少女魔法士は薔薇の宝石。

織緒こん

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ローゼウス家の人々。

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 朝起きて身支度と朝食を済ませると、大兄様おおにいさまに呼ばれた。居間とか私室じゃなくて、広間のほう。なんだか嫌な予感がしていたけど、やっぱりだった。

 朝っぱらから見たくなかった。

 号泣する美中年。

 美青年も多いけど、インパクトは美中年のほうが大きいわよね。中には美壮年も混じっている。

 仕事で離れている者を除いて、殆どの血族がいるんじゃないかしら?

「よくぞ無事に戻ったね、我が孫娘よ」

 アンニュイな美貌の大叔父様、孫じゃないから。あなたの兄の孫だから。気を抜くと、ちょっとでも続柄を近づけようとするのはやめてほしい。

「皆が私たちの薔薇の宝石の顔を見るまで、戦支度はせぬと言い張るので、やむなく集めたのだよ」

 大兄様が色気のしたたる憂い顔で言った。その顔はあなたの奥さん義姉様の前だけでいいんじゃないかしら。

「戦支度って、ヴィラード国との?」

「アルフレッドが色々情報を得て来たのでね。帝都にも伝令は飛ばした。フィッツヒュー殿が白鷹騎士団を率いてくるそうだ」

三兄様さんのにいさま、帰ってくるの?」

「そうなるな」

「アリアンさんは?」

「白鷹騎士団と合流の指示だ。黄金の三枚羽殿も攻撃魔術が使えるため、ふたりともローゼウスにて待機命令が出ている。アルフレッドは砦をひとつ任せるつもりだから護衛が足りぬ。第三皇子殿下も足止めだな」

 大兄様、めっちゃ嬉しそう。ミシェイル様をダシに私が足止めされるのを喜んでるんでしょ。本当に義姉様、こんなののどこが良かったのかしら? やっぱり顔?

 それよりも、そんな重大な事態なのに、私の顔を見なきゃ戦支度をしないだなんて、どこのアホよ。あ、ごめん、ローゼウスのアホだったわね!

「宝石姫、僕はダンスを踊ってくれると約束してもらって、天にも昇る心地だったよ。みんなもなにかご褒美があったら頑張るんじゃないかな?」

 次兄様つぎのにいさま、大勢の前でなにを言い出すのかな⁈

「なんと⁈ ユリウスばかりがずるいぞ!」

「俺も踊って!」

「一緒にお茶をしよう!」

 ほら見てよ! 全員が一斉に騒ぎ出すから、収拾がつかなくなったじゃない。どーすんの、コレ⁈

 カーーンッ

 ザザッ

 広間に突然、半鐘の音が響いて、あれだけ騒いでいた一族の美形たちが、一斉に口をつぐんで姿勢を正した。

 なにごと?

 あら、母様。

 義姉様と侍女を引き連れた母様が、厳しい表情カオをして広間に乗り込んできた。侍女さんの手には、半鐘がつかまれている。

 領内での地位は領主代行の継嗣である大兄様が上だけど、家庭内のヒエラルキーの最上位は母様よ。そして義姉様も最近は母様に似て来たともっぱらの評判で(笑)。

「戦が済んだら、慰労の夜会を開きましょう。功績のあった者、上から十名にロザリアとダンスをする権利を与えましょう」

 十名ならなんとか⋯⋯。

「いいですね、武勲ではありませんよ。功績ですからね」

 眉を釣り上げて母様が言った。カッコいい!

「なにをしているのです。さっさと戦支度を始めなさい!」

 ピシ⋯⋯ッ

 いかん、鞭の打擲音の幻聴が⋯⋯。辺境伯爵夫人なのに女王様の幻覚が見える。

「では姫、このじぃじも張り切って来ますかな」

 大叔父様が優雅に一礼して去って行ったのを先頭に、全員が一言ずつ我も我もと自己アピールをして去って行った。大叔父様ほど爺が似合わない美老人もいないわよ。なよやかで吉永◯百合似(女顔!)なのに、鬼神か修羅かってほど強いのよ。

 広間に残ったのは領主一家と侍女。

 昨夜は疲れてて簡単な挨拶しかしてないから、ようやくの再会みたいだわ。

「お疲れさまね。今のが一番疲れたのではなくて?」

 あはは~、否定できないわ。

 曖昧に笑っていると、母様と義姉様から交互に抱擁を受けた。あら、義姉様?

「わかる?」

 ハグの感触⋯⋯て言うか、お腹。ふっくらしてる。

「ロイスが討死しても、なんとかなるわよ。どうせ男の子なんだから! ロージーとのダンスの権利を捨てて死んじゃうなんて、西からお日様が登ってもないでしょうけれどね!」

 義姉様がコロコロと、笑った。

「なにを言う、リリィ。可愛い姫が生まれるに決まっているじゃないか」

「あら、あなた。男の子だったら可愛がらないの?」

「愛しいリリィが産んだ子が、可愛くないわけないじゃないか⁈」

 私がおめでとうという間も与えずに、盛大にイチャイチャし始める。そうなのよ、ローゼウスウチの男ども、傍迷惑なほどの愛妻家なのよ。

 あの美老人だって大叔母様にメロメロで、新婚当時なんて一歩も歩かせずに抱き上げて移動してたって話よ。

 ごちそうさま~。

 戦支度を始めているなんて微塵も感じない、気の抜けた朝だった。
 
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