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どこにも行かないで

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 エスターが魔獣討伐しごとに行くようになって一週間が過ぎた。



ーーーーーー*


 
 朝日に煌めく銀の髪、目覚めればそこには、青い目のエスターが凄艶な顔で私を覗き込んでいる。
( はぁ……なんてカッコいいの……)

「おはよう、シャーロット」
彼は私の頬に軽いキスをして、優しく髪を撫でる。

「……エスターおはよう、もう起きてたの?」

「うん、シャーロットの寝顔を見ていたかったから」
「うっ……」
( 私の寝顔……おかしくない?)


 エスターは今、沿岸に出た魔獣討伐に行っている。魔獣は直ぐに処分されたが、その後、新たに見つかった魔獣の巣穴の処理や後片付けで忙しくしていた。

 昨夜も帰りは遅く……本来なら、彼方で寝泊まりをしながら終わらせるらしいのだが、彼だけは毎日帰って来ていた。

( 一緒に行っているオスカー様は、ずっと向こうにいらっしゃるのに……いいの? )



ふと髪を撫でていたエスターの手が止まった。

「シャーロット……」

エスターはジッと私の目を見つめる。
( これは……まさか…… )


 

 彼の瞳は、今はまだ青い。

 私達が結ばれてから二週間程過ぎた頃、エスターは瞳の色をコントロール出来る様になっていた。
 普段の青い瞳も、心を奪われるほど美しいのだけれど、『わたし』にだけ向けられる金色の瞳で見つめられると、彼の事以外何も考えられなくなってしまう。

……それを、エスターは巧みに操るようになった。


ふっと微笑んだエスターは何故か目を閉じる。

「エスター、やっぱり眠いの?」
「……いや」

そう言ってゆっくりと開かれた彼の瞳は金色に輝いていて……

「シャーロット……愛してる」
「……え……」

 エスターの顔が近づき唇が重ねられる。
彼の舌先が私の唇を開きそのまま奥深く入ってくる。髪を撫でていた温かな手は、胸元へと降りていき、薄いネグリジェの上からやわ柔と胸を包み込んだ。
「……はっ……あ………っ……」
切なく漏れ出す吐息混じりの嬌声が、余計に彼を刺激したのか、エスターの手の動きは止まることを知らない。

「このまま続けていい?」

情欲を孕んだ甘く掠れた彼の声に、私は思わず頷きかけた。

( ダメだ……あの瞳で見つめられると……でも、朝なのに…… )



ドンドンドンッ!

大きな音を立てて部屋の扉が叩かれた。

「エスター様!今日もお仕事ですからねっ!大概になさい」

 カミラさんの声が聞こえて、恥ずかしくなった私は真っ赤になって頬を押さえた。
 エスターは、まだ金色の目のままそんな私を見てクスッと笑い、髪にキスを落とす。

「……仕方ない支度するか、続きは帰ってからね」そう言うと、出掛ける支度をする為に部屋から出て行った。




ーーーーーー*




 レイナルド公爵家は騎士団を持っている。
同じく竜獣人のガイア公爵家の持つ騎士団と王立騎士団とで、王国を魔獣や侵略者から守っていた。
 現王とヴィクトール様、ガイア公爵閣下は親友なのだとエスターが話をしてくれた。
色々と経緯があるようだけれど、私には分からない。

 オスカー様とエスターは15歳になると騎士団に入った。
 ヴィクトール様は、公爵の息子だからと優遇は決してせず、他の騎士達と同等に扱っている。従騎士から始まり、今オスカー様は隊長に、エスターは副隊長になっているのだと教えてくれた。それ故に、二人は公爵令息とはいえ率先して討伐へ向かう事になる。

……それに二人は力も強く、体力も底なしだ。




ーーーーーー*




「シャーロット……絶対どこにも行かないで……」
「はい、行きません」

 先程からエスターは、玄関で私の手を握り青い瞳を潤ませている。

 毎朝繰り返されるこのやり取りを、ヴィクトール様とローズ様が呆れ顔で見ていた。

「やっぱり心配だ……置いて行けない。父上、僕はやはり」
「シャーロットは私達が守るから大丈夫だ、さっさと行け」
「シャーロット……」
「行ってらっしゃいませ、私ちゃんと待っていますから」

 エスターは、後ろ髪を引かれるように馬に乗り、迎えにきた騎士と共に沿岸地域へと向かった。



 今、私はエスターと共にレイナルド公爵家に住んでいる。
ヴィクトール様はエスターに、二人でここから少し離れた公爵家の持つ屋敷を渡すから、そこに住むといいと言って下さったが、昼間私を一人にしては置けないと、彼が心配したのだ。

 公爵家ならば、ヴィクトール様が大抵在宅しており、その『花』である元騎士のローズ様も居るから安心なのだとエスターは言っていた。
 ローズ様は「元騎士と言っても訓練の時にヴィクトールに出会って、そのまま連れて行かれちゃったから、名ばかりよ」と笑っていた。


 私はエスターがいない間、ローズ様やカミラさんに色々な事を教えて貰っていた。
公爵家の事、竜獣人の事、『花』の事。
 その他に礼儀作法やダンスなど、しばらくの間メイドとして働いていた私には覚える事がたくさんあった。

「そんなに頑張らなくていいのよ、シャーロットちゃんはただ、エスターに愛されていればそれで充分なのよ」
「それで、いいのでしょうか……」


 ここに来てからというもの、私は何もしていない気がする。
 

 荒れていた手も蜜月の間に、スッカリ綺麗になっていた。

( ……それに、自分で言うのも何だけど……少しだけ綺麗になれた気がする……ほんの少しだけ ) 





ーーーーーー*




 その招待状は、エスターが出掛けた後、ヴィクトール様が急遽、王都の端にいる騎士隊長に呼び出され出掛けられたタイミングで届いた。


「エリーゼ王女様からですか……」

 突然のお茶会の招待だった。
それも本日昼、16歳から18歳迄の伯爵位以上の令嬢限定。

「怪しすぎるわ、それにコレは半ば強制的な招待状だわ、出席しなければ……罰金⁈ それもこんなに高額な……あり得ない、何なのよコレは!」

ローズ様は招待状を握り、立腹していた。

「伯爵以上なのに、何故私にも届けられたのでしょうか?」

 私はまだエスターとは婚約している身だ。だから爵位は男爵なのだけど……。

「レイナルド公爵の婚約者だから特別だと書いてあるわ、困ったわね。エスターがいない時を狙ったのかしら……ヴィクトールも昼まで戻れないし……そうだ、お金払ってしまいましょう!」

「だ、ダメです!お金払うなんてやめて下さい」
 ( これ以上、私にお金を使わせられない!)
レイナルド公爵家からは私の高額な治療費と、ディーバン男爵家に支度金として多額のお金を支払って貰っている。( 叔父夫婦からはウエディングドレスが仕立てられて来る予定だが……それだけなの?) 
エスターにも、ドレスを何着も買ってもらっている。



「でも……」
「きっと大丈夫です。お城ですし、メイドに知り合いもいますから、何かあれば助けて貰えると思います。それに他にもたくさんの御令嬢が来られる様ですし、お茶会と書いてありますから、心配する様な事は何もありませんよ」

私はローズ様を安心させようと微笑んだ。

「きっと私、エスターに怒られるわよ……」

 急遽呼び出されたお茶会に、ローズ様はエスターの名前入りのドレスを着て行くようにと言われた。
( 古代文字を読める人がいないといいけど……素敵なドレスだけど知ってしまったら、ちょっと恥ずかしい……)


 招待状には装飾品は一切禁止の旨が記載されていた。髪型も決まっており、不思議に思ったがその通りにする。

 ローズ様の心配する声を後にして、私は城へと向かった。
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