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言っただろ

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「俺と結婚するって言っただろ⁈ 」

 大声を出すジークの前には、優雅に紅茶を飲む第一王女エリーゼがいる。

「言ったかしら……忘れたわ」
「リー!」

 エリーゼ王女は、美しい緑色の目でジークをチラリと見て、すぐに目を逸らす。

「オスカーに『花』が現れたら、俺と結婚してもいいって言っただろ? 王様もいいと言ってんのに
何が不満なんだよ」

 エリーゼ王女はカップに描かれた模様を見つめ、小さな声で言った。

「……ジークはオスカー様じゃないもの」

「そんなの当たり前だろう!」


**


 先日、エリーゼ王女の想い人、オスカー・レイナルドは『花』と結婚した。

 彼は竜獣人だ。
 この国で最も強くその容姿は美しいとされる竜獣人。謎の多い種族でもあり、一般には知らされていない事も多かった。

そう、『花』という存在がある事も、あまり知らされていない。



**



 エリーゼ王女に出会ったのは、俺が十一歳になった頃だ。

 その年、俺は本格的に召喚の訓練をすることになり、城の敷地内に住むことになった。


 この世界は、あらゆる場所で魔獣と呼ばれる生き物が現れる。魔獣は大人しい物、獰猛な物、攻撃はしてこないが、人々に役立つ物や疫病をもたらす物達など多種多様な物がいた。
 魔獣が何故現れるのか、どこから来るのかを昔から各国の研究者達が調べているが、未だハッキリとした事は分かっていない。

 その為この国では、騎士が常に見回り、防御魔法を使える魔法使いが結界を張り、人々を守っている。
 けれど、それには限界があった。
現れる魔獣によっては、結界も簡単に破られてしまう。それだけ強い魔獣となれば、騎士達も苦戦し、時には命を落とす者もいる。

 日々、魔獣対策を研究する中、人々の中に魔獣を操ることが出来る者が数十年に一度、生まれてくる事が分かった。

 その者達は皆、容姿に特徴があった。
白金の髪の一房程が紺色の髪になっている。目は紫と金と銀の入り混じる珍しい色をしていた。そして、手のひらには魔法陣の様な模様が刻まれている。

 俺はその特徴を持って生まれた。
白金の髪、左耳の辺りに一房ほど紺色の髪が生えている。瞳もその特徴通り、珍しい色だ。そして両手の掌に、魔法陣の様な模様が赤く刻まれていた。
両親は平凡な農民だったが、特徴を持って生まれた俺は、魔獣術師となる事を、生まれてすぐに決められた。
 
 国の決まりにより、両親の下で六歳まで育てられ、それからは魔獣術師テスと共に暮らすことになった。
いくら生まれ持った特徴があろうと、簡単に魔獣を従える事が出来る訳ではない。何事も学びと訓練が必要だった。テス師匠から教えて貰いながら、俺は少しずつ魔獣を使役出来る様になった。
 その辺に現れる、大人しく小さな魔獣は簡単に使役できた。魔力量も多かったようだ。

 ただ、召喚の訓練は適当な場所では出来ない。
訓練の度に城の訓練所に向かうのだが、忙しい師匠と行く事は中々難しかった。
召喚なんて何の為に必要なのか? 定期的に召喚し、討伐をしなければ一斉に魔獣が出てくる事がある。( 虫みたいな物かな?) しかし、一人の魔獣術師が召喚出来る魔獣の数は知れている。どうしても数十年に一度は、大量発生を引き起こしてしまっているのが現状だ。

 魔獣達にも住む世界があるのだろうか? そしてそれはこの世界と繋がっている……?
増え過ぎれば滅せられるのは、どの世界の生き物も同じという事だろう。


 各国にも数人づつしかいない魔獣術師は、稀有な存在として大切にされている。

 俺は師匠から離れ、召喚訓練に力を入れる事にした。
 一人で城に住むことになったその日、謁見の間で初めて王族と対面した。
( 王族と交流ができるほど、魔獣術師というのは大切にされてんのか……)

 王様は、何度か遠目に見た事があった。
優しそうな方だが、それは表面上なのだとテス師匠から聞いている。
確かに……よく見れば目がヤバい、アレは怒らせると何するか分からないタイプだ。
その横に並ぶ王妃様は、何も知らない清楚な感じの方だ。全ては王様に任せているという感じかな。
少し後ろには王女様達が並んでいる。


 初めて来た謁見の間に、キョロキョロとする俺を見て、王様はフッと笑っていた。
 ( 子供なんだよ、仕方ねーだろ )

「ジーク、ここに居るのは私の娘達だ。お前と歳も近い、これからはお前も城の敷地内に住む事になるからな、会う事も多いだろう。よろしく頼むよ」

「はい」
「エリーゼ、挨拶を」

 王様が促すと、一番近くにいた王女様が一歩前に出た。

「初めまして、ジーク・クラストフ様。私は第一王女エリーゼと申します」

きれいにカーテシーをするエリーゼ王女を見た俺は、息を呑んだ。

 一つ歳下のエリーゼ王女は、今まで俺が見てきた女の子の中でも断トツに美しかった。小さな顔を彩る艶やかな金の髪は緩く波うち、長い睫毛に縁取られた大きな目は鮮麗な新緑の色。白い陶器のようなつるりとした肌、可愛いピンク色の唇は花びらみたいだ。

「……初めまして、ジーク・クラストフです」

 それだけ言うのがやっとだった。
これが一目惚れ、なんだろうか? 心臓がバクバクする。彼女から目が離せない……。
その後、ミリアリア王女様とマリアナ王女様が挨拶をしてくれたが、俺は碌に聞いていなかった。

でも、俺がその日交わした言葉はそれが最後、王女達はすぐに席を立った。

「今、私の親友のヴィクトール・レイナルド公爵が息子達を連れて来ていてな……その息子達に王女達は夢中なんだよ。……困ったものだが、まあ好きなものは仕方ない」


 幼い頃、レイナルド公爵が連れて来た、オスカー令息と出会ったエリーゼ王女は、一目で彼の事を好きになったらしい。
それ以来エリーゼ王女様はオスカー様一筋なの、と城内を案内してくれたメイドの子が、教えてくれた。


……俺の初恋は、始まってすぐに終わってしまった。
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