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人外にお説教。

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 美しい龍の化身は、ユンにべったりへばりついている。腕の中の美少女は呆れたような諦めたような、達観した表情カオをしている。

「あら? ユン、あなた魔術が使えるって言ってませんでした?」

 シーリアが指摘した。そう言えば。

 ユンはそう言っていたけど、龍の化身がそれを否定したことになる。

「ユン、フェイを呼ぶ魔術を使う」

 端的すぎてよくわからない。ザシャル先生に視線を移すと、先生はひとつ頷いて口を開いた。

「キ・ハ・ユンは召喚魔術を使うのですね。彼女の膨大な魔力は、バロライの守護龍を召喚するほど多いと言うことです。召喚魔術はとても難しい。呼び出すだけならなんとかなっても、呼び出した存在を従えるためには、絶えず自らの魔力を餌として食わせ続けねばなりません。キ・ハ・ユン、あなたはほとんどの魔力を守護龍殿に食われていて、ほかに裂く余力がないのではありませんか?」

「あい」

「ゆえに我が姫は、身を守る術を持たぬ。なれば我が我が姫を守る刃となりて、近づく災厄の全てを薙ぎ払うてやらねばならぬ」

「過激なこと言う。だから、連れて歩けない」

 攻撃型のヤンデレ⁈

 対象を閉じ込める方じゃなくて、対象に近づくものを排除する系なのね⁈

「なるほど、さすがバロライの守護龍です。キ・ハ・ユンは、バロライの巫女姫ですね」

「バロライに帰ったら、そう呼ばれます」

「髪に護珠玉まもりだまを下げているから、もしやとは思っていましたよ」

 ビーズ可愛いとか、民族衣装素敵しか思ってなかったわ。

 ⋯⋯バロライ領のキ族って、もしかして領主の一族なのかしら。

「バロライ領って、一種の治外法権でしたよね。帝国に属してますけど、征圧して手に入れた土地ではなくて、国力を上げるために時の皇帝が懇願して力を貸して貰ったと聞きました。文化が独特で帝国の法ではなくて、バロライ独自の裁きがあると書物で読みました」

 タタン、そんなに喋れたんだ。ザシャル先生が満足そうに目を細めているので、情報に誤りはないだろう。

「我はこの先、我が姫のそばを離れぬ。学院とやらから帰宅するたび邪な臭いをつけてくるのが忌々しいゆえ、見張っておらねばならぬ」

「変なおじさんに声かけられるのは、学院からの帰り道。学院にはいやらしいこと言う人はいない」

 ちょっと待って! 変質者でもいるの⁈

「ユン、怖い目にあってるの⁈」

 シーリアが、かっと目を見開いた。心配性のオカンが毛を逆立てている。

「『いいことしよう』って言うおじさんと外套の下になにも着てないおじさんに、毎日会う」

 なんだその、田舎の通学路の待ち伏せみたいなラインナップ。帝都にそんな古典的な変質者が出没してるの⁈

「それは騎士団に通報しておきましょう」

 ザシャル先生が冷静に言った。

「うぬぅ、我が姫よ。今日こそは我を連れて歩け。そのような輩、一瞬で消し炭にしてくれる」

 その意見には心の底から賛成するけど、実際やったらアカンやつでしょ。ユンが連れて歩けない理由がよくわかった。ちょうどここは騎士団の施設だし、龍の化身の目の前で通報すれば納得してくれるかしら?

「守護龍殿、人間ひとには人間ひとの理がある。龍の裁きは時として受け入れられないのですよ。貴殿の大切な巫女姫が、邪龍の主人あるじとして討たれることになってはなりません」

 ザシャル先生、すごい。龍に説教してるわ。

「何にしても、場所を変えて話し合わねばなりません。まったく偶然とは言え、このようなメンバーが同じグループになるとは、驚きでしかありません」

 あれ、先生の呆れた言葉、私たちに向けられてない? 守護龍さんへの説教じゃなかったの?

「なんのことやらわからぬ、という表情カオですが、周りをご覧なさい」

 言われてぐるっと見回すと、学生たちがみんな、地面に伏していた。腰を抜かして茫然としている子や、恐怖で目を見開いて涙を流している子。立っている学生はいない。

「ロザリア・ロザモンド・ロザリンデ・ローゼウス、シーリア・ダフ、タタン・アプフェル、あなた方はこれ以上このクラスでの実習は無理です。職員会議の結果にもよりますが、キ・ハ・ユンと共に、特別カリキュラムに移ることになるでしょう」

 ⋯⋯は?

 なんかすごいこと言われてない?

 びっくりした私の口からは、しょうもない言葉が漏れた。

「どーでもいーですが、名前が長いので、ロージー・ローズって呼んでいただけます?」

 うん。

 ホント、どーでもいー。

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