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国家機密は薔薇の香り。
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「さて、ロージー・ローズ。あなたはこの文字を書くのに魔力を使いましたか?」
「いいえ」
なんの念も込めてません。久々の日本の文字だから、丁寧を心がけただけです。
「ローゼウス卿、本日伺ったのは、騎士団からの申し出を伝えるためです。その任はあなたの三男殿が担って来ていますが、知識の宝珠について説明するために、私が同行しました」
「うむぅ」
ザシャル先生の声がおだやかに響いた。父様が低く唸って、兄様たちの顔色はいささか悪い。
「白鷹騎士団のフィッツヒュー団長から、宝石姫を白鷹騎士団に迎えたいとの打診を預かってきた。父上が承諾すればローゼウス家の薔薇の宝珠は、学院に籍を置いたまま、騎士団預かりになる」
三兄様が鉛を飲んだような口調で言って、ウチの家族は唇を噛み締めた。
え、そんな大ごとなの?
ちょっと火柱立てただけじゃん。そりゃ魔術とは系統が違うから、学院では実習できないって話だけどさ。ユン⋯⋯て言うか、守護龍さんのついでみたいな感じかと思ってた。
「ロージー・ローズ。あなたは今この瞬間、国家機密になりましたよ」
「え、嘘」
なんで?
「ローゼウス卿は、文字に魔力を流すだけで火をつけましたね」
青白くて、キレイな色の火だったよ。
「魔力の消費もほとんど無いと」
燃費が良くていいんじゃない?
「つまりですね、あなたが聖句を書いた紙を持っていれば、小さな子供でも攻撃的な魔術が使えてしまうんですよ」
え?
「例えば帝国と仲の悪い、東のヴィラード国にあなたが攫われたら、延々攻撃魔術の聖句を紙に書かされ続けるでしょうね」
は?
なんですと⁈
「そして兵士に持たせるでしょう」
オーマイガッ‼︎
そりゃ、国家機密になるさ‼︎
「我が領地は東の辺境だ。愛しい娘を領地に返すわけにはいかぬな」
父様が拳を強く握っている。ブルブルと震えていて、その強さが傍目にもわかった。ローゼウス辺境伯爵領は、その爵位が示す通り帝国の端っこにある。
東西南の辺境は武門の一族が辺境伯爵の位を賜って治めている。他の領地では許されない、私設の兵団を持つことが許されているのは、常に隣国と緊張関係にあるからなのよ。
ちなみに北の辺境は辺境伯爵を置かず、バロライの一族に自治を任せている。
北はさておき、東を預かる父様は親馬鹿を隠せば、帝国にこの人ありと言われた武の守護神である。東のヴィラード国はなにかと帝国にちょっかいをかけてくるので、父様は帝都に来ることはあまりない。
三兄様が帝都の騎士団にいるのは父様の代理と言って良い。父様と継嗣の大兄様、頭脳担当の次兄様はローゼウス辺境伯爵領でヴィラード国を見張っていなければならないからだ。
全員が帝都にいる今は、従兄弟や叔父様たちが張り切っていると思われる。
そして帝都よりもヴィラード国に近いと言うだけで、私に何かあってはと、父様たちの不安は増すのだろう。
「父様たちが護ってくださるから、怖くないわ」
しばらく帰るつもりはないけど、もしものときは信じてるもの。
なにしろローゼウスの男連中は、数代ぶりに生まれた直系の女の子の私を宝石姫と呼び、私を生んだ母様を宝石を生みし女神と讃えている。領地にいて私と母様に危害が及ぶのは、ローゼウスが滅ぶときだと思っている。
「明日、フィッツヒューに会いに行こう」
父様が物々しく言った。え、団長さん呼び捨てなの⁈
「今日の明日だが、私の面会を断わる彼奴ではないわ」
「わかりました、団長に伝えておきます。詳しい時間などは、馬を出します」
「私たちも同行は可能ですか?」
父様と三兄様に、次兄様が身を乗り出すようにして言った。質問のようでいて、行く気満々でしょうに。
「宝石姫は寮を引き払うことになるのだろう? ならば今夜はうちにいればいい」
大兄様は勿体ぶって言うけど、どうせこのまま実家住まいさせる気なんだわ。
「いえ、ロージー・ローズは寮に連れて帰ります。外泊などいつもと違う行動をして、目をつけられても困りますから」
「むぅ」
ザシャル先生の正論に大兄様は撃沈した。私を前にしたときの兄様を簡単にあしらう人、母様とスーパーメイドなカロルさん、家宰のチャーリー爺や以外に初めて見たわ!
こうしてザシャル先生の家庭訪問は終了し、私は寮の自室に無事帰宅できたのだった。
「いいえ」
なんの念も込めてません。久々の日本の文字だから、丁寧を心がけただけです。
「ローゼウス卿、本日伺ったのは、騎士団からの申し出を伝えるためです。その任はあなたの三男殿が担って来ていますが、知識の宝珠について説明するために、私が同行しました」
「うむぅ」
ザシャル先生の声がおだやかに響いた。父様が低く唸って、兄様たちの顔色はいささか悪い。
「白鷹騎士団のフィッツヒュー団長から、宝石姫を白鷹騎士団に迎えたいとの打診を預かってきた。父上が承諾すればローゼウス家の薔薇の宝珠は、学院に籍を置いたまま、騎士団預かりになる」
三兄様が鉛を飲んだような口調で言って、ウチの家族は唇を噛み締めた。
え、そんな大ごとなの?
ちょっと火柱立てただけじゃん。そりゃ魔術とは系統が違うから、学院では実習できないって話だけどさ。ユン⋯⋯て言うか、守護龍さんのついでみたいな感じかと思ってた。
「ロージー・ローズ。あなたは今この瞬間、国家機密になりましたよ」
「え、嘘」
なんで?
「ローゼウス卿は、文字に魔力を流すだけで火をつけましたね」
青白くて、キレイな色の火だったよ。
「魔力の消費もほとんど無いと」
燃費が良くていいんじゃない?
「つまりですね、あなたが聖句を書いた紙を持っていれば、小さな子供でも攻撃的な魔術が使えてしまうんですよ」
え?
「例えば帝国と仲の悪い、東のヴィラード国にあなたが攫われたら、延々攻撃魔術の聖句を紙に書かされ続けるでしょうね」
は?
なんですと⁈
「そして兵士に持たせるでしょう」
オーマイガッ‼︎
そりゃ、国家機密になるさ‼︎
「我が領地は東の辺境だ。愛しい娘を領地に返すわけにはいかぬな」
父様が拳を強く握っている。ブルブルと震えていて、その強さが傍目にもわかった。ローゼウス辺境伯爵領は、その爵位が示す通り帝国の端っこにある。
東西南の辺境は武門の一族が辺境伯爵の位を賜って治めている。他の領地では許されない、私設の兵団を持つことが許されているのは、常に隣国と緊張関係にあるからなのよ。
ちなみに北の辺境は辺境伯爵を置かず、バロライの一族に自治を任せている。
北はさておき、東を預かる父様は親馬鹿を隠せば、帝国にこの人ありと言われた武の守護神である。東のヴィラード国はなにかと帝国にちょっかいをかけてくるので、父様は帝都に来ることはあまりない。
三兄様が帝都の騎士団にいるのは父様の代理と言って良い。父様と継嗣の大兄様、頭脳担当の次兄様はローゼウス辺境伯爵領でヴィラード国を見張っていなければならないからだ。
全員が帝都にいる今は、従兄弟や叔父様たちが張り切っていると思われる。
そして帝都よりもヴィラード国に近いと言うだけで、私に何かあってはと、父様たちの不安は増すのだろう。
「父様たちが護ってくださるから、怖くないわ」
しばらく帰るつもりはないけど、もしものときは信じてるもの。
なにしろローゼウスの男連中は、数代ぶりに生まれた直系の女の子の私を宝石姫と呼び、私を生んだ母様を宝石を生みし女神と讃えている。領地にいて私と母様に危害が及ぶのは、ローゼウスが滅ぶときだと思っている。
「明日、フィッツヒューに会いに行こう」
父様が物々しく言った。え、団長さん呼び捨てなの⁈
「今日の明日だが、私の面会を断わる彼奴ではないわ」
「わかりました、団長に伝えておきます。詳しい時間などは、馬を出します」
「私たちも同行は可能ですか?」
父様と三兄様に、次兄様が身を乗り出すようにして言った。質問のようでいて、行く気満々でしょうに。
「宝石姫は寮を引き払うことになるのだろう? ならば今夜はうちにいればいい」
大兄様は勿体ぶって言うけど、どうせこのまま実家住まいさせる気なんだわ。
「いえ、ロージー・ローズは寮に連れて帰ります。外泊などいつもと違う行動をして、目をつけられても困りますから」
「むぅ」
ザシャル先生の正論に大兄様は撃沈した。私を前にしたときの兄様を簡単にあしらう人、母様とスーパーメイドなカロルさん、家宰のチャーリー爺や以外に初めて見たわ!
こうしてザシャル先生の家庭訪問は終了し、私は寮の自室に無事帰宅できたのだった。
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