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トラブル発生‼︎
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辺境に向けて街道を進むうちに、民家は疎らになって、樹々に囲まれた田舎道⋯⋯と言うか、森の道に入った。街道だからちゃんと整備されていて、馬が足を取られることもない。山の中にどーんと道が開けてるって、初めて見るミシェイル様はとても不思議に思っているみたいだった。ユンも幌から顔を出してキョロキョロしている。
「ユンは帝都に出てくるときに、見たんじゃないの?」
「⋯⋯フェイに運んでもらった」
フェイ、誰だっけ⋯⋯あ、守護龍さんだ。バロライのキ・ハ家の人々は帝国貴族の自覚が薄いので、普通に乗合馬車を使うんだって。でも、ユンは巫女姫だもの。守護龍さんが大事な姫様を乗合馬車に乗せるわけないか。
「この街道も、かつての知識の宝珠が整備したと伝えられています。市街地を早馬が抜けると危険なので、敢えて森を切り開いて真っ直ぐな道を通したのだそうです。数キロメートル毎に安全地帯が設けられて、簡易の煮炊き場があるんですよ」
ザシャル先生のプチ講義。学院では出向の客員講師ってことだけど、教えたがりではあるのね。
領地から出てくるとき、思ったのよね。距離の単位が地球的だし、まるで道の駅のごとく、絶妙なタイミングで設置された安全地帯。森の中を突き抜ける整備された街道は、高速道路を思い出させたもの。
安全性と利便性を突き詰めたら、最終的には同じ考えになるかと思ってたけど、前世持ちの発想なら納得だわ。
「今夜は安全地帯で休みます。ローゼウス領での夜営訓練の前に、予行演習をしておきましょう」
森を切り開いたキャンプ場のような場所があって、なんと井戸まで掘ってあった。私たちの他にも冒険者のパーティーがいて、ちょっガラがよくない感じがした。居合わせた商隊が簡易の露店を開いてたんだけど、難癖つけて二束三文で買い取ろうとしている。
「よくあることですが、見ていて気持ちの良いものではありませんわ」
シーリアがツンとして言った。
「⋯⋯多分護衛はいますけど、食料の調達にでも行っているようですわね」
商隊のベースには石で組んだ竈門があって、既に火が熾してあった。商人さんはひょろっとしていて、あの竈門に使っている石を抱えるのは難しそうだわ。だから、誰か連れがいるんだと思う。
ミシェイル様がなんどか口を開いては閉じた。助けてあげたいけど、自分は命令しかできないし、みたいな葛藤が見て取れる。実際剣術も体術も、子どもの習い事レベルだしね。アリアンさんがその様子を自愛の目で見ている。
「お嬢様、あのならず者、連れの方が戻ってくる前に終わらせたいようですよ」
タタンが冷静に言った。あら、いつものオドオドはどこに行ったのかしら?
「先生、時間稼ぎに行ってきても良いですか? このままでは、身ぐるみ剥がされます」
「いいでしょう。アルフ、念のために一緒に行ってください」
「宝石姫にカッコいいところ見せたいからいいけど、俺まで行ったら騒ぎが大きくならない?」
ザシャル先生にふられたアル従兄様が、腰に下げた剣をチャリチャリいわせながら言った。
「アル従兄様、ロージーって呼ばなきゃ領地に置いていきます。ご一緒してくださるのは、セス従兄様でもアッシュ従兄様でも構いませんのよ」
「さーせんしたッ」
アル従兄様は冒険者として一仕事終えた後から、言葉遣いが荒くなって、叔母様が嘆いていたのよね。私的には話しやすくて、良い良い、な感じなんだけど。
そんなどうでもいいやりとりをしつつ、タタンは商品を選ぶフリをして露天に近づいて行った。
「すみません、携帯コンロはありますか? なければ修理キットでもいいんですけど⋯⋯」
「ああん?」
いや冒険者、アンタたちに声は掛けてない。
タタンはちらっとこっちを見て、さも自分は裕福なパーティーの下男です、みたいな顔をしてならず者に向き直った。
「お邪魔してすみません。持ち込んだコンロの調子が悪くて、食事の支度ができなくて困っているんです」
三人いたならず者が、一斉にこっちを見る。ニヤリとイヤな笑い方をした。小柄なおっとり美少女と背の高いゴージャス美少女を発見したわね。ちなみにザシャル先生も眠たげな目元がグッとくる美人だと思う。男の人だけど。⋯⋯ごめん、アラサーO Lが前面に出てきちゃったわ。
「おう、早くしないか」
アル従兄様が横柄に言った。小芝居始めたわね。あの手の族輩には、仲間意識を持たせると話がしやすい。自分たちが弱者を虐げても平気だから、他の人もそうだと思っている。
タタンを虐げ顎で使っている主人格だと思い込んだんだろうな。
「兄さん、アンタのパーティー、坊ちゃんのお守りかい?」
ならず者はミシェイル様を顎で示した。騎士さん、後でやっちゃっていいと思うよ‼︎
「ユンは帝都に出てくるときに、見たんじゃないの?」
「⋯⋯フェイに運んでもらった」
フェイ、誰だっけ⋯⋯あ、守護龍さんだ。バロライのキ・ハ家の人々は帝国貴族の自覚が薄いので、普通に乗合馬車を使うんだって。でも、ユンは巫女姫だもの。守護龍さんが大事な姫様を乗合馬車に乗せるわけないか。
「この街道も、かつての知識の宝珠が整備したと伝えられています。市街地を早馬が抜けると危険なので、敢えて森を切り開いて真っ直ぐな道を通したのだそうです。数キロメートル毎に安全地帯が設けられて、簡易の煮炊き場があるんですよ」
ザシャル先生のプチ講義。学院では出向の客員講師ってことだけど、教えたがりではあるのね。
領地から出てくるとき、思ったのよね。距離の単位が地球的だし、まるで道の駅のごとく、絶妙なタイミングで設置された安全地帯。森の中を突き抜ける整備された街道は、高速道路を思い出させたもの。
安全性と利便性を突き詰めたら、最終的には同じ考えになるかと思ってたけど、前世持ちの発想なら納得だわ。
「今夜は安全地帯で休みます。ローゼウス領での夜営訓練の前に、予行演習をしておきましょう」
森を切り開いたキャンプ場のような場所があって、なんと井戸まで掘ってあった。私たちの他にも冒険者のパーティーがいて、ちょっガラがよくない感じがした。居合わせた商隊が簡易の露店を開いてたんだけど、難癖つけて二束三文で買い取ろうとしている。
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「⋯⋯多分護衛はいますけど、食料の調達にでも行っているようですわね」
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ミシェイル様がなんどか口を開いては閉じた。助けてあげたいけど、自分は命令しかできないし、みたいな葛藤が見て取れる。実際剣術も体術も、子どもの習い事レベルだしね。アリアンさんがその様子を自愛の目で見ている。
「お嬢様、あのならず者、連れの方が戻ってくる前に終わらせたいようですよ」
タタンが冷静に言った。あら、いつものオドオドはどこに行ったのかしら?
「先生、時間稼ぎに行ってきても良いですか? このままでは、身ぐるみ剥がされます」
「いいでしょう。アルフ、念のために一緒に行ってください」
「宝石姫にカッコいいところ見せたいからいいけど、俺まで行ったら騒ぎが大きくならない?」
ザシャル先生にふられたアル従兄様が、腰に下げた剣をチャリチャリいわせながら言った。
「アル従兄様、ロージーって呼ばなきゃ領地に置いていきます。ご一緒してくださるのは、セス従兄様でもアッシュ従兄様でも構いませんのよ」
「さーせんしたッ」
アル従兄様は冒険者として一仕事終えた後から、言葉遣いが荒くなって、叔母様が嘆いていたのよね。私的には話しやすくて、良い良い、な感じなんだけど。
そんなどうでもいいやりとりをしつつ、タタンは商品を選ぶフリをして露天に近づいて行った。
「すみません、携帯コンロはありますか? なければ修理キットでもいいんですけど⋯⋯」
「ああん?」
いや冒険者、アンタたちに声は掛けてない。
タタンはちらっとこっちを見て、さも自分は裕福なパーティーの下男です、みたいな顔をしてならず者に向き直った。
「お邪魔してすみません。持ち込んだコンロの調子が悪くて、食事の支度ができなくて困っているんです」
三人いたならず者が、一斉にこっちを見る。ニヤリとイヤな笑い方をした。小柄なおっとり美少女と背の高いゴージャス美少女を発見したわね。ちなみにザシャル先生も眠たげな目元がグッとくる美人だと思う。男の人だけど。⋯⋯ごめん、アラサーO Lが前面に出てきちゃったわ。
「おう、早くしないか」
アル従兄様が横柄に言った。小芝居始めたわね。あの手の族輩には、仲間意識を持たせると話がしやすい。自分たちが弱者を虐げても平気だから、他の人もそうだと思っている。
タタンを虐げ顎で使っている主人格だと思い込んだんだろうな。
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