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48 慈悲
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気を失い倒れていたシリルの耳に、メリーナの悲鳴の様な叫び声が聞こえた。
「ダメよリラッ!」
シリルがハッと目を開くと、そこには自分達の前で両手を開き盾になるリラの姿があった。
そして、その寸前に迫る無数の矢。
「リラッ‼︎」
シリルが名前を呼んだ瞬間、リラの前に虹色の防護壁が現れた。
それはシリルが思いだけで作り上げた魔法の壁。愛する者を守る為の防護壁だった。
防護壁は矢を受ける度に、バキバキと音を立てる。
リラには一瞬たりとも触れさせない、強い意志でシリルは防護壁へと魔力を注いだ。
矢が一旦途切れ、続け様にあの山道で受けた刃の様な風魔法が襲って来た。
と、同時にリラの体から力が抜け体が傾く。
シリルは、すぐさま立ち上がりリラを抱きとめると防御魔法を繰り広げた。
虹色の膜が、シリルとリラ、メリーナ、寝台の上のアレクサンドルを包み込む。
刃の様な風は、シリルが作り上げた防御魔法の膜によって全て弾き返された。
弾き返された風は、兵達と王妃、黒装束、白い男へと襲いかかっていく。
「ぎゃああーーーーっ!」
城中に、ジョゼフィーヌ王妃の断末魔が響き渡る。
シリルの魔法で作られた膜で弾き返されたその刃の様な風は、放たれた時よりも威力を何倍にも増し返っていた。
その風を受けた、ほとんどの者達は一瞬で命を落とした。
風魔法によって、ズタズタに切り裂かれた兵達の無残な姿が床に転がる。
屍の中に、ジョゼフィーヌ王妃の切り離された顔と体も、同じ様に転がっていた。
風の中、なんとか生き残っていた者達は、すぐに『神』に救いを求めた。
痛い、助けてくれと声を上げる者達に向け、あの風の中でも傷一つ負うことなく立っていた白い男は、神々しい笑みを浮かべて見せた。
「願いを叶え、楽にしてやろう」
その言葉に安堵した者達は、次の瞬間命を亡くした。
おびただしい惨状の中で、シリルを見据える白い男。
睨み返すシリルに向け、白い男は冷笑を浮かべる。
それからゆっくりと視線を変え、足下に転がる王妃の頭に目を落とした。
「返して貰おうか……」
白い男が王妃の死体に手を翳すと、体から黒い煙が立ち昇った。
シューシューと音を立て出ていた煙が消え去ると、王妃の体は骨の様に変わり、歳よりも若く見えていたその顔は、醜く老いた女と変わり果てた。
「欲にまみれた醜い女よ」
白い男は吐き捨てる様にそう言うと、王妃が首から下げていた薔薇色の石を踏みつける。
パキッと音を立て割れた石は、真っ黒に変化し煙となり消えた。
それから白い男は、意識を取り戻し、周りを見て唖然としているアレクサンドルへと目をくれる。
ふう、と息を吐くと、大きな羽を背中から出し、バサッと広げ、一度羽ばたかせた。
「……獣人」
アレクサンドルは息を呑んだ。
白い男はニヤリと笑い、口を開く。
「今宵限りでこの国とは別れるとしよう。十分遊ばせてもらった……」
「……なんだと……?」
眉をひそめるアレクサンドルのその表情に、白い男はほくそ笑む。
「リフテス王、お前も不憫な男よ。親を殺され、ジョゼフィーヌに囚われ、人形の様な扱いを受け続けた。信じていた者には裏切られ、愛する者まで奪われて……そんな哀れなお前に『神』である私が慈悲を与えてやろう」
「何を……」
「お前に真実を教えてやろう」
「真実……?」
聞いていたメリーナがたまらず声を出す。
アレクサンドルとメリーナの驚愕する表情に、白い男は満足気に目を細めた。
「リフテス王よ、其方はその瞳にまつわる話を知らぬのだろう?」
「瞳にまつわる話?」
何も知らない様子のアレクサンドルを見て、白い男は笑みを浮かべる。
「その瞳は愛する者との子にしか受け継がれぬ、と言えば分かるか?」
「…………どういう事だ?」
「お前の子は、そこにいる娘ただ一人。後の者達は全て私の種で生まれた子だ」
「……何を……王子達も同じ目の色をしていたはずだ」
アレクサンドルは予想外の言葉に気が動転する。
「目の色? そんな物、魔法でどうとでも変えられる」
「……そんな……」
「リフテス王族のその瞳は支配を受けない。どんな操りの魔法も効かない。そしてその瞳を持つ者は、愛する者との間にしか子を成せず、その色は愛され生まれた子にのみ受け継がれる。
そんな事も知らず、そこの女はお前を欲しがったのだ。もちろん私は教えてやった、アレクサンドルに子供は作れぬと。そうであろう? お前はあの女を愛してはおらぬ。愛する事は決してない、それが私には見えていた。するとどうだ、この女は『私』に子を授けて欲しいと言ってきたのだ。その上、金と引き換えに、瞳をリフテス王族特有の色に変える様にとも言ってきた」
白い男は、王妃の顔を見下ろし冷笑する。
「リフテス王よ、お前にとっては地獄のような日々であったろう。だがな、その間王妃とデフライト公爵は至福を味わっておったのよ。
側室を入れる度に持参金だと金を要求し、側室をでなければならぬ半年がくれば、王は子を成せないが王族の瞳を持つ子を成す事が出来る、と話を持ちかけたのだ。自分の家から『王』を出したいと望む、野心に満ちた貴族達は金を払い『私』の子を成した。話に乗らなかった者達は……もう、この世にはおらぬ」
「…………なっ……」
言葉も出ないアレクサンドルに、白い男は恐ろしい真実を語る。
「前リフテス王は、デフライト公爵の依頼により我々が暗殺した。前王はマフガルド王国との争いを治め、遥か昔そうであったように、両国の友好を築こうと模索していた。
デフライト公爵にとって、争いが無くなることは不都合でしかない。争いが長引けば長引くほど公爵は飽満な日々を送れるのだからな」
「……それなら、私も一緒に殺せばよかったではないか! 王族を滅ぼし、公爵が王の座に就けばすんだ話だ! こんな、陵辱を受け愛する者まで失わせなくとも、私はそこまでされる謂れはない!」
あまりの悔しさに、アレクサンドルは声を荒げた。
「お前を生かしたのは、ジョゼフィーヌに頼まれたからだ。知っていたか? その女は、お前を随分と前から手に入れようとしていたのだ。城の中に公爵家の間者を入れ、お前が子を成せる体になるまで待っておったのだぞ? 待つ間に、お前とよく似た男と結婚をし、飽きるたびに死者の国へ送っていた様だがな……」
アレクサンドルは言葉を失い、呆然となる。
黙って聞いていたメリーナは、悔しさに唇を噛み締め、キッと白い男を睨みつけた。
「ふざけたこと言わないでっ! すべてお前のせいでしょう! アレクサンドル様を操ったように、裏で王妃も操っていたんでしょう! お前のせいでどれだけアレクサンドル様が傷ついたと思っているのよっ! マーガレットも……お前ね、お前が毒を盛ったのねっ!」
「操る? 私がリフテス王を操れる様になったのはひと月ほど前だ。リフテスの瞳は厄介でな、こんなにも時間を要したのは久しぶりだった」
スッと羽を撫でながら、白い男は愉しげな顔をする。
「王妃、あれは操ってなどおらぬ。操るまでも無かったからな。……それと毒……ああ、あれか、毒を盛ったのはそこに転がっている王妃だ。じわじわと半年をかけて死に至る毒があると教えると、欲しがった。余程、アレクサンドルが愛した女が憎かったのだろうな、女の情念とは恐ろしいものだ」
悲しみに暮れるアレクサンドルを見て、白い男はニヤッと笑う。
「ああ、あの毒の解毒薬を渡してやろう……と、もう既に息はなかったか……ククッ」
白い男は、手に持つ解毒薬をメリーナへと掲げ見せた。
「欲しいか? 欲しければくれてやろう。どうする?」
解毒薬を凝視するメリーナを見て、白い男は満足気に笑う。
「……欲しいわ……」
思う答えが返って来たことに、さらに男の笑い声が大きくなる。
「棺の中の腐敗した遺体に与えるか? ふふ、変わった女よ」
白い男は解毒薬をメリーナに投げ渡す。
解毒薬を受け取ったメリーナは、大切そうに胸に抱えた。
そこへ騎士達とブノア大臣、そしてこの国の宰相が駆けつけて来た。
ブノア大臣は白い男を指差すと、大声で騎士達に命令を下す。
「我が国を、王を、長きに渡り苦しめたその男を捕らえよ!」
騎士達は一斉に男を取り囲み剣を向ける。
白い男は臆する事なく、失笑した。
「愚かなリフテス人よ『神』に歯向かうか?」
白い男が翼を一度羽ばたかせると、衝撃波が起こり、取り囲んでいた騎士達はまるで塵のように吹き飛ばされた。
その騎士達の中には、メリーナにアレクサンドルを助けて欲しいと懇願した騎士もいた。
「……もう、許さないわ!」
メリーナは両手を男へ向け、呪文を唱えようと構える。
「メリーナ様」
リラを抱き抱えたままのシリルが、メリーナの肩に手を添える。
「リラの大切な人を傷つけたお前は、俺が始末する」
白い男を睨みつけるシリルの黄金の瞳は、鋭い輝きを放っていた。
今にも射殺ろしそうな眼力に、メリーナは慌ててある事を告げる。
「シリル、その男を殺めてはダメ! 魔法で命を奪えばその代償を受ける事になるの、その男の様に」
「分かっている。殺す事はしない」
その言葉に、白い男は愉悦を浮かべる。
「では、どうする?」
シリルが指を二度鳴らすと、ギュウウンッと音をたて、白い男を囲む透明の箱が現れた。
「これしきの物で私を捕らえるのか? 甘く見られたものだ」
男が胸の前で手を振ると、パンッと箱は簡単に破られてしまった。
しかし、すぐに何重もの箱が白い男を取り囲んでいく。
何度破ってもすぐに囲む箱に、だんだんと男の顔色が悪くなる。
「ぐっ……こいつ……」
「それは防御魔法で作った、お前を『守る』箱だ。『神』なんだろう? 大事に守られていろ、永遠に」
そう言うと、シリルは魔力を高め箱を何重にも重ねて行く。
「…………漆黒め」
白い男は、自分の魔力では全てを壊す事は出来ないと悟とそれっきり抵抗する事を止めた。
目を瞑り、大きな羽で体を覆うとそのまま動かなくなった。
「ダメよリラッ!」
シリルがハッと目を開くと、そこには自分達の前で両手を開き盾になるリラの姿があった。
そして、その寸前に迫る無数の矢。
「リラッ‼︎」
シリルが名前を呼んだ瞬間、リラの前に虹色の防護壁が現れた。
それはシリルが思いだけで作り上げた魔法の壁。愛する者を守る為の防護壁だった。
防護壁は矢を受ける度に、バキバキと音を立てる。
リラには一瞬たりとも触れさせない、強い意志でシリルは防護壁へと魔力を注いだ。
矢が一旦途切れ、続け様にあの山道で受けた刃の様な風魔法が襲って来た。
と、同時にリラの体から力が抜け体が傾く。
シリルは、すぐさま立ち上がりリラを抱きとめると防御魔法を繰り広げた。
虹色の膜が、シリルとリラ、メリーナ、寝台の上のアレクサンドルを包み込む。
刃の様な風は、シリルが作り上げた防御魔法の膜によって全て弾き返された。
弾き返された風は、兵達と王妃、黒装束、白い男へと襲いかかっていく。
「ぎゃああーーーーっ!」
城中に、ジョゼフィーヌ王妃の断末魔が響き渡る。
シリルの魔法で作られた膜で弾き返されたその刃の様な風は、放たれた時よりも威力を何倍にも増し返っていた。
その風を受けた、ほとんどの者達は一瞬で命を落とした。
風魔法によって、ズタズタに切り裂かれた兵達の無残な姿が床に転がる。
屍の中に、ジョゼフィーヌ王妃の切り離された顔と体も、同じ様に転がっていた。
風の中、なんとか生き残っていた者達は、すぐに『神』に救いを求めた。
痛い、助けてくれと声を上げる者達に向け、あの風の中でも傷一つ負うことなく立っていた白い男は、神々しい笑みを浮かべて見せた。
「願いを叶え、楽にしてやろう」
その言葉に安堵した者達は、次の瞬間命を亡くした。
おびただしい惨状の中で、シリルを見据える白い男。
睨み返すシリルに向け、白い男は冷笑を浮かべる。
それからゆっくりと視線を変え、足下に転がる王妃の頭に目を落とした。
「返して貰おうか……」
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シューシューと音を立て出ていた煙が消え去ると、王妃の体は骨の様に変わり、歳よりも若く見えていたその顔は、醜く老いた女と変わり果てた。
「欲にまみれた醜い女よ」
白い男は吐き捨てる様にそう言うと、王妃が首から下げていた薔薇色の石を踏みつける。
パキッと音を立て割れた石は、真っ黒に変化し煙となり消えた。
それから白い男は、意識を取り戻し、周りを見て唖然としているアレクサンドルへと目をくれる。
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「……なんだと……?」
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「何を……」
「お前に真実を教えてやろう」
「真実……?」
聞いていたメリーナがたまらず声を出す。
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「リフテス王よ、其方はその瞳にまつわる話を知らぬのだろう?」
「瞳にまつわる話?」
何も知らない様子のアレクサンドルを見て、白い男は笑みを浮かべる。
「その瞳は愛する者との子にしか受け継がれぬ、と言えば分かるか?」
「…………どういう事だ?」
「お前の子は、そこにいる娘ただ一人。後の者達は全て私の種で生まれた子だ」
「……何を……王子達も同じ目の色をしていたはずだ」
アレクサンドルは予想外の言葉に気が動転する。
「目の色? そんな物、魔法でどうとでも変えられる」
「……そんな……」
「リフテス王族のその瞳は支配を受けない。どんな操りの魔法も効かない。そしてその瞳を持つ者は、愛する者との間にしか子を成せず、その色は愛され生まれた子にのみ受け継がれる。
そんな事も知らず、そこの女はお前を欲しがったのだ。もちろん私は教えてやった、アレクサンドルに子供は作れぬと。そうであろう? お前はあの女を愛してはおらぬ。愛する事は決してない、それが私には見えていた。するとどうだ、この女は『私』に子を授けて欲しいと言ってきたのだ。その上、金と引き換えに、瞳をリフテス王族特有の色に変える様にとも言ってきた」
白い男は、王妃の顔を見下ろし冷笑する。
「リフテス王よ、お前にとっては地獄のような日々であったろう。だがな、その間王妃とデフライト公爵は至福を味わっておったのよ。
側室を入れる度に持参金だと金を要求し、側室をでなければならぬ半年がくれば、王は子を成せないが王族の瞳を持つ子を成す事が出来る、と話を持ちかけたのだ。自分の家から『王』を出したいと望む、野心に満ちた貴族達は金を払い『私』の子を成した。話に乗らなかった者達は……もう、この世にはおらぬ」
「…………なっ……」
言葉も出ないアレクサンドルに、白い男は恐ろしい真実を語る。
「前リフテス王は、デフライト公爵の依頼により我々が暗殺した。前王はマフガルド王国との争いを治め、遥か昔そうであったように、両国の友好を築こうと模索していた。
デフライト公爵にとって、争いが無くなることは不都合でしかない。争いが長引けば長引くほど公爵は飽満な日々を送れるのだからな」
「……それなら、私も一緒に殺せばよかったではないか! 王族を滅ぼし、公爵が王の座に就けばすんだ話だ! こんな、陵辱を受け愛する者まで失わせなくとも、私はそこまでされる謂れはない!」
あまりの悔しさに、アレクサンドルは声を荒げた。
「お前を生かしたのは、ジョゼフィーヌに頼まれたからだ。知っていたか? その女は、お前を随分と前から手に入れようとしていたのだ。城の中に公爵家の間者を入れ、お前が子を成せる体になるまで待っておったのだぞ? 待つ間に、お前とよく似た男と結婚をし、飽きるたびに死者の国へ送っていた様だがな……」
アレクサンドルは言葉を失い、呆然となる。
黙って聞いていたメリーナは、悔しさに唇を噛み締め、キッと白い男を睨みつけた。
「ふざけたこと言わないでっ! すべてお前のせいでしょう! アレクサンドル様を操ったように、裏で王妃も操っていたんでしょう! お前のせいでどれだけアレクサンドル様が傷ついたと思っているのよっ! マーガレットも……お前ね、お前が毒を盛ったのねっ!」
「操る? 私がリフテス王を操れる様になったのはひと月ほど前だ。リフテスの瞳は厄介でな、こんなにも時間を要したのは久しぶりだった」
スッと羽を撫でながら、白い男は愉しげな顔をする。
「王妃、あれは操ってなどおらぬ。操るまでも無かったからな。……それと毒……ああ、あれか、毒を盛ったのはそこに転がっている王妃だ。じわじわと半年をかけて死に至る毒があると教えると、欲しがった。余程、アレクサンドルが愛した女が憎かったのだろうな、女の情念とは恐ろしいものだ」
悲しみに暮れるアレクサンドルを見て、白い男はニヤッと笑う。
「ああ、あの毒の解毒薬を渡してやろう……と、もう既に息はなかったか……ククッ」
白い男は、手に持つ解毒薬をメリーナへと掲げ見せた。
「欲しいか? 欲しければくれてやろう。どうする?」
解毒薬を凝視するメリーナを見て、白い男は満足気に笑う。
「……欲しいわ……」
思う答えが返って来たことに、さらに男の笑い声が大きくなる。
「棺の中の腐敗した遺体に与えるか? ふふ、変わった女よ」
白い男は解毒薬をメリーナに投げ渡す。
解毒薬を受け取ったメリーナは、大切そうに胸に抱えた。
そこへ騎士達とブノア大臣、そしてこの国の宰相が駆けつけて来た。
ブノア大臣は白い男を指差すと、大声で騎士達に命令を下す。
「我が国を、王を、長きに渡り苦しめたその男を捕らえよ!」
騎士達は一斉に男を取り囲み剣を向ける。
白い男は臆する事なく、失笑した。
「愚かなリフテス人よ『神』に歯向かうか?」
白い男が翼を一度羽ばたかせると、衝撃波が起こり、取り囲んでいた騎士達はまるで塵のように吹き飛ばされた。
その騎士達の中には、メリーナにアレクサンドルを助けて欲しいと懇願した騎士もいた。
「……もう、許さないわ!」
メリーナは両手を男へ向け、呪文を唱えようと構える。
「メリーナ様」
リラを抱き抱えたままのシリルが、メリーナの肩に手を添える。
「リラの大切な人を傷つけたお前は、俺が始末する」
白い男を睨みつけるシリルの黄金の瞳は、鋭い輝きを放っていた。
今にも射殺ろしそうな眼力に、メリーナは慌ててある事を告げる。
「シリル、その男を殺めてはダメ! 魔法で命を奪えばその代償を受ける事になるの、その男の様に」
「分かっている。殺す事はしない」
その言葉に、白い男は愉悦を浮かべる。
「では、どうする?」
シリルが指を二度鳴らすと、ギュウウンッと音をたて、白い男を囲む透明の箱が現れた。
「これしきの物で私を捕らえるのか? 甘く見られたものだ」
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しかし、すぐに何重もの箱が白い男を取り囲んでいく。
何度破ってもすぐに囲む箱に、だんだんと男の顔色が悪くなる。
「ぐっ……こいつ……」
「それは防御魔法で作った、お前を『守る』箱だ。『神』なんだろう? 大事に守られていろ、永遠に」
そう言うと、シリルは魔力を高め箱を何重にも重ねて行く。
「…………漆黒め」
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