11 / 87
人外にお説教。
しおりを挟む
美しい龍の化身は、ユンにべったりへばりついている。腕の中の美少女は呆れたような諦めたような、達観した表情をしている。
「あら? ユン、あなた魔術が使えるって言ってませんでした?」
シーリアが指摘した。そう言えば。
ユンはそう言っていたけど、龍の化身がそれを否定したことになる。
「ユン、フェイを呼ぶ魔術を使う」
端的すぎてよくわからない。ザシャル先生に視線を移すと、先生はひとつ頷いて口を開いた。
「キ・ハ・ユンは召喚魔術を使うのですね。彼女の膨大な魔力は、バロライの守護龍を召喚するほど多いと言うことです。召喚魔術はとても難しい。呼び出すだけならなんとかなっても、呼び出した存在を従えるためには、絶えず自らの魔力を餌として食わせ続けねばなりません。キ・ハ・ユン、あなたはほとんどの魔力を守護龍殿に食われていて、ほかに裂く余力がないのではありませんか?」
「あい」
「ゆえに我が姫は、身を守る術を持たぬ。なれば我が我が姫を守る刃となりて、近づく災厄の全てを薙ぎ払うてやらねばならぬ」
「過激なこと言う。だから、連れて歩けない」
攻撃型のヤンデレ⁈
対象を閉じ込める方じゃなくて、対象に近づくものを排除する系なのね⁈
「なるほど、さすがバロライの守護龍です。キ・ハ・ユンは、バロライの巫女姫ですね」
「バロライに帰ったら、そう呼ばれます」
「髪に護珠玉を下げているから、もしやとは思っていましたよ」
ビーズ可愛いとか、民族衣装素敵しか思ってなかったわ。
⋯⋯バロライ領のキ族って、もしかして領主の一族なのかしら。
「バロライ領って、一種の治外法権でしたよね。帝国に属してますけど、征圧して手に入れた土地ではなくて、国力を上げるために時の皇帝が懇願して力を貸して貰ったと聞きました。文化が独特で帝国の法ではなくて、バロライ独自の裁きがあると書物で読みました」
タタン、そんなに喋れたんだ。ザシャル先生が満足そうに目を細めているので、情報に誤りはないだろう。
「我はこの先、我が姫のそばを離れぬ。学院とやらから帰宅するたび邪な臭いをつけてくるのが忌々しいゆえ、見張っておらねばならぬ」
「変なおじさんに声かけられるのは、学院からの帰り道。学院にはいやらしいこと言う人はいない」
ちょっと待って! 変質者でもいるの⁈
「ユン、怖い目にあってるの⁈」
シーリアが、かっと目を見開いた。心配性のオカンが毛を逆立てている。
「『いいことしよう』って言うおじさんと外套の下になにも着てないおじさんに、毎日会う」
なんだその、田舎の通学路の待ち伏せみたいなラインナップ。帝都にそんな古典的な変質者が出没してるの⁈
「それは騎士団に通報しておきましょう」
ザシャル先生が冷静に言った。
「うぬぅ、我が姫よ。今日こそは我を連れて歩け。そのような輩、一瞬で消し炭にしてくれる」
その意見には心の底から賛成するけど、実際やったらアカンやつでしょ。ユンが連れて歩けない理由がよくわかった。ちょうどここは騎士団の施設だし、龍の化身の目の前で通報すれば納得してくれるかしら?
「守護龍殿、人間には人間の理がある。龍の裁きは時として受け入れられないのですよ。貴殿の大切な巫女姫が、邪龍の主人として討たれることになってはなりません」
ザシャル先生、すごい。龍に説教してるわ。
「何にしても、場所を変えて話し合わねばなりません。まったく偶然とは言え、このようなメンバーが同じグループになるとは、驚きでしかありません」
あれ、先生の呆れた言葉、私たちに向けられてない? 守護龍さんへの説教じゃなかったの?
「なんのことやらわからぬ、という表情ですが、周りをご覧なさい」
言われてぐるっと見回すと、学生たちがみんな、地面に伏していた。腰を抜かして茫然としている子や、恐怖で目を見開いて涙を流している子。立っている学生はいない。
「ロザリア・ロザモンド・ロザリンデ・ローゼウス、シーリア・ダフ、タタン・アプフェル、あなた方はこれ以上このクラスでの実習は無理です。職員会議の結果にもよりますが、キ・ハ・ユンと共に、特別カリキュラムに移ることになるでしょう」
⋯⋯は?
なんかすごいこと言われてない?
びっくりした私の口からは、しょうもない言葉が漏れた。
「どーでもいーですが、名前が長いので、ロージー・ローズって呼んでいただけます?」
うん。
ホント、どーでもいー。
「あら? ユン、あなた魔術が使えるって言ってませんでした?」
シーリアが指摘した。そう言えば。
ユンはそう言っていたけど、龍の化身がそれを否定したことになる。
「ユン、フェイを呼ぶ魔術を使う」
端的すぎてよくわからない。ザシャル先生に視線を移すと、先生はひとつ頷いて口を開いた。
「キ・ハ・ユンは召喚魔術を使うのですね。彼女の膨大な魔力は、バロライの守護龍を召喚するほど多いと言うことです。召喚魔術はとても難しい。呼び出すだけならなんとかなっても、呼び出した存在を従えるためには、絶えず自らの魔力を餌として食わせ続けねばなりません。キ・ハ・ユン、あなたはほとんどの魔力を守護龍殿に食われていて、ほかに裂く余力がないのではありませんか?」
「あい」
「ゆえに我が姫は、身を守る術を持たぬ。なれば我が我が姫を守る刃となりて、近づく災厄の全てを薙ぎ払うてやらねばならぬ」
「過激なこと言う。だから、連れて歩けない」
攻撃型のヤンデレ⁈
対象を閉じ込める方じゃなくて、対象に近づくものを排除する系なのね⁈
「なるほど、さすがバロライの守護龍です。キ・ハ・ユンは、バロライの巫女姫ですね」
「バロライに帰ったら、そう呼ばれます」
「髪に護珠玉を下げているから、もしやとは思っていましたよ」
ビーズ可愛いとか、民族衣装素敵しか思ってなかったわ。
⋯⋯バロライ領のキ族って、もしかして領主の一族なのかしら。
「バロライ領って、一種の治外法権でしたよね。帝国に属してますけど、征圧して手に入れた土地ではなくて、国力を上げるために時の皇帝が懇願して力を貸して貰ったと聞きました。文化が独特で帝国の法ではなくて、バロライ独自の裁きがあると書物で読みました」
タタン、そんなに喋れたんだ。ザシャル先生が満足そうに目を細めているので、情報に誤りはないだろう。
「我はこの先、我が姫のそばを離れぬ。学院とやらから帰宅するたび邪な臭いをつけてくるのが忌々しいゆえ、見張っておらねばならぬ」
「変なおじさんに声かけられるのは、学院からの帰り道。学院にはいやらしいこと言う人はいない」
ちょっと待って! 変質者でもいるの⁈
「ユン、怖い目にあってるの⁈」
シーリアが、かっと目を見開いた。心配性のオカンが毛を逆立てている。
「『いいことしよう』って言うおじさんと外套の下になにも着てないおじさんに、毎日会う」
なんだその、田舎の通学路の待ち伏せみたいなラインナップ。帝都にそんな古典的な変質者が出没してるの⁈
「それは騎士団に通報しておきましょう」
ザシャル先生が冷静に言った。
「うぬぅ、我が姫よ。今日こそは我を連れて歩け。そのような輩、一瞬で消し炭にしてくれる」
その意見には心の底から賛成するけど、実際やったらアカンやつでしょ。ユンが連れて歩けない理由がよくわかった。ちょうどここは騎士団の施設だし、龍の化身の目の前で通報すれば納得してくれるかしら?
「守護龍殿、人間には人間の理がある。龍の裁きは時として受け入れられないのですよ。貴殿の大切な巫女姫が、邪龍の主人として討たれることになってはなりません」
ザシャル先生、すごい。龍に説教してるわ。
「何にしても、場所を変えて話し合わねばなりません。まったく偶然とは言え、このようなメンバーが同じグループになるとは、驚きでしかありません」
あれ、先生の呆れた言葉、私たちに向けられてない? 守護龍さんへの説教じゃなかったの?
「なんのことやらわからぬ、という表情ですが、周りをご覧なさい」
言われてぐるっと見回すと、学生たちがみんな、地面に伏していた。腰を抜かして茫然としている子や、恐怖で目を見開いて涙を流している子。立っている学生はいない。
「ロザリア・ロザモンド・ロザリンデ・ローゼウス、シーリア・ダフ、タタン・アプフェル、あなた方はこれ以上このクラスでの実習は無理です。職員会議の結果にもよりますが、キ・ハ・ユンと共に、特別カリキュラムに移ることになるでしょう」
⋯⋯は?
なんかすごいこと言われてない?
びっくりした私の口からは、しょうもない言葉が漏れた。
「どーでもいーですが、名前が長いので、ロージー・ローズって呼んでいただけます?」
うん。
ホント、どーでもいー。
0
お気に入りに追加
844
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる