少女魔法士は薔薇の宝石。

織緒こん

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薔薇ったら、薔薇。

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 そして十年。
 
 当時の三兄様と同じ十五歳になった私、ロージー・ローズは自分の名前にいささか思うところがある。

 無駄に派手で、自己主張が強すぎる。地味で平凡な容姿は完全に名前負けだと思う。

 ロージー・ローズは愛称だ。

 正式な名前は、ロザリア・ロザモンド・ロザリンデ・ローゼウス。
 
 大陸の大部分を占める帝国の中でも、有力な貴族であるローゼウス辺境伯爵家の娘だった。

 ローゼウス家はここ数代、男ばかりが生まれていた。跡取りとそのスペアには全く困らなかったけど、婚姻や報償の手駒になる娘がいなかった。最後の女の子の記録が、曾々お祖父様の後妻の連れ子ってどうなの。実子の記録はさらに五代遡って七歳で夭折。

 そりゃ大事にされるよ。薔薇姫で宝石姫だよ。蝶よ花よと真綿でくるんで、大事に大事に育てられますとも。娘は手駒? そんなワケあるか。ウチの天使は嫁になんてやらん。

 それが私、ロージー・ローズである。

 薔薇薔薇薔薇薔薇、薔薇ったら薔薇だ。

 せめて火薔薇のごとき艶やかな容姿だったり、野薔薇のごとき可憐な容姿だったりしたら諦めもついたんだけどさぁ。

 色気で大兄様に劣り、儚げな風情は完全に次兄様に軍配があがる。三兄様は男っぽいから置いておいたとしても、父方の従兄弟連中よりどりみどり、タイプの違う美形揃いだ。

 例え金髪碧眼の見てくれが、昭和顔の何百倍も可愛かろうと、目の前のエフェクト背負った美形の集団の前ではひれ伏すしかないわ!

 ぽ◯ちゃん人形(知育お世話人形)とジュモー(アンティークドール)くらい違うわよ!
 
 ローゼウスの至宝、薔薇の宝石。

  ロージー・ローズに向かって真顔で囁くが、ちゃんちゃらおかしい。一族の男どもは目と頭の機能を損なっている。

 心の底からそう思う。

 そして、疲れはてていた。美しすぎる兄たちの過保護っぷりに。
 
 三姉妹の真ん中育ちの母様と、五歳の時からそばにいるスーパーメイドさんがいなかったら、私はとんでもないワガママ娘に育ったに違いない。

 だから迷わなかった。

「私、帝都の学院に魔法を習いに行くから!」

 きっぱりと言い切った末の子に、慌てふためいたのはローゼウス家の男たちである。

「 可愛い可愛い薔薇姫が、領地を出るなんてありえない! 」

「ひとりで帝都などに足を踏み入れるなんて、その瞬間に人攫いに拐かされてしまうよ!」
 
 帝都がどんなに恐ろしいところなのか、世の中の男どもがどんなに野蛮なのか、兄様たちは切々と訴えた。

 けれども兄様たちが語れば語るほどに、私の決意はより強固になった。

 帝都の学院は基本的に誰でも入れる。基準年齢に達していて試験にさえ合格すれば、国籍も性別も身分も問わないと、学則に明記されている。

 ちなみに試験は領地ですでに受けた。帝国って広いから、地方の領民は地方会場で試験して合否通知を受ける。

 多分領地によって試験日もマチマチじゃないかなぁ。

 試験問題の漏洩?

 後の日程のが有利? 

 ないない。一番早い情報伝達方法が宮廷魔術師の伝令魔法で、その次が騎士団の早馬⋯⋯それも伝令のためだけに訓練してる馬術のプロ。そんな国の重要機関に不正の片棒担がせるなんて無理っしょ。

 早速、入学許可証と入寮許可証、そして着替えを適当にトランクに詰めて屋敷を出る。父様は仕事に出てるので手紙を書いて家宰に預けておく。

 父様がいたら今生の別れみたいな愁嘆場が引き起こされるに決まってる。家宰も然もありなん、て顔して頷いてたからね。

「せめて、父上が戻られるまで待たないか?」

「誰か父上に伝令を!」

 兄様たちの時間稼ぎが始まったわ。この調子で十五年、大事に大事にされてきたけどねぇ、可愛い子には旅をさせろって言うじゃない。

 世間知らずなパープーに育ててどうするつもりよ。中身がおばちゃんじゃなかったら、とっくに勘違いして「私の言うことをお聞きなさいっ」てなことを言う、勘違いお嬢さまに育ってたわよ。母様とスーパーメイドさんだって、サジ投げてたんじゃないかしら?

「あぁそうだ。この間森で綺麗な兎を見たんだ。捕まえてプレゼントしよう!」

 三兄様、そう言うとこよ!

 物で釣るな!

「野生の動物は野生のままが、いちばん美しいんですのよ」

 スーパーメイドさんに教わった、虫けらを見るような視線を試してみた。三兄様が絶望感を漂わせてガックリと膝をついた。あら、意外と効果あり?

 そして私はトドメにつぶやいた。

「兄様たち、ウザい」

 かくして、麗しい兄たちが妹からのウザい認定に魂を抜かれている隙に、私は母様とスーパーメイドさんに支度を手伝ってもらって、さっさと王都へ向かって出奔ーーーー否、出発したのであった。
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