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聖女はどこに⁈
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ひとりずつ順番に《浄光照射》をぶつけると、瘴気の抜けた三人は、ぐったりと地面に倒れ伏した。涎を垂らしてはくはくと浅い呼吸をしていて、生命があるのが不思議に思える。
正直言って見ていたい姿じゃない。
瘴気が抜けても、飢えが満たされるわけじゃない。《治癒》とか《快癒》って唱えてみればいいんだろうか? それとも《状態異常解除》とか?
「ザシャル先生⋯⋯、こっちの人、話を聞く必要がありますか?」
雑兵っぽいけど武具を着けている。ただの農民よりはなにかを知ってるかも。でもこの人たち、放って置いたら死んでしまいそうだもの。
「後の始末をなにも考えなくていいのなら、助けることができると思います」
加減が出来ないから、話を聞く程度とかに留められないけど。だから一度治しちゃったら、ごまかしが効かない。
ユンの守護龍さんにお手柄を押し付けるか、カーラちゃんの力ってことにしちゃうか、私の存在を明らかにするか。
私がなにもしないなら、白鷹騎士団の従軍医を急いで呼んでこなくちゃ、この三人は刻一刻と死に向かっている。
それに⋯⋯この人たちを見るに、南の砦を囲んでいる難民は、ほぼこの状態なんだと思う。なにかの力で無理矢理身体を動かしているとして、心臓がいつまで保つんだろう? 心臓が止まっても動くの?
最悪、南の砦は朽ちたご遺体の山に囲まれて、そこから病気が広がる可能性もある。
なにより、そんな光景見たくない。
「聖女に祀りあげられるかもしれませんよ?」
「こうなったら、ローゼウス一族の私に対する過剰な愛情に期待しましょう。全力で守ってくれると信じてます」
「そうですか⋯⋯むしろ神格化して祀ってしまえば、警護もしやすいかもしれませんね」
「先生、人を生き神様にしないでください」
聖女になる気はないけれど、先生も捕虜を助けることに異存はないみたい。
周りに影響を与えたくないので、不本意ながら直接手で触れることにする。幸い格子の近くに倒れているから、中に入らなくてもいい。雑兵と思しき人の足に手を乗せる。足をこっち向きに投げ出して倒れてるから、そこしか手が届かないのよ。
「《治癒》」
見た目の変化はない。垢じみたシャツの襟は垢じみたままだし、脂で固まった髪の毛もそのまんま。それでも、ドロに汚れたほっぺたが丸くなって、胸が規則正しく上下し始めた。
直すのは身体であって、衣類じゃない。清潔になる効果もない。
「ひとまず、成功ですね」
「残りのふたりはどうしますか?」
「このままにしておくのも、心が痛いですね」
先生がポツリと言ったので、私は無言で格子の向こうに手を伸ばした。こうなったらひとりもふたりも三人も一緒だわ。
農民ふたりを癒しても、私の魔力にはなんの変化もない。大したことない中の中しかない魔力なのに、漢字で唱えるぶんにはほとんど消費しないの。聖句なんてまともに唱えるだけで、発動もしないのにゴッソリ魔力を持っていかれるっていうのにね。
「決めたましたわ、ロージー。わたくし、あなたの話し相手になりますわ。タタンも小姓にお雇いなさい」
突然シーリアが腰に手を当てて言い出した。
「急になに?」
「あなたの存在が世に出たら、神殿や教会が保護に名乗りを上げますわ。高位貴族からもこぞって釣り書きが届くでしょうね。囲い込んで隔離して、いいように使う算段をつけますわよ。ローゼウスの皆さまが許すはずもないでしょうけど、下衆はどこにでもいますもの。その前に、身辺を心の許せる者で固めてしまった方がよろしくてよ」
なんやかや理由をつけて神殿なりに留め置かれる可能性かぁ。話し相手や小姓なら、共に連れて行くことができるのね。
「ユンは?」
ちょっと不安そうに、ユンが身を乗り出した。バロライの巫女姫を話し相手にはできないわね。
「ユンは神龍様の巫女ですもの。聖女様の親友だと言ってゴリ押せば問題ありませんわ」
シーリアの口からゴリ押しって⋯⋯。
「あい」
ユンが嬉しそうに返事してるから、いいのかしら。
「では、黄金の三枚羽が後見に名乗りをあげましょう。侯爵家の三男という看板もそこそこ大きいですよ」
ザシャル先生まで乗ってきた!
「カーラ様に、神託もらう?」
ユン、それ神託のヤラセだから! ミシェイル様を通じて頼めば、あっさりくれそうな気もするけど!
なんでみんな、聖女製造計画に乗り気なの? 守護龍さんやカーラちゃんの神威とかって、誤魔化す方法だってあるんじゃ無いの⁈
「あの⋯⋯」
ヤイヤイ言ってたら、タタンがおずおずと寄ってきた。そうよね、あなたも勝手に小姓にされたら大変よね!
「あれって⋯⋯気味悪くないですか?」
指差した先に、カサッとした紙屑? 茶緑で斑模様が見える⋯⋯蛇の脱け殻の切れっぱし?
小さくてよく見えなくて、話を中断してそばに寄ってみた。
やっぱり蛇の脱け殻。
「ほう、隠れんぼをしていたのは、蛇神か。ザッカーリャの陰に潜むには、もってこいの禍ツ神であるな」
え? 蛇の神様、もう一柱⁈
「聖女でも担がねば、面倒な相手だな」
守護龍さん⁈
なに言ってるの⁈
正直言って見ていたい姿じゃない。
瘴気が抜けても、飢えが満たされるわけじゃない。《治癒》とか《快癒》って唱えてみればいいんだろうか? それとも《状態異常解除》とか?
「ザシャル先生⋯⋯、こっちの人、話を聞く必要がありますか?」
雑兵っぽいけど武具を着けている。ただの農民よりはなにかを知ってるかも。でもこの人たち、放って置いたら死んでしまいそうだもの。
「後の始末をなにも考えなくていいのなら、助けることができると思います」
加減が出来ないから、話を聞く程度とかに留められないけど。だから一度治しちゃったら、ごまかしが効かない。
ユンの守護龍さんにお手柄を押し付けるか、カーラちゃんの力ってことにしちゃうか、私の存在を明らかにするか。
私がなにもしないなら、白鷹騎士団の従軍医を急いで呼んでこなくちゃ、この三人は刻一刻と死に向かっている。
それに⋯⋯この人たちを見るに、南の砦を囲んでいる難民は、ほぼこの状態なんだと思う。なにかの力で無理矢理身体を動かしているとして、心臓がいつまで保つんだろう? 心臓が止まっても動くの?
最悪、南の砦は朽ちたご遺体の山に囲まれて、そこから病気が広がる可能性もある。
なにより、そんな光景見たくない。
「聖女に祀りあげられるかもしれませんよ?」
「こうなったら、ローゼウス一族の私に対する過剰な愛情に期待しましょう。全力で守ってくれると信じてます」
「そうですか⋯⋯むしろ神格化して祀ってしまえば、警護もしやすいかもしれませんね」
「先生、人を生き神様にしないでください」
聖女になる気はないけれど、先生も捕虜を助けることに異存はないみたい。
周りに影響を与えたくないので、不本意ながら直接手で触れることにする。幸い格子の近くに倒れているから、中に入らなくてもいい。雑兵と思しき人の足に手を乗せる。足をこっち向きに投げ出して倒れてるから、そこしか手が届かないのよ。
「《治癒》」
見た目の変化はない。垢じみたシャツの襟は垢じみたままだし、脂で固まった髪の毛もそのまんま。それでも、ドロに汚れたほっぺたが丸くなって、胸が規則正しく上下し始めた。
直すのは身体であって、衣類じゃない。清潔になる効果もない。
「ひとまず、成功ですね」
「残りのふたりはどうしますか?」
「このままにしておくのも、心が痛いですね」
先生がポツリと言ったので、私は無言で格子の向こうに手を伸ばした。こうなったらひとりもふたりも三人も一緒だわ。
農民ふたりを癒しても、私の魔力にはなんの変化もない。大したことない中の中しかない魔力なのに、漢字で唱えるぶんにはほとんど消費しないの。聖句なんてまともに唱えるだけで、発動もしないのにゴッソリ魔力を持っていかれるっていうのにね。
「決めたましたわ、ロージー。わたくし、あなたの話し相手になりますわ。タタンも小姓にお雇いなさい」
突然シーリアが腰に手を当てて言い出した。
「急になに?」
「あなたの存在が世に出たら、神殿や教会が保護に名乗りを上げますわ。高位貴族からもこぞって釣り書きが届くでしょうね。囲い込んで隔離して、いいように使う算段をつけますわよ。ローゼウスの皆さまが許すはずもないでしょうけど、下衆はどこにでもいますもの。その前に、身辺を心の許せる者で固めてしまった方がよろしくてよ」
なんやかや理由をつけて神殿なりに留め置かれる可能性かぁ。話し相手や小姓なら、共に連れて行くことができるのね。
「ユンは?」
ちょっと不安そうに、ユンが身を乗り出した。バロライの巫女姫を話し相手にはできないわね。
「ユンは神龍様の巫女ですもの。聖女様の親友だと言ってゴリ押せば問題ありませんわ」
シーリアの口からゴリ押しって⋯⋯。
「あい」
ユンが嬉しそうに返事してるから、いいのかしら。
「では、黄金の三枚羽が後見に名乗りをあげましょう。侯爵家の三男という看板もそこそこ大きいですよ」
ザシャル先生まで乗ってきた!
「カーラ様に、神託もらう?」
ユン、それ神託のヤラセだから! ミシェイル様を通じて頼めば、あっさりくれそうな気もするけど!
なんでみんな、聖女製造計画に乗り気なの? 守護龍さんやカーラちゃんの神威とかって、誤魔化す方法だってあるんじゃ無いの⁈
「あの⋯⋯」
ヤイヤイ言ってたら、タタンがおずおずと寄ってきた。そうよね、あなたも勝手に小姓にされたら大変よね!
「あれって⋯⋯気味悪くないですか?」
指差した先に、カサッとした紙屑? 茶緑で斑模様が見える⋯⋯蛇の脱け殻の切れっぱし?
小さくてよく見えなくて、話を中断してそばに寄ってみた。
やっぱり蛇の脱け殻。
「ほう、隠れんぼをしていたのは、蛇神か。ザッカーリャの陰に潜むには、もってこいの禍ツ神であるな」
え? 蛇の神様、もう一柱⁈
「聖女でも担がねば、面倒な相手だな」
守護龍さん⁈
なに言ってるの⁈
応援ありがとうございます!
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