24 / 68
心配したんだよ
しおりを挟む
頭を優しく撫でる手
今、私に触れている温かい手を
間違える筈はない
……この手は私の愛しい人
「う……ん……」
私の寝ているベッドに、黒いタキシードを着て仮面を着けた黒髪の男が腰掛けていた。
その人が私の頭を優しく撫でている。
「カ……イン?」
「……⁈ 」
どうして私を触れるんだろう?
さっきカイン様は防御魔法が発動して触れないと言っていたのに……それから帰ると階段を降りて行ったのに。
「……カイン……しゃま?」
「それは誰⁈ 」
うーん、エスターの声はするのにエスターじゃない。
だって目の前の人は服も髪も真っ黒だ。エスターはキレイな銀の髪だから。
「 ほら、起きて……って、シャーロット」
黒い人に抱き起こされた。
纏っていた上掛けがハラリと落ちる。
( ……あれ、この人私の名前知ってるのね? )
「なぜ……ちゃんと着てないんだ……」
黒い人は何だか怒っているみたいだ。
「どれしゅ? あーコレはでしゅねー」
「はっ? シャーロット?……酔っ払ってるの?」
「ん?」
「お酒飲んだの?」
違う、と私は頭を振った。
あ……クラクラする。
「のんでないれしゅ、ジューしゅをのんだの……れしゅ」
カイン様はジュースだと言っていた。
確かにおいしいぶどうのジュースだった。
……まぁ、今の状態が正常かと云われたら自信がないけど……何だか上手く喋れないし……
黒い人は突然自分の髪をぐっと握り引っ張った。
「…………!」
被り物を外したそこから、サラリと銀色の髪が落ちる。
仮面を取ると青い瞳が煌めいていた。
「エシュター?」
何故黒い人になっていたんだろう?
まるでさっきのお茶会にいた男の人達みたいな格好だ。
「シャーロット、心配したんだよ」
エスターは私の頬を持ちぐいぐいと引っ張った。
「いらい……れしゅ」
「痛くしてるんだよ」
「しどいっ!」
「ああっもう!」
そのまま頬を挟まれ、チュ、とエスターがキスをする。
「なにしゅるのっ」
「かわいい……」
「かわい?」
珍しく彼の目尻が下がっている。
「でもね……」
「でも?」
「なぜドレスがはだけてるんだ 」
さっきの甘く下がった目が、一瞬で凍る様に冷たく鋭い瞳に変わった。
( ……怖いっ! エスターの怒った顔めちゃくちゃ怖いですっ )
「シャーロット」
「は……い」
私はちょっとふらふらしながら、ベッドの上で姿勢を正して彼にキチンと訳を話した。
今の私なりに……ちゃんと初めから話をした。
「あの……れしゅね。おちゃかいが、出あいのばーで、それでダンしゅをおどりました」
「ダンス? 誰と」
「うーん……カインというひとれした。じょうずだって……いってく……れました」
「さっきも言ってたけどカインって誰? 何でソイツと踊ったの? 僕ともまだ踊った事ないのに」
( ああ、やっぱり嫌だったよね )
「ごめんなしゃい、はじめては……エシュターがよかった」
私は社交界にもまだ出ていない。ダンスもお父様が生きていらっしゃった頃に教えてもらっただけ。最近はローズ様に教えて頂いていて、人前で踊ったのは今日が初めてだった。
「初めて? ダンスが?」
「うん」
「……そうか」
「エシュターは?……おどったことありましゅか?」
( 公爵令息だものね、とっくに社交界には出ているだろうし、 誰と踊ったのかなぁ……)
「えっ、あ……うん……それは」
エスターは気まずそうに私から目を逸らした。
「んんっ? もし……かして、マリアナおーじょしゃまなのねっ!」
「あの、それは仕方なくて」
「はじめて……も?」
「あ……うん練習意外は……そうなるね」
「いいな……マリアナおーじょしゃま……」
マリアナ王女様は私の知らないエスターを知っている。
当たり前だけど、彼の幼い頃からを王女様は見て来ている。
私はまだ出会ってから三ヶ月にも満たなくて、知らない事が多いのは当たり前だけど……こんな時、やっぱり王女様が羨ましい。
「シャーロット……」
何だか今度は悲しくなってきた。
さっきまで楽しかったのに……やっぱり酔っているのかな。
エスターの過去にはいつもマリアナ王女様がいる。
それは仕方ない事。分かってる、分かってるけど、私は自分で思っているよりも心が狭い様だ。
今もまだ、王女様とエスターの過去が気になっている。
それに私は、マリアナ王女様から多分嫌われている。
突然現れてエスターを取っちゃったから。
でも……だからって攫わせなくても、知らない人に悪戯させなくても……そこまでしたいほど私が憎いのだろうか。
私がもしこの下着を着けていなかったら、今頃どうなって……そう考えて、スッと血の気が引いた。
……本物に何もされてない?
ドレスを着ていた時には触れたのよ?
現にここまで運ばれている。
彼は何もしていないと言ったけれど、それが真実とはいえない。
私は上掛けを纏ってエスターから距離をとる。
「急にどうしたの、シャーロット」
エスターが急に離れた私に手を差し出すけれど、嫌だと首を振ってしまった。
ゆっくり、言葉がおかしくならない様に話をする。
「あの……ドレスき……るから……」
「手伝うよ」
エスターは優しく言ってくれた。
「だいじょぶ……ひ……とりでしま……す」
「でも」
「おねがい……すこ……しだけ……そとにでて、くらさ……い」
「どうして? シャーロット」
下を向き頼むとエスターは「僕はすぐそこに居るから」と部屋を出てくれた。
少しずつ酔いは醒めて来ている。
上掛けを取り隈なく体を見回した。
……大丈夫そうだ。
下着はちゃんと着ている、どこも緩んでいないし体にも何もない。
ドレスを脱がせた途端に触れなくなったとカイン様は言ったから……。
けれど赤いドレスを着ている状態では私に触れている。
現にここまで運ばれてベッドに寝かされていたのだ。
私は、何もしていないと言った彼の言葉を信じるしかない。
何一つ覚えていないから……。
ドレスをちゃんと着て、深呼吸をする。
迎えに来てくれたエスターにまだお礼も言っていない。その上部屋から追い出してしまった。
謝らなくっちゃ、それから来てくれてありがとうって言わないと……私、ダメだな。
ベッドから降りて下に並べて置いてあった靴を履いた。
少しふらつくが大丈夫。
エスターに声をかけようと、扉へと向かって……足が止まった。
外から、かわいい女性の声が聞こえてきたのだ。
マリアナ王女様の、鈴のような声が。
「エスター、ここにいたのね」
「……どうして僕がいると分かったのですか」
嬉しそうなマリアナ王女様とは対照的な冷たい声でエスターが話をする。
「あら、私があなたを分からない訳がないわ」
「こんな事はもう二度としないで頂きたい」
「こんな事? 彼女は楽しそうだったわよ? 殿方と音楽に合わせて踊って、その後はお酒を飲んで……しなだれかかっていたわ」
「それは彼女の意思ではないでしょう⁈ 」
「そうかしら? 私ならキチンとお断りするわ。彼女も満更でも無かったのではなくて?」
「彼女はきっと断り方が分からなかったんだ」
「あら、そんな人があなたの妻なんて務まるの?」
「彼女は『花』だ、僕は彼女しか認めない」
「そう……あら?」
「何だ?」
「エスターあなたの瞳、金色になっているわよ?」
( ……えっ⁈ )
「はっ?」
「うふふ、もしかして『花』は一人では無いのでは? 今までが、偶々近くに一人しか居なかったというだけではなくて?」
「何を言っているんだ」
エスターの声は動揺している様に聞こえた。
「だって獣人の中には何人も番がいる方達もいらっしゃるでしょう? 竜獣人もそうかも知れないわ、前例が無かっただけなのではないの?」
「違う、そんな事は無い!」
いつもは冷静な彼が声を荒げている。
……そういえば、さっき彼の瞳はずっと青いままだった。
でも、彼は瞳の色をコントロールできるようになっているし……
違う、今いるのはマリアナ王女様だけ、ならば王女様の狂言ということもあり得る。
だって『花』は触れ合えば直ぐに分かるのだから、エスターは今まで……何度も王女様と触れた事がある。
だから、違う……違うはず。
その時また別の声が聞こえてきた。
「まぁ、本当ですね。キレイな金色」
この抑揚の無い話し方は……メイド?
『花』と見つめ合うと金色に変化する竜獣人の瞳。
……もし王女様の言う通り、『花』が一人では無かったら……?
「そんな訳ないだろう!何を言っているんだ、マリアナ! いい加減にしろ!」
( ……マリアナ……また…… )
「うふ、エスターったらそんなに名前を呼ばなくてもよろしいのよ? あの日もずっと私の名前を呼んでいたものね、寝室でも……」
「アレは!」
( ……あの日……? もしかして……あの『ごめん』はそういう事?)
ーーーーーー*
後ろからカタンと小さな音がして、振り向くとカイン様がそこに立っていた。
立ちすくむ私に向けて、彼は何も言わず手を差し伸べる。
どうしていいか分からない。
頭の中は『目の色』の事とエスターが『マリアナ』と呼ぶ声と『あの日』の事で一杯になっている。
私は、カイン様に差し出されたその手を無意識のうちに取ってしまった。
真紅のドレスをキチンと着たからなのか、エスターに触れてもらったからなのか、下着の防御魔法は止まっていた。
カイン様は私の手を引いて階段を降りる。
その先にある真っ暗な地下道を、まるで見えているかの様にスタスタと歩いて行く。
「シャーロットちゃん、どうした? 泣いてんの?」
「……ないてない」
「ねぇ、もう酔いは醒めたの?」
「よってない」
「……ふうん」
そこからカイン様は暫く黙ったまま、私を連れて真っ暗な道を何処かへと進んで行った。
今、私に触れている温かい手を
間違える筈はない
……この手は私の愛しい人
「う……ん……」
私の寝ているベッドに、黒いタキシードを着て仮面を着けた黒髪の男が腰掛けていた。
その人が私の頭を優しく撫でている。
「カ……イン?」
「……⁈ 」
どうして私を触れるんだろう?
さっきカイン様は防御魔法が発動して触れないと言っていたのに……それから帰ると階段を降りて行ったのに。
「……カイン……しゃま?」
「それは誰⁈ 」
うーん、エスターの声はするのにエスターじゃない。
だって目の前の人は服も髪も真っ黒だ。エスターはキレイな銀の髪だから。
「 ほら、起きて……って、シャーロット」
黒い人に抱き起こされた。
纏っていた上掛けがハラリと落ちる。
( ……あれ、この人私の名前知ってるのね? )
「なぜ……ちゃんと着てないんだ……」
黒い人は何だか怒っているみたいだ。
「どれしゅ? あーコレはでしゅねー」
「はっ? シャーロット?……酔っ払ってるの?」
「ん?」
「お酒飲んだの?」
違う、と私は頭を振った。
あ……クラクラする。
「のんでないれしゅ、ジューしゅをのんだの……れしゅ」
カイン様はジュースだと言っていた。
確かにおいしいぶどうのジュースだった。
……まぁ、今の状態が正常かと云われたら自信がないけど……何だか上手く喋れないし……
黒い人は突然自分の髪をぐっと握り引っ張った。
「…………!」
被り物を外したそこから、サラリと銀色の髪が落ちる。
仮面を取ると青い瞳が煌めいていた。
「エシュター?」
何故黒い人になっていたんだろう?
まるでさっきのお茶会にいた男の人達みたいな格好だ。
「シャーロット、心配したんだよ」
エスターは私の頬を持ちぐいぐいと引っ張った。
「いらい……れしゅ」
「痛くしてるんだよ」
「しどいっ!」
「ああっもう!」
そのまま頬を挟まれ、チュ、とエスターがキスをする。
「なにしゅるのっ」
「かわいい……」
「かわい?」
珍しく彼の目尻が下がっている。
「でもね……」
「でも?」
「なぜドレスがはだけてるんだ 」
さっきの甘く下がった目が、一瞬で凍る様に冷たく鋭い瞳に変わった。
( ……怖いっ! エスターの怒った顔めちゃくちゃ怖いですっ )
「シャーロット」
「は……い」
私はちょっとふらふらしながら、ベッドの上で姿勢を正して彼にキチンと訳を話した。
今の私なりに……ちゃんと初めから話をした。
「あの……れしゅね。おちゃかいが、出あいのばーで、それでダンしゅをおどりました」
「ダンス? 誰と」
「うーん……カインというひとれした。じょうずだって……いってく……れました」
「さっきも言ってたけどカインって誰? 何でソイツと踊ったの? 僕ともまだ踊った事ないのに」
( ああ、やっぱり嫌だったよね )
「ごめんなしゃい、はじめては……エシュターがよかった」
私は社交界にもまだ出ていない。ダンスもお父様が生きていらっしゃった頃に教えてもらっただけ。最近はローズ様に教えて頂いていて、人前で踊ったのは今日が初めてだった。
「初めて? ダンスが?」
「うん」
「……そうか」
「エシュターは?……おどったことありましゅか?」
( 公爵令息だものね、とっくに社交界には出ているだろうし、 誰と踊ったのかなぁ……)
「えっ、あ……うん……それは」
エスターは気まずそうに私から目を逸らした。
「んんっ? もし……かして、マリアナおーじょしゃまなのねっ!」
「あの、それは仕方なくて」
「はじめて……も?」
「あ……うん練習意外は……そうなるね」
「いいな……マリアナおーじょしゃま……」
マリアナ王女様は私の知らないエスターを知っている。
当たり前だけど、彼の幼い頃からを王女様は見て来ている。
私はまだ出会ってから三ヶ月にも満たなくて、知らない事が多いのは当たり前だけど……こんな時、やっぱり王女様が羨ましい。
「シャーロット……」
何だか今度は悲しくなってきた。
さっきまで楽しかったのに……やっぱり酔っているのかな。
エスターの過去にはいつもマリアナ王女様がいる。
それは仕方ない事。分かってる、分かってるけど、私は自分で思っているよりも心が狭い様だ。
今もまだ、王女様とエスターの過去が気になっている。
それに私は、マリアナ王女様から多分嫌われている。
突然現れてエスターを取っちゃったから。
でも……だからって攫わせなくても、知らない人に悪戯させなくても……そこまでしたいほど私が憎いのだろうか。
私がもしこの下着を着けていなかったら、今頃どうなって……そう考えて、スッと血の気が引いた。
……本物に何もされてない?
ドレスを着ていた時には触れたのよ?
現にここまで運ばれている。
彼は何もしていないと言ったけれど、それが真実とはいえない。
私は上掛けを纏ってエスターから距離をとる。
「急にどうしたの、シャーロット」
エスターが急に離れた私に手を差し出すけれど、嫌だと首を振ってしまった。
ゆっくり、言葉がおかしくならない様に話をする。
「あの……ドレスき……るから……」
「手伝うよ」
エスターは優しく言ってくれた。
「だいじょぶ……ひ……とりでしま……す」
「でも」
「おねがい……すこ……しだけ……そとにでて、くらさ……い」
「どうして? シャーロット」
下を向き頼むとエスターは「僕はすぐそこに居るから」と部屋を出てくれた。
少しずつ酔いは醒めて来ている。
上掛けを取り隈なく体を見回した。
……大丈夫そうだ。
下着はちゃんと着ている、どこも緩んでいないし体にも何もない。
ドレスを脱がせた途端に触れなくなったとカイン様は言ったから……。
けれど赤いドレスを着ている状態では私に触れている。
現にここまで運ばれてベッドに寝かされていたのだ。
私は、何もしていないと言った彼の言葉を信じるしかない。
何一つ覚えていないから……。
ドレスをちゃんと着て、深呼吸をする。
迎えに来てくれたエスターにまだお礼も言っていない。その上部屋から追い出してしまった。
謝らなくっちゃ、それから来てくれてありがとうって言わないと……私、ダメだな。
ベッドから降りて下に並べて置いてあった靴を履いた。
少しふらつくが大丈夫。
エスターに声をかけようと、扉へと向かって……足が止まった。
外から、かわいい女性の声が聞こえてきたのだ。
マリアナ王女様の、鈴のような声が。
「エスター、ここにいたのね」
「……どうして僕がいると分かったのですか」
嬉しそうなマリアナ王女様とは対照的な冷たい声でエスターが話をする。
「あら、私があなたを分からない訳がないわ」
「こんな事はもう二度としないで頂きたい」
「こんな事? 彼女は楽しそうだったわよ? 殿方と音楽に合わせて踊って、その後はお酒を飲んで……しなだれかかっていたわ」
「それは彼女の意思ではないでしょう⁈ 」
「そうかしら? 私ならキチンとお断りするわ。彼女も満更でも無かったのではなくて?」
「彼女はきっと断り方が分からなかったんだ」
「あら、そんな人があなたの妻なんて務まるの?」
「彼女は『花』だ、僕は彼女しか認めない」
「そう……あら?」
「何だ?」
「エスターあなたの瞳、金色になっているわよ?」
( ……えっ⁈ )
「はっ?」
「うふふ、もしかして『花』は一人では無いのでは? 今までが、偶々近くに一人しか居なかったというだけではなくて?」
「何を言っているんだ」
エスターの声は動揺している様に聞こえた。
「だって獣人の中には何人も番がいる方達もいらっしゃるでしょう? 竜獣人もそうかも知れないわ、前例が無かっただけなのではないの?」
「違う、そんな事は無い!」
いつもは冷静な彼が声を荒げている。
……そういえば、さっき彼の瞳はずっと青いままだった。
でも、彼は瞳の色をコントロールできるようになっているし……
違う、今いるのはマリアナ王女様だけ、ならば王女様の狂言ということもあり得る。
だって『花』は触れ合えば直ぐに分かるのだから、エスターは今まで……何度も王女様と触れた事がある。
だから、違う……違うはず。
その時また別の声が聞こえてきた。
「まぁ、本当ですね。キレイな金色」
この抑揚の無い話し方は……メイド?
『花』と見つめ合うと金色に変化する竜獣人の瞳。
……もし王女様の言う通り、『花』が一人では無かったら……?
「そんな訳ないだろう!何を言っているんだ、マリアナ! いい加減にしろ!」
( ……マリアナ……また…… )
「うふ、エスターったらそんなに名前を呼ばなくてもよろしいのよ? あの日もずっと私の名前を呼んでいたものね、寝室でも……」
「アレは!」
( ……あの日……? もしかして……あの『ごめん』はそういう事?)
ーーーーーー*
後ろからカタンと小さな音がして、振り向くとカイン様がそこに立っていた。
立ちすくむ私に向けて、彼は何も言わず手を差し伸べる。
どうしていいか分からない。
頭の中は『目の色』の事とエスターが『マリアナ』と呼ぶ声と『あの日』の事で一杯になっている。
私は、カイン様に差し出されたその手を無意識のうちに取ってしまった。
真紅のドレスをキチンと着たからなのか、エスターに触れてもらったからなのか、下着の防御魔法は止まっていた。
カイン様は私の手を引いて階段を降りる。
その先にある真っ暗な地下道を、まるで見えているかの様にスタスタと歩いて行く。
「シャーロットちゃん、どうした? 泣いてんの?」
「……ないてない」
「ねぇ、もう酔いは醒めたの?」
「よってない」
「……ふうん」
そこからカイン様は暫く黙ったまま、私を連れて真っ暗な道を何処かへと進んで行った。
10
お気に入りに追加
352
あなたにおすすめの小説
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
【完結】没落令嬢オリビアの日常
胡暖
恋愛
没落令嬢オリビアは、その勝ち気な性格とあまり笑わない態度から、職場で「気位ばかり高い嫁き遅れ」と陰口を叩かれていた。しかし、そんなことは気にしてられない。家は貧しくとも心は誇り高く!
それなのに、ある時身に覚えのない罪を擦り付けられ、啖呵をきって職場をやめることに。
職業相談所に相談したら眉唾ものの美味しい職場を紹介された。
怪しいけれど背に腹は変えられぬ。向かった先にいたのは、学園時代の後輩アルフレッド。
いつもこちらを馬鹿にするようなことしか言わない彼が雇い主?どうしよう…!
喧嘩っ早い没落令嬢が、年下の雇い主の手のひらの上でころころ転がされ溺愛されるお話です。
※婚約者編、完結しました!
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人
花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。
そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。
森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。
孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。
初投稿です。よろしくお願いします。
お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!
ぽんぽこ狸
恋愛
人間の姫であるロイネは、戸惑っていた。
大きなお耳に、揺れるしっぽ。獣人の国のお見合いパーティに参加するのは別に良かった。相手が獣人の王子であっても、一応自分も人間の王族であるし、結婚したら玉の輿ぐらいには身分差があるが、悪くはない。
けどこんなに性格に難アリだとか、聞いてないんですけど!!
それに王子二人の婚約者ってどういうことですか?!
偶然から、獣人の国に嫁入りすることになってしまったロイネと、ふわふわともふもふの猫ちゃんのドタバタ異種婚姻譚!
恋愛大賞に向けて書いた作品です!どんどん投稿していきますので応援していただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる