少女魔法士は薔薇の宝石。

織緒こん

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振り幅が大きすぎる。

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 ほったらかしは二十日間ほど続いた。

 その間にタタンの剣に〈焔〉の文字を彫金してみたら、偉いもんが出来上がってしまった。持ち主をドン引きさせちゃったんだけど、頑張って使いこなしてくれたまえ!

 二十一日目の朝、隔離教室に学院長がやって来た。さんざっぱらほったらかしといて、今更なんの用かしら? うんざりした表情カオのザシャル先生が、その後ろからついてくる。

 学院長がウキウキしながら口を開いた。

「皇帝陛下より本日の午後、伺候するようにとのお達しがあった。光栄に思うが良い」

 は?

 なんですのん?

「陛下から? 本日の午後?」

 そんな馬鹿な話しがあるわけない。

「学院長、質問をしてもよろしいですか?」

 シーリアが地の底を這うような声で言った、学院長はそれに気づかないのか、満面の笑みを湛えて鷹揚に頷いた。

「陛下からのお達しは、今朝届いたのですか?」

 そんなわけないよね。シーリアもわかってて聞いてるんでしょうね。畏れ多くも陛下からのご使者をお迎えしたばかりで、学院長がこんなに悠然と構えているはずがないもの。

「いや、十日前になる。驚かそうと思って、内密にしておったのだ」

「はぁ⁈」

 あんたバカァ⁈

 ⋯⋯逃げちゃいけない某有名アニメの美少女みたいなことを思ってしまった。

 いやいやいや、まじあんたバカだから。

 礼節を守って頭を下げていたシーリアが、がっぷり立ち上がった。

「その十日の期間をなんと心得なさいますか! キ・ハ公爵令嬢並びにローゼウス辺境伯爵令嬢に恥をかかせるおつもりですか⁈」

 まったくよ!

 城で働く文官を呼びつけるのと訳が違う。学院には制服なんてものはないから、各々正装しなきゃなんないじゃない。女の身支度舐めるなよ!

「ザシャル先生、迎えはあるのですか?」

「午後の二時に学院の正門に馬車が来ると⋯⋯そうですね、学院長」

「あ、ああ」

 シーリアとザシャル先生の冷たい視線に晒されて、学院長は理解できない様子で目を白黒させている。

「学院長」

「なんだね?」

 教えてあげる義理はないけど、嫌味のひとつも言いたいから言っちゃうわ。

「学院長はわたくしどもに、サイズの合わぬドレスを着て、陛下に謁見せよと申されますか? それとも、魔法の訓練のために汚れてほつれたこの姿で、迎えの馬車を待てと? 十日の猶予はドレスや宝石を誂える期間ですのよ」

 学院長はそんなこと思いもよらなかったとばかりに瞠目した。アンタも貴族でしょ、奥様のドレスどうしてたのよ。

 さて、こうしちゃいられないわ。

「シーリアは商会になにかあるわよね?」

「もちろん」

「ユンは?」

「一族の正装、念のため⋯⋯」

 よし、あるわね。

「ロージーは?」

「この間、兄様たちから一式プレゼントするって手紙が来たの。家に届いてると思う」

 妹馬鹿に感謝しなきゃ。ウザいなんて思ってごめんね。

「⋯⋯僕、なにもありません」

 あー、タタン平民の子どもだった。

「大丈夫、うちのタウンハウスに兄様の子どもの頃のがあると思う。シーリア、タタンはうちで着替えさせるね」

「お願いするわ」

「ありがとうございますぅ」

 なんかもう、学院長はまるっと無視! 悪い人じゃないと思うんだけど、サプライズ好きって時と場合によっては、非常に迷惑だわ。

「では商会の馬車で順番に送ります」

「いや、急ぐのであろう。我が姫は我が連れてゆく」

 シーリアが親切に言ってくれて助かった。ユンは守護龍さんが人外の力で運んでくれるみたい。

「纏まりましたか? では馬車の来る十分前には誓文にいるように。その間、学院長とはじっくりお話ししておきますから」

「「「「はい」」」」

 私たちは返事をして、隔離教室を後にした。

 タタンを連れ帰ったらまた父様が大騒ぎをして、時間をロスしそうになったけど、陛下に今から謁見すると伝えたら、何かを察してくれたみたいだ。大兄様と次兄様はすでに領地に帰っていて、煩いのがひとりだったのも助かった。

 チャーリー爺やにタタンをドナドナして、私はカロルさんに全てお任せした。

「いくらなんでも、お時間が足りなさすぎます」

「ごめん、サプライズ好きなおっさんのせいで、私たちもさっき聞いたの」

「⋯⋯殺しに行って良いですか?」

 カロルさんだけじゃなく、他のメイドさんからも殺意が吹き出している。ドレスは女の武装ですもの。それを蔑ろにされては怒りも湧く。

 それにしても、ほったらかしからの爆弾発言。振り幅が、大きすぎだっつうの‼︎



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