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課外学習終了?
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三人の冒険者崩れのならず者は、シーリアが風の檻に閉じ込めた。なにか細かく設定しながら聖句を唱えて調整している。時々メモをとったりして、こう言う人を秀才型の天才って言うんだわ。才能の上に胡座をかかないって立派。
檻の中から散々教育によくない卑猥な言葉で貶してくるので、こっそり《遮音》を施すと、檻の外にはなにも聞こえなくなった。ユンは意味がわからないのかキョトンとしてたけど、アラサーOL的には十五歳の女の子には聞かせたくなかったのよね。
檻の中では普通に声が響いてるんだろうから、ならず者は遮音には気づいていない。こっちからの声は聞こえるようにしてあるし。
それにしても困った。秒で片づいちゃって、なんの訓練にもならなかったわ。どうやってこのおっさんたちを運ぶかを考える方が大変ってどういうことよ。
「二手に分かれるのは得策じゃないですよね」
「先生たちを呼びに行く役と見張り役にわかれるの?」
「そこらへんも訓練かぁ。考えてなかったわ」
「詰め、甘かった。反省⋯⋯」
「このまま置いておいて、全員で安全地帯に戻るのは有りかなぁ?」
「森で迷って、この場に戻って来られなかったら、この人たち一生このままですよ」
ピタッ
タタンが困ったように言った言葉に合わせて、ならず者が檻の中で静止した。
「一生ってことはありませんわ。わたくしの檻ならせいぜい一ヶ月ですわよ」
それでも充分に餓死できる。
ならず者は目に見えてガタガタ震え始めた。
散々、新人を怖い目に合わせてたくせに、自分がそうなったらこんなに怯えるのね。
「日が天辺に昇るころに、一度戻る約束です」
「アリアンさんがミシェイル様と、お昼ごはん作ってくれてるんだっけ」
タタンが空を気にして言ったので、思い出した。待ってる間、ミシェイル様に炊き出し訓練してもらうんだった。訓練って言うより、食育とか調理実習とか微笑ましい雰囲気だったけど。
「約束破る? ⋯⋯これ、置いていく?」
ほんにゃりした口調でユンが言って、それを聞いた檻の中のならず者たちは口から泡を吹きそうになっている。涙と鼻水でグチャグチャな顔で平伏した。なに言ってるかは聞こえないけど。
風の檻だから見た目は透明で存在感がない。おっさんたちが森の中で子どもに泣きながら懇願すると言う、側から見たら気持ち悪いことこの上ない状況だった。
「出してあげる?」
「ダメですわ。この手の輩は何でもするとか、二度と悪さはしないとか言いますけど、解放された途端、反故にするんですのよ」
「確かに⋯⋯」
ダビ商会の荷は高級品が多いから、しょっちゅう襲われる。優秀な護衛隊に取り押さえられた輩が、だいたいそんな感じらしい。シーリアがうんざりしたように言ったら、タタンがしみじみうなずいた。
「このまま死なせたほうが、世の中のためですわ」
シーリア、お嬢様なのにエゲツないわね。⋯⋯お嬢様だからか。
「ここで情けをかけて、より多くの罪なき人が襲われることがあってはなりません」
大商会のお嬢様って言うより、公爵令嬢の思想だと思うわ、それ。
「シーリア・ダフ。間違ってはいませんが、被害者の所在を吐かせなければなりません」
「先生!」
ガサガサ繁みを掻き分ける音と共に、ザシャル先生がやって来た。一緒にアル従兄様と、ガウリーさんも居る。ならず者が従兄様を指差してなんか言ってる。おおかた『裏切り者』とか喚いてるんだろうなぁ。
何で場所が特定できたのかと不思議に思ったら「追尾の魔法です」とザシャル先生に、にっこり微笑まれた。⋯⋯勉強不足ですみません。
「シーリア・ダフ、美しい檻です。魔術師の塔の中級者のものより良い出来ですよ」
「ありがとうございます」
「ロージー・ローズ、面倒くさがりませんでしたか?」
こっそり《遮音》掛けたのばれちゃった? シーリアが檻を作ってるのに紛れて掛けたから、ならず者にはバレてないんだけど。
(解除を)
(はい)
こそっと言われて、こっちもこそっと返す。口の中でひっそり《解除》を唱えると、ならず者の怒声が響いた。
「お前らグルだったのか⁈」
アル従兄様とガウリーさんは顔を見合わせた。おっさんたちがチチェーノさんにちょっかい出さなきゃ、話をすることもなかったと思うわ。
「貴様らはウチのチチェに絡んだ。そこのお嬢さんたちにも絡んだ。共通の敵がいたら組むだろ?」
確かに。
「だいたい、狙った相手が悪い」
アル従兄様が勿体ぶった。
「帝都の白鷹騎士団を知っているか?」
「⋯⋯あ、ああ」
「ロージーは白鷹騎士団副団長の妹だよ。拐かしに成功してたら、地の果てまで追いかけて、いっそ殺してくれって言いたくなるような拷問されるんだろうなぁ」
⋯⋯アル従兄様、否定できないわ。三兄様なら、やる。
白楊騎士団の名前が効いたのか、大人の男性(明らかに手練れ)が現れたからか、ならず者はすっかり静かになったのだった。
檻の中から散々教育によくない卑猥な言葉で貶してくるので、こっそり《遮音》を施すと、檻の外にはなにも聞こえなくなった。ユンは意味がわからないのかキョトンとしてたけど、アラサーOL的には十五歳の女の子には聞かせたくなかったのよね。
檻の中では普通に声が響いてるんだろうから、ならず者は遮音には気づいていない。こっちからの声は聞こえるようにしてあるし。
それにしても困った。秒で片づいちゃって、なんの訓練にもならなかったわ。どうやってこのおっさんたちを運ぶかを考える方が大変ってどういうことよ。
「二手に分かれるのは得策じゃないですよね」
「先生たちを呼びに行く役と見張り役にわかれるの?」
「そこらへんも訓練かぁ。考えてなかったわ」
「詰め、甘かった。反省⋯⋯」
「このまま置いておいて、全員で安全地帯に戻るのは有りかなぁ?」
「森で迷って、この場に戻って来られなかったら、この人たち一生このままですよ」
ピタッ
タタンが困ったように言った言葉に合わせて、ならず者が檻の中で静止した。
「一生ってことはありませんわ。わたくしの檻ならせいぜい一ヶ月ですわよ」
それでも充分に餓死できる。
ならず者は目に見えてガタガタ震え始めた。
散々、新人を怖い目に合わせてたくせに、自分がそうなったらこんなに怯えるのね。
「日が天辺に昇るころに、一度戻る約束です」
「アリアンさんがミシェイル様と、お昼ごはん作ってくれてるんだっけ」
タタンが空を気にして言ったので、思い出した。待ってる間、ミシェイル様に炊き出し訓練してもらうんだった。訓練って言うより、食育とか調理実習とか微笑ましい雰囲気だったけど。
「約束破る? ⋯⋯これ、置いていく?」
ほんにゃりした口調でユンが言って、それを聞いた檻の中のならず者たちは口から泡を吹きそうになっている。涙と鼻水でグチャグチャな顔で平伏した。なに言ってるかは聞こえないけど。
風の檻だから見た目は透明で存在感がない。おっさんたちが森の中で子どもに泣きながら懇願すると言う、側から見たら気持ち悪いことこの上ない状況だった。
「出してあげる?」
「ダメですわ。この手の輩は何でもするとか、二度と悪さはしないとか言いますけど、解放された途端、反故にするんですのよ」
「確かに⋯⋯」
ダビ商会の荷は高級品が多いから、しょっちゅう襲われる。優秀な護衛隊に取り押さえられた輩が、だいたいそんな感じらしい。シーリアがうんざりしたように言ったら、タタンがしみじみうなずいた。
「このまま死なせたほうが、世の中のためですわ」
シーリア、お嬢様なのにエゲツないわね。⋯⋯お嬢様だからか。
「ここで情けをかけて、より多くの罪なき人が襲われることがあってはなりません」
大商会のお嬢様って言うより、公爵令嬢の思想だと思うわ、それ。
「シーリア・ダフ。間違ってはいませんが、被害者の所在を吐かせなければなりません」
「先生!」
ガサガサ繁みを掻き分ける音と共に、ザシャル先生がやって来た。一緒にアル従兄様と、ガウリーさんも居る。ならず者が従兄様を指差してなんか言ってる。おおかた『裏切り者』とか喚いてるんだろうなぁ。
何で場所が特定できたのかと不思議に思ったら「追尾の魔法です」とザシャル先生に、にっこり微笑まれた。⋯⋯勉強不足ですみません。
「シーリア・ダフ、美しい檻です。魔術師の塔の中級者のものより良い出来ですよ」
「ありがとうございます」
「ロージー・ローズ、面倒くさがりませんでしたか?」
こっそり《遮音》掛けたのばれちゃった? シーリアが檻を作ってるのに紛れて掛けたから、ならず者にはバレてないんだけど。
(解除を)
(はい)
こそっと言われて、こっちもこそっと返す。口の中でひっそり《解除》を唱えると、ならず者の怒声が響いた。
「お前らグルだったのか⁈」
アル従兄様とガウリーさんは顔を見合わせた。おっさんたちがチチェーノさんにちょっかい出さなきゃ、話をすることもなかったと思うわ。
「貴様らはウチのチチェに絡んだ。そこのお嬢さんたちにも絡んだ。共通の敵がいたら組むだろ?」
確かに。
「だいたい、狙った相手が悪い」
アル従兄様が勿体ぶった。
「帝都の白鷹騎士団を知っているか?」
「⋯⋯あ、ああ」
「ロージーは白鷹騎士団副団長の妹だよ。拐かしに成功してたら、地の果てまで追いかけて、いっそ殺してくれって言いたくなるような拷問されるんだろうなぁ」
⋯⋯アル従兄様、否定できないわ。三兄様なら、やる。
白楊騎士団の名前が効いたのか、大人の男性(明らかに手練れ)が現れたからか、ならず者はすっかり静かになったのだった。
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