石に災厄級は伊達じゃねェな」
「ええ、想定よりマシとはいえ、依然として絶望的な状況です、シェーン殿、『十六夜ノ雲切』と引き換えにすれば、黒龍の腕の一本くらいは斬り裂いて見せますがどうでしょう?、勇者の遺産が貰えれば聖剣やら何やらで補填する事も出来るでしょうし、命が助かるなら安い買い物ですよ」
ウーナの奥義である鎧袖一閃は放てば必ず剣と体が砕ける諸刃の剣、しかし名だたる名剣名刀を使えばその威力は山を斬る事すらも出来るほどの最強の技でもあった。
「ふざけんなよオイ、この刀は死んでも折らせねぇ、アタシの魂だ、お前には刀に対する愛着とか大事に思う心は無いのかよ」
「いえ、刀剣など所詮は道具、家に飾って愛でたいのであれば、宝剣や祭儀剣などを愛でればいい、故に私はこう思うのです、刀剣の価値は何を斬ったか、それのみに集約されるべきだと、人の人生だって同じでしょう、どれだけ愛されたかでは無い、何を成し遂げたか、それこそを追い求め、尊ぶべきだと、故に、黒龍を斬れるのであれば、それは刀剣にとっても本望であると、私はそう思っています」
たしかに武器を大事に扱うのは剣士として当然の心構えであるが、それを実践し過ぎて武器を使わなくなるのも本末転倒だとシェーンは思ったが。
「・・・そんな事言って、お前は今まで一体何本の剣を折ってきたんだよ」
「さて・・・、物心ついた時には一日一本は折ってましたし、流石に今までに食べたパンの枚数を聞かれて答えられる人はいないでしょう」
「この人でなしが!いや、剣潰し!、お前剣を愛しているとかいって本当は、それ以上に剣を壊しているじゃねェか!、何が「世界で一番剣を愛している」だよ!」
「いやいや誤解です、世界で一番剣を愛している私の手で生涯を終えられるなら、剣にとってもそれが幸せ、剣の本懐を遂げさせている私こそ、最も剣を愛する者を名乗るに相応しい存在の筈です!」
「んな訳あるか!、剣は鉄打てば勝手に出来る鋼の塊じゃねぇ、鍛冶師が研究し研鑽し、長い歴史と技術の粋を集めて、職人の魂を込めた結晶、それが刀であり、そしてその中でも奇跡のような偶然から、量産型では有り得ないような輝きを放つようになったのが名刀なんだ、それを朝飯感覚でホイホイ消費してる奴に壊されたとあっちゃ、どんな巨龍を倒したとしても名剣も浮かばれる訳がねェ、だってお前が折る名刀は、今後千年生まれるかも分からない唯一無二の存在で、人間の命なんかよりもよっぽど貴重なんだからな」
シェーンは自分で刀鍛冶をした経験から刀に対する思い入れと知見は人一倍あった、それ故に職人の苦労など知りもしないようなウーナの言葉には憤慨せずにはいられなかったのである。
「ふむ、一つ、誤解があるようですね」
「ああ?、どういう事だよ、お前が刀剣をただの道具としてしか見ていない冷たい女ってのは間違い無ェだろがよぉ」
「ええ、それについては否定しません、私は今までに数多の剣を破壊し、そしてこれからも数多の剣を消費する、金貨一枚で買える鋳造剣も、国宝となった名剣も例外なく、徒に消費していくでしょう。
・・・でも、この世にはあるのです、私が全力で振るっても、仮に世界が滅びたとしても残るような、そんな真の名剣名刀が」
「神遺物って奴か、確かに聖剣はどれだけ使っても刃こぼれ一つしないと言われているが、だがそんなデタラメ武器、人間や魔族に作れるわけがねェ、この世の全ては有限で出来てる、だから壊れない剣なんて、それこそ御伽噺みたいなもんで、現実の武器と比べるもんじゃねェだろ」
「そうですね、形のあるものは全て壊れる、だからこそ、平穏な生を享受するよりも、一瞬の瞬きに散華する、それこそ剣の、剣士の、求めるべき理想なのでは無いですか」
ウーナはこの場においてすら抜きん出た異常者であり、とびきり抜きん出た狂気を秘めていた。
そしてその愚直で真っ直ぐな狂気にシェーンは、剣士であるが故に感化されてしまった。
本来は【勇者】の捜索という何よりも優先するべき任務があった筈なのに、それを忘れてウーナの言葉を受け入れてしまったのだ。
「・・・!!っ、クソっ、・・・ああそうだな、お前の言う通りだ、剣は飾って見せびらかすオモチャじゃねェ、テメェのムカつくもんをぶった斬る為の道具だ、道具である以上惜しむ方が間違っている、お前の言う通りだよ、アタシが間違っていた、・・・そうだよ、剣なんて無くしてもまた探せばいい、生きていれば代わりだって見つかるものなんだ」
生き延びる為にはウーナに託すしかない、『十六夜ノ雲切』を失えば魔族の中での地位や剣士としての面目、そして任務を達成する為の戦闘力、全て失う事になるが、それでも今は他に打開する手立てが無いと、シェーンは腹を括ったのだった。
この場においてシェーンにはそこまでして黒龍を討伐しなければならない理由など存在しないというのに、シェーンはそれを受け入れてしまったのであった。
「ふむ、これから折られるという愛刀を信じて託されるというのも、なんだかえも言われぬ背徳感がありますね、大丈夫ですよ、この子が真の名刀と言われるような最高ランクの刀ならば、見事黒龍は一刀両断され、そして刀身も原型を留める事は有り得るでしょう」
「期待を持たせる気があるのか無いのか分からねえ慰めは要らねェよ、せめて雲切が胸を張って逝けるような、雲切に相応しい最期を迎えさせてやってくれ、そしたら文句は言わねぇよ」
それはフラグだとメリーは思ったが、言わぬが花と口を慎んだ。
「承知しました、全身全霊、この身に宿る全ての力を振り絞って剣を振るいましょう、クロ殿、下がって・・・
────────────行きます」
二人が相談している間、クローディアが一人で黒龍の足止めをしていたが、【魔王】として覚醒したクローディアは単騎でもウーナやシェーンに引けを取らない力を発揮しており、短時間の戦闘で驚異的な成長を見せていた。
それ故に後退の指示に内心反感を持ちつつも、背後のウーナから練られた鋭利で強大なオーラを感じ取り渋々引き下がった。
「行きます、
─────────鎧袖一閃『雲切』」
その澄み切った一太刀は、ただ一文字に結ぶという結果だけを、音もなく成し遂げた。
嵐が吹き抜けるようにその一太刀で周囲は剣圧から生まれた大気に押し流される。
それは神速の一太刀が生み出した衝撃波による余波であり、空間全てを断ち切るという結果の残響だった。
その一太刀は目に見えない大気も、黒龍の背後に聳え立つ山も、その遥か彼方にある雲すらも、あらゆる物を断ち切る、天下無双、森羅万象を一刀両断する、最強にして究極の一太刀。
【剣極】に至った女が、その才能と得た名剣名刀をドブに捨てる事により生涯をかけて磨き上げた、決して誰にも真似出来る事の無い究極にして至高の一太刀だった。
「やった・・・のか?」
ウーナの放った凄まじい一太刀、流石にそれを食らっては黒龍もひとたまりもないと、その馬鹿げた破壊力を見て、シェーンは確信に近い予感を感じていたが。
「こふっ、・・・『十六夜ノ雲切』あなたはとても素晴らしい名刀でした、私が120%の力を出しても折れず、そして素晴らしい一太刀を生み出してくれた、私はここで果てても満足な程に絶頂と充実を感じています・・・しかし」
ぴしっ、と『十六夜ノ雲切』の刀身に亀裂が走った。
「─────────人間ヨ、ヨクモ私ノ角ヲ折ッテクレタナ、今ノハ死ヌカト思ッタ、コノ我二傷ヲツケタ人間ハコレデ二人目ダ、殺シテヤルゾ、覚悟セヨ」
ウーナの放った最高にして最強の一撃は黒龍に直撃せず、その角を折るに留まっていた。
全てを切り裂くその一撃は、黒龍の的を外していたのである。
そして黒龍は報復の為に全てを焼き尽くすドラゴンブレスを再び構える。
「ってオイまじかよ!、殆どダメージが入ってねェじゃねェか!、お前ドヤ顔で「腕の一本は断ち切って見せます」とか言っておきながら外してンじゃねェか!」
「こふっ、いやはや面目無い、まさかあの図体で咄嗟に身をかがめる事が出来るとは思わず、馬鹿正直に首級を狙った結果がこれでして、雲切も壊してしまい、シェーン殿には何と詫びていいか言葉もありません」
そう言うウーナは吐血し、体は既にボロボロの状態で動く事すらも出来ない、とんでもないミスをしたと言えども、そんなウーナを責めるほどシェーンは鬼では無かった。
メリーはそんなウーナにヒールをかけるが、ヒールをかけてもウーナは動けなかった。
「チクショウ、折られ損じゃねェかよ、でもそうだよな、そんな気はしてたさ、災厄と呼ばれる黒龍がそんな簡単に倒せる訳が無いって分かってた、だから仕方ねェと諦めてやるよ」
「一応私も災厄級ではあったんですがねぇ・・・」
「・・・は?」
ウーナの剣技は本気を出せば山を斬る事が出来る。
地形を変える程の破壊力を持つ攻撃が出来るのは黒龍のような災厄級だけであり、そしてかつてのウーナは街や田畑に被害が出る事など全く考慮せずに、日々、鎧袖一閃の鍛錬に明け暮れていたのであった。
ついたあだ名が『災厄の狂剣士』である。
「無駄口叩いている場合じゃない、シェーン、ウーナを背負ってここから離脱して、後は私が何とかするから」
危険を感じ取ったクローディアは武器を失った二人に撤退するように命じた。
「何とかするって、お前一人でどうにかなるのかよ、無理だろ、お前も逃げるんだよ」
「いいから早く逃げて、ドラゴンブレスは私が引き受けるから」
そう言ってクローディアは息を吸い込む最中の黒龍に突撃した。
そしてシェーンはクローディアのその言葉に、強制力を以て従った。
それが【魔王の誘惑】の効力、魔族である以上は誰もクローディアの言葉に逆らえないというものであった。
「ああ、チクショウ何故か体が勝手にっ!、クロ!、死ぬなよ!」
そう言ってシェーンがウーナを連れて離脱するのを確認すると、クローディアは黒龍のドラゴンブレスを吐き出させまいと黒龍の懐に潜り込んだ。
長い首を持つ龍であれば、自分の懐にいる相手を視認し、ブレスを吐きかける事は出来ない、そういう目論見での接近だったが、黒龍は想像より遥かに機敏な動きで一回転すると、尻尾で薙ぎ払い、クローディアをゴルフボールのようにはじき飛ばした。
「・・・っ!」
そしてクローディアが壁に激突した所に追撃で灼熱の息吹を吐きかける、木も土も壁も、全てを焼き尽くし、溶かした。
「かはっ、はぁはぁ、・・・」
しかしそれでもクローディアの体を溶かす事だけは出来なかった。
灼熱の大気で肺まで焼かれているにも関わらずクローディアは立ち上がり、炎に焼かれて体が燃えているにも関わらず、剣を握って黒龍に斬り掛かる。
それが【頑丈】の最上位スキルである【不死身の肉体】の効果。
どれだけの即死級の攻撃を喰らおうと、致命傷を受けようと、重傷を背負おうと、体力が残る限りは戦闘を継続する事が出来るという物。
それは完全に徒花であり、勝算など欠片も無い戦いであったが。
それでもクローディアは黒龍に挑み続ける。
そしてクローディアが立ち上がる度にメリーは、クローディアにヒールをかけ続けるのであった。
「ぜぇ、はぁはぁはぁ、ぜぇ、・・・中々、・・・しぶといね」
「終ワリニシテヤロウ人間、イヤ、魔族ノ娘ヨ、貴様トノ戦イハ昔ヲ思イ出シテ滾ル物ガアッタ、礼ヲ言ウ、手向ケトシテ一撃デ葬ッテクレル」
時間稼ぎには十分なくらいクローディアは戦った、文字通りに命を燃やし尽くす勢いのクローディアは何とか黒龍に踏み潰されずに時間を稼いで見せた。
しかしいくらA+のステータスを持つクローディアの魔力であっても限界はある、魔力が尽きれば【不死身の肉体】【覇者の大号令】の効果は消え、戦闘続行は不可能だ。
「っ、・・・もう限界、メリー、逃げて・・・」
途中からヒールが追いつかなくなったクローディアの体は全身に火傷、骨折、そして体中のいたるところから血を流しており、立っているのが不思議と思えるくらいに傷ついていた。
黒龍にトドメを刺されなくても直に死ぬ、それ故にクローディアはこれ以上は無駄と、最後まで付き添う必要は無いとメリーに退避を促すが。
「逃げません!!」
「なんで、このままじゃ犬死だよ?、メリーが死んだら、ライアが悲しむ」
「それはクロさんも同じです、だからクロさんを置いて逃げるなんて出来ません」
「私はいいの、だって私は生まれて来なければ良かった人間だから、それに【魔王】だって知られたら、きっとライアにも嫌われちゃうし、だから・・・もう死んでいいの」
クローディアが今日まで村で暮らして来れたのは自分を人間だと偽って生きてきたからだ。
でも、仮面を剥ぎ取った今のクローディアは、自身の冷酷で冷徹で残酷な本性を自覚してしまった、そんな自分に村で生きる資格が無いと分かっていたから、クローディアは徒花を咲かせる道でいいと諦観しきっていたのである。
そしてそれはかつてメリーが抱えていた感傷と似ていた。
「・・・っ、それは私も同じです、私だって生まれて来なければ良かった人間で、それで協力者であるライアさんに嘘もついている最低の人間なんです、でも、そんな私でもライアさんは救ってくれるんです、どんなにダメで最低で非道い私でも、ライアさんは必ず救ってくれるんです、だからクロさんの事も、ライアさんは必ず救ってくれる、ライアさんならそれが出来る、だからクロさんの事は必ずライアさんが救ってくれるんですっ!」
この死の一歩手前の詰みの局面でも、メリーはライアを信じていた。
メリーがライアを信頼するのは、告解を聞いて貰ったからだけでは無い。
嘘つきで怠け者で自分勝手なライアと一緒にいると、「無理に役割を演じる必要は無い」「好きな役を演じればいい」とそう思わせてくれるのだ。
メリーの人生は役割を演じるのか常で、悪徳商人の娘でお姫様のようなメリー、聖女の姉で聖母のようなメリー、村の頼れるプリーストであり聖人君子のメリーという役割をずっと演じてきた。
しかし、ライアと出会い、自らの大役である【勇者】を放棄するかのような生き様に感化されてメリーは、生まれて初めての自由を得て、そしてその時に初めて魂の解放、救いを得る事が出来たのだ。
そしてライアという自分の弱さや醜さをさらけ出せる相手という救いを得る事が出来たのだ。
不真面目で怠け者のライアと一緒にいると感じられる充実感、気安くセクハラされる事も、聖人君子でも高嶺の花でも無い本当の自分を見てくれているという肯定感を与えてくれ、何ものにも得がたい幸福を確かにメリーは与えられていたのだった。
そして【勇者】であるライアがこの間違いだらけで救いの無い世界を救ってくれたなら、自分の間違いだらけで救いの無い人生すらも肯定されるモノなのだと、ライアに全てを懸けて熱中するほどの強い希望を抱いていたから。
だからメリーは信じていた、ライアは必ず自分を救ってくれると、仮に世界を救えなくても、自分の事を救ってくれる勇者になってくれると。
「無理だよ、・・・だってライアが来たって黒龍には勝てない、・・・【魔王】である私ですら歯が立たなかったのに、モンクのライアに何が出来る訳でも無いもの」
「いいえ、倒せます、だってライアさんは
────────」
どれだけ情けなくても、その姿は挫けた人々に勇気を与えてくれた。
どれだけ貧弱でも、その背中には常に世界という多くを背負っていた。
どれだけ傷ついていても、その体は弱き人々の為に何度でも立ち上がって見せた。
だから人々は勇者を称え、崇拝し、勇者は御伽噺となったのである。
メリーの知る勇者は、御伽噺の英雄とは欠片も似つかない男だったが。
だけど現実の勇者である彼は、御伽噺の勇者の誰よりも、メリーにとって特別な勇者だった。
だからメリーは、仮に裏切られたとしても、何度騙されたとしても、最期に救ってくれなかったとしても、この先にどんな結末が待ち受けていたとしても、ライアの事を。
「おい、黒龍!!、俺は【勇者】だ!!、俺を倒しに来たんだろ!!、俺はここに居るぞ!!!」
「私の
────────勇者ですから」
信じていた。
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