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家まで待てない

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「何してたの」

 気が付いた時には後ろから強く抱きすくめられていた。
耳元で聞こえるエスターの声は恐ろしい程冷たく鋭さを感じさせる。

「……何も」
つい素っ気ない返事をしてしまった。


「シャーロット」

 くるりと体を向けさせられ、指で顎を持ち目を合わせてくるエスターは、これまで見たことのない凍りつく様な青い瞳で私を刺す様に見下ろしている。

「ねぇ、あの男とキスしてた?」
「えっ?」
( ……あの男? カイン様と? する訳ない……! )

「……してない」
ちょっと怒って、彼から目を逸らした。


「シャーロットなぜ目を逸らすの? 本当は僕に言えない様なことしていたんじゃないの? さっきも……ドレス、はだけていたしね」

エスターは私からそっと手を離す。

「心配して来たのに……なぜ勝手に何処かへ行くの? どこにも行かないでと言っておいたのに家から出るし、僕の言う事聞けない?」

優しい口調で私を責め立てるエスターは……凄く怒っている様だ。


多分私が悪い……言う事を聞かずに、お茶会に出かけた。エスターに何も言わずにカイン様について此処まで来てしまった。
彼は居なくなった私を探して来てくれたんだろう……。

でも……


「……エスターは?」
「今は僕の話じゃないだろう⁈ 」
「エスターはマリアナ王女様の寝室に入ったんでしょう? 何も無かったの? 何をしていたか私に言えるの? あんなに匂いが付くほど近くにいたんでしょう⁈ さっきだって……」

次々と出てくる私の言葉に、エスターは驚愕の表情をしていた。


それに……私と見つめ合う彼の瞳は未だ青いままだ。

「私はあなたの『花』じゃないのよ……」
「……は? 何言って」
「マリアナ王女様が『花』なのよ」
「何でいつもマリアナが出てくるんだ」
( ……また…… )


〈 名前呼びなんてどうでもいいんだよ 〉

カイン様は言っていたけど……私はやっぱり気になる。気になるよ……


「マリアナって呼ぶのね、王女様の事エスターは」

「シャーロット?」

「私聞いていたの、エスターのマリアナ王女様を見る瞳が金色だったって、さっき私といた時はずっと青い瞳のままだったのに」

「それはマリアナの嘘だよ! そんな訳ないんだ。それより」
( ……ほら、また…… )

「エスター

背の高い彼を見上げてワザとそう呼んだ。

「だからその言い方はヤメ……」

「嫌? エスターって呼ばれるの嫌いなの?」

そう言っている私の目には涙が浮かび、頬を伝って流れ落ちていく。


「私も……あなたが王女様をマリアナって呼ぶのは……嫌なの」

「シャーロット……」

「ずっと嫌だった……」
エスターは私の涙を拭う様に頬を撫でていく。


「……ごめん」
 
 切なげに告げた彼の瞳が、瞬き一つで金色に変わった。
顔を近づけてもう一度「ごめん」と囁きながら、エスターは私に軽く啄む様なキスをした。

「私も、ごめんなさい」
「うん」
「それから……迎えに来てくれてありがとう」
「そんなの当たり前だ」

 エスターは優しい笑顔を見せた後、私の頭を抱え込み唇を重ねた。
「んっ…………!」
深く激しく吸いあげられる様な口づけに息苦しくて彼の胸を手で押した。
しかしその手はすぐに取られ後ろ手にされる。
はっと息を吸ったと同時に貪る様に口づけられた。

少しだけ唇を離すと
「僕に嫉妬させたシャーロットが悪い」
「あっ……」
そのまま覆い被さる様に彼はまた唇を重ねた。
甘く痺れる口づけに力が抜けそうになる。
エスターは唇を離し、突然ヒョイと私を横抱きにした。

「エスター?」
「……家まで待てない」

「…………えっ?」

 ダンッ!と地面を蹴ったかと思うと、彼は私を抱え、あの北の塔へと向かった。

 さっきまで空を茜色に染め上げていた太陽はその姿を隠し、暗くなっていく空には星が数を増していた。

 普通の人では簡単には入れないと云われるその場所に、彼はいとも容易く私を抱えたまま登って行く。
 何故か塔の窓は開いていて、そこから中へと入り込むと、あっという間にクッションの谷間に組み敷かれた。
金色の瞳のエスターが激しい欲情を孕み私を見据える。

「……ちょっと待って、話はまだ」
「シャーロット、君が求めたんだ。金色の瞳の僕が欲しいと」
「違っ、そんな事は言って無い」

エスターは何も言わずに蕩けるような金色の瞳で見つめてくる。

……ああ、そうだった……この瞳で見つめられると……

「今朝、約束したからね。それにさっきサラに三本貰ってきたから……二人きりでじっくり話合おうか……シャーロット」

サラ様に……三本って、まさか……⁈

 彼の端麗な顔に欲望が色濃く浮かぶ
目を見開く私を膝立ちで見下ろし、満足そうに口角を上げるエスター。
その手には見覚えのある小瓶が握られていた。
それを少し離れた場所へと置くと
「そうだ……さっきから嫌な匂いがするんだった」
エスターは近くに置いてあった布を取り、私の指をゴシゴシと拭きあげた。

……そこはさっきカイン様に軽くキスをされたところ……

拭き上げると、パクッと指を口に含む
「えっ、エスター?」

 指を彼の舌が絡め取る様に舐め上げていく。
一本一本ゆっくりと舐められるその感覚に体は粟立ち、声が漏れる。

「やっ、やめ……」
「僕のなのに……猫に舐められてる……」

ダメだよ、とエスターは手のひらに口づけてそのまま腕の内側につっと舌先を這わせていく。
「やっ……エスター……」
くすぐったい様なもどかしいその刺激に身を捩ると、肩口を強く吸われた。
「やっ……あっ……」

「ああ、そうだ」

 知らない男に触られたドレスは要らない、とその場で真紅のドレスは引き裂かれ、窓から投げ捨てられた。
下着姿になったけれど、エスター相手に防御魔法が発動するはずもなく、そのまま下着も簡単に取り払われてしまう。
 肢体を見下ろす彼の目は獣欲にまみれているようだ。
おもわず両手で前を隠すと、その手首は彼に捕らえられ開かされた。
彼の顔が胸に近づき熱い唇が落とされる。
煌めく銀の髪が首筋に触れる。
私の唇から漏れ出す甘くせつない声は、次々と彼の中へ閉じ込められていった。

「もう二度と『花』じゃないなんて言わせない……」

身体中隙なく口づけられ、肌の薄い部分には花の様な痕が無数に散らされる。
「やぁっ……もう……」
体中を甘く痺れる感覚が襲ってくる。
耐えられないと首を振る私の頬をそっと撫で、エスターはさらに深いところまで入り込んでいく。

「シャーロット、もっと僕を欲しがって……」
「もう……これ以上は……」
 ( お願い……休ませて )

 そうねだる様な声を出した私に、彼は口移しで回復薬を飲ませてくる。

「ああ、僕も少し飲んじゃった」
「…………!」
( エスターは飲まなくてもいいから! )

 彼の手によってドロドロに蕩けさせられたニ日後。
そう言えば、何のジュースで酔っていたのかと聞かれ、ぶどうジュースだと答えると、エスターは私が寝ている間に何処からか手に入れてきて……飲まされてしまった。

確かカイン様は薬も影響していると言っていたのに……。

「どーしてっ?」
「あー……かわいいよ、その話し方も、甘えた声も可愛いよシャーロット」
「いやっ、エシュターのいぢわるっ」
「うん、そうだね! もっとイジワルしてあげる」

 結局、私はぶどうジュースで酔ってしまう体質のようだ。

 妖艶な笑みを浮かべる金色の瞳のエスターは、そのまま私を五日も北の塔へ閉じ込めた。
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