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物騒な話は朝食と共に。
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「なあ、ザシャル。宝石姫たちの課外学習する?」
深夜、お酒の臭いをさせて帰って来たらしいアル従兄様と、寝ていたテントから這い出したザシャル先生が、なにやら相談を始めた。厚手の防水布とは言え壁よりよほど薄いテントに、防音の効果はない。
アル従兄様、また宝石姫って言った。私が寝てると思って気を抜いてるみたいね。
「おや、やっぱり黒でした?」
「三人娘は依頼者なのか冒険者なのか、かなり露骨に聞かれたよ。ミシェイル様とタタンはチャンスがあればってとこだな。あと、アンタにも興味があるみたいだ。アリアンの寝首を掻いて、分け前を山分けしようって持ちかけられたぜ」
アル従兄様がくつくつ笑った。あーあ、従兄弟会の中で、いちばん面倒な人を怒らせたっぽいよ。あの三人のならず者。
大兄様は指揮官タイプ、次兄様は参謀タイプ、三兄様は特攻タイプ、ほかの従兄たちもそれぞれ突出した何かを持っている。アル従兄様はオールラウンダーだ。
自分では器用貧乏とか言ってるけど、何にでも柔軟に対応できるから、領主に買われてヴィラード国に潜入して来たんだもの。その上、他のローゼウスの男に負けじと宝石姫檄ラヴだから、私の誘拐計画なんて持ちかけられて、黙っているはずなんかない。
「アリアン殿の寝首なんか掻いたら、騎士団から徹底した追尾が行われるでしょうに。知らないって幸せですねぇ」
アリアンさん白鷹騎士団の副団長さんだもんね。
「アンタは戦力に数えていないみたいだぜ」
「ふふっ。それはそれは。まぁ今回は学生たちに任せてみようと思いますので、戦力外通告は甘んじて受けましょうか」
旅の途中、早めに宿を取って、空いた時間で魔法や体術の訓練をしてきたんだけど、狩りより先に捕物デビューっすか。
「さて、テントの中で聞き耳を立てているお嬢さんたち。朝になったら説明してあげますから、今夜はお眠りなさい」
ばれてたぁ。
ユンとシーリアと顔を見合わせてから、クスクス笑う。ふたりも起きてたのね。
眠くなるまで三人でコソコソおしゃべりして、誰ともなく言葉が少なくなって、目が覚めたら朝だった。
世界が違っても、女の子が集まるとすることなは同じだった。他愛もないおしゃべりとクスクス笑い、そして美味しいものを食べること。
夜更かしした割には爽やかに目が覚めて、早速朝食の支度にかかる。馬車に積んだ保存庫(木箱の底板に《時間停止》って彫ってみた)からパンとチーズを取り出す。干し野菜を水から煮てスープを作る。本当はサラダも欲しいけど、私の裏技を使うには、安全地帯には他人が多すぎた。ならず者に見られても困るしね。
この世界、干し肉はあったんだけど、干し野菜ってなかったの。塩漬けはあるのにね。領地の炊き出し訓練の時、余ったキノコを干してたら驚かれた。
⋯⋯違うか。干してる時は驚かれなかったけど、水で戻して調理したら驚かれたんだった。枯れて萎びた野菜の成れの果てでなにしてるんだと思われていたもの。出汁が欲しかったのよ。
今じゃ干し野菜は冒険者の必需品なんですって。
女の子三人組で朝食を用意している間に男性陣はテントの撤収をしてくれた。食べながら、アル従兄様が昨日のならず者の話をし始めた。
アリアンさんを含めた大人三人は、行方不明の冒険者はならず者たちに拐かされていると考えているみたいだ。
「駆け出しの冒険者ばかりというのが気になるのですよ」
ザシャル先生が言った。
「同じ年頃の街の少年少女が行方不明になったら、大騒ぎです。しかし冒険者になる少年少女は孤児が食い扶持を探して登録することも多いのです。孤児院にいるうちなら施設から捜索願が出されるでしょうが、独立してますからね。しばらくは誰も気付きません」
孤児院から出たばかりなら、孤児院にいる子供と体格もさして変わらないだろうね。中学三年生と高校一年生が、社会的にはものすごく違うようでいて、どっちも十代半ばの子供に違いないという。
「先輩冒険者なら誘い出しやすいですしね。指導するフリして誘い出せばいい」
ゲスいなぁ。
「どうだ、宝⋯⋯ロージー、世界を救う前に、いっちょ拐かされた駆け出しの冒険者を救ってみないか?」
狩りよりハードルは高いけど、世界を救うよりは低い気がする。て言うか、宝石姫って言いかけたでしょ、アル従兄様。
「わたくしは受けて立ちますわ」
シーリアがツンと顎を上げた。弱きをほっとけないオカンな美少女は、当然のように言い放つ。その横でタタンがコクコクと頷いている。一蓮托生なのね。
「ユンも、やる」
キ・ハの一族は子どもを大切にする。その子どもを食い物にする輩は巫女姫として看過できないようだ。
「僕もやりたい⋯⋯でも、足手纏いなら控える」
小さな声でミシェイル様が申し入れた。
「足手纏いではありませんよ。ただ、今回は学生組の課外学習です。ミシェイル様はアリアン殿と待機していてくださいね」
ザシャル様が先生の顔で微笑んだ。
深夜、お酒の臭いをさせて帰って来たらしいアル従兄様と、寝ていたテントから這い出したザシャル先生が、なにやら相談を始めた。厚手の防水布とは言え壁よりよほど薄いテントに、防音の効果はない。
アル従兄様、また宝石姫って言った。私が寝てると思って気を抜いてるみたいね。
「おや、やっぱり黒でした?」
「三人娘は依頼者なのか冒険者なのか、かなり露骨に聞かれたよ。ミシェイル様とタタンはチャンスがあればってとこだな。あと、アンタにも興味があるみたいだ。アリアンの寝首を掻いて、分け前を山分けしようって持ちかけられたぜ」
アル従兄様がくつくつ笑った。あーあ、従兄弟会の中で、いちばん面倒な人を怒らせたっぽいよ。あの三人のならず者。
大兄様は指揮官タイプ、次兄様は参謀タイプ、三兄様は特攻タイプ、ほかの従兄たちもそれぞれ突出した何かを持っている。アル従兄様はオールラウンダーだ。
自分では器用貧乏とか言ってるけど、何にでも柔軟に対応できるから、領主に買われてヴィラード国に潜入して来たんだもの。その上、他のローゼウスの男に負けじと宝石姫檄ラヴだから、私の誘拐計画なんて持ちかけられて、黙っているはずなんかない。
「アリアン殿の寝首なんか掻いたら、騎士団から徹底した追尾が行われるでしょうに。知らないって幸せですねぇ」
アリアンさん白鷹騎士団の副団長さんだもんね。
「アンタは戦力に数えていないみたいだぜ」
「ふふっ。それはそれは。まぁ今回は学生たちに任せてみようと思いますので、戦力外通告は甘んじて受けましょうか」
旅の途中、早めに宿を取って、空いた時間で魔法や体術の訓練をしてきたんだけど、狩りより先に捕物デビューっすか。
「さて、テントの中で聞き耳を立てているお嬢さんたち。朝になったら説明してあげますから、今夜はお眠りなさい」
ばれてたぁ。
ユンとシーリアと顔を見合わせてから、クスクス笑う。ふたりも起きてたのね。
眠くなるまで三人でコソコソおしゃべりして、誰ともなく言葉が少なくなって、目が覚めたら朝だった。
世界が違っても、女の子が集まるとすることなは同じだった。他愛もないおしゃべりとクスクス笑い、そして美味しいものを食べること。
夜更かしした割には爽やかに目が覚めて、早速朝食の支度にかかる。馬車に積んだ保存庫(木箱の底板に《時間停止》って彫ってみた)からパンとチーズを取り出す。干し野菜を水から煮てスープを作る。本当はサラダも欲しいけど、私の裏技を使うには、安全地帯には他人が多すぎた。ならず者に見られても困るしね。
この世界、干し肉はあったんだけど、干し野菜ってなかったの。塩漬けはあるのにね。領地の炊き出し訓練の時、余ったキノコを干してたら驚かれた。
⋯⋯違うか。干してる時は驚かれなかったけど、水で戻して調理したら驚かれたんだった。枯れて萎びた野菜の成れの果てでなにしてるんだと思われていたもの。出汁が欲しかったのよ。
今じゃ干し野菜は冒険者の必需品なんですって。
女の子三人組で朝食を用意している間に男性陣はテントの撤収をしてくれた。食べながら、アル従兄様が昨日のならず者の話をし始めた。
アリアンさんを含めた大人三人は、行方不明の冒険者はならず者たちに拐かされていると考えているみたいだ。
「駆け出しの冒険者ばかりというのが気になるのですよ」
ザシャル先生が言った。
「同じ年頃の街の少年少女が行方不明になったら、大騒ぎです。しかし冒険者になる少年少女は孤児が食い扶持を探して登録することも多いのです。孤児院にいるうちなら施設から捜索願が出されるでしょうが、独立してますからね。しばらくは誰も気付きません」
孤児院から出たばかりなら、孤児院にいる子供と体格もさして変わらないだろうね。中学三年生と高校一年生が、社会的にはものすごく違うようでいて、どっちも十代半ばの子供に違いないという。
「先輩冒険者なら誘い出しやすいですしね。指導するフリして誘い出せばいい」
ゲスいなぁ。
「どうだ、宝⋯⋯ロージー、世界を救う前に、いっちょ拐かされた駆け出しの冒険者を救ってみないか?」
狩りよりハードルは高いけど、世界を救うよりは低い気がする。て言うか、宝石姫って言いかけたでしょ、アル従兄様。
「わたくしは受けて立ちますわ」
シーリアがツンと顎を上げた。弱きをほっとけないオカンな美少女は、当然のように言い放つ。その横でタタンがコクコクと頷いている。一蓮托生なのね。
「ユンも、やる」
キ・ハの一族は子どもを大切にする。その子どもを食い物にする輩は巫女姫として看過できないようだ。
「僕もやりたい⋯⋯でも、足手纏いなら控える」
小さな声でミシェイル様が申し入れた。
「足手纏いではありませんよ。ただ、今回は学生組の課外学習です。ミシェイル様はアリアン殿と待機していてくださいね」
ザシャル様が先生の顔で微笑んだ。
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