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気になる人々のその後のはなし。
氷の華と土の竜。✳︎
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〈マリク×ロベルト〉
彼の妻はとても美しい。妻と同じくらい美しい人には何人か会ったけれど、妻より美しい人には会ったことがないと思う。
久しぶりに会った従弟と酒を呑みながら、マリクは盛大に惚気た。
マリクはジーンスワーク辺境伯爵領の岩城で働く従僕頭だ。家令を務める妻のロベルトは幼馴染みで、彼は物心ついた時から今では妻になった人が好きだった。
「⋯⋯まぁ、ロブより美人って言うと、相当だもんなぁ」
アントニオは自分が知っている美人の顔を幾人か思い浮かべた。
領主、先代夫人、継嗣、魔女さま、あと王妃さま。
「うおっ、ウチの領地エゲツないな。ロブもまとめて、美人ほど怖いじゃないか」
「ロブは怖くない」
「いや、怖いよ。マリクだって、散々投げ飛ばされているじゃないか」
「バカ言え、投げ飛ばすのはロブの優しさだ。本気出したら、氷柱でひと突き、ハイおしまいだ」
彼の妻は冬眠明けの熊を、ひと突きで仕留めたことがある。
高級ではないが場末の店でもない居心地の良い酒場で、うまい料理をつつきながら酒を呑む。
王太子妃の輿入れにあたり、ジーンスワークの王都邸の人員が大幅に入れ替えられて、マリクは王都に配置換えになった。アントニオは王太子妃付きとして王太子宮に侍ることになったので、邸ではニアミスだった。
よく似た雰囲気の垂れ目がちの良い男が、ふたりで色気もなく呑んでいるとやはり目を引くのだろう。
「お兄さんたち、ふたり? わたしたちもふたりなの。ご一緒していいかしら?」
胸元を大胆に開いたドレスのふたり連れが、これみよがしに胸を寄せあげながら声をかけてきた。
コレはない。アントニオは一瞥して思った。
この店は商売女に営業させないのが売りの店だ。ということは、このふたりは素人だ。下品な赤い唇に放り出した乳房。自由恋愛で声をかけてきたんだろうが、独り身のアントニオだって遠慮したいタイプだ。美しい妻がいるマリクなら言わずもがなだ。
「ごめん、奥さん愛してるから、ご一緒しません」
ニヤリと笑ってマリクが言った。男臭くてとても魅力的な笑顔で、女たちがポーッとなった。
「えぇ⁈ 奥さんいるの? ちょっと呑むだけでもダメなの? 言わなきゃ分かんないわよ。ねぇ、あなたもそう思うでしょ?」
振られたアントニオも首を振る。香水の匂いがキツ過ぎて移り香でバレそうだ。すでにこの短時間で、誤解を受けそうな匂いがついたかもしれない。
「お姉さんの官能的な香りでバレちゃいそう」
「いやん、その気になっちゃった?」
いや、ならねーよ。嫌味が通じなかった。アントニオは内心で頭を抱えた。
「ウチの奥さん、めちゃくちゃ美人なんだよね。アンタら程度じゃピクリともしないよ」
「⋯⋯ッ、何ですって⁈」
「マリク、比べる相手が美人すぎて可哀想だよ。本人たち、自分はイケてると思ってるんだから」
「アンタもひどいわよ!」
冷静な男ふたりと、激昂する女ふたり。どちらが迷惑かと言えば女の方で、居合わせた酔客たちは面白い見せ物にニヤニヤと楽しんでいる。店にそぐわぬ女たちを迷惑に思っていた客は、やり込められている姿を見て溜飲を下げていた。
「なによ、せっかく声をかけてあげたのに!」
ぱしん。
一瞬、店の中が静かになった。
マリクの頬に二筋、爪の跡が残っている。
さすがにこれ以上はと、店の主人が厨房から出てきたとき、店内の気温が急激に下がった。キラキラと舞う氷の華に酔客たちは、余興でも始まったのかとキョロキョロした。
現れたのは、天上の女神か。
肩を滑り落ちる正白金の髪が白い頬を彩り、長い睫毛に縁取られた瞳は蜂蜜の甘さを含んだ榛色をしている。
女神は足音も立てず騒動の中心にやってきて、マリクの傷ついた頬を掌でするりと撫でた。
「ひんやりして気持ちいい」
「この浮気者」
目を細めた良人に向かって、そんなことちっとも思っていない甘えた口調で、天上の女神が言った。
「わたしの良人に御用ですか?」
女たちに向き直って一言だけ言った。それだけで勝負はついた。美貌の男に見つめられて、言葉が出ない。
魂が抜かれそうなほどの美貌の妻を持つ男に、あの程度の女が声をかけたって無駄だろう。酔客たちはマリクのあしらいに納得した。
「御用がないようなら、失礼します」
「騒がせて申し訳ない。今夜はおごらせてくれ」
ロベルトが優雅に一礼して、マリクが分厚い財布を出して店内の客に見えるようにかざしてから、アントニオに手渡した。店内がわっと沸いた。
アントニオを残してマリクがロベルトをエスコートして店を出ると、アントニオは酔客に囲まれた。
「なんなの!」
「信じられない!」
完全に場を持っていかれた女たちは、ヒールを鳴らして去って行った。キィキィと甲高い声で文句を言っているが、完全に負け惜しみだ。
「ねぇ店主。あの女のふたり連れ、どこの誰か分かる?」
「⋯⋯そりゃ分かるが、それが?」
「みんなの分は払うけど、あのふたりのは払わないよ。無銭飲食でブタ箱で一晩反省させとこう」
「そりゃあ、いい!」
アントニオはニヤリと笑って、一瞬目を見開いた店主が手を打って笑った。女たちが支払いに来なくても店主が損をしないように、その分はチップとして渡すつもりだから、完全に仕返しだった。
ロベルトの腰を抱いて店を出たマリクは、愛しいひとの甘やかな香りを胸いっぱい吸い込んだ。さっきの女たちは、香水壜の中身をすべて振りかけたのかと思うほど強烈な花の臭いをさせていたので、優しい香りに安心する。
夜の酒場通りは酔客と恋人同士で溢れていて、彼らがいちゃついていてもさほど目立たない。ロベルトの美貌に中てられた男女が、上の空で何かにつまずくくらいだ。
ロベルトは大人しく腰を抱かれて歩いているが、とても機嫌が悪い。マリクはそれに気付いていて、邸に戻る道をそれて足を早めた。
王都で人気の旅籠を見つけ、ロベルトの了解も取らずに部屋を取る。ちょっとお洒落な中級の部屋に入ると、まっすぐ寝台に向かった。上級の部屋では寝台まで遠い。
「ごめんね、ロブ。ぼくに爪痕を残していいのは、ロブだけなのに」
唇を重ねると、すぐに歯列が開かれて舌を招き入れてくれる。普段のロベルトならそんなことしない。恥じらって、ぐずぐずになるまで応えてくれないから。
相当怒っている。
「⋯⋯んッ。不可抗力は、わかってます。でも、やっぱり⋯⋯んんッ、腹立たしい⋯⋯ですッ、あっ」
「うん、ホントにごめん」
言いながら、素早くロベルトの衣服をはぎ、マリクは自分も裸になった。鍛え上げた見事な体が、白い脚を担ぎ上げる。太腿の間に良人の逞しい体を捻じ込まれて、何もかもが丸見えになる体勢だったが、ロベルトは挑発的に唇を舐めた。
「怒ってるロブも、可愛い」
フロントで部屋の鍵と一緒に受け取った香油を手繰り寄せる。奥の蕾に注ぎ込むと、グチュンとイヤらしい音がした。
「わたしだけ、見てて⋯⋯んんっ⋯⋯あぁ⋯⋯ッ」
ロベルトがあんまり可愛いことを言うから、我慢できなくて愛撫ももそこそこに楔を突き込んだ。押し殺した控えめな喘ぎ声が、吐息と一緒に吐き出される。マリクの下生えが白い尻に擦れて、さり、と逆毛を立てた。
「ロブこそ、ぼくだけ見ててよ」
マリクはモテる。ロベルトはその倍モテる。ロベルトには抱かれたい女と抱きたい男の両方が集まるからだ。
両脚を肩に担いで尻を浮かせると、ロベルトの柔軟な肢体の背中が丸まった。ほとんど真上から垂直に連続で突き込まれると、触られてもいない花芯から白い体液を吐き出した。それでも抽送を止めないでいると息を詰めていたロベルトの様子が変わった。
「んんっ⋯⋯あ、は。まっ⋯⋯待ってく⋯⋯さい。やッイってる⋯⋯」
白い全身を薄紅色に染めて静止を求める。マリクが聞くわけがなかった。
「駄目。あんな女に声をかけられて、嫌な思いしたの。ロブで、癒されてるんだから」
ガツガツと奥の突き当たりを攻められて、ロベルトは甲高い声を上げた。
「⋯⋯あぁああぁッ⋯⋯やっ、あん⋯⋯んんっ」
身動きが取れない体勢で押さえつけられて、衝撃を逃すことができない。呆気なく二度目の絶頂を迎えたときには棘が抜けて、いつもの寝台の中のロベルトだった。
昼間は仕事に集中して冷たい態度の妻は、寝台の中では従順だ。そのどちらの表情とも違う、嫉妬に彩られた表情に堪らなくそそられた。
マリクはまだ達していないが、動きを止めた。ロベルトの中はいつだって最高に気持ち良くてすぐにでも吐き出したいが、全霊を込めて耐えた。イラついたまま、彼の中に愛を注ぎ込みたくなかったからだ。
「⋯⋯マリク」
見上げる眼差しがとろりと溶けて蜂蜜のようだ。
「恥ずかしいから、灯りを消して⋯⋯」
部屋に入るなり寝台に入ったので、灯りもつけっぱなしだった。普段のロベルトなら絶対に有り得ない。
「嫌。久々にロブのイヤラしいとこ、全部見たい」
薄明かりの中でくねる体もいいが、灯りの下で悶える姿もいい。
かついでいた脚を開放して背中に手を差し入れると、繋がったままロベルトを抱き起こす。
「ぁあぁぁっ」
対面座位は一瞬で、マリクは勢いのまま寝そべると騎乗位で下からもう一度突いた。
「あぁああ⋯⋯ンッ」
短い間隔で連続で達して、ロベルトの体から力が抜けた。自分の胸にぐんにゃりと崩れ落ちてくるのを許さず下から支えてやると、健気にマリクの腹に手を置いて自力で膝を開いた。
白い腹よりさらに白い体液が、いく筋も垂れていくのが見える。焦らさずに何度もイかせたので、花芯は力を失って震えていた。
自重で深く突き刺さって、良人の逞しい猛りがまざまざと感じられる。ロベルトは自分の内側が勝手に蠢くのを自覚した。
マリクはロベルトの胸の尖りが淡い桃色のままなのに気がついた。感じ入ってつんと尖ってはいるが、未だ熟れていない。妻のいつにない嫉妬に滾って性急に繋がってしまったせいで、ほったらかしてしまっていたことを反省して、マリクは腰を支えていた手を移動した。
両方の尖りをキュッと摘むと、反射でロベルトの胎のなかが引き絞られて、気を抜いていたマリクはあっさり吐精した。
「あ」
思わず声を出す。
「かっこわりぃな。まぁいいか。挽回するよ」
「ゃあぁあ⋯⋯ん」
腹筋に力を入れて起き上がると、コリっとした音がお互いの体に響いた。ロベルトは胎の奥で、マリクは楔の先端で、それぞれ感じて息を詰めた。
「すげ、ロブの中とろっとろなのにキュンュンしてる」
「言わないで⋯⋯」
「恥ずかしいから?」
「⋯⋯」
沈黙は肯定だ。
繋がったまま太腿の上に乗せる対面座位は、ロベルトが好きな体位だった。ドロドロに溶かして前後不覚にしてから聞き出したところ「ぎゅっとできるから好き」と、心臓を握り潰されるような衝撃をもって明かされた。もちろんその時はめちゃくちゃに抱き潰したわけだが。
今も無意識にマリクの首に縋り付くように掻き抱いてくる。それをやんわり拒絶すると、ロベルトが不満げにむずがった。
「ごめんね。でも、今はこっちが先」
ぴったりくっついていた胸を引き剥がして隙間を作り、身をかがめて薄桃色の尖りを、乳輪ごと口に入れた。
「あぁぁッ」
背中が弓形に反り返って、胸が大きく突き出された。ねだるように押し付けられて、マリクは遠慮なく舐めしゃぶった。
太腿の上で逃げるように身をくねらせるのを、腰から腕を回して抱き留める。色っぽい喘ぎが絶えなく紡ぎ出されて、マリクはいよいよ猛った。
腰から腕を伸ばして指で繋がった場所を探り当てると、己の根本とロベルトの伸びきった蜜口に触れる。胸の尖りを舐めながら根本と蜜口の境目をくすぐると、ひっと悲鳴じみた嬌声が漏れて痛いくらいに締め上げられた。
「あ⋯⋯あ⋯⋯あ⋯⋯」
大きくしなって絶え絶えに声を漏らすさまは、ひどく扇情的だ。吐き出さずに達して身も世もなく悶えて、無防備に胎の奥深くを明け渡している。
ちゅぷりと音を立てて唇を離すと、胸の尖りはふっくらと膨れて鮮やかな薔薇色に染まっていた。未だ初心な薄桃色のもう片方との陰影がイヤらしい。
両手で腰を掴んでロベルトのイイところを狙って抽送する。香油とマリクが吐き出したものでぐちゅぐちゅと水音が響く。ロベルトからは静止も拒絶もないので、好きに動く。言葉を発する状況にないのは知らない振りだ。
一際激しく突いて最奥に熱をぶち撒けると、ロベルトは全身を硬く引き絞って高く高く昇り詰めた。しばらく降りられなくなっていたが、やがて弛緩してぐったりとマリクにもたれかかる。
しばらくそのまま乱れた息を整えていたマリクは、腕の中の愛しい妻が寝息を立てていることに気づいた。寝顔は柔らかくて、多くの人に怖いと言われるのが嘘のようだ。
物足りなかったが、ジーンスワークからの旅を終えたばかりのロベルトを気遣って抜け出ると、抱き締めて上掛けの中に潜り込んだ。
眠気はすぐに訪れる。
土の竜は氷の華を抱き締めて、しばし微睡んだ。
彼の妻はとても美しい。妻と同じくらい美しい人には何人か会ったけれど、妻より美しい人には会ったことがないと思う。
久しぶりに会った従弟と酒を呑みながら、マリクは盛大に惚気た。
マリクはジーンスワーク辺境伯爵領の岩城で働く従僕頭だ。家令を務める妻のロベルトは幼馴染みで、彼は物心ついた時から今では妻になった人が好きだった。
「⋯⋯まぁ、ロブより美人って言うと、相当だもんなぁ」
アントニオは自分が知っている美人の顔を幾人か思い浮かべた。
領主、先代夫人、継嗣、魔女さま、あと王妃さま。
「うおっ、ウチの領地エゲツないな。ロブもまとめて、美人ほど怖いじゃないか」
「ロブは怖くない」
「いや、怖いよ。マリクだって、散々投げ飛ばされているじゃないか」
「バカ言え、投げ飛ばすのはロブの優しさだ。本気出したら、氷柱でひと突き、ハイおしまいだ」
彼の妻は冬眠明けの熊を、ひと突きで仕留めたことがある。
高級ではないが場末の店でもない居心地の良い酒場で、うまい料理をつつきながら酒を呑む。
王太子妃の輿入れにあたり、ジーンスワークの王都邸の人員が大幅に入れ替えられて、マリクは王都に配置換えになった。アントニオは王太子妃付きとして王太子宮に侍ることになったので、邸ではニアミスだった。
よく似た雰囲気の垂れ目がちの良い男が、ふたりで色気もなく呑んでいるとやはり目を引くのだろう。
「お兄さんたち、ふたり? わたしたちもふたりなの。ご一緒していいかしら?」
胸元を大胆に開いたドレスのふたり連れが、これみよがしに胸を寄せあげながら声をかけてきた。
コレはない。アントニオは一瞥して思った。
この店は商売女に営業させないのが売りの店だ。ということは、このふたりは素人だ。下品な赤い唇に放り出した乳房。自由恋愛で声をかけてきたんだろうが、独り身のアントニオだって遠慮したいタイプだ。美しい妻がいるマリクなら言わずもがなだ。
「ごめん、奥さん愛してるから、ご一緒しません」
ニヤリと笑ってマリクが言った。男臭くてとても魅力的な笑顔で、女たちがポーッとなった。
「えぇ⁈ 奥さんいるの? ちょっと呑むだけでもダメなの? 言わなきゃ分かんないわよ。ねぇ、あなたもそう思うでしょ?」
振られたアントニオも首を振る。香水の匂いがキツ過ぎて移り香でバレそうだ。すでにこの短時間で、誤解を受けそうな匂いがついたかもしれない。
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「⋯⋯ッ、何ですって⁈」
「マリク、比べる相手が美人すぎて可哀想だよ。本人たち、自分はイケてると思ってるんだから」
「アンタもひどいわよ!」
冷静な男ふたりと、激昂する女ふたり。どちらが迷惑かと言えば女の方で、居合わせた酔客たちは面白い見せ物にニヤニヤと楽しんでいる。店にそぐわぬ女たちを迷惑に思っていた客は、やり込められている姿を見て溜飲を下げていた。
「なによ、せっかく声をかけてあげたのに!」
ぱしん。
一瞬、店の中が静かになった。
マリクの頬に二筋、爪の跡が残っている。
さすがにこれ以上はと、店の主人が厨房から出てきたとき、店内の気温が急激に下がった。キラキラと舞う氷の華に酔客たちは、余興でも始まったのかとキョロキョロした。
現れたのは、天上の女神か。
肩を滑り落ちる正白金の髪が白い頬を彩り、長い睫毛に縁取られた瞳は蜂蜜の甘さを含んだ榛色をしている。
女神は足音も立てず騒動の中心にやってきて、マリクの傷ついた頬を掌でするりと撫でた。
「ひんやりして気持ちいい」
「この浮気者」
目を細めた良人に向かって、そんなことちっとも思っていない甘えた口調で、天上の女神が言った。
「わたしの良人に御用ですか?」
女たちに向き直って一言だけ言った。それだけで勝負はついた。美貌の男に見つめられて、言葉が出ない。
魂が抜かれそうなほどの美貌の妻を持つ男に、あの程度の女が声をかけたって無駄だろう。酔客たちはマリクのあしらいに納得した。
「御用がないようなら、失礼します」
「騒がせて申し訳ない。今夜はおごらせてくれ」
ロベルトが優雅に一礼して、マリクが分厚い財布を出して店内の客に見えるようにかざしてから、アントニオに手渡した。店内がわっと沸いた。
アントニオを残してマリクがロベルトをエスコートして店を出ると、アントニオは酔客に囲まれた。
「なんなの!」
「信じられない!」
完全に場を持っていかれた女たちは、ヒールを鳴らして去って行った。キィキィと甲高い声で文句を言っているが、完全に負け惜しみだ。
「ねぇ店主。あの女のふたり連れ、どこの誰か分かる?」
「⋯⋯そりゃ分かるが、それが?」
「みんなの分は払うけど、あのふたりのは払わないよ。無銭飲食でブタ箱で一晩反省させとこう」
「そりゃあ、いい!」
アントニオはニヤリと笑って、一瞬目を見開いた店主が手を打って笑った。女たちが支払いに来なくても店主が損をしないように、その分はチップとして渡すつもりだから、完全に仕返しだった。
ロベルトの腰を抱いて店を出たマリクは、愛しいひとの甘やかな香りを胸いっぱい吸い込んだ。さっきの女たちは、香水壜の中身をすべて振りかけたのかと思うほど強烈な花の臭いをさせていたので、優しい香りに安心する。
夜の酒場通りは酔客と恋人同士で溢れていて、彼らがいちゃついていてもさほど目立たない。ロベルトの美貌に中てられた男女が、上の空で何かにつまずくくらいだ。
ロベルトは大人しく腰を抱かれて歩いているが、とても機嫌が悪い。マリクはそれに気付いていて、邸に戻る道をそれて足を早めた。
王都で人気の旅籠を見つけ、ロベルトの了解も取らずに部屋を取る。ちょっとお洒落な中級の部屋に入ると、まっすぐ寝台に向かった。上級の部屋では寝台まで遠い。
「ごめんね、ロブ。ぼくに爪痕を残していいのは、ロブだけなのに」
唇を重ねると、すぐに歯列が開かれて舌を招き入れてくれる。普段のロベルトならそんなことしない。恥じらって、ぐずぐずになるまで応えてくれないから。
相当怒っている。
「⋯⋯んッ。不可抗力は、わかってます。でも、やっぱり⋯⋯んんッ、腹立たしい⋯⋯ですッ、あっ」
「うん、ホントにごめん」
言いながら、素早くロベルトの衣服をはぎ、マリクは自分も裸になった。鍛え上げた見事な体が、白い脚を担ぎ上げる。太腿の間に良人の逞しい体を捻じ込まれて、何もかもが丸見えになる体勢だったが、ロベルトは挑発的に唇を舐めた。
「怒ってるロブも、可愛い」
フロントで部屋の鍵と一緒に受け取った香油を手繰り寄せる。奥の蕾に注ぎ込むと、グチュンとイヤらしい音がした。
「わたしだけ、見てて⋯⋯んんっ⋯⋯あぁ⋯⋯ッ」
ロベルトがあんまり可愛いことを言うから、我慢できなくて愛撫ももそこそこに楔を突き込んだ。押し殺した控えめな喘ぎ声が、吐息と一緒に吐き出される。マリクの下生えが白い尻に擦れて、さり、と逆毛を立てた。
「ロブこそ、ぼくだけ見ててよ」
マリクはモテる。ロベルトはその倍モテる。ロベルトには抱かれたい女と抱きたい男の両方が集まるからだ。
両脚を肩に担いで尻を浮かせると、ロベルトの柔軟な肢体の背中が丸まった。ほとんど真上から垂直に連続で突き込まれると、触られてもいない花芯から白い体液を吐き出した。それでも抽送を止めないでいると息を詰めていたロベルトの様子が変わった。
「んんっ⋯⋯あ、は。まっ⋯⋯待ってく⋯⋯さい。やッイってる⋯⋯」
白い全身を薄紅色に染めて静止を求める。マリクが聞くわけがなかった。
「駄目。あんな女に声をかけられて、嫌な思いしたの。ロブで、癒されてるんだから」
ガツガツと奥の突き当たりを攻められて、ロベルトは甲高い声を上げた。
「⋯⋯あぁああぁッ⋯⋯やっ、あん⋯⋯んんっ」
身動きが取れない体勢で押さえつけられて、衝撃を逃すことができない。呆気なく二度目の絶頂を迎えたときには棘が抜けて、いつもの寝台の中のロベルトだった。
昼間は仕事に集中して冷たい態度の妻は、寝台の中では従順だ。そのどちらの表情とも違う、嫉妬に彩られた表情に堪らなくそそられた。
マリクはまだ達していないが、動きを止めた。ロベルトの中はいつだって最高に気持ち良くてすぐにでも吐き出したいが、全霊を込めて耐えた。イラついたまま、彼の中に愛を注ぎ込みたくなかったからだ。
「⋯⋯マリク」
見上げる眼差しがとろりと溶けて蜂蜜のようだ。
「恥ずかしいから、灯りを消して⋯⋯」
部屋に入るなり寝台に入ったので、灯りもつけっぱなしだった。普段のロベルトなら絶対に有り得ない。
「嫌。久々にロブのイヤラしいとこ、全部見たい」
薄明かりの中でくねる体もいいが、灯りの下で悶える姿もいい。
かついでいた脚を開放して背中に手を差し入れると、繋がったままロベルトを抱き起こす。
「ぁあぁぁっ」
対面座位は一瞬で、マリクは勢いのまま寝そべると騎乗位で下からもう一度突いた。
「あぁああ⋯⋯ンッ」
短い間隔で連続で達して、ロベルトの体から力が抜けた。自分の胸にぐんにゃりと崩れ落ちてくるのを許さず下から支えてやると、健気にマリクの腹に手を置いて自力で膝を開いた。
白い腹よりさらに白い体液が、いく筋も垂れていくのが見える。焦らさずに何度もイかせたので、花芯は力を失って震えていた。
自重で深く突き刺さって、良人の逞しい猛りがまざまざと感じられる。ロベルトは自分の内側が勝手に蠢くのを自覚した。
マリクはロベルトの胸の尖りが淡い桃色のままなのに気がついた。感じ入ってつんと尖ってはいるが、未だ熟れていない。妻のいつにない嫉妬に滾って性急に繋がってしまったせいで、ほったらかしてしまっていたことを反省して、マリクは腰を支えていた手を移動した。
両方の尖りをキュッと摘むと、反射でロベルトの胎のなかが引き絞られて、気を抜いていたマリクはあっさり吐精した。
「あ」
思わず声を出す。
「かっこわりぃな。まぁいいか。挽回するよ」
「ゃあぁあ⋯⋯ん」
腹筋に力を入れて起き上がると、コリっとした音がお互いの体に響いた。ロベルトは胎の奥で、マリクは楔の先端で、それぞれ感じて息を詰めた。
「すげ、ロブの中とろっとろなのにキュンュンしてる」
「言わないで⋯⋯」
「恥ずかしいから?」
「⋯⋯」
沈黙は肯定だ。
繋がったまま太腿の上に乗せる対面座位は、ロベルトが好きな体位だった。ドロドロに溶かして前後不覚にしてから聞き出したところ「ぎゅっとできるから好き」と、心臓を握り潰されるような衝撃をもって明かされた。もちろんその時はめちゃくちゃに抱き潰したわけだが。
今も無意識にマリクの首に縋り付くように掻き抱いてくる。それをやんわり拒絶すると、ロベルトが不満げにむずがった。
「ごめんね。でも、今はこっちが先」
ぴったりくっついていた胸を引き剥がして隙間を作り、身をかがめて薄桃色の尖りを、乳輪ごと口に入れた。
「あぁぁッ」
背中が弓形に反り返って、胸が大きく突き出された。ねだるように押し付けられて、マリクは遠慮なく舐めしゃぶった。
太腿の上で逃げるように身をくねらせるのを、腰から腕を回して抱き留める。色っぽい喘ぎが絶えなく紡ぎ出されて、マリクはいよいよ猛った。
腰から腕を伸ばして指で繋がった場所を探り当てると、己の根本とロベルトの伸びきった蜜口に触れる。胸の尖りを舐めながら根本と蜜口の境目をくすぐると、ひっと悲鳴じみた嬌声が漏れて痛いくらいに締め上げられた。
「あ⋯⋯あ⋯⋯あ⋯⋯」
大きくしなって絶え絶えに声を漏らすさまは、ひどく扇情的だ。吐き出さずに達して身も世もなく悶えて、無防備に胎の奥深くを明け渡している。
ちゅぷりと音を立てて唇を離すと、胸の尖りはふっくらと膨れて鮮やかな薔薇色に染まっていた。未だ初心な薄桃色のもう片方との陰影がイヤらしい。
両手で腰を掴んでロベルトのイイところを狙って抽送する。香油とマリクが吐き出したものでぐちゅぐちゅと水音が響く。ロベルトからは静止も拒絶もないので、好きに動く。言葉を発する状況にないのは知らない振りだ。
一際激しく突いて最奥に熱をぶち撒けると、ロベルトは全身を硬く引き絞って高く高く昇り詰めた。しばらく降りられなくなっていたが、やがて弛緩してぐったりとマリクにもたれかかる。
しばらくそのまま乱れた息を整えていたマリクは、腕の中の愛しい妻が寝息を立てていることに気づいた。寝顔は柔らかくて、多くの人に怖いと言われるのが嘘のようだ。
物足りなかったが、ジーンスワークからの旅を終えたばかりのロベルトを気遣って抜け出ると、抱き締めて上掛けの中に潜り込んだ。
眠気はすぐに訪れる。
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