少女魔法士は薔薇の宝石。

織緒こん

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皇子様の決意。

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 お供をすると決めたとは言え、最後の最後、ザッカーリャ山に登るまでは、少年少女だけで行くわけにはいかない。そこら辺は、苦虫を噛み潰したような表情カオをした父様と、鉛を飲み込んだような表情カオをしたフィッツヒュー団長が宰相に詰め寄っていた。

「ザッカーリャ山のある東の果てへ行くには、ヴィラード国を通らなければならないじゃないか」

「そうであるな」

「ならば、騎士団我々にも護衛の任をお与えください」

「それはならぬ」

「なぜ⁈」

「正面から騎士団が行って、ヴィラード国に入国できるわけなかろう」

 仲悪いもんねー。

 父様がギリギリと奥歯を噛み締めている。領地に帰った上の兄様たちも、今頃ヴィラード国との国境の見回りとかしてるでしょうしね。フィッツヒュー団長も騎士団の同道を進言して、あっさり却下されている。

「宰相閣下」

 おもむろにザシャル先生が口を開いた。

「閣下は第三皇子殿下がザッカーリャ山に赴かれるのを反対しておられるのですね」

「むむ」

「騎士団もつけず、学院生だけで王子殿下の供をするとなれば、危険度が上がります。殿下が恐れて、やはり辞めたと言い出されるのを待っておられるようにお見受けします」

「むう」

「そうなのか?」

 宰相が唸ってミシェイル殿下が、ハッとして顔を上げた。噛んでいた唇が赤くなっている。

 宰相はバツの悪そうな表情カオをして、髭を撫でつけた。

「かの地の地震、カララーシャ帝国には一切関係ございません」

「見知らぬ民はどうでもいいと?」

「そうではありません。ザッカーリャ山に行くまでにヴィラード国を抜けねばならぬことは、充分ご承知でしょう。ヴィラード国は我が帝国の領土を常々狙っております。そんな国が帝国の騎士団をただで通してくれるはずもないでしょう。優先順位の問題です。見知らぬかの地の人々よりも、帝国の騎士の命を惜しむのです」

 やだ、このおっさんかっこいい。

「そしてそこの彼らも、学院に入学したばかりの若い命です。我ら大人は、彼らを守らねばなりません。殿下は私があなた様と彼らを守るために、騎士団を編成すると思うておられましたか? 私はあなた様の頼みを受けて、彼らに任務を与えました。ザッカーリャ山の邪王の祠に行けるのは、成人前の若者のみ。最初の神子が子どもであったためですね」

 ザッカーリャは無垢な子供しか信じない。ミシェイル殿下がつぶやいた。

「かの祠が大人でも近づけるのだとしたら、数人の騎士なら行かせたやもしれません。ですが、大隊を組むことはいたしません。本心では、思いとどまっていただきたい。ですが既に陛下がお許しになっておられる。話していただけていないなにかがあるのではございませんか?」

 ⋯⋯そう言うのは、私たちが待ちぼうけしてた二十日間のうちにやっておいてもらえませんかね。

 ミシェイル殿下は俯いて、膝に乗せた拳を握り締めていた。あら、手袋?

「この鱗が現れてから⋯⋯」

 そっと左手の手袋を外すと、手の甲を覆うパールホワイトの鱗がキラキラと光っていた。一枚ずつが滑らかでとても小さい。蛇の鱗だわ。

「神子の記憶が蘇って、時々、頭が割れるように痛むのだ」

 あら、過去世持ちってこと? 皇子殿下も知識の宝珠? 同じ世界なら違うのかしら。

「最初の神子?」

「多分、七人くらいいる⋯⋯」

 うわぁ、それ、頭がパンクするやつだ!

人間ひとの黒い感情⋯⋯日照りが続く、長雨が続く、戦が始まる、果ては自分が転んだという小さなことまで、悪いことは全部邪王のせい。神子は皆、人間ひとの黒い感情に染まる女神を宥め、鎮め、眠りに誘った。女神が眠りにつくと、神子はその地で眠りの番をして、命を全うした後は自らも土に還る」

 殿下が唇を舐めた。たくさん喋って乾いたんだろうか。

「僕の中で神子たちの声が響く。今回で最期。眠らせずに女神を天に還さなければ、次はもう、眠らせることは叶わない⋯⋯」

 叶わないって、女神が眠らなかったら禿山だらけになるってこと? 人間を喰ったって言うのは死なせてしまったことの比喩的表現なの? それとも、ほんとに頭からバリバリいっちゃうってこと?

「⋯⋯それ、既に神子だけの問題じゃなくて、世界的にまずいやつじゃないですかね?」

 フィッツヒュー団長がかすれた声で言った。

 

 

 
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