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なぜここに⋯⋯!
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「愛しい薔薇の宝石、こんなところで会えるなんて! むさ苦しい騎士に囲まれての再会だなんて、喜ぶべきか悩んでしまうよ! なんだいそのくたびれた衣装は。せっかくの帝都だ。ドレスメーカーに買い物に行こう!」
三兄様、なんでこんなとこにいるんですか? 騎士でしたね、ここに駐屯してるんですか?
わたしが領地を出るときは、休暇で戻っていた彼は、きちんと職場に戻っていたらしい。ここがそうとは知らなかったけど。
「なんですの? この無駄に男前な騎士は?」
わたしの三番目の兄です。
シーリアが引き気味に言いながらこっちを見ている。
「金髪に緑の瞳⋯⋯ご兄弟?」
わかっているなら聞かないで。
騎士団の演習施設の庭でわちゃわちゃしてたら、騎士団の偉い人が使いをよこしてきて、火柱の主と守護龍にお呼びがかかった。
火柱の主はもちろん隠れようがなく、守護龍の召喚主のユンも行かなきゃならない。ザシャル先生はしばし思案して、シーリアとタタンも一緒に連れて行くと返事をした。他の学生は、引率の二名に任せて学院に帰らせる。
室内訓練所みたいなところに案内されて、しばし待つと、なんか偉そげな人が若い騎士をふたり連れてやってきた。
「宝石姫ぇぇえぇぇえッ⁈」
広い訓練所に響き渡る、三兄様の声。守護龍さんはユンを自分の後ろに庇い、タタンが腰を落として剣の柄に手をかけた。シーリアは驚きもせず、奇声を上げた男に胡乱げな眼差しを向けていた。ザシャル先生? 眠たげな眼差しで一瞥くれただけよ。
三兄様は上官(多分)をほったらかして私の元に駆け寄ると、むぎゅうっと抱きしめてきた。グエっ。
嫌がって逃げると長くなるので、三兄様が落ち着くのを待つ。
そして彼は私にしがみついたまま、同僚の騎士と私の鍛練着をディスり、お買い物に誘っているのである。
「さあ宝石姫、君はなんでも似合うけど、薔薇色のドレスなんてどうだい? 瞳の色に合わせて緑もいいなぁ。あまり濃い色だと大人っぽすぎるから、爽やかなミントグリーンにしようか」
「三兄様、私、お仕事を放り出すような責任感のない方、嫌いです」
ガーン‼︎
漫画だったら白目で背景はベタフラね。三兄様は大袈裟にのけぞって私から離れた。
「先生、騎士様、兄が失礼いたしました。郷里を離れて以来の思いがけない再会で、気持ちが昂ってしまったようです」
と言っても、たかが一ヶ月ぶりだけど。
「ローゼウス家の掌中の珠が、火柱を立てた魔術師とはね」
三兄様の上司っぽいイケオジ騎士さんが、こちらをマジマジと見た。
「掌中の珠?」
聞き捨てならない単語が混じったわ。
「いや、うちの部隊の名物なんだ。ローゼウス一等騎士の妹自慢。可愛くて、美しくて、天使の微笑みの薔薇の宝石姫。そんなに褒めるなら会わせろと言っても、一生領地から出さない、嫁にもやらぬと言い続けるから、最近では脳内妹説まで出てたんだ」
脳内妹。⋯⋯エア妹ですか?
「無駄な男前ではなくて、残念な男前でしたのね」
シーリアの視線が痛い。すみませんね、その残念な男前のせいで待ちぼうけ食らわせて。先生や守護龍さんなんか、立たせておいていい存在じゃなさそうなんだけど。
見れば守護龍さんは特に不機嫌な様子もなく、ユンにイチャイチャしている。ユンが大型犬にじゃれられる飼い主のようだわ。
「兄妹ならば仕方のないことかもしれませんが、職務中の騎士殿が我が学院の学生に抱きつくのはよろしくありませんね」
「耳に痛いことだ。大変申し訳ない。ローゼウス一等騎士の妹御がいるとは、露ほども思わず⋯⋯」
ごめんなさい! うちの馬鹿三兄様のせいで、学院側と騎士団の偉い人同士がしなくても良い謝罪会を始めている!
三兄様は白目から復活してイケメンに戻っていたけど、チラチラと私を気にして落ち着かない様子だ。んもう、私より十歳も年上なのに、なにやってるの!
「お呼びだての目的には、そのローゼウス嬢が入っているのでは?」
「ローゼウス嬢というより、火柱を立てた人物ですな。そして、空から現れた漆黒の龍。人に変化するなど、聞いたこともない」
話が本題にたどり着いたわ。
騎士様の言うには、毎年この時期には新入生に庭を貸しているが、火柱が立ったり上級の召喚術を使ったりできる学生は見たことがないらしい。万が一、暴走させるような学院生がいるわけないとは思いつつ、いわば念のための措置だったわけだ。
それが、火柱は立つは空から龍が降ってくるは、前代未聞の出来事が起こったらしい。
私はともかく、ユンは事前申告可だったんじゃ⋯⋯?
三兄様、なんでこんなとこにいるんですか? 騎士でしたね、ここに駐屯してるんですか?
わたしが領地を出るときは、休暇で戻っていた彼は、きちんと職場に戻っていたらしい。ここがそうとは知らなかったけど。
「なんですの? この無駄に男前な騎士は?」
わたしの三番目の兄です。
シーリアが引き気味に言いながらこっちを見ている。
「金髪に緑の瞳⋯⋯ご兄弟?」
わかっているなら聞かないで。
騎士団の演習施設の庭でわちゃわちゃしてたら、騎士団の偉い人が使いをよこしてきて、火柱の主と守護龍にお呼びがかかった。
火柱の主はもちろん隠れようがなく、守護龍の召喚主のユンも行かなきゃならない。ザシャル先生はしばし思案して、シーリアとタタンも一緒に連れて行くと返事をした。他の学生は、引率の二名に任せて学院に帰らせる。
室内訓練所みたいなところに案内されて、しばし待つと、なんか偉そげな人が若い騎士をふたり連れてやってきた。
「宝石姫ぇぇえぇぇえッ⁈」
広い訓練所に響き渡る、三兄様の声。守護龍さんはユンを自分の後ろに庇い、タタンが腰を落として剣の柄に手をかけた。シーリアは驚きもせず、奇声を上げた男に胡乱げな眼差しを向けていた。ザシャル先生? 眠たげな眼差しで一瞥くれただけよ。
三兄様は上官(多分)をほったらかして私の元に駆け寄ると、むぎゅうっと抱きしめてきた。グエっ。
嫌がって逃げると長くなるので、三兄様が落ち着くのを待つ。
そして彼は私にしがみついたまま、同僚の騎士と私の鍛練着をディスり、お買い物に誘っているのである。
「さあ宝石姫、君はなんでも似合うけど、薔薇色のドレスなんてどうだい? 瞳の色に合わせて緑もいいなぁ。あまり濃い色だと大人っぽすぎるから、爽やかなミントグリーンにしようか」
「三兄様、私、お仕事を放り出すような責任感のない方、嫌いです」
ガーン‼︎
漫画だったら白目で背景はベタフラね。三兄様は大袈裟にのけぞって私から離れた。
「先生、騎士様、兄が失礼いたしました。郷里を離れて以来の思いがけない再会で、気持ちが昂ってしまったようです」
と言っても、たかが一ヶ月ぶりだけど。
「ローゼウス家の掌中の珠が、火柱を立てた魔術師とはね」
三兄様の上司っぽいイケオジ騎士さんが、こちらをマジマジと見た。
「掌中の珠?」
聞き捨てならない単語が混じったわ。
「いや、うちの部隊の名物なんだ。ローゼウス一等騎士の妹自慢。可愛くて、美しくて、天使の微笑みの薔薇の宝石姫。そんなに褒めるなら会わせろと言っても、一生領地から出さない、嫁にもやらぬと言い続けるから、最近では脳内妹説まで出てたんだ」
脳内妹。⋯⋯エア妹ですか?
「無駄な男前ではなくて、残念な男前でしたのね」
シーリアの視線が痛い。すみませんね、その残念な男前のせいで待ちぼうけ食らわせて。先生や守護龍さんなんか、立たせておいていい存在じゃなさそうなんだけど。
見れば守護龍さんは特に不機嫌な様子もなく、ユンにイチャイチャしている。ユンが大型犬にじゃれられる飼い主のようだわ。
「兄妹ならば仕方のないことかもしれませんが、職務中の騎士殿が我が学院の学生に抱きつくのはよろしくありませんね」
「耳に痛いことだ。大変申し訳ない。ローゼウス一等騎士の妹御がいるとは、露ほども思わず⋯⋯」
ごめんなさい! うちの馬鹿三兄様のせいで、学院側と騎士団の偉い人同士がしなくても良い謝罪会を始めている!
三兄様は白目から復活してイケメンに戻っていたけど、チラチラと私を気にして落ち着かない様子だ。んもう、私より十歳も年上なのに、なにやってるの!
「お呼びだての目的には、そのローゼウス嬢が入っているのでは?」
「ローゼウス嬢というより、火柱を立てた人物ですな。そして、空から現れた漆黒の龍。人に変化するなど、聞いたこともない」
話が本題にたどり着いたわ。
騎士様の言うには、毎年この時期には新入生に庭を貸しているが、火柱が立ったり上級の召喚術を使ったりできる学生は見たことがないらしい。万が一、暴走させるような学院生がいるわけないとは思いつつ、いわば念のための措置だったわけだ。
それが、火柱は立つは空から龍が降ってくるは、前代未聞の出来事が起こったらしい。
私はともかく、ユンは事前申告可だったんじゃ⋯⋯?
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