少女魔法士は薔薇の宝石。

織緒こん

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赤いシャワーはご勘弁。

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 魔術ではない。

 ではなんだろう。

 気付けば『魔女っこロージーたん爆誕』状態なんだけど。

 魔力を使う不思議現象は、とりあえず魔法ってことにしておいて。魔法使い? この世界、魔術使いとか、言わないなぁ。

「そうね、魔法士とでも名乗りましょうか」

 うん、魔法士、いいじゃない。

「《水柱》! ⋯⋯からの《雷撃》《雷撃》《雷撃》‼︎」

 濡れて電気をよく通してしまいなさい!

「《鎌鼬かまいたち》⋯⋯で《塩水》‼︎」

 傷口に染みてしまえ!

 グケーーーーッ!

「小娘ぇぇえ! その魔法とはなんだ⁈ 精霊の歓喜、歌いさざめく狂喜、その聖句はなんだ⋯⋯⁈ そなたを喰えば、その力、我がものになるのか⁈」

 ならないわ。あんたが日本語を覚えるしかないわね。《漢字》テスト受けてみれば? 《いたち》って難しいわよ!

「宝石姫」

 アル従兄様が私を背後に押しやった。後ろから支えていてくれた方が、魔法をぶっ放しやすいんだけどな。

 アル従兄様は三兄様さんのにいさまと同じ普通の騎士なので、禍ツ神との直接対決は向かないと思うわ。アル従兄様と三兄様の剣にも、なんか刻んでおけばよかったかしら。

 禍ツ神は上半身を地面につけて、ぬろぬろと這ってきた。下半身の鱗がうぞうぞと逆立ってさざめいている。カーラちゃんがザッカーリャだったときもどこか優美だったのに対して、ただ気持ち悪い。

 いーやー、来ないで!

 《聖光爆裂》は強力な《聖》の魔法なんだけど、いかんせん目に負担がかかる。

「《竜巻》!」

 うねる風の龍が、禍ツ神を宙に吹き飛ばした。

 そこにタタンの火炎放射が襲い掛かると、禍ツ神の身体が火柱になった。竜巻の風に煽られて、タタンの《焔》がエゲツないことになっている。

 チラッとタタンを見ると、エゲツなさに自分で引きつつ三兄様に支えられて剣を構えていた。

 竜巻の風がそらに昇って消えると、禍ツ神の身体がどうと地面に落ちた。ぶすぶすと焦げた臭いが漂う。生臭くて、気を抜くと吐きそうだわ。

「人間が⋯⋯よくも⋯⋯」

 ビタンッ

 ゴゴゴゴ⋯⋯⋯⋯

「ほう?」

 ヤバい。

 禍ツ神の尻尾の一振りで地面が揺れて、私たちはバランスを崩した。それに気づいたヤツがにちゃりと笑う。

 調子に乗ってビタンビタンと地面を打つのにあわせて、地面が揺れるだけじゃなく、あちこちが陥没して隆起し始めた。当然立っていられるはずもなく、とっくに地面に這いつくばっている。

「《鎌⋯⋯ガリっ」

 ぎゃあ、舌噛んだ! カッコ悪い~!

 この揺れじゃユンは弓を構えることも出来ないし、タタンは火炎放射を試みてるけど、狙いが定まってない。反対側にいるザシャル先生も守備に集中していて、シーリアに至っては自分を支えるのに必死になっている。

 その中にあって揺れに全く影響されていないのは、禍ツ神だった。

「小娘、喰わせろ」

 ヒッ⁈

 ぬろっと目の前に現れた。

 ぐぱっと口が開かれて細くて長い二本の牙と、二股にわかれた赤い舌が見えた。

 顎が外れてるんじゃないかと思うほど、大きく口を開けた禍ツ神が迫る。

 丸呑み?

 怖いとか、諦めるとか、そんなことを思う暇なんてない。全部がゆっくり進んでいくように感じて、強張った身体はちっとも動かない。神威にてられたりしてるんだろうか?

「宝石姫!」

 キシャアァアアァァアァッ!

 叫んだのはアル従兄様。

 悲鳴は禍ツ神。

 禍ツ神がのけぞって、人間の胸の部分からブシャァっと血が噴き出している。アル兄様は抜身の剣を天に掲げ、その返り血を浴びていた。

 時の流れが戻ってくる。

「従兄様!」

 アル従兄様がゆっくり膝を着いた。
 
 ガツっと音を立てて地面に剣を突き立て、それを支えに身を起こす。

「神に一太刀、ぶちかましてやったぜ」

 アル従兄様はニヤリと笑った。

 顔が土気色だ。

 ⋯⋯?

「人間風情がッ!」

「その人間に寄生してるくせに、態度がでかいな、アンタ」

 クケーーーーッ!

 また、あの変な声を出した。感情が昂ったりすると、人間の言葉が出てこなくなるみたいね。やっぱり神格はあんまり高くないんじゃないかしら。

 ビタンビタンとのたうち、地面を揺らす。子どもが駄々をこねるような光景だけど、禍ツ神がかたどっているのはヴィラード国王、そこそこいい歳したおっさんだ。可愛くも何ともない。

「宝石姫、悪い。この血、ちょっとヤバいわ。タグの浄化作用が間にあわねぇ。さすがに瘴気の原液そのものってヤツだな」

 うわぁ、従兄様!

 べっとり血のついた袖をめくると、黒ずんだ茶色と緑の斑模様が皮膚に浮かび上がっている。従兄様が慌てて私から離れようとするので、とっ捕まえて斑の痣に手を当てた。

「汚れるぞ!」

「《浄化》!」

 痣は一瞬で消えた。

「従兄様、私は何のためにいるのでしょうか?」

「⋯⋯浄化のためだな」

 一族の数百年ぶりの女の子が大事なのはわかってるけど、私は私の仕事をするの。

 タグのおかげなのか、冒された時間が短かったからなのか、アル従兄様に異変は無さそうだ。瘴気を呼吸で取り込むことと禍ツ神の血を浴びたことの違いもあるのかもしれない。

「全部終わったら、念のためにもう一回、浄化するからね!」

「頼む」

 よし。

「小娘、我の呪いを砕くか⋯⋯。面白い。我がみめは別におるが、そなたも我のもとに来よ」

「サイテー」

 思わず棒読み。

 堂々と二股宣言ですか⁈

 

 
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