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必殺技はナンタラ光線。
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ザッカーリャがのたうつたびに、地面が揺れた。立っていられなくて、その場に座り込む。
「無理。憂いが、漠然とし過ぎてる」
ユンは憂いを晴らすとは言ったけど、人々の意識改革を今すぐにしろって、そりゃ無理だ。無意識に働きかけるなんて、どこのメンタリストだ。
「まだ心を失っていませんわ。ユンでも話しができましたもの。ロージー、浄化で瘴気を払えませんの?」
「やる」
そう、私たちはそのために、ここに来た。
「シーリア、あなたがいちばん危険よ」
この揺れの中、落ち着いて聖句なんか紡げない。ザッカーリャになぎ払われて飛んでくる岩を避ける、風の障壁には魔力をたくさん使う。タタンは聖句を紡ぐ間の盾を務めるの役を振ってあるけど、タグの四点結界を作るためには、四人がバラバラにならないといけないのよ。
「大丈夫ですわ、ロージーが作ってくれたお守りがありますもの」
首に下げたドッグタグをチャリっと持ち上げて、キス。シーリアがデレた! ヤバい、オカン系ツンデレ美少女のデレ、半端ない!
シーリアをその場に残して移動する。シーリアの対角までは一番遠いので、守護龍さんの護りがあるユンが向かう。ただひとりの男の子タタンが、女の子に行かせることを申し訳ないと眉毛を下げた。
「ありがとう、心配してくれて。大丈夫、フェイがいる」
巫女モードがきれたユンは、ふわんと笑った。
私が右手から、タタンとユンが左手からそれぞれ移動を始める。大体の位置にたどり着いて対角を見ると、タタンがそこまでエスコートしたユンを送り出したところだった。
ユンがタタンから離れた直後、弾かれた大きな石が上から降って行った。タタンは居合い一閃、じゅんっと切り口が溶けて真っ二つになった石が、音を立てて落ちた。アリアンさんとの特訓で、なんとか《焔》の文字を使いこなしている。
ユンが定位置までたどり着くと、フォンっと音じゃない音がして、四点結界が発動した。
ザッカーリャに届く怨嗟が、やわらぐくらいの効果しかないけど。それでも新しい邪念が彼女に入り込むのは防いでくれる。
手のひらを眼前に掲げ、両手の人差し指と親指で三角を作る。肘をぐっと伸ばして、三角の穴から照準を合わせる。ザシャル先生と研究した、一点照射のスタイルよ。
普通の浄化だと、効果を期待するには対象に触れる必要があるの。範囲指定をしないと霧散しちゃうみたいなの。
「《浄光照射》!」
真っ直ぐに光がザッカーリャに向かって走る。見た目はウルト◯マンナントカのナンタラ光線みたいだ。
ナンタラ光線と違うのは浄化の光なので、殺傷力がない。念を込めている間は光を照射し続けるんだけど、ザッカーリャがのたうっているので、照準がずれる。それに飛んでくる岩を弾く《盾》を唱えると、浄光が途切れてしまうのよ。
何度も《浄光照射》と《盾》を繰り返す。
マズい。時間がかかるとシーリアの魔力がなくなる。風の魔術で岩を防いでいる彼女は、魔力が切れたらアウトだわ。
「あ⋯⋯あ⋯⋯あぁ」
ザッカーリャの声が弱々しくなってきた。のたうつ尻尾も動きが鈍くなってきた。
やがて彼女の上半身がゆっくりと地に伏せた。
暴れ始めたときより、赤黒い斑らのシミが薄くなった気がする。気のせいかしら?
「⋯⋯あの方の匂いがする」
ザッカーリャがポツリと呟いて、再び上半身をもたげた。
「いままで、生臭いモヤの臭いしかしなかったのに」
瘴気って臭いがあるの? 蛇の嗅覚、半端ないわね。
ザッカーリャがゾリゾリと腹を擦りながら、滑るようにシーリアに向かって進んだ。シーリアは動かない。
慌てて私たちは四点結界を崩さないように、範囲を狭めて駆け寄った。
「お前からあの方の匂いがする」
ザッカーリャがヌッと胴体を伸ばしてシーリアの匂いを嗅いだ。美少女と美女が見つめ合っている。
「あなた様に逢いたいと、共に参りましたわ」
シーリアが懐からガラスの小瓶を取り出した。
「あの方は?」
「病に伏されて、ここまで登ることが叶いませんでした。あなた様のお出ましを、この下で待たれております」
小瓶をザッカーリャに握らせて、シーリアは下山を促した。
「わたくしは、ここを離れてもよいの?」
「神子さまは、新たな体を得て、あなた様をお待ちしているのです」
重ねて告げて、シーリアが立ち上がった。
ザッカーリャは美しい容貌に子どものような笑みを浮かべた。
「行きたい。あの方に逢うの⋯⋯。逢いたいの⋯⋯」
「タタン」
「はい、お嬢様」
タタンが進み出て、手を差し伸べた。貴婦人をエスコートする完璧な仕草で、ちょっとびっくりよ。
さすがシーリア、私にザッカーリャをエスコートさせる発想はなかったわよ。
こうして私たちは、ザッカーリャを三合目で待つミシェイルさまのもとへ連れ出すことに成功したのだった。
「無理。憂いが、漠然とし過ぎてる」
ユンは憂いを晴らすとは言ったけど、人々の意識改革を今すぐにしろって、そりゃ無理だ。無意識に働きかけるなんて、どこのメンタリストだ。
「まだ心を失っていませんわ。ユンでも話しができましたもの。ロージー、浄化で瘴気を払えませんの?」
「やる」
そう、私たちはそのために、ここに来た。
「シーリア、あなたがいちばん危険よ」
この揺れの中、落ち着いて聖句なんか紡げない。ザッカーリャになぎ払われて飛んでくる岩を避ける、風の障壁には魔力をたくさん使う。タタンは聖句を紡ぐ間の盾を務めるの役を振ってあるけど、タグの四点結界を作るためには、四人がバラバラにならないといけないのよ。
「大丈夫ですわ、ロージーが作ってくれたお守りがありますもの」
首に下げたドッグタグをチャリっと持ち上げて、キス。シーリアがデレた! ヤバい、オカン系ツンデレ美少女のデレ、半端ない!
シーリアをその場に残して移動する。シーリアの対角までは一番遠いので、守護龍さんの護りがあるユンが向かう。ただひとりの男の子タタンが、女の子に行かせることを申し訳ないと眉毛を下げた。
「ありがとう、心配してくれて。大丈夫、フェイがいる」
巫女モードがきれたユンは、ふわんと笑った。
私が右手から、タタンとユンが左手からそれぞれ移動を始める。大体の位置にたどり着いて対角を見ると、タタンがそこまでエスコートしたユンを送り出したところだった。
ユンがタタンから離れた直後、弾かれた大きな石が上から降って行った。タタンは居合い一閃、じゅんっと切り口が溶けて真っ二つになった石が、音を立てて落ちた。アリアンさんとの特訓で、なんとか《焔》の文字を使いこなしている。
ユンが定位置までたどり着くと、フォンっと音じゃない音がして、四点結界が発動した。
ザッカーリャに届く怨嗟が、やわらぐくらいの効果しかないけど。それでも新しい邪念が彼女に入り込むのは防いでくれる。
手のひらを眼前に掲げ、両手の人差し指と親指で三角を作る。肘をぐっと伸ばして、三角の穴から照準を合わせる。ザシャル先生と研究した、一点照射のスタイルよ。
普通の浄化だと、効果を期待するには対象に触れる必要があるの。範囲指定をしないと霧散しちゃうみたいなの。
「《浄光照射》!」
真っ直ぐに光がザッカーリャに向かって走る。見た目はウルト◯マンナントカのナンタラ光線みたいだ。
ナンタラ光線と違うのは浄化の光なので、殺傷力がない。念を込めている間は光を照射し続けるんだけど、ザッカーリャがのたうっているので、照準がずれる。それに飛んでくる岩を弾く《盾》を唱えると、浄光が途切れてしまうのよ。
何度も《浄光照射》と《盾》を繰り返す。
マズい。時間がかかるとシーリアの魔力がなくなる。風の魔術で岩を防いでいる彼女は、魔力が切れたらアウトだわ。
「あ⋯⋯あ⋯⋯あぁ」
ザッカーリャの声が弱々しくなってきた。のたうつ尻尾も動きが鈍くなってきた。
やがて彼女の上半身がゆっくりと地に伏せた。
暴れ始めたときより、赤黒い斑らのシミが薄くなった気がする。気のせいかしら?
「⋯⋯あの方の匂いがする」
ザッカーリャがポツリと呟いて、再び上半身をもたげた。
「いままで、生臭いモヤの臭いしかしなかったのに」
瘴気って臭いがあるの? 蛇の嗅覚、半端ないわね。
ザッカーリャがゾリゾリと腹を擦りながら、滑るようにシーリアに向かって進んだ。シーリアは動かない。
慌てて私たちは四点結界を崩さないように、範囲を狭めて駆け寄った。
「お前からあの方の匂いがする」
ザッカーリャがヌッと胴体を伸ばしてシーリアの匂いを嗅いだ。美少女と美女が見つめ合っている。
「あなた様に逢いたいと、共に参りましたわ」
シーリアが懐からガラスの小瓶を取り出した。
「あの方は?」
「病に伏されて、ここまで登ることが叶いませんでした。あなた様のお出ましを、この下で待たれております」
小瓶をザッカーリャに握らせて、シーリアは下山を促した。
「わたくしは、ここを離れてもよいの?」
「神子さまは、新たな体を得て、あなた様をお待ちしているのです」
重ねて告げて、シーリアが立ち上がった。
ザッカーリャは美しい容貌に子どものような笑みを浮かべた。
「行きたい。あの方に逢うの⋯⋯。逢いたいの⋯⋯」
「タタン」
「はい、お嬢様」
タタンが進み出て、手を差し伸べた。貴婦人をエスコートする完璧な仕草で、ちょっとびっくりよ。
さすがシーリア、私にザッカーリャをエスコートさせる発想はなかったわよ。
こうして私たちは、ザッカーリャを三合目で待つミシェイルさまのもとへ連れ出すことに成功したのだった。
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