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黒い鯨と白い鷹
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黒鯨騎士団の団長さんは、ザ・黒鯨って人だった。縦も横もでかくて馬がかわいそうだ。世紀末に救世主がやってくる世界の、一番上のお兄ちゃんほどはないにしても、思い出すくらいには存在感がある。
白鷹騎士団が真っ白なので、比べると威圧感がすごい。黒い集団って、結構怖いのね。
黒鯨騎士団がローゼウス領に着いたのは、白鷹のフィッツヒュー団長が予想した通りの早朝で、大兄様は対応に追われていたらしい。
私が彼らに会ったのは、身支度をすっかり整えて、アイラン砦に向かうぞ、というタイミングだった。
カロルさんに磨かれて次兄様が用意してくれた新しいドレスで装った私は、バロライの民族衣装を着たユン、まったく隙のない完璧な美しさのシーリアと合流した。シーリアは可愛く装ったサープ君の手を引いて、正装したタタンにエスコートされている。
三兄様にエスコートされて、陛下の待つ広間に向かった。陛下といっしょにミシェイル様とカーラちゃんもいて、国同士の小競り合いの調停に子ども率が高いのに驚いた。
神様三柱と私がいればいいんだろうけど、三柱にはもれなく神子や巫女がついてくる。バロライの守護龍さんに関しては、存在が大きすぎるので、龍珠の中に引っ込んでもらってるけど。
陛下に挨拶してしばらくすると、白鷹騎士団と黒鯨騎士団が揃って広間にやってきた。戦闘で並ぶそれぞれの団長の身長差に目を見張る。
フィッツヒュー団長も私の知ってる人の中じゃ、ダントツに大きいと思ってたけど、黒鯨の団長さん、さらに頭ひとつ半ほど大きかった。ユンなら肩に座れそうだわ。
「バッカス、心配をかけてすまなんだな」
陛下が黒鯨の団長さんを労った。バッカス、お酒が好きそうな名前ね。見た目はザトウクジラみたいだわ。
ほんとに縦も横も大きい。フィッツヒュー団長が小柄に見える不思議。
「そちらの三枚羽殿の暴挙、許しがたいですな」
三白眼の鋭い眼光が、陛下の斜め後ろに控えるザシャル先生に向けられた。先生は眠たげな眦でバッカス団長を一瞥しただけだった。まるで気にしてない。
「まぁ、そう言うな。行軍は余には耐えられまいて」
陛下がとりなして、ひとまずバッカス団長は鉾を収めた。
「して、そちらのご令嬢方は、なにゆえここに同席されておるのですか?」
ザシャル先生に向けたものよりずっと柔らかいけれど、元が三白眼なので、決して懐こいとは言えない視線を向けられる。目があったのでとりあえず笑っておいた。これからいっしょにヴィラード国王のところに行くのに、ツンツンしててもしょうがないし。
そしたら、バッカス団長がビシッと固まった。
どしたの?
「それなるはローゼウス辺境伯爵令嬢である。此度の諍いを収めた、浄化の力を持つ聖なる乙女ぞ」
「浄化の力⋯⋯でありますか? なんと稀なる乙女か」
そこ、陛下の言葉は疑わないのね?
「そのように稀有な力を持つ乙女を、ヴィラード国王の元へ連れて参られるのか。陛下と共に神命をかけてお護りいたします」
じっと見つめられる。なんだか穴が開きそうなほどの眼力だわ。
「お前んとこは陛下の護りに専念しな。姫さんは俺らのだ」
「ご令嬢に馴れ馴れしく姫さんとは、無礼であろう。それに貴公らのものとはどういうことだ」
横からニヤニヤ笑いながらフィッツヒュー団長が口を挟むと、バッカス団長が眦を釣り上げた。三白眼がますます怖いことになっている。
「白鷹騎士団はすでに姫さんに⋯⋯聖女様に忠誠を誓ったぜ」
「なんと⋯⋯‼︎ 陛下を蔑ろにするというのか⁈」
「いや、そうじゃねぇ。教会や神殿に姫さんを好きにさせないために、専属の騎士団が必要になっただけだ。聞いて驚け、この姫さん、堕ちた神を生まれ直させたんだぜ」
「⋯⋯?」
どういうことかわからない、といった表情のバッカス団長に、なぜかフィッツヒュー団長が、真珠の光沢を持つ美しい少女のような女神と、緑がかった茶色の髪の可愛らしい幼い神を示してドヤ顔で語った。
「生まれ直した神さんたちだ」
「この清浄なる気を放つ方々が、禍ツ神であったと申すか⁈ そんなことが俄かに信じられるか!」
頭を振ったバッカス団長だったけど、陛下がひとこと、
「まことじゃ」
と言ったら愕然としながら納得していた。⋯⋯忠誠を誓った陛下が言うなら、信じちゃうのね。
「それにしても、斯様なか弱き乙女が、堕ちたる神を鎮めるとは⋯⋯なれば、なおさら、白鷹騎士団のような野蛮な奴らに任せていいものではありません!」
野蛮って言うけどさ、その野蛮な騎士団の副団長、私の兄様なんだわ~。身内ディスられるとちょっとバッカス団長の評価下がるなぁ。
私の手を取ってエスコートしてくれている三兄様をチラッと見ると、本人はちっとも気にしていなかった。
けど、一言言ってやらねば。
「三兄様は、白鷹騎士団の副団長なのでしょう? 三兄様の騎士団は、怖い人の集まりですの?」
愛され末っ子長女のぶりっこを最大限に振りまく。ちょっと悲しげに小首を傾げるのがポイントよ。案の定、バッカス団長はガーン、て表情をして固まった。聖女の兄を貶したことに気づいたらしい。
横でフィッツヒュー団長がグッと親指を立ててニヤリと笑った。声を出さずに口を動かしている。
『姫さん、こっぴどく振ってやれ!』
って見えた。いや別に、告られたわけじゃないから。
それにしても、ほんとにソリが合わないのね~。
白鷹騎士団が真っ白なので、比べると威圧感がすごい。黒い集団って、結構怖いのね。
黒鯨騎士団がローゼウス領に着いたのは、白鷹のフィッツヒュー団長が予想した通りの早朝で、大兄様は対応に追われていたらしい。
私が彼らに会ったのは、身支度をすっかり整えて、アイラン砦に向かうぞ、というタイミングだった。
カロルさんに磨かれて次兄様が用意してくれた新しいドレスで装った私は、バロライの民族衣装を着たユン、まったく隙のない完璧な美しさのシーリアと合流した。シーリアは可愛く装ったサープ君の手を引いて、正装したタタンにエスコートされている。
三兄様にエスコートされて、陛下の待つ広間に向かった。陛下といっしょにミシェイル様とカーラちゃんもいて、国同士の小競り合いの調停に子ども率が高いのに驚いた。
神様三柱と私がいればいいんだろうけど、三柱にはもれなく神子や巫女がついてくる。バロライの守護龍さんに関しては、存在が大きすぎるので、龍珠の中に引っ込んでもらってるけど。
陛下に挨拶してしばらくすると、白鷹騎士団と黒鯨騎士団が揃って広間にやってきた。戦闘で並ぶそれぞれの団長の身長差に目を見張る。
フィッツヒュー団長も私の知ってる人の中じゃ、ダントツに大きいと思ってたけど、黒鯨の団長さん、さらに頭ひとつ半ほど大きかった。ユンなら肩に座れそうだわ。
「バッカス、心配をかけてすまなんだな」
陛下が黒鯨の団長さんを労った。バッカス、お酒が好きそうな名前ね。見た目はザトウクジラみたいだわ。
ほんとに縦も横も大きい。フィッツヒュー団長が小柄に見える不思議。
「そちらの三枚羽殿の暴挙、許しがたいですな」
三白眼の鋭い眼光が、陛下の斜め後ろに控えるザシャル先生に向けられた。先生は眠たげな眦でバッカス団長を一瞥しただけだった。まるで気にしてない。
「まぁ、そう言うな。行軍は余には耐えられまいて」
陛下がとりなして、ひとまずバッカス団長は鉾を収めた。
「して、そちらのご令嬢方は、なにゆえここに同席されておるのですか?」
ザシャル先生に向けたものよりずっと柔らかいけれど、元が三白眼なので、決して懐こいとは言えない視線を向けられる。目があったのでとりあえず笑っておいた。これからいっしょにヴィラード国王のところに行くのに、ツンツンしててもしょうがないし。
そしたら、バッカス団長がビシッと固まった。
どしたの?
「それなるはローゼウス辺境伯爵令嬢である。此度の諍いを収めた、浄化の力を持つ聖なる乙女ぞ」
「浄化の力⋯⋯でありますか? なんと稀なる乙女か」
そこ、陛下の言葉は疑わないのね?
「そのように稀有な力を持つ乙女を、ヴィラード国王の元へ連れて参られるのか。陛下と共に神命をかけてお護りいたします」
じっと見つめられる。なんだか穴が開きそうなほどの眼力だわ。
「お前んとこは陛下の護りに専念しな。姫さんは俺らのだ」
「ご令嬢に馴れ馴れしく姫さんとは、無礼であろう。それに貴公らのものとはどういうことだ」
横からニヤニヤ笑いながらフィッツヒュー団長が口を挟むと、バッカス団長が眦を釣り上げた。三白眼がますます怖いことになっている。
「白鷹騎士団はすでに姫さんに⋯⋯聖女様に忠誠を誓ったぜ」
「なんと⋯⋯‼︎ 陛下を蔑ろにするというのか⁈」
「いや、そうじゃねぇ。教会や神殿に姫さんを好きにさせないために、専属の騎士団が必要になっただけだ。聞いて驚け、この姫さん、堕ちた神を生まれ直させたんだぜ」
「⋯⋯?」
どういうことかわからない、といった表情のバッカス団長に、なぜかフィッツヒュー団長が、真珠の光沢を持つ美しい少女のような女神と、緑がかった茶色の髪の可愛らしい幼い神を示してドヤ顔で語った。
「生まれ直した神さんたちだ」
「この清浄なる気を放つ方々が、禍ツ神であったと申すか⁈ そんなことが俄かに信じられるか!」
頭を振ったバッカス団長だったけど、陛下がひとこと、
「まことじゃ」
と言ったら愕然としながら納得していた。⋯⋯忠誠を誓った陛下が言うなら、信じちゃうのね。
「それにしても、斯様なか弱き乙女が、堕ちたる神を鎮めるとは⋯⋯なれば、なおさら、白鷹騎士団のような野蛮な奴らに任せていいものではありません!」
野蛮って言うけどさ、その野蛮な騎士団の副団長、私の兄様なんだわ~。身内ディスられるとちょっとバッカス団長の評価下がるなぁ。
私の手を取ってエスコートしてくれている三兄様をチラッと見ると、本人はちっとも気にしていなかった。
けど、一言言ってやらねば。
「三兄様は、白鷹騎士団の副団長なのでしょう? 三兄様の騎士団は、怖い人の集まりですの?」
愛され末っ子長女のぶりっこを最大限に振りまく。ちょっと悲しげに小首を傾げるのがポイントよ。案の定、バッカス団長はガーン、て表情をして固まった。聖女の兄を貶したことに気づいたらしい。
横でフィッツヒュー団長がグッと親指を立ててニヤリと笑った。声を出さずに口を動かしている。
『姫さん、こっぴどく振ってやれ!』
って見えた。いや別に、告られたわけじゃないから。
それにしても、ほんとにソリが合わないのね~。
応援ありがとうございます!
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